チェックオフとは、労働組合と使用者との取決めに基づき、使用者が組合員の賃金から組合費を控除し、これを一括して労働組合へ引き渡す仕組みです。組合費の徴収漏れが起きにくく、労働組合の財政基盤を安定させる効果がある一方、賃金からの控除である以上、労働基準法の全額払い原則との関係で満たすべき要件があります。
この記事では、チェックオフの法律関係と実施に必要な要件を条文にさかのぼって整理したうえで、組合側で必要になる組合費収入の会計処理と、会計監査で確認される点までを解説します。
チェックオフの仕組みと三者間の法律関係
賃金からの控除と労働組合への一括引渡し
チェックオフは、使用者が毎月の給与計算の中で組合員の賃金から組合費相当額を差し引き、その合計額をまとめて労働組合の口座へ振り込む形で行われます。組合員が個別に組合費を納入する必要がなくなるため、労働組合にとっては徴収事務の負担が軽くなり、未納の発生も抑えられます。
もっとも、チェックオフは法律上当然に認められた制度ではありません。使用者が労働組合に対して行う便宜供与の一つであり、実施するかどうかは労使の取決めに委ねられています。組合事務所の供与や組合掲示板の貸与と同じ性質のものと位置づけられます。
取立委任契約と支払委任契約の併存
チェックオフの法律関係は、二つの委任契約が併存することによって成り立つと整理されています。すなわち、労働組合と使用者との間の組合費の取立委任契約と、組合員である従業員と使用者との間の支払委任契約の二つです。この構成は、最高裁判所第一小法廷が1995年2月23日に言い渡したネスレ日本事件の判決で示されています。
この整理からは、労働組合と使用者との間で取決めがあるだけでは足りず、組合員本人と使用者との関係も必要になるという帰結が導かれます。組合に加入したばかりの組合員や、途中で脱退した組合員の取扱いで実務上の疑問が生じやすいのは、この二層構造があるためです。
チェックオフの実施に必要な要件
チェックオフを適法に実施するには、労働基準法上の要件と労働組合法上の要件の両方を満たす必要があります。要件を一覧で整理すると次のとおりです。
| 賃金控除に関する 労使協定 |
当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合、それがない場合は労働者の過半数を代表する者との書面による協定が必要です(労働基準法 第24条第1項ただし書)。 |
|---|---|
| 労働協約としての 書面化 |
労働組合と使用者との取決めを労働協約として結ぶ場合は、書面に作成し、両当事者が署名または記名押印することで効力が生じます(労働組合法 第14条)。 |
| 組合員本人との関係 | 組合員と使用者との間の支払委任が法律関係の一部を構成します。組合規約や加入手続の中で本人の意思を確認しておくことが実務上重要です。 |
| 労使協定の周知 | 使用者は、労働基準法第24条第1項ただし書の協定を、掲示・備付け・書面交付などの方法で労働者に周知させなければなりません(労働基準法 第106条第1項)。 |
労働基準法第24条第1項ただし書の賃金控除協定
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならないのが原則です(労働基準法 第24条第1項)。その例外として賃金の一部を控除できるのは、法令に別段の定めがある場合と、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合、そのような労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合に限られます(労働基準法 第24条第1項ただし書)。
最高裁判所第二小法廷は、1989年12月11日の済生会中央病院事件の判決で、チェックオフについても賃金全額払いの原則との関係が問題となり得るとし、チェックオフも労働基準法の規制に服するものとして、その実施には労使協定が必要であると判示しています。労働組合との取決めだけで足りると考えるのは誤りです。
条文が協定の相手方としているのは「当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合」または「労働者の過半数を代表する者」です。したがって、チェックオフを受ける労働組合が事業場の過半数を組織していない少数組合であっても、その事業場において過半数組合または過半数代表者との賃金控除協定が結ばれていなければ、控除そのものが認められません。複数の労働組合が併存する事業場では、この点の確認が欠かせません。
なお厚生労働省は、この労使協定によって控除できるのは、社宅や寮の費用など労働者が当然に支払うべきことが明らかなものであるとの考え方を示しています。控除項目に組合費が含まれているかを協定書で確認しておく必要があります。
労働協約としての書面化と署名または記名押印
労働組合と使用者との間の労働条件その他に関する労働協約は、書面に作成し、両当事者が署名し、または記名押印することによって効力を生じます(労働組合法 第14条)。口頭の合意や、団体交渉の議事録に記載しただけの状態では、労働協約としての効力は認められません。
チェックオフに関する取決めを労働協約として整えておくと、控除の対象となる費目、控除の時期、引渡しの期日、対象者の範囲などが明確になり、後日の紛争を防ぎやすくなります。組合費のほかに闘争積立金や上部団体費を控除する場合は、その費目も協定に明記しておくことが実務上の安全策です。
組合員本人の支払委任と加入・脱退時の取扱い
