監査役監査計画書【記載例】年間スケジュール表と重点監査項目
目次
- 監査役監査計画書の位置付けと会社法の根拠
- 監査役会が決める「監査の方針」と各監査役の権限
- 監査報告の記載事項との対応
- 会計限定監査役の場合の注意点
- 監査役監査計画書の記載例(ひな形)
- 重点監査項目の選び方と条文の対応
- 監査役監査の年間スケジュール表(3月決算・6月下旬総会の例)
- 期末の監査報告は通知期限から逆算する
- 監査計画書を運用するときの実務ポイント
- 期中の見直しと不正の兆候への対応
- 監査調書の記録と監査報告への反映
- 会計監査人・内部監査部門との連携
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- 監査役監査計画書の作成は法律上の義務ですか。
- 監査役が1人の会社でも計画書は必要ですか。
- 計画どおりに監査できなかった項目はどう扱いますか。
- 監査報告の通知期限は会社が自由に決められますか。
監査役監査計画書は、1年間の監査を「何に重点を置き、誰が、いつ、どの方法で行うか」を一枚にまとめた書面です。会社法に「監査計画書」という書式の定めはありませんが、監査役会設置会社では監査の方針と調査の方法の決定が監査役会の職務とされています(会社法 第390条第2項第3号)。さらに期末の監査報告には「監査の方法及びその内容」を書く必要があるため(会社法施行規則 第129条第1項第1号)、計画書は事実上、監査報告の骨格になります。
この記事では、監査役監査計画書の記載例(ひな形)、重点監査項目の選び方と条文の対応、3月決算会社を例にした年間スケジュール表を、会社法・会社法施行規則・会社計算規則の条文に沿って整理します。
監査役監査計画書の位置付けと会社法の根拠
監査役は、取締役の職務の執行を監査し、法務省令に従って監査報告を作成します(会社法 第381条第1項)。計画書を作る意味は、この「職務執行の監査」を1年分の具体的な作業に落とし込み、期末に監査報告へ書く内容を前もって決めておくことにあります。
監査役会が決める「監査の方針」と各監査役の権限
監査役会設置会社では、監査役会が「監査の方針、業務及び財産の状況の調査の方法その他の監査役の職務の執行に関する事項」を決定します。ただし、この決定は個々の監査役の権限の行使を妨げることはできません(会社法 第390条第2項第3号)。計画書で役割分担を決めても、各監査役が必要と考えた調査を独自に行う余地は残る、という点を計画書の冒頭に明記しておくと誤解が生じません。
また、監査役は監査役会の求めがあれば、いつでも職務の執行状況を監査役会に報告しなければなりません(会社法 第390条第4項)。計画書に「各監査役は月次の監査役会で実施状況を報告する」と書いておけば、この報告の場を年間日程に組み込めます。監査役会の決議は監査役の過半数で行い、議事録を作成します(会社法 第393条第1項・第2項、会社法施行規則 第109条第3項)。
監査報告の記載事項との対応
計画書の項目は、期末の監査報告の記載事項から逆算して決めるのが合理的です。監査役の監査報告(事業報告関係)には、監査の方法及びその内容、事業報告が会社の状況を正しく示しているかの意見、取締役の不正行為や法令・定款違反の重大な事実、必要な調査ができなかった場合はその旨と理由などを記載します(会社法施行規則 第129条第1項)。
会計監査人設置会社の監査役は、計算関係書類について、監査の方法及びその内容、会計監査人の監査の方法又は結果を相当でないと認めたときはその旨と理由、会計監査人の職務の遂行が適正に実施されることを確保するための体制に関する事項などを監査報告に記載します(会社計算規則 第127条)。監査役会設置会社では、各監査役の監査報告に基づき監査役会の監査報告を作成します(会社法施行規則 第130条第1項、会社計算規則 第128条第1項)。
関連コラム監査役会の監査報告書【記載例】会計監査人設置会社の相当性意見の書き方▸
会計限定監査役の場合の注意点
公開会社でない株式会社(監査役会設置会社・会計監査人設置会社を除く)は、定款で監査役の監査範囲を会計に限定できます(会社法 第389条第1項)。この場合、監査役は事業報告を監査する権限がないことを明らかにした監査報告を作成します(会社法施行規則 第129条第2項)。会計限定監査役の計画書は、業務監査の項目を外し、会計帳簿の閲覧や会計に関する報告の徴求(会社法 第389条第4項)を中心に組み立てます。
