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組合費横領の会計処理【仕訳例】使途不明金・返還請求権と決算書の開示

目次
  1. 横領発覚後の会計処理の全体像
  2. 発覚時の処理|帳簿と実際残高の差を使途不明金で受ける
  3. 帳簿を実際残高に合わせる理由
  4. 仕訳例1|使途不明金の仮計上
  5. 金額確定後の処理|手口別の振替先
  6. 当年度の架空支出・水増し精算
  7. 前年度以前に計上済みの支出
  8. 組合費の入金除外
  9. 仕訳例2|流用額確定時の振替
  10. 返還請求権の計上と回収
  11. 返還を求める法的な根拠
  12. 消滅時効に注意
  13. 仕訳例3|返還と回収不能の処理
  14. 決算書での開示
  15. 収入と損失を相殺しない
  16. 注記の記載例
  17. 収支計算書の備考欄
  18. 特別会計・基金が被害を受けた場合
  19. 会計報告と監査証明での扱い
  20. まとめ
  21. 参考文献
  22. よくある質問
  23. 横領された組合費は、発覚した時点で損失として処理すべきですか
  24. 前年度の決算書は作り直さなければなりませんか
  25. 返還請求はいつまでできますか
  26. 決算書に横領の事実を書く必要はありますか
  27. 共済基金から横領の損失を補てんしてもよいですか

組合費の横領が発覚したとき、会計担当者がまず迷うのは「消えたお金を帳簿にどう載せるか」です。結論からいえば、いきなり損失として落とすのではなく、発覚時は使途不明金として仮に受け、金額が確定したら返還請求権(未収金)に振り替え、回収できないと決まった部分だけを損失にする、という3段階で処理するのが実務上の一つの考え方です。

この記事では、労働組合会計基準と労働組合法・民法の条文を手がかりに、発覚時から決算書での開示までの仕訳例と注記の記載例を示します。横領が起きる原因や防止策、刑事上の扱いではなく、発覚した後の会計処理と会計報告での示し方に絞って整理します。

横領発覚後の会計処理の全体像

横領の処理が難しいのは、お金が出ていった時点では帳簿に正しく記録されていないうえ、発覚から金額の確定、返還、決算までが数か月から年度をまたいで続くためです。段階ごとに「何を確定させ、どの勘定で受けるか」を決めておくと、途中で担当者が替わっても処理がぶれません。

発覚時 帳簿残高を通帳・現金の実際残高に合わせ、差額を仮払金(使途不明金)で受ける
金額の確定時 手口ごとに、返還を求める額を未収金へ振り替え、架空・水増しの支出は取り消す
返還・回収不能の確定時 返還額は未収金を減らし、回収できないと決まった額だけを損失として処理する
決算時 収入と損失を相殺せず総額で示し、経緯と未回収額を注記する

なお、この記事でいう「使途不明金」は、帳簿上あるはずの資金が実際には無く、行き先がまだ特定できていない金額を指します。税務上の使途不明金(支出先を明らかにしない支出)とは意味が異なる点に注意してください。

発覚時の処理|帳簿と実際残高の差を使途不明金で受ける

帳簿を実際残高に合わせる理由

横領が疑われる段階では、金額も手口もまだはっきりしません。それでも帳簿をそのままにしておくと、貸借対照表に実在しない預金が載り続けます。労働組合会計基準は、計算書類が会計帳簿に基づいて収支と財産の状況の真実な内容を明瞭に示すことを一般原則とし、貸借対照表には会計年度末のすべての資産・負債と正味財産の状況を示すよう求めています(労働組合会計基準 第1 2(1)、第4 1)。

そこで、通帳・残高証明書・現金実査で確かめた実際残高に帳簿を合わせ、合わない差額はひとまず「仮払金」などの仮勘定で受けておきます。損失と決めつけず仮勘定に置くのは、調査で返還を求める額や、帳簿に計上済みの架空支出が見つかる可能性があるためです。

仕訳例1|使途不明金の仮計上

期中に通帳と帳簿を照合したところ、帳簿の普通預金残高8,450,000円に対し通帳残高が7,250,000円で、帳簿に記録のない引出し1,200,000円が見つかったケースです(単位:円。数値は説明用の作例)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仮払金(使途不明金) 1,200,000 普通預金 1,200,000

