労働組合への経費援助【判定表】在籍専従・組合事務所・光熱費の可否
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会社が組合事務所の光熱費を払っている、専従役員の社会保険料を会社負担のままにしている。企業内労働組合では、こうした「会社持ち」の費目が慣行として長く続いていることが珍しくありません。労働組合法は、使用者が組合の運営経費を援助することを原則として禁止しており、援助を受ける団体は同法上の「労働組合」に当たらないとしています(労働組合法 第2条第2号)。
一方で、条文自体が3つの例外を認めています。労働時間中の協議・交渉で賃金を差し引かないこと、福利その他の基金への寄附、最小限の広さの事務所の供与です。この記事では、在籍専従・組合事務所・光熱費・社宅など実務で迷いやすい項目を判定表に整理し、資格審査や会計監査でどこが問われるかまで解説します。
経費援助を禁じる2つの条文
経費援助の規制は、労働組合法の2か所に置かれています。同じ行為を、組合の側から見た規定と、使用者の側から見た規定です。
| 労働組合法 第2条第2号 | 団体の運営のための経費の支出について使用者の経理上の援助を受ける団体は、労働組合法上の労働組合に当たらないとする規定です(組合の資格要件)。 |
|---|---|
| 労働組合法 第7条第3号 | 使用者が労働組合の運営のための経費の支払について経理上の援助を与えることを、不当労働行為として禁止する規定です(使用者の禁止行為)。 |
第2条第2号に当たると、労働組合は労働組合法に規定する手続に参与する資格を持たず、同法の救済も受けられません(労働組合法 第5条第1項)。第7条第3号は、使用者が組合の結成・運営に支配介入することと並べて経費援助を禁じており、援助を「与える側」の責任を定めています。組合にとっては資格の問題、会社にとっては不当労働行為の問題という二面性がある点を、まず押さえておくと整理しやすくなります。
不当労働行為の救済申立ては、行為の日(継続する行為はその終了した日)から1年を経過した事件については受け付けられません(労働組合法 第27条第2項)。不当労働行為の類型と審査の流れは、次のコラムで整理しています。
関連コラム不当労働行為の救済申立ての流れ|資格審査で必要になる会計監査▸
条文が認める3つの例外
第2条第2号と第7条第3号には、同じ内容のただし書が付いています。次の3つは、経理上の援助から除かれます(労働組合法 第2条第2号ただし書、第7条第3号ただし書)。
- 労働時間中の協議・交渉:労働者が労働時間中に、時間または賃金を失うことなく使用者と協議し、または交渉することを使用者が許すこと
- 福利その他の基金への寄附:厚生資金、または経済上の不幸・災厄を防止し救済するための支出に実際に用いられる基金に対する使用者の寄附
- 最小限の広さの事務所の供与:組合事務所として最小限の広さのスペースを使用者が提供すること
1つ目の「時間又は賃金を失うことなく」について、1949年の労働省労政局長通知(労収第6374号)は、「時間」は時間給・日給・月給など労働時間で賃金が決まる場合、「賃金」は出来高給の場合を指し、協議・交渉の時間の給与を使用者が支払っても資格の否定や不当労働行為にはならない、という趣旨を示しています。
注意したいのは、例外がいずれも範囲を限定した書き方になっている点です。1つ目は「協議・交渉」、2つ目は「実際に用いられる」基金、3つ目は「最小限の広さ」と、それぞれ条件が付いています。条件の外にはみ出した部分は、原則に戻って経理上の援助と評価されるおそれがあります。
経費援助の判定表(項目別)
企業内労働組合でよく見られる会社負担・便宜供与を、条文と行政通知に沿って判定すると次のとおりです。「援助に当たる」「当たらない」と言い切れるのは条文・通知に根拠があるものだけで、それ以外は「範囲外」「個別判断」として示しています。
| 団体交渉・労使協議の時間の賃金を 差し引かない |
援助に当たりません。ただし書が明示する例外です(労働組合法 第2条第2号ただし書、第7条第3号ただし書)。 |
|---|---|
| 協議・交渉以外の就業時間中の 組合活動(執行委員会・ 大会準備等)の賃金 |
ただし書が挙げるのは協議・交渉に限られるため、範囲外です。会社が賃金を払い続けると、援助と評価されるおそれがあります。 |
| 在籍専従者の給与・賞与を 会社が支払う |
援助に当たると解されています。専従役職員に対する使用者からのすべての報酬の支給は禁止されるとする1949年の行政通知があります(職発第921号)。協議・交渉に限ったただし書の範囲にも入りません。 |
| 在籍専従者の社会保険料の 事業主負担分 |
