労働組合の会計規程【記載例】支出決裁・現金管理・証憑保存の条文
目次
労働組合の会計規程は、規約で定めきれない会計の細目、つまり誰が支出を決め、誰が払い、通帳と印鑑を誰が持ち、証憑を何年残すかを条文にした内部規程です。労働組合法には会計規程そのものの作成を求める条文はなく、規約に置く必要があるのは会計報告と会計監査人の証明に関する規定です(労働組合法 第5条第2項第7号)。そのため、日々の出納や決裁のルールは各組合が会計規程で自ら定めることになります。
この記事では、規約との役割分担を整理したうえで、支出決裁・現金と預金の管理・証憑の保存・決算と監査対応の条文例を、自社で作成した記載例として示します。横領を防ぐ内部統制の要である「決裁する人と支払う人を分ける」「通帳と届出印を別々の人が保管する」という定めを、条文の形でそのまま使えるように組み立てています。
会計規程と規約の役割分担
規約は組合の基本ルールで、資格審査では労働組合法第5条第2項各号の規定を含むことが求められます(労働組合法 第5条第1項、第2項)。会計に関しては、すべての財源と使途、主要な寄附者の氏名、現在の経理状況を示す会計報告を、組合員が委嘱した職業的に資格がある会計監査人の証明書とともに、少なくとも毎年1回組合員に公表することを規約に書く必要があります(労働組合法 第5条第2項第7号)。
一方、組合自身の会計について労働組合法が直接定めているのは、この第7号と、共済事業などのための基金の流用に総会の決議を求める規定が中心です(労働組合法 第9条)。伝票の起票方法や決裁の金額基準まで規約に書き込むと、運用を変えるたびに規約改正の手続が必要になります。単位労働組合の規約改正には組合員の直接無記名投票による過半数の支持が要るため(労働組合法 第5条第2項第9号)、細目は会計規程に分けておくほうが現実的です。
| 規約に置く事項 | 会計規程に置く事項 |
|---|---|
| 会計年度、会計報告の公表と会計監査人の証明書(第5条第2項第7号の内容) | 会計責任者と出納担当者の指名、兼務の禁止 |
| 会計監査人の委嘱方法、内部の会計監査委員の選出方法 | 支出の決裁権者と金額基準、支出伺書の様式 |
| 組合費の額と徴収方法、特別会計の設置根拠 | 預金口座の名義、通帳・届出印の保管者、小口現金の上限 |
| 財産の重要な処分や多額の借入れに必要な決議機関 | 帳簿の種類、証憑の添付ルール、書類ごとの保存期間 |
実務では、規約に「会計に関し必要な事項は、別に定める会計規程による」という委任条項を置き、会計規程の第1条でその規約条文を受ける形にしておくと、両者の関係が監査の場面でも説明しやすくなります。
関連コラム労働組合規約の作り方|法定記載事項と会計・監査条項の条文例▸
会計規程の章立て
会計規程の章立てに決まった様式はありません。組合の規模にかかわらず、次の7つの章を立てておくと、日々の出納から決算・監査までの流れが規程の順番どおりに追えます。以下の条文例も、この順序で通し番号を振っています。
| 総則 | 目的、会計年度、会計責任者と出納担当者、会計区分 |
|---|---|
| 予算の執行と 支出決裁 |
予算の範囲内での執行、決裁権者と金額基準、予算超過の手続、基金の流用 |
| 現金・預金の管理 | 収入の入金、口座名義、通帳と届出印の分管、小口現金、残高照合 |
| 帳簿と証憑 | 伝票・帳簿の種類、証憑の添付、支払証明書、保存期間 |
| 資産の管理 | 備品・固定資産の台帳、積立資産の運用と承認 |
| 決算と会計報告 | 決算書類の作成期限、執行委員会の承認、組合員への公表 |
| 監査と改廃 | 内部の会計監査と外部の会計監査人への協力、規程の改廃手続 |
総則の条文例
総則では、会計の最終責任者と、実際にお金を動かす担当者を分けて書きます。ここで会計担当と出納担当を同じ人が兼ねないことを定めておくと、後の章の決裁・照合ルールが機能します。
第1条(目的) この規程は、規約第○条に基づき、○○労働組合(以下「組合」という。)の会計処理および財産の管理に関する基準を定め、組合財産を適正に管理し、収支と財産の状況を組合員に正確に報告することを目的とする。
第2条(会計年度) 組合の会計年度は、規約第○条に定める期間とする。
第3条(会計責任者および出納担当者) 組合の会計の総括責任者は執行委員長とし、会計事務は財政担当執行委員(以下「会計担当」という。)が行う。
2 金銭の出納は、執行委員会が指名する出納担当者が行う。