この段階では収支計算書上の支出にはしていません。仮払金の残高は、調査の進み具合に合わせて次の振替で必ずゼロにします。期末まで仮払金のまま残ると、何のお金か分からない資産が決算書に載ることになるため、決算前に調査結果を反映させることが大切です。

関連コラム組合費の横領が起きる原因と防止策|発覚後の対応と外部会計監査▸

金額確定後の処理|手口別の振替先

調査で流用額が確定したら、手口ごとに処理を分けます。同じ「横領」でも、帳簿のどこに痕跡が残っているかで、取り消すべき勘定と振替先が変わるためです。

帳簿に記録のない
引出し・持出し
仮払金を未収金へ振り替える
当年度に計上した
架空・水増しの支出
計上した支出科目を取り消し、同額を未収金とする
前年度以前に計上した
架空・水増しの支出
当年度の収入として区分して計上し、同額を未収金とする
組合費などの
入金除外
本来の収入科目で計上し直し、同額を未収金とする

返還を求める債権の科目は、労働組合会計基準の科目例にある「未収金」を使い、補助科目などで横領に係る返還請求額であることが分かるようにしておくと、監査や引継ぎの際に追いやすくなります。科目例は一般的なものとして示されており、組合の態様や規模に応じて科目を加除・変更できるとされています(労働組合会計基準 第1 5、計算書類の科目)。

当年度の架空支出・水増し精算

架空の会議費や水増しした旅費精算のように、当年度の帳簿に支出として計上されているものは、その支出がもともと無かったことになるため、計上した科目を取り消します。取り消さずに損失を別に立てると、会議費や旅費交通費の決算額が実態より大きく見え、予算との比較が意味を持たなくなります。

前年度以前に計上済みの支出

前年度以前の支出は、その年度の計算書類が大会で承認済みのことが多く、当年度の帳簿で支出科目を取り消すことはできません。労働組合会計基準には過年度の誤りの訂正方法を定めた規定がないため、実務上は、当年度の収入の部に「過年度支出修正」などの名称で区分して計上し、注記で経緯を説明する方法が一つの例です。前年度の計算書類を作り直すかどうかは、規約や大会の判断、会計監査人との協議によって決まります。

組合費の入金除外

チェックオフで振り込まれた組合費の一部を別口座へ移していた、集金した現金を入金しなかった、といった入金除外では、そもそも収入が記録されていません。この場合は本来の組合費収入として計上し直し、相手勘定を未収金とします。収支計算書は当該年度のすべての収入と支出の内容を示すものとされているため(労働組合会計基準 第3 1)、収入の計上漏れを残したまま損失だけを処理することは避けます。

仕訳例2|流用額確定時の振替

仕訳例1の組合で、調査の結果、流用総額が2,000,000円と確定したケースです。内訳は、帳簿に記録のない引出し1,200,000円、当年度の水増し精算(旅費交通費として計上済み)350,000円、前年度の架空支出(会議費として計上し決算承認済み)450,000円で、全額について返還を求めることにしました(単位:円。数値は説明用の作例)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
未収金(横領返還請求額) 1,200,000 仮払金(使途不明金) 1,200,000
未収金(横領返還請求額) 350,000 旅費交通費 350,000
未収金(横領返還請求額) 450,000 雑収入(過年度支出修正) 450,000

この結果、未収金の残高は2,000,000円となり、返還請求の総額と一致します。3行目の収入科目の名称は一例で、「前年度支出修正収入」のように組合の科目体系に合わせて決めてかまいません。

収支計算書でどう表れるかは、組合が選んでいる資金の範囲によって変わります。労働組合会計基準は、資金の範囲として現金預金のみとする方法から正味運転資金とする方法までを例示し、組合の規模や資産構成に応じて選べるとしています(労働組合会計基準 注2)。短期の金銭債権を資金に含めている組合と、現金預金だけを資金としている組合とでは、未収金の計上が収支計算書に出るかどうかが異なるため、自組合の会計方針を確認してから表示を決めます。