1949年の行政通知は、専従役職員は労働組合に雇用される者として被保険者となり、保険料は組合から支給される報酬を基に決まり、組合が事業主として保険料を負担するとしています(職発第921号、労収第6294号)。当時の失業保険法を前提とした通知のため、現在の手続は各保険の窓口で確認してください。 |
| 専従期間を勤続年数・ 昇給年限に算入する |
算入すること自体は、直ちに援助には当たらないとされています(労収第6374号)。 |
| 組合活動の時間に相当する 賞与等を支給する |
援助に当たるとされています。算入した期間・時間に相当する対価として、実質的に賃金とみなされるものを支給する場合です(労収第6374号)。 |
| 専従者への社宅の供与 | 現物給与の性格を持つものは援助に当たり、福利厚生施設の性格を持つものは当たらないとされています(労収第6294号)。 |
| 共済・見舞金などの 福利基金への会社の寄附 |
厚生資金や災厄の救済に実際に用いられる基金であれば、援助に当たりません(労働組合法 第2条第2号ただし書)。基金を組合の一般会計に流用すると、この前提が崩れます。 |
| 組合事務所(最小限の広さ)の 無償貸与 |
援助に当たりません(労働組合法 第2条第2号ただし書、第7条第3号ただし書)。 |
| 最小限を超える広さ・ 複数の部屋の提供 |
「最小限の広さ」の範囲外です。超える部分は援助と評価されるおそれがあります。 |
| 組合事務所の光熱費・通信費・ 備品・複合機 |
条文が明示するのは事務所の供与までで、光熱費等の扱いは定めがありません。個別の事実関係で判断されるため、負担の範囲を労使で文書化しておくことをおすすめします。 |
| 大会の会場費・印刷費・ 上部団体会費を会社が負担 |
団体の運営のための経費に当たり、ただし書の3類型にも入らないため、援助に当たると考えられます(労働組合法 第2条第2号本文、第7条第3号本文)。 |
| 組合の会計監査報酬を 会社が負担 |
会計監査人は組合員が委嘱するものとされており(労働組合法 第5条第2項第7号)、その報酬は組合の運営経費です。会社が負担すると援助に当たるおそれがあります。 |
行政通知(職発第921号・労収第6294号・労収第6374号)は、いずれも1949年の労働組合法改正の直後に出された解釈例です。現在も厚生労働省の法令等データベースで公開されていますが、そのまま現在の判断基準になるとは限らず、個々の事案では労働委員会や裁判所が事実関係に即して判断する点に留意してください。
組合費の給与天引き(チェックオフ)も会社による便宜供与の一つですが、組合員自身が負担する組合費を集める仕組みであり、論点が異なります。協定の要件と会計処理は次のコラムで扱っています。
関連コラムチェックオフとは【一覧表】労基法24条の協定要件と組合費の会計処理▸
判定に迷ったときの3つの確認軸
判定表に載っていない費目に出会ったときは、条文の構造に沿って次の順に確認すると、判断の筋道を説明しやすくなります。実務で会社負担の費目を棚卸しするときにも、この順番が役立ちます。
- その費用は「団体の運営のための経費」か:組合の会議・大会・広報・上部団体との関係・事務処理など、組合が自ら負担すべき支出かどうかを確認します(労働組合法 第2条第2号本文)。
- ただし書の3類型のどれかに入るか:協議・交渉の時間の賃金、福利その他の基金への寄附、最小限の広さの事務所の供与のいずれかに当てはまるかを確認します(労働組合法 第2条第2号ただし書)。
- 入るとして、条件の範囲内か:協議・交渉に限られているか、基金が実際に福利・救済に使われているか、事務所の広さが最小限かを確認します。はみ出した部分は組合負担へ切り替える候補です。
3つ目の段階で判断が分かれる費目(光熱費、専用回線、駐車場など)は、どちらとも言い切れないことが多いものです。その場合でも、負担の範囲と理由を労使の協定書や覚書に残しておけば、後から資格審査や監査で説明を求められたときの材料になります。
資格審査で問われる自主性要件
経費援助が実際に問題になりやすいのは、労働委員会の資格審査です。労働組合は自由に設立でき、どこかへ届け出る必要はありませんが、労働組合法の手続に参与したり救済を受けたりするには、労働組合法第2条と第5条第2項の要件を備えている必要があります(労働組合法 第5条第1項)。
中央労働委員会は、資格審査が必要になる場面として、不当労働行為の救済申立て、労働者委員候補者の推薦、法人登記のための資格証明書の交付、労働協約の地域的拡張適用の申立てなどを挙げています。過去に適格決定を受けた組合でも、その都度審査を受ける必要があり、審査では労働組合が自主的な組合であるか、民主的な規約を備えているかが確認されます。
