労働組合の帳簿には、法律で定められた様式がありません。労働組合法は会計報告の内容を定めているだけで、どの帳簿をどう付けるかは各組合の判断に委ねられています。そのため「何を用意すればよいのか分からない」という声が、組合の会計担当者から多く寄せられます。
結論から申し上げると、単組であれば現金出納帳・預金出納帳・総勘定元帳・証憑つづりの4点をそろえ、日付順に記帳して毎月末に残高を照合するという運用で足ります。この記事では、その4点の具体的な記載欄と書き方、ひな形として設ける列項目、月次の締め方までを順に整理します。
労働組合が備える帳簿と記帳の3原則
まず、そろえるべき帳簿とそれぞれが受け持つ範囲を確認します。組合員数が数十名から数百名規模の単組を想定した最小構成です。
| 帳簿・書類 | 記録する範囲 |
|---|---|
| 現金出納帳 | 手元現金の入出金をすべて発生順に記録する |
| 預金出納帳 | 組合名義の口座ごとに入出金を記録し、通帳と一致させる |
| 総勘定元帳 | 出納帳の取引を勘定科目別に集計し、決算書の各科目の残高を出す |
| 証憑つづり | 領収書・請求書・振込控・議事録など、取引の裏付けとなる書類を番号順に保管する |
この4点をどう運用するかについて、実務では次の3つを原則にすると破綻しません。
- 発生順に記帳する。月末にまとめて書き起こすと、通帳と一致しない差額の原因が追えなくなります。
- 1取引につき1証憑を残し、帳簿に証憑番号を書く。帳簿の1行から現物の書類へ、番号だけでたどり着ける状態にします。
- 毎月末に残高を照合する。現金は実査額と、預金は通帳残高と一致させ、一致した事実を記録に残します。
この3原則は、後述する会計監査人による証明の場面でそのまま確認される点でもあります。難しい簿記の知識よりも、この運用が続いているかどうかが結果を分けます。
帳簿の様式が法定されていない理由と、整える基準
労働組合法には、帳簿の様式や記帳方法を定めた規定がありません。定められているのは、規約に含めなければならない事項として、会計報告の内容と公表の頻度です。したがって帳簿は「法律に合わせて作る」ものではなく、法律が求める会計報告を作れる帳簿かどうかという基準で組み立てることになります。
会計報告に必要な3つの記載事項
労働組合の規約には、すべての財源および使途、主要な寄附者の氏名ならびに現在の経理状況を示す会計報告を、組合員によって委嘱された職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書とともに、少なくとも毎年1回組合員に公表する旨の規定を含めなければなりません(労働組合法 第5条第2項第7号)。
ここから帳簿に必要な情報が逆算できます。「すべての財源」を示すには収入の相手先が要り、「使途」を示すには支出の内容と相手先が要ります。「主要な寄附者の氏名」を示すには、寄附を組合費と区別して記録しておく必要があります。「現在の経理状況」を示すには、期末時点の現金・預金・積立金の残高が確定していなければなりません。つまり、金額だけを並べた帳簿では会計報告が作れません。摘要欄に相手先と内容を書くことが、様式の議論より先に来ます。
なお、総会は少なくとも毎年1回開催する旨も規約の記載事項とされています(労働組合法 第5条第2項第6号)。会計報告はこの総会に合わせて年1回作ることになるため、帳簿の締めも総会の日程から逆算して設計します。
使用者からの援助を帳簿上で切り分ける
団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるものは、労働組合法上の労働組合に該当しません。ただし、労働時間中に賃金を失うことなく使用者と協議・交渉することを許すこと、福利その他の基金に対する使用者の寄附、および最小限の広さの事務所の供与は除かれています(労働組合法 第2条第2号)。使用者側から見れば、経費の支払につき経理上の援助を与えることは不当労働行為に当たります(労働組合法 第7条第3号)。
