労働組合の会計引継ぎ【一覧表】役員改選で渡す通帳・印鑑・帳簿・未払金
目次
- 会計引継ぎで法律が決めていること・決めていないこと
- 役員の選挙と会計報告は規約で定める事項
- 法人である労働組合は代表者の変更登記が必要
- 引継ぎの段取りは規約・会計規程で決める
- 会計引継書に載せる項目【一覧表】
- 会計引継ぎの進め方
- 通帳・印鑑・インターネットバンキングの切替
- 通帳と届出印を同じ人に集めない
- 帳簿に載っていない口座がないか確かめる
- 未払金・預り金の引継ぎ
- 未払金は請求書と支払予定で一覧にする
- 源泉徴収した所得税は納付期限まで確認する
- 未収入金は一覧で渡す
- 会計引継ぎでつまずきやすい点
- 会計引継ぎと会計監査の関係
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- 労働組合の会計引継ぎのやり方は法律で決まっていますか。
- 会計担当が交代したら登記は必要ですか。
- 引継書には誰が署名すればよいですか。
- 源泉徴収した所得税が残っている場合はどう引き継げばよいですか。
役員改選で会計担当が交代するとき、引継ぎの中身は「締め日時点の残高」と「まだ終わっていない支払・預かり」の2つに集約されます。通帳や印鑑を手渡すだけでは、前任期間の未払金や預かったままの税金が抜け落ち、次の決算や会計監査で説明がつかなくなります。
この記事では、法律で決まっている事項と、組合が自ら決める実務とを分けたうえで、引継書に載せる項目を一覧表にまとめます。会計担当になったばかりの方、改選を控えた前任の方の双方が、同じ表を見ながら確認できる構成にしています。
会計引継ぎで法律が決めていること・決めていないこと
最初に押さえておきたいのは、会計担当の引継ぎ手順そのものを定めた法令はないという点です。法律が定めているのは、役員の選び方、会計報告の公表、法人である労働組合の登記といった外枠であり、引継ぎの具体的な段取りは各組合の規約・会計規程に委ねられています。
役員の選挙と会計報告は規約で定める事項
単位労働組合の役員は、組合員の直接無記名投票により選挙されることを規約に定めなければなりません(労働組合法 第5条第2項第5号)。また、すべての財源と使途、主要な寄附者の氏名、現在の経理状況を示す会計報告を、職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書とともに、少なくとも毎年1回組合員に公表することも規約の必須記載事項です(労働組合法 第5条第2項第7号)。
会計担当が代わっても、組合として年1回の会計報告を公表する義務は途切れません。新しい担当者は、前任期間の取引も含めた1年分の会計報告を作ることになるため、引継ぎ時点の残高と未決済の項目を確定させておくことが、そのまま次の会計報告の土台になります。
法人である労働組合は代表者の変更登記が必要
法人である労働組合では、代表者の氏名及び住所が登記事項です(労働組合法施行令 第3条第4号)。登記した事項に変更が生じたときは、2週間以内に変更の登記をしなければなりません(労働組合法施行令 第5条)。申請書には、原則として登記事項の変更を証する書面を添付します(労働組合法施行令 第9条)。登記すべき事項は、登記した後でなければ第三者に対抗できません(労働組合法 第11条第3項)。
ここで注意したいのは、登記の対象は「代表者」であって会計担当ではない点です。改選で執行委員長などの代表者が交代する組合では登記の手続も同時に動きますが、会計担当だけが交代する場合は登記の問題は生じません。ただし、預金口座の名義を代表者名にしている組合では、代表者の交代が金融機関の届出変更にも波及するため、会計の引継ぎと日程を合わせておくと手戻りが減ります。
関連コラム労働組合の法人登記の手順|資格審査と登記事項・必要書類▸
引継ぎの段取りは規約・会計規程で決める