前述のとおり、チェックオフは組合員と使用者との間の支払委任契約を含む法律関係として整理されています。そのため、新規加入者について、いつからチェックオフの対象とするか、脱退者について、いつの給与から控除を止めるかを、組合と使用者の双方で運用ルールとして定めておく必要があります。
この取扱いが曖昧なままだと、脱退した元組合員の分まで控除が続いてしまったり、逆に加入済みの組合員が控除対象から漏れたりします。いずれも組合費収入の金額を狂わせ、後述する会計監査での照合作業を難しくする原因になります。
関連コラム労働組合の組合費の相場|1人平均月額と決め方・使途の公開義務▸
チェックオフをめぐる実務上の論点
便宜供与としての位置づけと使用者の裁量
チェックオフは使用者の便宜供与であり、本来は団体交渉等による合意に基づいて行われるべきものです。最高裁判所第二小法廷が1987年5月28日に言い渡した日産自動車事件の判決は、使用者が労働組合に対して当然に便宜供与すべき義務を負うものではなく、便宜供与するかどうかは原則として使用者の自由に任されていると判示しています。
実務では、新しく結成された労働組合が最初の団体交渉でチェックオフの実施を求めても、使用者が応じないという場面が少なくありません。中央労働委員会のあっせん事例にも、チェックオフの実施をめぐって労使の主張が折り合わず、あっせんが打切りとなった例が公表されています。
併存組合の取扱いと不当労働行為
もっとも、使用者の裁量は無制限ではありません。労働組合法は、労働者が労働組合を結成し、または運営することを支配し、もしくはこれに介入することを不当労働行為として禁止しています(労働組合法 第7条第3号)。一方の組合にはチェックオフを認めながら、併存する他方の組合の要求だけを拒否する取扱いは、組合差別により組合の弱体化を企図したものとして、不当労働行為と判断されることがあります。
中央労働委員会は、東洋シート事件について1992年12月16日に命令を発し、会社に対して、組合に所属する組合員の賃金から組合費および闘争積立金を当該組合のためにチェックオフすることを拒否してはならない旨を命じています。チェックオフした金員を他組合に渡し、当該組合に引き渡さなかった行為が争点となった事案です。
チェックオフの中止・廃止と手続的配慮
長年続いてきたチェックオフを使用者が一方的に打ち切ることにも制約があります。東京地方裁判所は2005年8月29日の太陽自動車・北海道交通事件の判決で、便宜供与が慣行として定着している場合には、廃止を必要とする合理的な理由が存在し、かつ廃止に当たっては労働組合の了解を得るか、了解が得られない場合には準備のための適当な猶予期間を与えるなど相当な配慮が必要であり、このような配慮なく組合活動への報復目的・対抗手段として行われた便宜供与の廃止措置は違法と解するのが相当である旨を判示しています。
自主性の要件(経費援助)との関係
労働組合法は、団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるものを労働組合の定義から除いており(労働組合法 第2条第2号)、使用者が労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えることを不当労働行為としています(労働組合法 第7条第3号)。ここで問題とされているのは、使用者が組合の運営経費を負担することです。チェックオフは、組合員自身が負担する組合費を使用者が控除して組合へ引き渡す事務にとどまります。
ただし、便宜供与の内容が広がり、組合の運営費を使用者が実質的に肩代わりする実態になっていないかは、資格審査の場面でも確認される観点です。チェックオフの手数料の有無なども含め、労使間の金銭のやり取りは整理しておくことをおすすめします。
関連コラム組合費の使い道|一般的な内訳と会計報告での確認方法▸
チェックオフを行う労働組合の会計処理
チェックオフを採用している労働組合では、組合費の入金が「組合員からの個別入金」ではなく「会社からの一括入金」という形になります。会計処理では、組合員に対して賦課した組合費の総額と、会社から実際に振り込まれた金額を分けて把握することが要点になります。
組合費収入の計上と入金の照合
労働組合法は、すべての財源および使途を示す会計報告を組合員に公表することを求めていますが(労働組合法 第5条第2項第7号)、日々の記帳方法まで法律で定めているわけではありません。以下は、一般的な複式簿記の考え方に沿った記帳例です。組合員500人に月額3,000円の組合費を賦課し、当月の控除対象者のうち3人分が控除漏れとなり、会社から1,491,000円が翌月に入金された場合を想定しています(単位:円)。
まず、当月分の組合費を賦課した時点で収入と債権を計上します。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 未収組合費 | 1,500,000 | 組合費収入 | 1,500,000 |
次に、会社からチェックオフ分の入金があった時点で、債権を消し込みます。控除漏れの3人分9,000円は未収組合費として残ります。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 1,491,000 | 未収組合費 | 1,491,000 |
入金額をそのまま組合費収入として計上する方法も見られますが、その処理では控除漏れや二重控除が帳簿上に現れません。賦課額と入金額の差額が未収組合費として残る形にしておくと、毎月の照合で異常に気づけます。
未収・脱退・控除漏れの管理