3 会計担当と出納担当者は、同一の者が兼ねてはならない。第4条(会計区分) 組合の会計は、一般会計と特別会計に区分する。
2 特別会計の設置および廃止は、規約第○条に定める機関の決議による。
支出決裁の条文例
支出決裁の章は、横領防止の中心になる部分です。条文では「予算の範囲内で使う」「決裁を受けてから払う」「自分に関わる支出は自分で決裁しない」の3点を明記します。
第5条(予算の執行) 支出は、大会で承認された予算の範囲内で行う。
第6条(支出の決裁) 支出をしようとする者は、支出伺書に見積書、請求書その他の証憑を添えて、別表1に定める決裁権者の承認を受けなければならない。
2 決裁権者は、自らが請求者または受取人となる支出を決裁してはならない。この場合は、別表1の上位の決裁権者が決裁する。
3 出納担当者は、決裁済みの支出伺書がない支払をしてはならない。第7条(予算の不足) 予算の科目に不足が生じたときは、会計担当は、予備費の充当または科目間の流用について執行委員会の承認を受け、その内容を次の大会で報告する。
第8条(基金の流用) 共済事業その他福利事業のために特設した基金を他の目的のために流用しようとするときは、総会の決議を経なければならない。
第8条は、労働組合法の規定をそのまま規程に取り込んだものです(労働組合法 第9条)。特別会計の資金が一般会計の赤字補填に回る事態を、条文の段階で止めておく狙いがあります。
決裁権限の別表(記載例)
第6条の別表1は、金額の区分ごとに決裁権者を定めます。次の金額は記載例で、組合の予算規模に合わせて決めてください。
| 1件5万円未満 | 書記長 |
|---|---|
| 1件5万円以上 30万円未満 |
執行委員長 |
| 1件30万円以上 | 執行委員会の承認 |
| 予算外の支出・ 予備費の充当 |
執行委員会の承認(金額を問わない) |
実務で気をつけたいのは、同じ相手への支払を分割して金額基準を下回らせる運用です。別表の注記に「同一の目的の支出は合算して判定する」と書き添えておくと、分割による決裁回避を防げます。
関連コラム労働組合の予算の立て方|モデル予算書と組合費の管理▸
現金・預金管理の条文例
組合費の横領は、通帳と届出印の両方を1人が持ち、残高を他の人が確かめていない状態で起きやすくなります。現金・預金の章では、口座の名義、通帳と印鑑の分管、ネットバンキングの権限分離、月次の残高照合を具体的に書きます。
第9条(収入の取扱い) 組合の収入は、すべて組合名義の預金口座に入金する。現金で受け取ったときは領収書を発行し、受領日の翌営業日までに入金する。
2 受け取った現金を、入金前に支払に充ててはならない。第10条(預金口座) 預金口座は、組合の名称および代表者の肩書を付した名義で開設し、開設および解約には執行委員会の承認を要する。
2 組合の資金を、役員その他の個人名義の口座で管理してはならない。組合員から預かる資金を管理する口座も、組合の帳簿に記録する。第11条(通帳および届出印の保管) 預金通帳は出納担当者が保管し、届出印は執行委員長が保管する。同一の者が通帳と届出印の両方を保管してはならない。
2 インターネットバンキングを利用するときは、振込の入力者と承認者を別の者とし、承認の権限は別表1の決裁権者に与える。第12条(小口現金) 手元に置く現金は○万円を上限とし、出納担当者が現金出納帳に記録する。
第13条(残高の照合) 出納担当者は、毎月末に、現金の実際有高と現金出納帳の残高、預金通帳の残高と帳簿の残高をそれぞれ照合し、残高照合表を作成する。
2 執行委員長は、通帳の原本を見たうえで残高照合表を確認し、署名する。
第10条第2項の後段は、会社から振り込まれる資金のうち組合の会計と別に預かっているもの(上部団体へ送る会費や組合員から預かる積立金など)を、帳簿の外に置かないための定めです。帳簿に載らない口座は内部の会計監査でも見落とされやすく、残高の出どころが説明できなくなる原因になります。
証憑の保存の条文例
証憑は、支出が決裁どおりに行われたことを後から確かめる唯一の材料です。条文では、すべての取引に証憑を付けること、領収書が出ない支出の代替書類、保存期間の3点を定めます。
第14条(証憑) すべての取引は、請求書、領収書その他の証憑に基づいて会計伝票を作成し、証憑を伝票に添付する。
2 慶弔金、交通費その他の証憑を得られない支出は、支払先、金額、日付および目的を記載した支払証明書を作成し、決裁権者の承認を受ける。第15条(帳簿) 組合は、仕訳帳および総勘定元帳のほか、現金出納帳、預金出納帳、固定資産台帳その他必要な補助簿を備える。