監査役監査計画書の記載例(ひな形)
以下は、監査役会設置会社・会計監査人設置会社を想定した計画書の記載項目と記載例です。会社の規模や機関設計に合わせて項目を増減してください。
| 対象期間 | 第○期(○年4月1日から○年3月31日まで)。定時株主総会後の監査役会で決定し、翌年の定時株主総会までを運用期間とする |
|---|---|
| 監査の方針 | 取締役の職務の執行が法令・定款に適合しているかを監査し、内部統制システムの運用状況と会計監査人の監査の相当性を重点的に確認する |
| 重点監査項目と 選定理由 |
3〜5項目に絞り、項目ごとに「前期の監査で把握した課題」「当期の事業環境の変化」など選んだ理由を1〜2行で書く |
| 監査の方法 | 取締役会・重要会議への出席、稟議書・議事録の閲覧、取締役・使用人へのヒアリング、事業所・子会社の往査、会計監査人・内部監査部門からの報告聴取 |
| 役割分担 | 常勤監査役は日常監査と重要会議への出席、社外監査役は取締役会での意見陳述と専門分野の論点の検討を担当する |
| 監査日程 | 年間スケジュール表を別紙で添付し、往査先・往査月・担当監査役を記入する |
| 会計監査人・ 内部監査部門との連携 |
会計監査人からの監査計画説明、期中レビュー報告、期末監査結果報告の聴取時期と、内部監査部門との定例会の頻度を記載する |
| 監査費用 | 往査旅費・研修費・専門家への相談費用などの見込額。会社への前払・償還の請求手続を確認しておく |
| 監査報告の作成 | 監査報告の作成日程、監査役会での審議日、特定監査役(通知を行う監査役)を記載する |
監査費用の欄は形式的に見えますが、監査役が職務の執行のために費用の前払や償還を請求した場合、会社はその費用が職務の執行に必要でないことを証明しない限り拒めません(会社法 第388条)。また、監査役設置会社の内部統制システムには、監査役の職務の執行について生ずる費用の処理に係る方針が含まれます(会社法施行規則 第100条第3項第6号)。計画書に見込額を書いておくと、会社側の方針との整合を年初に確認できます。
「監査の方針」の書き方は、例えば次のような形が考えられます。
当監査役会は、取締役の職務の執行の適法性を確保する観点から、当期は(1)内部統制システムの運用状況、(2)取締役と会社との利益相反取引の承認手続、(3)会計監査人の監査の方法及び結果の相当性を重点監査項目とする。各監査役は本計画にかかわらず、必要と認める調査を行うことができる。
重点監査項目の選び方と条文の対応
重点監査項目は、監査報告に意見を書く必要がある事項と、会社固有のリスクの高い領域の重なりから選ぶと、期末の監査報告まで一貫した記録が残ります。法令上、監査役が判断を示す場面と結び付けた候補は次のとおりです。
| 重点監査項目の候補 | 関係する条文と監査報告での扱い |
|---|---|
| 内部統制システムの決議内容と運用状況 | 大会社である取締役会設置会社は決議が必要(会社法 第362条第5項)。事業報告に決議の概要と運用状況の概要を記載し(会社法施行規則 第118条第2号)、その内容が相当でないと認めるときは監査報告に記載する(会社法施行規則 第129条第1項第5号) |
| 取締役の競業取引・利益相反取引 | 取締役会設置会社では取締役会の承認と、取引後の重要な事実の報告が必要(会社法 第356条第1項、第365条)。承認手続と報告の有無を議事録で確認する |
| 親会社等との取引 | 個別注記表で注記を要する取引は、利益を害さないよう留意した事項などを事業報告に記載し(会社法施行規則 第118条第5号)、監査報告で意見を述べる(会社法施行規則 第129条第1項第6号) |
| 会計監査人の監査の相当性 | 監査役は会計監査人に監査に関する報告を求めることができる(会社法 第397条第2項)。相当でないと認めたときの理由や、会計監査人の職務遂行の体制を監査報告に記載する(会社計算規則 第127条第2号・第4号) |
| 会計監査人の報酬等と選解任議案 | 報酬等の決定には監査役(監査役会)の同意が必要(会社法 第399条)。選任・解任・不再任の議案内容は監査役(監査役会)が決定する(会社法 第344条) |