チェックオフでは、組合員名簿と会社の控除データが一致していることが前提になります。実務では、次の三つのずれが起きやすいため、毎月の突合を習慣にすることが有効です。
- 加入・脱退の反映漏れ:加入月・脱退月の起算がずれ、控除対象者数が名簿と合わない。
- 休職・欠勤による控除不能:賃金が支給されない月は控除できないため、未収組合費が積み上がる。
- 出向・転籍による事業場の変更:控除を行う事業場が変わり、賃金控除協定の適用関係が変わる。
いずれも、放置すると年度末の会計報告の段階でまとめて調整することになり、原因の特定が難しくなります。月次で組合員数と控除人数を突き合わせておくことが、最も確実な予防策です。
会計監査で確認される点
労働組合の会計報告は、すべての財源および使途、主要な寄附者の氏名ならびに現在の経理状況を示すものとして、組合員によって委嘱された職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書とともに、少なくとも毎年1回組合員に公表される必要があります(労働組合法 第5条第2項第7号)。チェックオフを採用している組合では、監査の際に次の点が確認されます。
| 賃金控除協定の有無 | 控除の根拠となる労使協定が締結され、控除項目に組合費が含まれているかを確認します。 |
|---|---|
| 組合員名簿との 整合性 |
控除対象者数と組合員数が一致しているか、加入・脱退の反映漏れがないかを確認します。 |
| 入金額と 賦課額の差異 |
会社からの入金額と賦課額の差額が、未収組合費として合理的に説明できるかを確認します。 |
| 上部団体費の 区分経理 |
上部団体へ上納する部分が、組合の収入と費用として適切に区分されているかを確認します。 |
関連コラム労働組合の会計基準とは|計算書類の体系と勘定科目・特別会計▸
まとめ
チェックオフは、労働組合の財政を安定させる有効な仕組みですが、賃金からの控除である以上、当該事業場の過半数組合または過半数代表者との書面による賃金控除協定が前提になります(労働基準法 第24条第1項ただし書)。労働組合との取決めは労働協約として書面化し、両当事者が署名または記名押印することで効力が生じます(労働組合法 第14条)。
また、一方の組合だけを対象から外すような取扱いは不当労働行為と判断されることがあり(労働組合法 第7条第3号)、定着したチェックオフの一方的な廃止にも手続的な配慮が求められます。会計面では、賦課額と入金額を分けて記帳し、組合員名簿との突合を月次で行うことが、会計報告と会計監査を円滑に進めるうえでの基礎になります(労働組合法 第5条第2項第7号)。
チェックオフの取扱いや組合費収入の会計処理は、組合の規模や労使慣行によって判断が分かれる場面もあります。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
労働組合監査の無料見積り・ご相談はこちら ▸参考文献
よくある質問
チェックオフに労使協定は必要ですか
必要です。賃金は全額を支払うのが原則であり、その一部を控除できるのは、法令に別段の定めがある場合か、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合、それがないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合に限られます(労働基準法 第24条第1項ただし書)。最高裁判所第二小法廷も1989年12月11日の済生会中央病院事件の判決で、チェックオフの実施には労使協定が必要である旨を判示しています。
過半数を組織していない労働組合でもチェックオフを受けられますか
賃金控除協定の相手方は、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者です(労働基準法 第24条第1項ただし書)。したがって、少数組合が組合費のチェックオフを受ける場合であっても、その事業場において過半数組合または過半数代表者との書面による協定が締結されている必要があります。
チェックオフは労働組合法上の経理上の援助に当たりますか
労働組合法が問題としているのは、団体の運営のための経費の支出について使用者から経理上の援助を受けることです(労働組合法 第2条第2号、第7条第3号)。チェックオフは、組合員自身が負担する組合費を使用者が賃金から控除して組合へ引き渡す事務であり、使用者が組合の運営経費を負担するものではありません。ただし、便宜供与の全体が組合の自主性を損なう実態になっていないかは、資格審査の場面でも確認される観点です。
会計報告ではチェックオフをどのように記載しますか
労働組合法は、すべての財源および使途、主要な寄附者の氏名ならびに現在の経理状況を示す会計報告を、職業的に資格がある会計監査人による証明書とともに少なくとも毎年1回組合員に公表することを求めています(労働組合法 第5条第2項第7号)。会計報告では、組合費収入の総額と、未収組合費の残高を区分して示すと、控除漏れや未納の状況が組合員に伝わりやすくなります。
会社からチェックオフを打ち切ると言われた場合はどうすればよいですか
チェックオフは使用者の便宜供与であり、実施するかどうかは原則として使用者の判断に委ねられています。ただし、慣行として定着している便宜供与を合理的な理由や相当な配慮なく廃止する措置は違法と評価されることがあり、一方の組合のみを対象とする取扱いは不当労働行為と判断される場合があります(労働組合法 第7条第3号)。まずは団体交渉で理由と経過措置を確認し、並行して組合費の直接徴収に切り替える準備を進めることが現実的です。