経費援助は、このうち「自主的な組合であるか」に直結する論点です。会社から運営経費の援助を受けていれば、第2条第2号に該当し、救済申立てや法人登記(労働組合法 第11条第1項)の前提となる資格を欠くおそれがあります。会社と争う局面で初めて資格審査を受けることも多いため、平時に会社負担の費目を整理しておくことが、いざというときの備えになります。
関連コラム労働組合の資格審査申請チェックリスト|規約要件と提出書類▸
会計報告と会計監査で見える部分
規約には、すべての財源と使途、主要な寄附者の氏名、現在の経理状況を示す会計報告を、組合員が委嘱した職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書とともに、少なくとも毎年1回組合員に公表する旨を定めなければなりません(労働組合法 第5条第2項第7号)。会社からの寄附や負担があれば、本来は財源として会計報告に現れるべきものです。
実務では、会社が直接業者に支払っている費用は組合の帳簿に載らず、会計報告からは見えなくなりがちです。労働組合の会計監査では、組合の帳簿だけでなく、事務所の賃貸・光熱費・専従者の人件費・福利基金への拠出などについて、労使の協定書や会社側の負担状況をあわせて確認しておくと、会計報告の網羅性を説明しやすくなります。福利基金への会社の寄附を受けている場合は、基金が実際に福利・救済に使われていることを示せるよう、一般会計と区分して管理しておくと説明が容易です。
まとめ
使用者による経費援助は、組合側では資格要件(労働組合法 第2条第2号)、会社側では不当労働行為(労働組合法 第7条第3号)の問題になります。例外は、労働時間中の協議・交渉、福利その他の基金への寄附、最小限の広さの事務所の供与の3つに限られ、いずれも範囲の条件が付いています。
- 在籍専従者の給与・賞与の会社支給や、組合活動の時間に相当する賞与の支給は援助に当たるとされている
- 専従期間の勤続年数への算入は直ちに援助に当たらず、福利厚生施設としての社宅供与も援助に当たらないとされている
- 光熱費・備品など条文に定めのない費目は、負担の範囲と理由を労使で文書化しておく
- 資格審査では自主性要件として確認されるため、会社負担の費目を平時に棚卸ししておく
援助に当たるかどうかは個々の事実関係で判断が分かれるため、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。資格審査を控えて会計報告や監査の体制を整えたい場合も、お気軽にお問い合わせください。
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- e-Gov法令検索 労働組合法
- 中央労働委員会 労働組合の資格審査について
- 中央労働委員会 不当労働行為救済制度とは
- 厚生労働省 組合専従者に対する失業保険等の適用(職発第921号)
- 厚生労働省 専従期間、就業時間中に組合活動に費した時間の出勤日数、昇給年限等への算入(労収第6374号)
- 厚生労働省 福利厚生のための基金の寄附又は施設の供与、組合専従者の各種保険料納付義務者(労収第6294号)
よくある質問
組合事務所の光熱費を会社が負担するのは経費援助に当たりますか。
労働組合法が経費援助から除いているのは「最小限の広さの事務所の供与」までで、光熱費の扱いは条文に定めがありません(労働組合法 第2条第2号ただし書、第7条第3号ただし書)。事務所の供与に付随する範囲かどうかは個別の事実関係で判断されるため、負担の範囲と理由を労使の協定書などに残しておくことをおすすめします。
在籍専従者の給与を会社が払い続けてもよいですか。
専従役職員に対する使用者からの報酬の支給は禁止されるとする1949年の行政通知があり(職発第921号)、会社が給与・賞与を払い続けると経理上の援助に当たると解されています。専従期間を勤続年数や昇給年限に算入すること自体は、直ちに援助には当たらないとされています(労収第6374号)。
団体交渉の時間に賃金を払うのは問題ですか。
問題ありません。労働者が労働時間中に時間または賃金を失うことなく使用者と協議・交渉することを使用者が許すことは、経理上の援助から除かれています(労働組合法 第2条第2号ただし書、第7条第3号ただし書)。ただし、協議・交渉以外の組合活動の時間はこの例外に含まれない点に注意が必要です。
経費援助を受けていると資格審査に通らないのですか。
団体の運営のための経費について使用者の経理上の援助を受ける団体は、労働組合法上の労働組合に当たらないとされ(労働組合法 第2条第2号)、資格審査では自主的な組合であるかが確認されます。援助の有無と範囲は審査の場で個別に判断されるため、会社負担の費目をあらかじめ整理し、ただし書の範囲に収まっていることを説明できるようにしておくことが大切です。
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