監査法人の行政処分・勧告【一覧表】処分の種類と選定前の確認方法
目次
- 行政処分・勧告を確認するときの結論
- 監査法人に対する処分の種類【一覧表】
- 「業務の一部停止」は新規契約の停止が中心
- 上場会社等監査人名簿の登録取消し
- 勧告から行政処分までの流れ
- 審査会の勧告件数の推移【一覧表】
- 検査の総合評価でみる規模別の違い
- 品質管理レビューの結論と措置
- 候補先に検査結果の開示を求める方法
- 処分が判明したときの会社法上の対応
- 選定前の確認チェックリスト
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- 監査法人の処分歴はどこで確認できますか。
- 勧告と行政処分はどう違いますか。
- 新規契約の停止処分中の監査法人に、今の監査を続けてもらえますか。
- 審査会の検査結果は見せてもらえますか。
- 処分歴のない監査法人を選べば安心ですか。
監査法人を比較するとき、規模や報酬と並んで確認しておきたいのが、行政処分や公認会計士・監査審査会(以下「審査会」)からの勧告の有無です。これらは法令に基づいて公表される情報なので、候補先の監査法人に直接聞かなくても、会社側で一定の範囲まで確認できます。
この記事では、監査法人に対する処分の種類を公認会計士法の条文に沿って一覧表で整理し、審査会の勧告件数の推移、検査の総合評価の分布、候補先に検査結果の開示を求める手続までを順に解説します。個別の法人名は取り上げず、会社側が自分で確認するための手順に絞ってまとめています。
行政処分・勧告を確認するときの結論
結論から申し上げますと、候補先の監査法人については、次の4点を契約前に確認しておくのが実務的です。
- 審査会の勧告一覧に候補先の名称がないか(審査会ウェブサイトで公表)
- 勧告を受けた場合に、金融庁の処分が出ているか、その処分期間が終わっているか
- 上場会社等の監査を依頼するなら、上場会社等監査人名簿に登録されているか
- 検査を受けている場合、検査結果の要約と対応状況を開示してもらえるか
勧告や処分は、監査法人の運営や品質管理に重大な問題が認められた場合に行われます。一方で、処分歴がないことが監査品質の高さを保証するわけではありません。処分・勧告の確認は、候補から外すべき事務所を見落とさないための最低限の確認と位置付けるのがよいでしょう。
監査法人に対する処分の種類【一覧表】
監査法人が法令に違反した場合や、運営が著しく不当と認められる場合には、内閣総理大臣(権限は金融庁長官に委任)が処分を行うことができます(公認会計士法 第34条の21第2項、第49条の4第1項)。処分の種類は次のとおりです。
| 戒告 | 監査法人に対して戒めを与える処分。業務の制限は伴わない(公認会計士法 第34条の21第2項) |
|---|---|
| 業務管理体制の 改善命令 |
業務の執行の適正確保や品質管理の方針など、業務管理体制の改善を命じる処分(公認会計士法 第34条の21第2項、第34条の13) |
| 業務の全部または 一部の停止 |
2年以内の期間を定めて業務の全部または一部の停止を命じる処分(公認会計士法 第34条の21第2項) |
| 解散命令 | 監査法人の解散を命じる処分(公認会計士法 第34条の21第2項) |
| 社員の関与禁止 | 重大な責任を有する社員について、2年以内の期間、法人の業務や意思決定への関与を禁止する処分(公認会計士法 第34条の21第3項) |
| 課徴金納付命令 | 虚偽証明の場合に、監査報酬相当額(故意の場合はその1.5倍)の納付を命じる処分(公認会計士法 第34条の21の2第1項) |
処分の対象となる事由は、社員の故意による虚偽証明、社員が相当の注意を怠ったことによる重大な虚偽証明、法令違反または運営が著しく不当と認められる場合、指示に従わない場合の4つです(公認会計士法 第34条の21第2項第1号~第4号)。業務を担当した社員個人も、戒告、2年以内の業務の停止、登録の抹消の3種類の懲戒処分の対象になります(公認会計士法 第29条、第30条第3項)。
「業務の一部停止」は新規契約の停止が中心
