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会計監査人の変更手続き|交代スケジュールと臨時報告書・引継ぎ

2026-09-01
目次

会計監査人の変更は、思い立ってすぐに動かせる手続きではありません。会社法上、会計監査人は原則として定時株主総会の決議で選任し、その任期は次の定時株主総会の終結時までとされているため(会社法 第329条第1項、第338条第1項)、交代のタイミングは定時株主総会から逆算して決まります

ここでは、監査法人の切替えを検討している会計監査人設置会社の管理部門に向けて、いつ何を決めるべきかを工程表の形で示したうえで、不再任・解任・辞任の違い、決議機関、変更登記と臨時報告書、前任監査人からの引継ぎまでを整理します。

会計監査人の交代スケジュール逆算表

3月決算・6月下旬に定時株主総会を開催する会社が、当期の定時株主総会をもって会計監査人を交代させる場合の標準的な工程です。法定の期限があるのは招集通知の発送(会社法 第299条第1項)と変更登記(会社法 第915条第1項)で、それ以外は実務上の目安になります。

総会の6か月前
(前年12月ごろ)
現任監査人の継続可否を社内で検討し、候補となる監査法人への打診を始めます。監査契約は監査計画の立案時期に縛られるため、この段階を逃すと交代は翌年度送りになりがちです。
総会の4〜5か月前
(1〜2月ごろ)
候補監査法人の予備調査(会社概要・リスク評価・独立性の確認)と見積提示を受けます。複数法人を比較する場合はこの期間に集約します。
総会の3か月前
(3月ごろ)
後任監査法人を内定し、現任監査人へ不再任の意向を伝えます。前任監査人には辞任・不再任について株主総会で意見を述べる機会が保障されているため(会社法 第345条第5項)、早めの伝達が実務上の摩擦を減らします。
総会の2か月前
(4月ごろ)
監査役会等が「会計監査人を再任しないこと」および後任者の選任議案の内容を決定します(会社法 第344条第1項、第3項)。取締役会での付議事項の確定もこの時期です。
総会の1か月前
(5月ごろ)
事業報告に会計監査人の解任または不再任の決定の方針などを記載し(会社法施行規則 第126条第4号)、監査役等の監査を受けます。上場会社では臨時報告書の提出準備も並行します。
総会の2週間前まで 招集通知を発送します。公開会社では株主総会の日の2週間前までの発送が必要です(会社法 第299条第1項)。
定時株主総会当日 現任会計監査人の任期が総会終結時に満了し、同じ総会で後任の会計監査人を選任します(会社法 第338条第1項、第329条第1項)。
総会後2週間以内 会計監査人の変更登記を申請します(会社法 第915条第1項)。

逆算すると、交代を実現するには定時株主総会のおよそ半年前には検討を始める必要があることが分かります。監査法人側も期首から監査計画を組むため、期中に依頼しても受嘱時期が合わないケースが少なくありません。

変更の4つのルートと選び方

会計監査人の交代には、任期満了に伴う不再任、株主総会による解任、監査役等による解任、辞任の4つのルートがあります。円満な監査法人の切替えは、ほとんどが「任期満了+不再任」の形で行われます。

任期満了・不再任 会計監査人の任期は選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までです(会社法 第338条第1項)。同じ総会で後任者を選任すれば、空白期間を生じさせずに交代できます。
株主総会による解任 会計監査人はいつでも株主総会の決議によって解任できます(会社法 第339条第1項)。ただし正当な理由がない解任では、解任によって生じた損害の賠償を請求される可能性があります(会社法 第339条第2項)。
監査役等による解任 職務上の義務違反・職務懈怠、会計監査人としてふさわしくない非行、心身の故障による職務執行の支障のいずれかに該当する場合に限り、監査役が解任できます(会社法 第340条第1項)。
辞任 会計監査人側から監査契約を終了させる場合です。辞任した者は、辞任後最初に招集される株主総会に出席して辞任した旨と理由を述べることができます(会社法 第345条第5項)。

みなし再任に注意する

会計監査人は、定時株主総会で別段の決議がされなかったときは、その総会において再任されたものとみなされます(会社法 第338条第2項)。取締役や監査役のように任期満了で当然に退任するわけではありません。

そのため、交代を実現するには「後任者を選任する決議」と併せて、現任者を再任しない意思を総会の決議として明確にする必要があります。議案の設計を誤ると、意図せず現任監査人が再任された状態になります。

解任決議は普通決議で足りる

取締役・監査役の解任と異なり、会計監査人の解任決議は特別決議の対象として列挙されていないため、定款に別段の定めがなければ普通決議で行います(会社法 第309条第1項、第2項第7号)。もっとも、解任は正当な理由の有無をめぐる紛争リスクを伴うため、実務では期中解任ではなく任期満了時の不再任を選ぶのが一般的です。