| 監査役の監査環境 | 補助使用人、監査役への報告体制、報告者の不利益取扱いの防止などの体制(会社法施行規則 第100条第3項)。監査役は情報の収集と監査環境の整備に努める(会社法施行規則 第105条第2項) |
実務では、上の候補をすべて重点にすると計画が総花的になり、往査や面談の時間が足りなくなりがちです。法令上必ず意見を述べる事項(内部統制システムや会計監査人の相当性)は通常監査として毎期行い、重点項目には「当期に新しく生じた論点」、例えば新規事業・M&A・子会社の増加・基幹システムの入れ替えなどを充てると、選定理由も書きやすくなります。
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監査役監査の年間スケジュール表(3月決算・6月下旬総会の例)
3月決算で6月下旬に定時株主総会を開く会計監査人設置会社を想定した年間スケジュールの例です。月はあくまで目安で、取締役会の開催月や子会社の決算期に合わせて調整します。
| 7月 | 新任監査役を含む監査役会で監査計画書・役割分担を決定。常勤監査役の選定(会社法 第390条第3項)と監査報告の通知を行う監査役の決定もこの時期に済ませる |
|---|---|
| 7〜9月 | 会計監査人から当期の監査計画の説明を受け、重点監査項目のすり合わせを行う。内部監査部門の年間計画も聴取する |
| 毎月 | 取締役会に出席し、必要があれば意見を述べる(会社法 第383条第1項)。月次の監査役会で各監査役の実施状況を共有する |
| 10〜12月 | 事業所・子会社の往査(会社法 第381条第2項・第3項)。取締役・部門長へのヒアリング。中間期の会計監査人のレビュー結果を聴取 |
| 1〜3月 | 内部統制システムの運用状況の確認、利益相反取引の承認状況の点検、次期の会計監査人の再任・報酬の検討 |
| 4〜5月 | 計算書類・事業報告とその附属明細書の受領、会計監査人の期末監査結果の聴取と会計監査報告の受領、監査役会で監査報告の内容を審議 |
| 6月 | 株主総会に提出される議案・書類の調査(会社法 第384条)、定時株主総会への出席、次期計画の振り返り |
期末の監査報告は通知期限から逆算する
年間日程で最も動かしにくいのが期末です。会計監査人設置会社では、監査役(監査役会設置会社では監査役会の監査報告)の内容の通知期限は、計算関係書類について次のとおり定められています(会社計算規則 第132条第1項第1号)。
その前提となる会計監査報告の通知期限は、計算書類の全部を受領した日から4週間を経過した日、附属明細書を受領した日から1週間を経過した日、特定取締役・特定監査役・会計監査人の合意日のいずれか遅い日です(会社計算規則 第130条第1項第1号)。事業報告とその附属明細書についての監査報告は、事業報告を受領した日から4週間を経過した日、附属明細書を受領した日から1週間を経過した日、合意日のいずれか遅い日までに通知します(会社法施行規則 第132条第1項)。
取締役会設置会社では、招集通知に際して監査報告・会計監査報告を含む計算書類と事業報告を株主に提供します(会社法 第437条)。公開会社の招集通知は総会日の2週間前までに発する必要があるため(会社法 第299条第1項)、ここから逆算して、監査役会の審議日を日程表に固定しておきます。監査役会の監査報告は、1回以上、会議の開催または同時に意見交換ができる方法で審議しなければならない点にも注意が必要です(会社計算規則 第128条第3項、会社法施行規則 第130条第3項)。
なお、期限までに通知をしない場合は、その日に監査を受けたものとみなされます(会社計算規則 第132条第3項)。監査役の意見が反映されないまま手続が進む事態を避けるためにも、合意日を定めるなら計画書の段階で日付を書き込んでおくことが実務上の安全策です。
監査計画書を運用するときの実務ポイント
期中の見直しと不正の兆候への対応
計画書は年初に決めたら終わりではありません。取締役の不正行為やそのおそれ、法令・定款違反の事実を認めたときは、遅滞なく取締役会に報告する義務があり(会社法 第382条)、著しい損害のおそれがあれば行為の差止めを請求できます(会社法 第385条第1項)。こうした事態や、取締役から著しい損害のおそれのある事実の報告(会社法 第357条)を受けた場合は、監査役会で計画を見直し、追加調査の担当と日程を議事録に残します。