実務で目にすることが多いのは、業務の一部として新規の監査契約の締結を停止する処分です。審査会の令和8年版モニタリングレポートによれば、過去5年間に勧告を受けた監査事務所に対する処分として、新規の監査契約の締結に関する業務の停止(6か月から1年程度)、短期間の業務の全部停止(1か月)、業務改善命令が出されています。
会社側から見ると、新規契約の停止期間中は、その監査法人に新たに会計監査人への就任を依頼することができません。監査法人の交代を検討している会社は、候補先がこの期間に当たっていないかを最初に確認しておく必要があります。
上場会社等監査人名簿の登録取消し
行政処分とは別に、日本公認会計士協会は、登録上場会社等監査人が登録の拒否事由に該当することとなった場合や、法令に違反した場合などに登録を取り消すことができます(公認会計士法 第34条の34の9第1項)。登録がなければ上場会社等の金融商品取引法監査を行えないため(公認会計士法 第34条の34の2)、上場会社や上場準備会社にとっては行政処分と同じくらい重要な確認事項です。
なお、登録を取り消された場合でも、取消しの日より前に締結された契約に係る業務は、その契約を履行する目的の範囲内で行うことができます(公認会計士法 第34条の34の9第6項)。既存の被監査会社の監査がただちに止まるわけではない点も押さえておきましょう。
関連コラム中小監査法人へ依頼できる監査の範囲|登録制度と選任手続▸
勧告から行政処分までの流れ
監査法人に対する処分は、多くの場合、次の順序で進みます。どの段階の情報が公表されるのかを知っておくと、候補先の状況を読み取りやすくなります。
- 品質管理レビュー: 日本公認会計士協会が、会員である監査事務所の業務の運営状況を調査し、その結果を審査会に報告します(公認会計士法 第46条の9の2)。
- 審査会の審査・検査: 審査会は報告を審査し、必要に応じて監査事務所への報告徴収や立入検査を行います(公認会計士法 第49条の3、第49条の4第2項)。
- 勧告: 検査の結果、必要があると認めるときは、行政処分その他の措置について金融庁長官に勧告します(公認会計士法 第41条の2)。
- 行政処分: 勧告を踏まえ、金融庁長官が処分を行います(公認会計士法 第34条の21第2項)。
このうち、品質管理レビューの結果と検査結果通知書は原則として公表されません。公表されるのは、勧告と行政処分です。勧告は審査会のウェブサイトに一覧で掲載され、処分は金融庁の報道発表資料として、処分の内容・期間・理由とともに公表されます。
審査会の勧告件数の推移【一覧表】
審査会のウェブサイトに掲載されている勧告の一覧をもとに、2016年以降の件数を年ごとに集計すると次のとおりです(2026年9月時点。当事務所集計)。
| 公表年 | 勧告件数 |
|---|---|
| 2016年 | 3件 |
| 2017年 | 1件 |
| 2018年 | 1件 |
| 2019年 | 2件 |
| 2020年 | 0件 |
| 2021年 | 1件 |
| 2022年 | 3件 |
| 2023年 | 2件 |
| 2024年 | 2件 |
| 2025年 | 3件(うち個人の公認会計士2件) |
| 2026年(9月まで) | 2件 |
勧告は毎年数件程度で、2016年以降の合計は20件です。この期間の勧告の対象に大手監査法人は含まれておらず、中小規模の監査法人と個人の公認会計士が対象になっています。2026年7月には、審査会が虚偽証明の検証を含めた検査の結果に基づいて勧告を行った初めての事案も公表されました。
件数が少ないため、勧告一覧は候補先の名称で検索すればすぐに確認できます。過去に勧告を受けている場合は、その後に出された処分の内容と期間、処分後の業務管理体制の改善状況を、候補先に直接確認するとよいでしょう。
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検査の総合評価でみる規模別の違い
勧告に至らない場合でも、審査会の検査では監査事務所ごとに5段階の総合評価が付けられます。令和8年版モニタリングレポートでは、直近5年間(2021事務年度から2025事務年度)に通常検査に着手し終了した監査事務所の評価の分布が、規模区分別に公表されています。
| 評価1 良好 |
該当なし |
|---|---|
| 評価2 概ね良好 |