第16条(保存期間) 会計帳簿、証憑および決算書類は、別表2に定める期間保存する。保存期間は、当該会計年度の決算が大会で承認された日の翌日から起算する。
保存期間の別表(記載例)
組合会計の帳簿書類の保存期間は、労働組合法には定めがなく、各組合が会計規程で決めます。ただし、収益事業を行う組合は法人税の申告が必要になり、税法上の保存期間が下限になります。
| 決算書類・大会議案書 | 永年 |
|---|---|
| 総勘定元帳・ 現金出納帳などの帳簿 |
10年 |
| 会計伝票・証憑・ 支出伺書・残高照合表 |
7年 |
| 会計規程・ 決裁権限表の旧版 |
永年 |
法人格のない労働組合は、通常は法人税法上の「人格のない社団等」として法人とみなされ、法人である労働組合は「公益法人等」に当たり、いずれも収益事業を行う場合に限り法人税の納税義務を負います(法人税法 第3条、第4条第1項、別表第二)。収益事業を行う組合で青色申告の承認を受けていない場合は、帳簿と取引に関する書類を、確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存する必要があります(法人税法 第150条の2第1項、法人税法施行規則 第67条第2項)。青色申告で欠損金が生じた事業年度などは10年間となるため、収益事業がある組合は、税務上の保存期間を下回らないように別表2を作ってください。
関連コラム労働組合の帳簿の付け方|現金出納帳・元帳の記帳ルールとひな形▸
決算・会計報告・監査対応の条文例
決算と監査の章は、規約に置いた第5条第2項第7号の規定を、実際の手順に落とす部分です。会計報告に含める内容は法律の文言に合わせ、監査を受ける側の協力義務も書いておきます。
第17条(決算) 会計担当は、会計年度終了後○日以内に、収支計算書、貸借対照表その他の決算書類を作成し、執行委員会の承認を受ける。
第18条(会計報告) 執行委員長は、すべての財源および使途、主要な寄附者の氏名ならびに現在の経理状況を示す会計報告を、組合員によって委嘱された職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書とともに、少なくとも毎年1回組合員に公表する。
第19条(監査への協力) 会計担当および出納担当者は、内部の会計監査委員および前条の会計監査人の求めに応じ、帳簿、証憑、預金通帳、残高照合表その他の資料を提示し、説明しなければならない。
第20条(改廃) この規程の改廃は、規約第○条に定める機関の決議による。
第18条は、規約の会計条項と同じ内容を規程側でも定め、誰が公表の手続を担うかを明らかにしたものです(労働組合法 第5条第2項第7号)。第20条の決議機関は法律に定めがないため、規約で大会・中央委員会・執行委員会のどれにするかを決めておきます。決裁権限表のように頻繁に見直すものは執行委員会、職務分離の原則のように根幹に関わる条文は大会、と分けて定める組合もあります。
関連コラム労働組合の会計監査のやり方|進め方・必要書類と年間スケジュール▸
役員が少ない組合での職務分離
専従役員が1〜2人の単組では、決裁・支払・記帳・照合をすべて別の人に割り振るのは現実的ではありません。その場合は、分けられない役割を事後の確認で補う形で条文を作ります。外部の会計監査人が監査の際に確かめるのも、この補い方が規程どおり運用されているかどうかです。
| 分けたい役割 | 人数が足りないときの代替策 |
|---|---|
| 決裁する人と支払う人 | 支払は振込に限定し、執行委員長が月1回、通帳の原本と支出伺書を突き合わせて署名する |
| 通帳を持つ人と届出印を持つ人 | 届出印だけは執行委員長が保管し、インターネットバンキングは入力と承認を分けられる契約にする |
| 記帳する人と残高を確かめる人 | 内部の会計監査委員が四半期ごとに通帳と帳簿を照合し、執行委員会に文書で報告する |
| 現金を扱う人と現金を数える人 | 小口現金の上限を低く抑え、月末の実査に第三者の執行委員が立ち会う |
代替策を選んだときは、その内容を会計規程の条文か細則に書いておきます。口頭の申し合わせだけでは、担当者が交代したときに確認が止まり、監査でも運用の有無を確かめられません。
関連コラム組合費の横領が起きる原因と防止策|発覚後の対応と外部会計監査▸