法令に定めがない以上、「いつを締め日とするか」「誰が立ち会うか」「引継書を誰が保管するか」は組合ごとに決めることになります。実務では、会計規程に引継ぎの条文がない組合が少なくありません。改選のたびに段取りが変わると、引継ぎ漏れが起きても気付きにくくなるため、次の一覧表を会計規程の付属書式として固定しておく方法をおすすめします。
会計引継書に載せる項目【一覧表】
引継書は、前任者が作成し、後任者と立会人(会計監査を担当する役員など)が内容を確認して署名する形が一般的です。次の表は、当事務所が労働組合の会計に関わるなかで、引継書に最低限載せておきたいと考える項目です。
| 締め日と 引継日 |
残高を確定させる基準日と、実際に物を受け渡した日。両者がずれる場合は、その間の入出金も記録する |
|---|---|
| 預金通帳・ キャッシュカード |
口座ごとの金融機関名・支店・口座番号・名義・締め日残高。定期預金や積立預金の証書も含める |
| 届出印・ 銀行印 |
印鑑の種類と、どの口座の届出印かの対応。保管場所と保管者 |
| インターネット バンキング |
利用者IDの名義と権限、承認者の設定。パスワードは書面に書かず、後任が再設定する |
| 手元現金 | 締め日の実査額と現金出納帳残高の一致確認。小口現金の上限額 |
| 会計帳簿 | 現金出納帳・預金出納帳・総勘定元帳・組合費の管理台帳など。会計ソフトの場合はデータの保存先とログイン権限 |
| 証憑書類 | 領収書・請求書・支出伺いの綴り。年度と保管場所、未整理分の有無 |
| 未払金 | 締め日までに発生し、まだ支払っていない費用の相手先・金額・支払予定日 |
| 預り金 | 役員手当などから源泉徴収した所得税、上部団体へ納める会費、共済掛金など、預かったまま払い出していないもの |
| 未収入金・ 仮払金 |
入金予定の還付金や交付金、精算が済んでいない仮払いの相手と金額 |
| 積立金・ 特別会計 |
会計区分ごとの残高と、それぞれに対応する預金口座の対応関係 |
| 固定資産・ 備品 |
資産台帳と現物の所在。組合名義の物品で台帳に載っていないものの有無 |
| 継続中の契約と 定期支払 |
事務所の賃貸借、リース、保守、口座振替で落ちる支払の一覧 |
| 予算の執行状況 | 締め日までの科目別の予算と実績、予備費の使用状況 |
| 監査・税務の 関係書類 |
前年度の会計報告と監査報告書、税務署への届出書類の控え、源泉徴収関係の書類 |
表のうち、通帳・印鑑・帳簿は「物」なので漏れにくい一方、未払金・預り金・継続中の契約は「物」として存在しないため抜けやすい項目です。引継書の作成では、物の受け渡しよりも、この3つの洗い出しに時間を割くほうが実務上の効果が大きくなります。
会計引継ぎの進め方
引継ぎは、思い付いた順に物を渡すのではなく、残高の確定から権限の切替までを一続きの手順として進めます。当事務所では、次の順序を目安としてご案内しています。
- 締め日を決める:大会や役員の就任日にそろえ、その日の業務終了時点を基準とします。月末にそろえると通帳や請求書との突合がしやすくなります。
- 現金を数え、通帳を記帳する:前任者と後任者が同席して手元現金を数え、全口座の通帳を締め日以降に記帳して残高を確認します。
- 帳簿の残高と照合する:現金出納帳・預金出納帳の締め日残高と、実際の現金・通帳残高が一致するかを確かめます。差額があれば、その場で原因を特定します。
- 未払金・預り金・未収入金を洗い出す:請求書の未処理分、源泉徴収した税金の未納付分、精算前の仮払いなどを一覧にします。
- 引継書を作り、署名する:一覧表の各項目を埋め、前任者・後任者・立会人が署名します。原本は組合で保管し、写しを双方が持ちます。
- 金融機関の届出を変更する:口座の名義人や届出印、インターネットバンキングの利用者を変更します。必要書類は金融機関ごとに異なるため、事前に確認します。
- 権限を切り替える:会計ソフトのアカウント、キャッシュカードの暗証番号、インターネットバンキングの承認者を後任者に切り替え、前任者の権限を外します。