大手監査法人4事務所 |
| 評価3 重要な改善点あり |
準大手監査法人4事務所、中小規模監査事務所2事務所 |
| 評価4 早急な改善が必要 |
準大手監査法人1事務所、中小規模監査事務所5事務所 |
| 評価5 著しく不当 |
中小規模監査事務所10事務所 |
中小規模監査事務所の評価が低く出ていますが、審査会は、中小規模監査事務所の検査先を品質管理レビューでの指摘状況などを踏まえて選んでいることも一因と説明しています。つまり、問題のありそうな事務所を優先して検査した結果の分布であり、中小監査法人全体の品質を示す数字ではありません。評価5(著しく不当)とされた監査事務所や、検査の結果必要があると認めた監査事務所については、金融庁長官への勧告が行われます。
関連コラム監査法人の規模別比較一覧|体制と被監査会社数を公的データで確認▸
品質管理レビューの結論と措置
日本公認会計士協会の品質管理レビューも、監査事務所の品質を知る手がかりになります。令和8年版モニタリングレポートによれば、審査会に報告された2025年度の通常レビュー48事務所の結論は次のとおりでした。
| 重要な不備事項の ない実施結果 |
39事務所 |
|---|---|
| 重要な不備事項の ある実施結果 |
6事務所 |
| 極めて重要な不備事項の ある実施結果 |
3事務所 |
レビューの結果に基づく協会の措置には、注意、厳重注意、監査業務の辞退勧告があります。重要な不備事項や極めて重要な不備事項が見つかり、辞退勧告の措置が講じられた場合などは、上場会社等監査人名簿の登録取消しの審査の対象になります。また、登録上場会社等監査人には、業務の品質の管理の状況を評価し、その結果を公表する体制の整備が求められています(公認会計士法 第34条の34の14)。上場会社等の監査を依頼する場合は、候補先が公表している品質管理に関する報告書にも目を通しておくとよいでしょう。
候補先に検査結果の開示を求める方法
審査会の検査結果通知書は公表されず、監査事務所が第三者に開示するには原則として審査会の事前承諾が必要です。ただし、審査会の取扱いでは、監査契約に関する提案などとして、現在の被監査会社でない会社(潜在的な被監査会社)からの要請に基づいて開示する場合の承諾申請の方法が定められています。この場合に開示される内容は次のとおりです。
- 直近の検査結果通知日(検査を受けていない場合はその旨)
- 監査事務所の品質管理全般に関する指摘事項の要約と、監査事務所の対応状況
つまり、会計監査人の選任を検討している会社は、候補先に「審査会の検査結果の要約と対応状況を見せてほしい」と依頼することができます。開示を受けた会社は、それをさらに別の第三者に開示することはできません。審査会も、会計監査人の選任を検討している会社がこうした検査結果を活用することを期待していると述べています。
すでに監査を受けている会社であれば、監査事務所は検査結果通知書の「特に留意すべき事項」と対応状況を、すべての被監査会社の監査役等に伝達することが求められています。監査役等にとっては、この伝達内容が会計監査人の再任・不再任を考える際の判断材料の一つになります。
処分が判明したときの会社法上の対応
現在の会計監査人が処分を受けたことが分かった場合、会社が検討する選択肢は主に次の2つです。
- 次の定時株主総会で再任しない: 監査役設置会社では、会計監査人を再任しないことに関する議案の内容は監査役(監査役会設置会社では監査役会)が決定します(会社法 第344条第1項、第3項)。
- 期中に解任する: 会計監査人が職務上の義務に違反し、または職務を怠ったときなどは、監査役全員の同意(監査役会設置会社では監査役会)により解任できます(会社法 第340条第1項、第2項、第4項)。株主総会の決議による解任も可能です(会社法 第339条第1項)。
処分の内容が新規契約の停止にとどまる場合、既存の契約に基づく監査は続けられることが多く、ただちに交代が必要になるとは限りません。処分の理由が自社の監査に関係するのか、業務改善の状況はどうかを監査役等が確認したうえで、再任するかどうかを判断するのが一般的な進め方です。交代する場合は、後任の選定期間を見込んで早めにスケジュールを組む必要があります。