関連コラム労働組合の勘定科目【一覧表】収支計算書・貸借対照表で使う科目と線引き▸

返還請求権の計上と回収

未収金として計上する返還請求権は、民法上の権利を会計に置き換えたものです。故意または過失で他人の権利を侵害した者は損害賠償の責任を負い(民法 第709条)、法律上の原因なく他人の財産で利益を受けた者はその利益を返還する義務を負います。悪意の受益者は利息を付して返還しなければなりません(民法 第703条、第704条)。

また、会計担当役員と組合との関係を委任(またはこれに準じる関係)とみる場合、受任者が委任者に引き渡すべき金銭を自己のために消費したときは、消費した日以後の利息を支払い、なお損害があれば賠償する責任を負うとされています(民法 第647条)。どの根拠で請求するかは事案によって異なるため、請求の組み立ては弁護士と相談して決めるのが安全です。会計上は、請求する元本を未収金とし、利息や遅延損害金は実際に合意・回収できた段階で収入とするのが保守的な扱いです。

消滅時効に注意

返還請求権は、放置すると時効で消滅します。不法行為による損害賠償請求権は、損害と加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で時効にかかります(民法 第724条)。一般の債権は、権利を行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年です(民法 第166条第1項)。発覚から決算までの間に分割返済の合意書や債務の承認書を取り交わしておくと、回収の見通しを注記に書くときの裏付けにもなります。

仕訳例3|返還と回収不能の処理

仕訳例2の未収金2,000,000円のうち、期末までに800,000円の返還を受け、残額1,200,000円のうち900,000円は分割返済の合意書を取り交わしました。残る300,000円は、相手方の資力などから大会の決議を経て請求を断念したケースです(単位:円。数値は説明用の作例)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
普通預金 800,000 未収金(横領返還請求額) 800,000
横領損失 300,000 未収金(横領返還請求額) 300,000

期末の未収金残高は900,000円です。労働組合会計基準の本文には、債権の回収不能見込額をどう見積もるかを明示した規定は置かれていません。実務上は、分割返済が滞っているなど回収に疑いがある部分について、組合の会計規程に沿って評価を下げるか、少なくとも注記で回収の見通しを示す対応が考えられます。「横領損失」の科目名も一例で、支出の部に組合の科目体系に合う名称で区分して表示します。

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決算書での開示

収入と損失を相殺しない

横領の処理では、過年度支出修正の収入と横領損失のように、同じ事件から収入と支出の両方が生じます。差額だけを載せたくなりますが、労働組合会計基準は収支計算書・貸借対照表ともに総額で記載することを原則とし、収入と支出、資産と負債を直接相殺して計算書類から除くことを認めていません(労働組合会計基準 注3、注4)。仕訳例2・3でいえば、雑収入(過年度支出修正)450,000円と横領損失300,000円をそれぞれの区分に載せます。

注記の記載例

計算書類には、重要な会計方針のほか、収支と財産の状況を明らかにするために必要な事項を注記するものとされています(労働組合会計基準 第1 6)。組合費の流用は組合員の関心が高い事項であり、経緯・処理・未回収額が読み取れる注記を付けるのが実務上の対応です。仕訳例1〜3の組合であれば、次のような書き方が一例です。

当年度中に、前会計担当役員による組合資金の流用が判明しました。調査により確定した流用額は2,000,000円(うち前年度分450,000円)であり、同額の返還を請求しています。期末日までに800,000円の返還を受け、300,000円は大会の決議により請求を放棄して横領損失として処理しました。残額900,000円は分割返済の合意に基づき未収金に計上しています。なお、前年度分は収入の部の雑収入(過年度支出修正)に計上しています。

注記に個人名を書くかどうかは、刑事手続や名誉の問題もあるため、役職名にとどめるのが無難です。また、資金の範囲など重要な会計方針の注記と矛盾しないよう、未収金の扱いを会計方針の記載と照らし合わせて確認します。

収支計算書の備考欄

収支計算書は予算額と決算額を対比して示し、差異が著しい科目は備考欄に理由を書くこととされています(労働組合会計基準 第3 2)。水増し精算の取消しで旅費交通費の決算額が予算を大きく下回ったり、予算に無い横領損失や過年度支出修正の収入が計上されたりした場合は、備考欄に「流用額の確定に伴う取消し」「流用に係る回収不能額」などと記載し、注記と結び付けておくと読み手が迷いません。