手順2と3は、会計監査を担当する役員に立ち会ってもらうと、後で「引継ぎ時点の残高はいくらだったか」という確認が必要になった場面で第三者の記録として機能します。
関連コラム労働組合の帳簿の付け方|現金出納帳・元帳の記帳ルールとひな形▸
通帳・印鑑・インターネットバンキングの切替
通帳と届出印を同じ人に集めない
引継ぎの場面は、通帳と届出印の保管者を見直す機会でもあります。会計担当が通帳と印鑑の両方を一人で持つ体制は、事務としては楽ですが、一人の判断で払い出しができてしまいます。印鑑は委員長や書記長が保管し、払い出しのたびに支出伺いと照合して押印するといった分担を、引継ぎに合わせて規程に書き込むことを検討してください。
インターネットバンキングも同じ考え方で、振込の入力者と承認者を分ける設定にしておくと、紙の通帳と印鑑を分けるのと同じ効果が得られます。前任者のIDを残したまま運用を続けることは避け、後任者のIDを発行したうえで前任者のIDを停止します。
帳簿に載っていない口座がないか確かめる
引継ぎで見落としやすいのが、会計帳簿に載っていない口座の存在です。たとえば、給与からの天引きで会社から振り込まれる資金のうち、組合費以外の資金(労働金庫への返済や共済の掛金など)を受けるための口座が、組合の帳簿とは別に管理されている例があります。
こうした口座も組合が管理している以上、引継書の口座一覧に載せ、残高と入出金の内容を後任者に説明しておく必要があります。残高が残っている場合は、誰に払い出すべき資金なのかを確認し、帳簿上は預り金として扱う方法を検討します。
未払金・預り金の引継ぎ
未払金は請求書と支払予定で一覧にする
締め日までに物品やサービスを受け取り、まだ代金を払っていないものが未払金です。前任期間の費用であっても、支払うのは後任者になるため、相手先・金額・支払予定日・請求書の保管場所を一覧にして渡します。大会費用や印刷費のように、改選の時期に請求が集中する費目は特に確認が必要です。
未払金の一覧は、そのまま決算整理での計上漏れを防ぐ資料にもなります。前任者が「支払ったつもり」「まだ請求が来ていない」と認識していた取引ほど、後任者の目に触れないまま期をまたぎやすいため、口頭ではなく書面に残すことが大切です。
関連コラム労働組合の決算整理【仕訳例】未収組合費・前受組合費・未払金の計上▸
源泉徴収した所得税は納付期限まで確認する
組合が役員手当などの給与を支払い、所得税を源泉徴収している場合、その税金は国に納めるまで組合の預り金です。源泉徴収した所得税及び復興特別所得税は、原則として、給与などを実際に支払った月の翌月10日までに納めなければなりません。給与の支給人員が常時10人未満の源泉徴収義務者は、承認を受けることで半年分をまとめて納める納期の特例があり、その場合の納付期限は1月から6月分が7月10日、7月から12月分が翌年1月20日です(国税庁 No.2505)。
納期の特例を受けている組合では、預り金が半年分たまった状態で引継ぎを迎えることがあります。引継書には、預り金の残高と、どの月の支払分か、次の納付期限はいつかを書いておくと、後任者が期限を見落とすことを防げます。
未収入金は一覧で渡す
入金を待っている資金も、金額と相手を一覧にして渡します。上部団体からの交付金や還付金、仮払いの精算待ちなどがこれに当たります。組合費の未納がある場合も、対象者と金額を一覧に載せておけば足ります。未納分の督促や処理の方針は、引継ぎとは切り離して執行委員会で決めるのが実務的です。
労働組合の会計監査は公認会計士へ
全国対応・オンライン完結|公認会計士事務所プライムパートナーズ
無料見積り・ご相談はこちら
会計引継ぎでつまずきやすい点
- 締め日と引継日のずれを記録していない:締め日から実際の受け渡しまでに入出金があると、引継書の残高と通帳残高が合わなくなります。間の取引を必ず書き添えます。