この論点は、帳簿の付け方に直接影響します。会社が負担している事務所家賃や光熱費、組合事務の委託費などがある場合、金額の多寡にかかわらず、その事実が帳簿と証憑から確認できる状態にしておくことが重要です。帳簿に載せずに処理してしまうと、後から経緯を説明する材料が残りません。
労働委員会から帳簿書類の提出を求められる場面
労働委員会は、その事務を行うために必要があると認めたときは、労働組合その他の関係者に対して報告の提出や必要な帳簿書類の提出を求め、または職員に帳簿書類その他の物件を検査させることができます(労働組合法 第22条)。これに違反して帳簿書類の提出をせず、または虚偽の報告をした者は、30万円以下の罰金に処せられます(労働組合法 第30条)。
また、労働組合が同法に規定する手続に参与する資格を得るには、労働委員会に証拠を提出して所定の要件に適合することを立証しなければなりません(労働組合法 第5条第1項)。帳簿は組合内部の書類であると同時に、外部に対して組合の適格性を立証する材料でもあるという位置づけです。
現金出納帳の記帳ルール
現金出納帳は、手元現金の動きをすべて発生順に記録する帳簿です。記載欄と書き方は次のとおりです。
| 日付 | 現金が実際に動いた日を書く。領収書の日付ではなく出納した日に合わせる |
|---|---|
| 摘要 | 何のための入出金かを書く。「雑費」「立替」だけで済ませず、目的が分かる語を入れる |
| 相手先 | 支払先・受取先の名称を書く。会計報告の「財源および使途」の裏付けになる |
| 収入・支出 | 入金額と出金額を別の欄に書く。1行に両方を混在させない |
| 差引残高 | 1行ごとに繰り越し計算する。マイナスになった時点で必ず記帳誤りがある |
| 証憑番号 | 領収書等に付した通し番号を書き、帳簿から現物へたどれるようにする |
記帳の実際は、たとえば大会の会場費を現金で支払った場合、日付に支払日、摘要に「定期大会 会場使用料」、相手先に施設名、支出欄に金額、証憑番号に領収書の番号を書きます。摘要が「会場費」だけだと、どの行事の分かが翌年には分からなくなります。1年後の自分と、次の会計担当者が読んで分かる語で書くのが実務上のコツです。
手元現金は最小にする
現金の残高が合わない事故は、そのほとんどが立替払いと小口精算の周辺で起きます。実務では、支出は原則として口座振込にし、手元現金は小口現金として上限を決めて運用する方法が管理しやすくなります。手元現金を持たない運用にできれば、現金出納帳の記帳自体がほぼ不要になり、預金出納帳と通帳の突合に集中できます。
預金出納帳と通帳の突合
預金出納帳は、口座ごとに1冊(1シート)作ります。一般会計と積立金で口座を分けている場合は、口座単位で分けて記帳し、合算しません。記載欄は現金出納帳と同じ考え方ですが、通帳の摘要はそのまま転記せず、組合として何の入出金かを書き足すことが必要です。振込人名義が個人名になっている入金や、引落しの略称表記は、後から見て内容が特定できないためです。
突合は月次で行います。月末時点の帳簿残高と通帳残高を並べ、一致しない場合は未渡しの小切手や月末付近の未反映取引がないかを確認します。差額の原因を月内に解消しておけば、決算時に前期分までさかのぼる作業は発生しません。
総勘定元帳への転記と勘定科目
総勘定元帳は、出納帳に記録した取引を勘定科目ごとに集めた帳簿です。会計報告の各科目の残高は、この元帳から作ります。会計ソフトや表計算ソフトを使う場合、出納帳の各行に勘定科目を入力しておけば、集計機能で元帳に相当する一覧が得られるため、別の帳簿を手書きで作る必要はありません。
勘定科目の決め方
勘定科目は、組合員に説明する単位で立てるのが基本です。収入であれば組合費収入、上部団体からの交付金収入、寄附金収入、雑収入といった区分になり、支出であれば大会費、会議費、上部団体への上納金、活動費、事務費、慶弔費といった区分になります。科目を細かくしすぎると記帳のたびに迷いが生じ、担当者が代わると分類が揺れます。決算書に載せる行数と同じ粒度にそろえておくと、期中の記帳から決算までが一直線になります。
寄附については、会計報告で主要な寄附者の氏名を示すことが規約の記載事項とされている以上(労働組合法 第5条第2項第7号)、組合費と同じ科目に混ぜてはいけません。寄附金収入として独立させ、摘要に氏名を残します。