期中に欠けた場合の一時会計監査人

会計監査人が欠けた場合や定款で定めた員数を欠いた場合に、遅滞なく会計監査人が選任されないときは、監査役が一時会計監査人の職務を行うべき者を選任しなければなりません(会社法 第346条第4項)。監査役会設置会社では監査役会、監査等委員会設置会社では監査等委員会、指名委員会等設置会社では監査委員会が選任主体となります(会社法 第346条第6項から第8項まで)。

一時会計監査人にも会計監査人と同じ資格要件が適用され、監査役等による解任の規定も準用されます(会社法 第346条第5項)。期中の突然の辞任に備え、選任手続きを社内規程に落としておくと初動が早くなります。

議案の内容を決める機関は機関設計で変わる

会計監査人の選任・解任・不再任に関する議案の内容は、取締役会ではなく監査を担う機関が決定します。ここを取締役会決議だけで進めてしまうと手続きの瑕疵になります。

監査役設置会社 監査役が決定します。監査役が2人以上いる場合は監査役の過半数をもって決定します(会社法 第344条第1項、第2項)。
監査役会設置会社 監査役会が決定します(会社法 第344条第3項)。
監査等委員会
設置会社
監査等委員会が決定します(会社法 第399条の2第3項第2号)。
指名委員会等
設置会社
監査委員会が決定します(会社法 第404条第2項第2号)。

報酬についても、取締役が会計監査人の報酬等を定めるには監査役等の同意が必要です(会社法 第399条第1項)。新任監査人の報酬水準は監査役会の同意を得られる範囲で合意する必要があるため、見積段階から監査役等を巻き込んでおくのが実務的です。

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変更後に必要な登記・事業報告・臨時報告書

会計監査人が交代したら、会社法上の登記と開示、金融商品取引法上の開示が続きます。期限が定められているのは変更登記と臨時報告書で、いずれも遅れると実害があります。

変更登記 会計監査人設置会社である旨と会計監査人の氏名または名称は登記事項であり(会社法 第911条第3項第19号)、変更が生じたときは2週間以内に本店の所在地で変更登記をしなければなりません(会社法 第915条第1項)。登記を怠ると100万円以下の過料の対象になります(会社法 第976条第1号)。
事業報告への記載 会計監査人設置会社は、会計監査人の氏名または名称、報酬等の額と監査役等が同意した理由、非監査業務の内容、解任または不再任の決定の方針を事業報告に記載します(会社法施行規則 第126条第1号から第4号まで)。公開会社でない場合は第2号から第4号までの記載は不要です。
退任者に関する記載 辞任した会計監査人または監査役等に解任された会計監査人があるときは、その氏名等、解任の理由、株主総会での意見の内容を事業報告に記載します(会社法施行規則 第126条第9号)。株主総会の決議によって解任された者はこの記載の対象から除かれます。
臨時報告書 有価証券報告書提出会社は、監査公認会計士等の異動が業務執行を決定する機関により決定された場合、または異動があった場合に、臨時報告書を遅滞なく提出しなければなりません(金融商品取引法 第24条の5第4項、企業内容等の開示に関する内閣府令 第19条第2項第9号の4)。

臨時報告書に書く内容

監査公認会計士等の異動に係る臨時報告書には、異動する監査公認会計士等の氏名または名称、異動の年月日、退任する監査人が就任した年月日に加え、異動に至った理由および経緯と、その理由・経緯に対する退任監査人の意見および監査役等の意見を記載します(企業内容等の開示に関する内閣府令 第19条第2項第9号の4)。退任監査人が意見を表明しない場合は、その旨と理由、意見表明を求めるために講じた措置の内容まで記載が求められます。

また、異動の日前3年以内に提出した財務計算に関する書類に係る監査報告書等に限定付適正意見や不適正意見の記載がある場合には、その旨と内容も記載事項になります(企業内容等の開示に関する内閣府令 第19条第2項第9号の4)。実務では、この「理由および経緯」の文言を退任監査人と事前にすり合わせる作業に最も時間がかかります。

提出のトリガーは取締役会等で異動を決定した時点です。定時株主総会での選任決議を待つ必要はなく、不再任と後任者の選任議案を決議した取締役会の日をもって「遅滞なく」の起算が始まる点に注意が必要です(金融商品取引法 第24条の5第4項)。

前任監査人からの引継ぎ

監査法人が交代すると、後任監査人は初年度監査として期首残高の妥当性を確かめる必要があります。日本公認会計士協会の監査基準報告書900「監査人の交代」が前任監査人と後任監査人の引継ぎについて定めており、会社は双方から資料提供や面談の協力を求められます。