- 現金の実査を後任者だけで行う:差額が見つかったときに、いつ生じたものかを確かめる手段がなくなります。前任者と立会人を同席させます。
- 口頭の「申し送り」で済ませる:定期支払や口座振替は、引継ぎの場で話題に出にくい項目です。通帳の過去1年分の出金履歴から一覧を作ると漏れが減ります。
- 前任者の権限を残したままにする:インターネットバンキングや会計ソフトのIDは、後任者の権限を設定した時点で停止します。
- 引継書を誰も保管していない:引継書は次の会計監査の資料になります。原本の保管場所を会計規程で決めておきます。
会計引継ぎと会計監査の関係
労働組合の会計報告は、組合員によって委嘱された職業的に資格がある会計監査人の証明書とともに公表することが規約の必須記載事項です(労働組合法 第5条第2項第7号)。年度の途中で会計担当が交代した場合でも、監査の対象は年度全体の会計報告であり、前任期間の取引も含まれます。
このため、引継ぎ時点の残高を、前任者・後任者・立会人の署名入りの引継書で確定させておくことは、監査で前任期間の取引を確かめる際の重要な手掛かりになります。反対に、引継ぎの記録がないまま差額や簿外の口座が後で見つかると、どちらの期間に生じたものかを特定するのに時間がかかり、会計報告の公表が遅れる原因にもなります。
改選のタイミングで、引継書の様式づくりや残高確認に第三者の目を入れることは、新しい執行部が安心して会計を引き受けるための手段の一つです。
まとめ
- 会計担当の引継ぎ手順を定めた法令はなく、規約・会計規程で段取りを決める必要があります。
- 法人である労働組合で代表者が交代した場合は、2週間以内に変更の登記が必要です(労働組合法施行令 第5条)。
- 引継書には、締め日の残高に加えて、未払金・預り金・継続中の契約といった「物として存在しない項目」を必ず載せます。
- 源泉徴収した所得税は預り金として、残高と次の納付期限を後任者に引き継ぎます。
- 前任者・後任者・立会人の署名入りの引継書は、年度全体の会計監査で前任期間を確かめる資料になります。
引継書の項目や会計規程への落とし込み方は組合の規模や口座の数によって変わるため、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
労働組合監査の無料見積り・ご相談はこちら参考文献
よくある質問
労働組合の会計引継ぎのやり方は法律で決まっていますか。
引継ぎの手順そのものを定めた法令はありません。法律が定めているのは、単位労働組合の役員を組合員の直接無記名投票で選挙することや、会計報告を会計監査人の証明書とともに毎年1回以上公表することを規約に定めることなどです(労働組合法 第5条第2項第5号・第7号)。具体的な段取りは、規約や会計規程で組合ごとに決めます。
会計担当が交代したら登記は必要ですか。
登記が必要になるのは、法人である労働組合の代表者が交代した場合です。代表者の氏名及び住所は登記事項であり、変更が生じたときは2週間以内に変更の登記をしなければなりません(労働組合法施行令 第3条第4号、第5条)。会計担当だけが交代し、代表者に変更がない場合は登記の問題は生じません。
引継書には誰が署名すればよいですか。
法令上の決まりはありませんが、前任者・後任者に加え、会計監査を担当する役員などの立会人が署名する形をおすすめします。現金や通帳の残高を誰が確認したかが記録に残り、後で差額が見つかった場合にも原因を確かめやすくなります。
源泉徴収した所得税が残っている場合はどう引き継げばよいですか。
源泉徴収した所得税は国に納めるまで組合の預り金です。原則は支払った月の翌月10日、納期の特例を受けている場合は7月10日と翌年1月20日が納付期限です(国税庁 No.2505)。引継書に預り金の残高、対象となる支払月、次の納付期限を書いておきます。
本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。