会計規程の見直しチェックリスト
既存の会計規程を見直すときは、条文の有無だけでなく、実際の運用と合っているかを確かめます。次の項目のうち「いいえ」が付くものから改定案を作ると、優先順位を付けやすくなります。
- 会計担当と出納担当者を別の人として指名し、兼務を禁じる条文があるか
- 決裁権者と金額基準が別表で定まり、自分が受取人となる支出の決裁を禁じているか
- 通帳と届出印の保管者が別々に定められ、実際にもそうなっているか
- インターネットバンキングの入力者と承認者が分かれているか
- 組合の資金を個人名義の口座で管理していないか、預かり資金の口座も帳簿に載っているか
- 月末の残高照合を出納担当者以外が確認し、署名が残っているか
- 領収書が出ない支出に支払証明書と決裁の記録があるか
- 書類ごとの保存期間が定まり、収益事業がある場合は税法上の期間を下回っていないか
- 会計報告と会計監査人の証明書の公表手続が、規約・規程の両方で整合しているか
- 規程の改廃をどの機関が決議するかが規約に定まっているか
会計規程を作る・改める手順
- 現状の運用を書き出す:誰が通帳・印鑑・現金を持ち、誰が支出を決め、誰が記帳しているかを一覧にします。
- 規約との整合を確かめる:会計年度、会計報告、会計監査人の委嘱、改廃の決議機関が規約にどう書かれているかを確認し、規程側の条文と食い違いがないようにします。
- 改定案と別表を作る:本記事の条文例を土台に、決裁の金額基準・保存期間・小口現金の上限を組合の実情に合わせて決めます。
- 規約で定めた機関で決議する:執行委員会・中央委員会・大会など、規約が定める機関で承認を受けます。
- 周知し、最初の月次照合で運用を確かめる:新しい決裁ルールと照合手続が実際に回っているかを、施行後の最初の月末に確認します。
まとめ
- 労働組合法が規約に求めるのは会計報告と会計監査人の証明に関する規定で、決裁や出納の細目は会計規程で定めます。
- 支出決裁の章では、予算の範囲内での執行、金額別の決裁権者、自分が受取人となる支出の決裁禁止を条文にします。
- 現金・預金の章では、組合名義の口座、通帳と届出印の分管、インターネットバンキングの入力と承認の分離、月次の残高照合を定めます。
- 証憑の保存期間は組合が決めますが、収益事業を行う組合は法人税法上の保存期間が下限になります。
- 役員が少ない組合は、分けられない役割を事後の確認で補い、その方法も規程に書いておきます。
会計規程の整備は、外部の会計監査人による監査の効率にも直結します。規程の内容や運用が組合の実情に合っているかなど、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
労働組合監査の無料見積り・ご相談はこちら参考文献
よくある質問
会計規程の作成は法律で義務付けられていますか。
労働組合法には、会計規程そのものの作成を求める条文はありません。規約に置く必要があるのは、会計報告を会計監査人の証明書とともに少なくとも毎年1回組合員に公表するという規定です(労働組合法 第5条第2項第7号)。決裁や出納の細目は、組合が会計規程で定めることになります。
会計規程の改正にも組合員の直接無記名投票が必要ですか。
直接無記名投票による過半数の支持が求められるのは規約の改正です(労働組合法 第5条第2項第9号)。会計規程の改廃をどの機関で決議するかは法律に定めがないため、規約で大会・中央委員会・執行委員会などのいずれかに決めておきます。
役員が少なく、決裁する人と支払う人を分けられない場合はどうすればよいですか。
支払を振込に限定し、執行委員長が月1回通帳の原本と支出伺書を突き合わせて署名する、内部の会計監査委員が四半期ごとに通帳と帳簿を照合するなど、事後の確認で補う方法があります。選んだ方法は会計規程か細則に書いておくと、担当者が交代しても運用が続きます。
証憑や帳簿は何年保存すればよいですか。
労働組合法には保存期間の定めがなく、組合が会計規程で決めます。収益事業を行い青色申告の承認を受けていない組合は、帳簿と取引に関する書類を確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存する必要があり(法人税法 第150条の2第1項、法人税法施行規則 第67条第2項)、規程の保存期間はこれを下回らないように定めます。
本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。