会社側で準備しておくと引継ぎが円滑になるのは、次のような資料です。

  • 過去3期分の監査報告書、監査調書のうち会社が保有する提出資料一式
  • 前期末の勘定科目内訳明細書と主要な残高の算定根拠
  • 会計方針の変更・見積りの変更に関する社内検討資料
  • 前任監査人から受領した監査上の指摘事項・改善要請の一覧とその対応状況
  • 内部統制の整備・運用状況に関する記述書、リスクコントロールマトリクス

実務では、前任監査人が指摘していた論点を後任監査人が別の見解で評価し、過年度の会計処理の見直しに発展することがあります。交代を決める前に、争点になりそうな会計論点を洗い出し、候補監査法人の予備調査の段階で見解を確認しておくことが、期末になってからの手戻りを防ぎます。

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実務で起きやすい落とし穴

会計監査人の変更でつまずきやすいのは、法令の理解不足よりも段取りの問題です。上場準備企業や新たに大会社となった会社の相談で多いのは、次の4点です。

みなし再任の見落とし 不再任の決議を議案に入れ忘れ、現任監査人が再任されたものとみなされます(会社法 第338条第2項)。議案の設計段階で監査役会と確認します。
監査役会決議の欠落 取締役会だけで後任者を決め、監査役会による議案内容の決定を経ていない状態です(会社法 第344条)。議事録の整備まで含めて確認します。
臨時報告書の遅延 株主総会の決議日を提出日と誤解し、取締役会決議からの提出が遅れます(金融商品取引法 第24条の5第4項)。
変更登記の失念 役員変更登記に紛れて会計監査人の登記を落とすと、2週間の期限を徒過します(会社法 第915条第1項)。

また、会計監査人の設置義務がある会社が交代の受嘱先を確保できないまま任期満了を迎えると、会計監査人不在の状態が生じます。監査役等による一時会計監査人の選任義務が発生する前に、後任の確保を優先してください(会社法 第346条第4項)。

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まとめ

会計監査人の変更は、定時株主総会を起点とする逆算のスケジュール管理がすべてです。任期は次の定時株主総会の終結時までであり(会社法 第338条第1項)、別段の決議がなければ再任されたものとみなされます(会社法 第338条第2項)。交代を実現するには、監査役会等による議案内容の決定(会社法 第344条)を経て、同じ総会で後任者を選任する設計が必要です。

総会後は、2週間以内の変更登記(会社法 第915条第1項)、事業報告への記載(会社法施行規則 第126条)、上場会社であれば臨時報告書の提出(金融商品取引法 第24条の5第4項)が続きます。前任監査人からの引継ぎと初年度監査の負荷まで見込むと、検討開始は定時株主総会の半年前が目安になります。

会計監査人の交代は、機関設計・上場区分・会計論点の状況によって進め方が変わります。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。

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参考文献

よくある質問

会計監査人の変更はいつまでに決めればよいですか。

定時株主総会での交代を目指すなら、総会の6か月前には検討を始めるのが実務上の目安です。監査役会等による議案内容の決定は総会の約2か月前、招集通知の発送は公開会社で総会の日の2週間前までに行う必要があります(会社法 第344条、第299条第1項)。

期中に会計監査人を交代させることはできますか。

株主総会の決議による解任(会社法 第339条第1項)や、要件を満たす場合の監査役等による解任(会社法 第340条第1項)により期中の交代は可能です。ただし正当な理由のない解任は損害賠償請求の対象になり得るため(会社法 第339条第2項)、実務では任期満了時の不再任が選ばれます。

不再任の議案を出さないとどうなりますか。

定時株主総会で別段の決議がされなければ、現任の会計監査人はその総会で再任されたものとみなされます(会社法 第338条第2項)。交代の意思がある場合は、後任者の選任議案とあわせて現任者を再任しない旨を議案に反映させます。

会計監査人の変更登記の期限はいつですか。

変更が生じた日から2週間以内に、本店の所在地で変更登記をしなければなりません(会社法 第915条第1項)。会計監査人設置会社である旨と会計監査人の氏名または名称は登記事項であり(会社法 第911条第3項第19号)、登記を怠ると100万円以下の過料の対象になります(会社法 第976条第1号)。

臨時報告書はいつ提出しますか。

有価証券報告書提出会社は、監査公認会計士等の異動が業務執行を決定する機関により決定された時点、または異動があった時点で、遅滞なく臨時報告書を提出します(金融商品取引法 第24条の5第4項、企業内容等の開示に関する内閣府令 第19条第2項第9号の4)。株主総会の決議を待つ必要はありません。

後任の会計監査人が決まらないまま任期が満了したらどうなりますか。

会計監査人が欠けた状態で遅滞なく選任がされないときは、監査役、監査役会、監査等委員会または監査委員会が一時会計監査人の職務を行うべき者を選任しなければなりません(会社法 第346条第4項、第6項から第8項まで)。一時会計監査人にも会計監査人と同じ資格要件が適用されます(会社法 第346条第5項)。

事務所概要
社名
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対応責任者
公認会計士 島本 雅史

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