特別会計・基金が被害を受けた場合

闘争資金や共済資金の特別会計から流用されていた場合は、被害を受けた会計区分で未収金を計上し、その会計区分の計算書類に反映させます。特別会計を設けた組合は会計区分ごとに計算書類を作成し、一般会計と特別会計を総合した貸借対照表も作成することとされているためです(労働組合会計基準 第6 2、第7)。

反対に、一般会計の損失を共済事業などの基金で穴埋めしようとする場合は注意が必要です。共済事業その他福利事業のために特設した基金を他の目的に流用するときは、総会の決議を経なければなりません(労働組合法 第9条)。補てんの財源をどこに求めるかは、会計処理の前に大会での手続を確かめておきます。

会計報告と監査証明での扱い

労働組合法は、すべての財源と使途、主要な寄附者の氏名、現在の経理状況を示す会計報告を、組合員が委嘱した職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書とともに、少なくとも毎年1回組合員に公表することを、規約に含めるべき事項としています(労働組合法 第5条第2項第7号)。横領のあった年度の会計報告は、組合員が「いくら失われ、いくら戻り、いくらが未回収か」を確かめる場であり、この記事で示した仕訳と注記はその材料になります。

外部の会計監査人には、調査の経過、確定額の根拠資料、返還の合意書、大会決議などをまとめて提示します。監査の対象となる年度に流用が判明した場合、計算書類への反映方法や注記の内容は監査人との協議事項になり、監査報告書の記載にも影響し得ます。決算の直前に初めて相談するのではなく、金額が確定した段階で早めに共有しておくと、大会日程に間に合わせやすくなります。

関連コラム労働組合の大会での決算承認|議事の進め方と会計監査のタイミング▸

まとめ

組合費の横領が発覚した後は、帳簿を実際残高に合わせて差額を使途不明金として仮に受け、流用額が確定したら手口ごとに未収金へ振り替え、回収できないと決まった額だけを損失にする、という順序で処理すると、決算書に実態を反映しやすくなります。当年度の架空支出は取り消し、前年度以前の分は当年度の収入として区分して示すのが実務上の一例です。

決算書では、収入と損失を相殺せず総額で示し、経緯・確定額・回収額・未回収額を注記で説明します。特別会計や基金が絡む場合は会計区分ごとの処理と労働組合法第9条の手続にも注意が必要です。処理方法や開示の範囲は事案ごとの判断が大きいため、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。

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参考文献

よくある質問

横領された組合費は、発覚した時点で損失として処理すべきですか

発覚した時点ですぐに損失とする必要はありません。まず帳簿を実際残高に合わせて差額を仮払金などで受け、流用額が確定したら返還を求める額を未収金に振り替えます。損失とするのは、請求の断念など回収できないことが決まった部分だけです。計算書類は収支と財産の状況の真実な内容を示すものとされているため(労働組合会計基準 第1 2(1))、回収の見通しは注記で示します。

前年度の決算書は作り直さなければなりませんか

労働組合会計基準には過年度の誤りを訂正する方法の定めがありません。実務上は、前年度に計上された架空支出の分を当年度の収入の部に区分して計上し、注記で経緯を説明する方法が一例です。前年度の計算書類を作り直すかどうかは、規約や大会の判断、会計監査人との協議で決めます。

返還請求はいつまでできますか

請求の根拠によって異なります。不法行為による損害賠償請求権は、損害と加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で時効にかかります(民法 第724条)。一般の債権は、権利を行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年です(民法 第166条第1項)。どの根拠で請求するかは弁護士に確認するのが安全です。

決算書に横領の事実を書く必要はありますか

計算書類には、収支と財産の状況を明らかにするために必要な事項を注記するものとされています(労働組合会計基準 第1 6)。流用額の返還請求額が未収金として計上され、損失や過年度修正の収入も生じる以上、経緯・確定額・回収額・未回収額は注記で説明するのが実務上の対応です。個人名は役職名にとどめるのが無難です。

共済基金から横領の損失を補てんしてもよいですか

共済事業その他福利事業のために特設した基金を他の目的に流用するときは、総会の決議を経なければなりません(労働組合法 第9条)。共済基金で一般会計の損失を補う場合は、この手続を経たうえで、会計区分間の取引として処理します。

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。

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