監査調書の記録と監査報告への反映
監査報告の「監査の方法及びその内容」は、期中に何をしたかの記録がなければ書けません。往査やヒアリングのたびに、日付・対象部門・面談者・確認した資料・結果・他の監査役への共有日を残しておくと、期末に計画書と実績を突き合わせるだけで監査報告の記載が固まります。計画どおり調査できなかった事項があれば、その旨と理由を監査報告に記載する必要があります(会社法施行規則 第129条第1項第4号、会社計算規則 第127条第5号)。
会計監査人・内部監査部門との連携
監査役は職務を適切に遂行するため、取締役や使用人、子会社の役員等との意思疎通を図り、情報の収集と監査環境の整備に努めることとされています(会社法施行規則 第105条第2項)。親会社・子会社の監査役との情報交換も努力義務です(会社法施行規則 第105条第4項)。会計監査人は、取締役の不正行為や法令・定款違反の重大な事実を発見したときは監査役(監査役会)に報告する義務を負うため(会社法 第397条第1項・第3項)、その報告を受けられる場を年間日程にあらかじめ置いておくことが連携の土台になります。
関連コラム三様監査【一覧表】監査役・会計監査人・内部監査の権限と連携の時期▸
個々の監査手続で何を確認するかは、計画書とは別にチェックリストで管理すると、担当が替わっても品質を保ちやすくなります。
関連コラム内部監査・監査役監査の確認事項を網羅!実務で使えるチェックリスト▸
まとめ
- 監査役監査計画書は法定の書式ではないが、監査役会設置会社では監査の方針・調査の方法の決定が監査役会の職務(会社法 第390条第2項第3号)
- 計画書の項目は、監査報告の記載事項(会社法施行規則 第129条、会社計算規則 第127条)から逆算すると、期末まで記録が一貫する
- 重点監査項目は3〜5項目に絞り、選定理由を書く。法令上意見を述べる事項は通常監査として毎期行う
- 年間スケジュールは、監査報告の通知期限(会社計算規則 第130条・第132条、会社法施行規則 第132条)と招集通知の発送期限から逆算して組む
- 期中の不正の兆候や重要な報告があれば、監査役会で計画を見直し議事録に残す
計画書の書き方や重点監査項目の選び方、会計監査人との連携の進め方は、機関設計や事業の状況によって変わります。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
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よくある質問
監査役監査計画書の作成は法律上の義務ですか。
会社法に「監査計画書」という書式の定めはありません。ただし、監査役会設置会社では監査の方針や調査の方法の決定が監査役会の職務とされ(会社法 第390条第2項第3号)、監査報告には監査の方法及びその内容を記載します(会社法施行規則 第129条第1項第1号)。これらを満たす記録として、計画書を作成し監査役会で決定するのが実務上の通例です。
監査役が1人の会社でも計画書は必要ですか。
監査役会を置かない会社でも、監査役は取締役の職務の執行を監査し、監査報告を作成します(会社法 第381条第1項)。監査報告に監査の方法及びその内容を書く必要がある点は同じなので、簡易なものでも年間の方針と日程を書面にしておくと、期末の監査報告の作成が容易になります。
計画どおりに監査できなかった項目はどう扱いますか。
監査のため必要な調査ができなかったときは、その旨及びその理由を監査報告に記載します(会社法施行規則 第129条第1項第4号、会社計算規則 第127条第5号)。期中に実施が難しいと分かった段階で監査役会で計画を見直し、代替の手続を検討した経緯を議事録に残しておくことが大切です。
監査報告の通知期限は会社が自由に決められますか。
原則は会計監査報告の受領日などを起点とする期限ですが、特定取締役と特定監査役が合意により定めた日がある場合は、いずれか遅い日が期限になります(会社計算規則 第132条第1項第1号、会社法施行規則 第132条第1項)。合意日は期限を延ばす方向でのみ働くため、招集通知の発送期限との関係を確認したうえで設定します。
本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。