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特設した基金がある場合の注意
共済事業その他福利事業のために特設した基金を他の目的のために流用しようとするときは、総会の決議を経なければなりません(労働組合法 第9条)。したがって基金は一般の資金と混ぜず、独立した残高が常に分かる形で記帳します。基金から他の用途へ資金を動かした行には、総会の決議を経た事実が分かるよう、議事録の番号を証憑番号として記録しておいてください。
証憑の保存と番号の付け方
証憑は、帳簿の記載が事実であることを裏付ける唯一の材料です。運用は次のようにそろえます。
- 会計年度ごとに通し番号を振る。番号は帳簿の証憑番号欄と一致させ、欠番を作らない。
- 番号順につづる。日付順に並べ替えたくなりますが、番号順のほうが帳簿からの照合が速くなります。
- 領収書が受け取れない支出は支払証明を作る。慶弔費や交通費など、相手方から領収書が出ない支出は、日付・相手先・目的・金額・支払者を記した書面を作り、支出を承認した役員が署名します。
- 会社負担分の資料も残す。事務所の使用や備品の提供を受けている場合、その範囲が分かる書面を証憑と同じ場所に保管します(労働組合法 第2条第2号)。
なお、労働組合法には帳簿・証憑の保存期間を定めた規定はありません。実務上は、公表した会計報告と対応する年度の帳簿・証憑を、資格審査や労働委員会からの提出要求(労働組合法 第22条)に応じられる期間は保管しておく運用が安全です。
月次の締めと決算への接続
年に1回の決算だけで会計を回そうとすると、総会前の数週間に作業が集中し、証憑の不足や残高不一致がその時点で発覚します。月次で締めておけば、決算はその積み上げになります。毎月末に行う手続は次の4つです。
| 現金実査 | 金庫の現金を数え、現金出納帳の残高と一致することを確認して実査表に記録する |
|---|---|
| 預金残高の照合 | 通帳記帳またはネットバンキングの明細と預金出納帳の残高を突き合わせる |
| 証憑のつづり込み | その月に発生した証憑を番号順につづり、帳簿の証憑番号欄と照合する |
| 予算との対比 | 科目ごとの累計額を予算と比べ、大きく乖離した科目の理由を記録に残す |
この4つを終えたら、会計担当役員と会計監査を担当する組合員の双方が確認した記録を残します。予算との対比を月次で行っておくと、年度途中で支出が想定を超えた科目に早く気づけます。
関連コラム労働組合の予算の立て方|モデル予算書と組合費の管理▸
年度末は、月次で締めた12か月分を集計し、収支計算書と貸借対照表に相当する計算書類へ組み替えます。会計報告として何を作り、どの順序で大会に諮るかは、次のコラムで手順を追って解説しています。
関連コラム労働組合の会計報告と決算書の作り方|大会前の準備書類と公表ルール▸
ひな形として設ける列項目
表計算ソフトで帳簿を作る場合、次の列をそろえておけば、決算と会計監査に必要な情報が過不足なく集まります。市販の帳簿を使う場合も、足りない欄は余白に手書きで補ってください。
| 帳簿 | そろえる列項目 |
|---|---|
| 現金出納帳 | 日付/摘要/相手先/勘定科目/収入/支出/差引残高/証憑番号 |
| 預金出納帳 | 日付/摘要/相手先/勘定科目/入金/出金/差引残高/証憑番号(口座ごとに1シート) |
| 総勘定元帳 | 勘定科目/日付/摘要/借方/貸方/残高(出納帳からの集計で代替可) |
| 証憑一覧 | 証憑番号/日付/相手先/金額/帳簿の記帳行/保管場所 |
ファイルは会計年度ごとに1つにまとめ、月ごとにシートを分けないことをおすすめします。月別にファイルが分かれていると、年間の科目別集計や過去の取引の検索に手間がかかり、監査時の質問への回答が遅くなります。
記帳でつまずきやすい5つの点
- 摘要が抽象的で内容が特定できない。「活動費」「立替精算」だけの記載は、翌年の担当者にも監査人にも意味が伝わりません。目的・行事名・相手先を書きます。