関連コラム会計監査人の変更手続き|交代スケジュールと臨時報告書・引継ぎ▸
選定前の確認チェックリスト
ここまでの内容を、候補先の監査法人を比較するときに使える確認表にまとめます。
| 審査会の勧告 | 審査会ウェブサイトの勧告一覧に候補先の名称がないか。ある場合は勧告日と指摘された不備の概要 |
|---|---|
| 金融庁の処分 | 処分の種類と期間。新規契約の停止期間中でないか |
| 名簿の登録 | 上場会社等の監査を依頼する場合、上場会社等監査人名簿に登録されているか |
| 検査結果の開示 | 直近の検査結果通知日と、品質管理全般の指摘事項の要約・対応状況を開示してもらえるか |
| 品質管理の公表資料 | 候補先が公表している品質管理に関する報告書の内容 |
| 改善状況の説明 | 過去に処分・勧告がある場合、その後の業務管理体制の改善を具体的に説明できるか |
処分歴の有無だけで候補を決めるのではなく、規模や報酬、自社の業種への対応力と合わせて総合的に比較することが大切です。処分や勧告の情報は、比較表の一行として加えておくと、監査役等への説明資料としても使いやすくなります。
関連コラム監査法人の選び方7つの基準|判定表と相見積りの進め方▸
まとめ
監査法人に対する処分には、戒告、業務管理体制の改善命令、2年以内の業務停止、解散命令のほか、社員の関与禁止や課徴金納付命令があります(公認会計士法 第34条の21、第34条の21の2)。処分の多くは審査会の検査と勧告を経て行われ、勧告の一覧と処分の内容はいずれも公表されています。2016年以降の勧告は20件で、対象は中小規模の監査法人と個人の公認会計士でした。
候補先を比較するときは、勧告・処分の有無と期間、上場会社等監査人名簿の登録、検査結果の要約の開示を確認しておくと、見落としを防げます。処分の読み方や交代の判断など、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
会社法監査の無料見積り・ご相談はこちら参考文献
- e-Gov法令検索 公認会計士法
- e-Gov法令検索 会社法
- 金融庁 公認会計士・監査審査会 勧告
- 金融庁 令和8年版モニタリングレポートの公表について
- 金融庁 検査結果等の第三者への開示についての改正について
- 日本公認会計士協会 上場会社等監査人登録制度
- 日本公認会計士協会 品質管理レビュー制度
よくある質問
監査法人の処分歴はどこで確認できますか。
公認会計士・監査審査会のウェブサイトに勧告の一覧が掲載されており、処分は金融庁の報道発表資料として公表されています。上場会社等の監査を依頼する場合は、日本公認会計士協会の上場会社等監査人名簿で登録の有無もあわせて確認してください。
勧告と行政処分はどう違いますか。
勧告は、公認会計士・監査審査会が検査の結果に基づき、行政処分その他の措置を講じるよう金融庁長官に求めるものです(公認会計士法 第41条の2)。行政処分は、その勧告を踏まえて金融庁長官が実際に行う戒告、業務改善命令、業務停止などの処分を指します(公認会計士法 第34条の21第2項)。
新規契約の停止処分中の監査法人に、今の監査を続けてもらえますか。
処分が新規の監査契約の締結に関する業務の停止にとどまる場合、既存の契約に基づく監査は続けられるのが通常です。ただし、処分の理由や業務改善の状況によっては再任しない判断もあり得るため、監査役等が監査法人から説明を受けたうえで判断することをおすすめします。
審査会の検査結果は見せてもらえますか。
検査結果通知書そのものは非公表ですが、会計監査人の選任を検討している会社からの要請であれば、監査事務所は審査会の承諾を得て、直近の検査結果通知日と品質管理全般に関する指摘事項の要約・対応状況を開示できます。候補先に開示を依頼してみるとよいでしょう。
処分歴のない監査法人を選べば安心ですか。
処分歴がないことは最低限の確認事項にすぎず、監査品質の高さを保証するものではありません。審査会の検査はすべての監査事務所に毎年行われるわけではないため、検査結果の要約や品質管理に関する公表資料、担当チームの体制とあわせて比較することが大切です。
本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。