- 組合費の未収と前受を区別していない。給与控除による受入れ(チェックオフ)は、控除された月と組合への入金月がずれることがあります。どの月分の組合費かを摘要に書いておかないと、期末の未収・前受が計算できません。
- 役員個人の口座を経由している。立替払いをした役員個人の口座で資金が滞留すると、組合の残高が帳簿で追えなくなります。立替は速やかに精算し、組合名義の口座に一本化します。
- 会社負担分を帳簿に残していない。会社が支払っているために組合の帳簿に何も載らないという状態は、後から範囲を説明する材料がありません(労働組合法 第2条第2号)。
- 年に1回しか通帳を確認していない。差額の原因は時間が経つほど追えなくなります。月次の照合が最大の予防策です。
関連コラム労働組合の会計監査チェックリスト|組合役員が確認する準備項目▸
まとめ
労働組合の帳簿には法定の様式がなく、判断の基準になるのは「規約が求める会計報告を作れる帳簿かどうか」です。会計報告は、すべての財源および使途、主要な寄附者の氏名、現在の経理状況を示すものとされているため(労働組合法 第5条第2項第7号)、帳簿には金額だけでなく相手先と内容を残す必要があります。
実務としては、現金出納帳・預金出納帳・総勘定元帳・証憑つづりの4点をそろえ、発生順に記帳し、証憑番号で帳簿と現物をつなぎ、毎月末に残高を照合する。この運用が続いていれば、会計監査人による証明を受ける段階で困ることはほとんどありません。逆に、年に1度まとめて作る運用では、差額の原因追及に時間を取られます。帳簿の整備水準や会社負担分の取扱いは組合ごとに事情が異なりますので、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
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よくある質問
労働組合の帳簿に法律で決まった様式はありますか。
ありません。労働組合法には帳簿の様式や記帳方法を定めた規定はなく、定められているのは、会計報告をすべての財源および使途、主要な寄附者の氏名ならびに現在の経理状況を示すものとし、職業的に資格がある会計監査人の証明書とともに少なくとも毎年1回組合員に公表する旨を規約に含めることです(労働組合法 第5条第2項第7号)。したがって、この会計報告を作成できる帳簿であれば、様式は組合が自由に決められます。
現金出納帳だけで足りますか。
手元現金しか資金がない小規模な組合であれば、現金出納帳と証憑つづりで会計報告を作ることは可能です。ただし口座を持っている場合は、預金出納帳を分けて通帳と照合する体制がないと、期末の残高を確定できません。積立金や基金がある場合は、それぞれの残高が独立して分かる形にしてください(労働組合法 第9条)。
領収書がもらえない支出はどう記帳しますか。
日付・相手先・目的・金額・支払者を記載した支払証明書を作成し、支出を承認した役員が署名したうえで、通常の証憑と同じ番号体系でつづります。慶弔費や交通費で領収書が出ないケースが典型です。帳簿の摘要欄には、支払証明書によって処理した旨が分かる記載を残しておくと、監査時の説明が容易になります。
会社が負担している事務所の費用も帳簿に載せる必要がありますか。
組合の資金が動いていない以上、出納帳に金額として記帳することはできませんが、提供を受けている範囲が分かる書面を証憑と同じ場所に保管してください。使用者の経理上の援助を受けるものは労働組合に該当しないとされる一方、最小限の広さの事務所の供与は除かれています(労働組合法 第2条第2号)。範囲に収まるかは個別性が高い判断となるため、面積・負担者・経緯を整理した資料が必要になります。
帳簿と証憑は何年保存すればよいですか。
労働組合法に保存期間の定めはありません。もっとも、労働委員会は必要と認めたときに労働組合へ帳簿書類の提出を求めることができ(労働組合法 第22条)、これに応じない場合や虚偽の報告をした場合の罰則も置かれています(労働組合法 第30条)。公表した会計報告と対応する年度の帳簿・証憑は、資格審査や提出要求に応じられる期間、廃棄せずに保管しておくことをおすすめします。