会社法監査の費用相場は、日本公認会計士協会の監査実施状況調査(2024年度)によると、1社当たりの平均監査報酬が16,253千円、時間当たりの平均単価が13,403円です。ただし実際の金額は売上高規模によって大きく開き、売上高10億円未満では平均5,111千円、売上高1,000億円以上5,000億円未満では平均31,927千円と、6倍以上の差があります。会社法監査の報酬は「監査に必要な時間×時間単価」で組み立てられるため、自社の規模と論点の複雑さを踏まえないと相場観を誤ります。
この記事では、公表されている一次データをもとに会社法監査の費用相場を規模別に示したうえで、報酬がどのような仕組みで決まるのか、会社法上どのような手続で決定されるのか、そして見積りを適正化するために管理部門が準備すべきことを、公認会計士の実務の観点から解説します。
会社法監査の費用相場
会社法監査の費用は、監査人が個別に見積もるため公定の料金表はありません。もっとも、日本公認会計士協会が毎年公表する監査実施状況調査には、会計監査人設置会社を含む会社法適用会社の実績値が集計されており、相場観をつかむ材料になります。ここでは2024年4月期から2025年3月期までを対象とした2024年度調査の数値を用います。
全体平均の水準
2024年度調査で会社法監査の対象となった会社は6,160社です。この6,160社の平均像は次のとおりです。金額の単位は千円で、いずれも消費税等を抜いた金額です。
| 対象会社数 | 6,160社 |
|---|---|
| 1社当たり平均監査報酬 | 16,253千円 |
| 1社当たり平均総監査時間 | 1,212.6時間 |
| 時間当たり平均単価 | 13,403円 |
| 1社当たり平均関与人数 | 14.7人 |
平均値だけを見ると1,600万円前後という水準になりますが、これは1兆円規模の会社まで含めた全体平均です。後述するとおり分布の幅が非常に広いため、自社に近い規模の区分で確認する必要があります。
売上高規模別の費用目安
同じ調査の売上高区分別の集計では、1社当たりの平均監査報酬は次のように分布しています。単位は千円です。
| 売上高区分 | 1社当たり平均監査報酬 |
|---|---|
| 10億円未満 | 5,111千円 |
| 10億円以上50億円未満 | 7,720千円 |
| 50億円以上100億円未満 | 10,043千円 |
| 100億円以上500億円未満 | 14,221千円 |
| 500億円以上1,000億円未満 | 19,540千円 |
| 1,000億円以上5,000億円未満 | 31,927千円 |
| 5,000億円以上1兆円未満 | 65,650千円 |
| 1兆円以上 | 107,405千円 |
売上高が10倍になっても監査報酬が10倍になるわけではなく、規模の拡大に対して報酬は緩やかに増える傾向が読み取れます。一方で、同じ売上高区分の中でも金額のばらつきは大きく、たとえば売上高10億円未満の区分では最高68,800千円、最低200千円という開きがあります。相場表はあくまで出発点で、最終的な金額は個社の事情で決まります。
時間単価の水準
時間当たりの平均単価は全体で13,403円です。売上高区分別に見ると12,770円から14,243円の範囲に収まっており、規模による差は報酬総額ほど大きくありません。つまり、監査報酬の差の大半は単価ではなく投入される監査時間の差から生じています。費用を検討する際は、単価の交渉よりも「何時間の監査が必要とされているか」に目を向けるほうが本質的です。
会社法監査の費用が決まる仕組み
会社法監査の報酬は、監査人が想定する監査工数に時間単価を乗じて算定されるのが実務上の基本形です。監査人は会計監査人として計算書類およびその附属明細書、臨時計算書類、連結計算書類を監査し、会計監査報告を作成する義務を負います(会社法 第396条第1項)。この法定の職責を果たすために必要な手続量が、そのまま工数として見積りに反映されます。
監査工数を左右する要因
見積りの前提となる工数は、会社の規模だけでなく、次のような要因の組み合わせで変動します。
| 連結子会社の数 と所在地 |
連結計算書類の監査範囲が広がるほど、往査先と手続量が増えます。海外子会社があると言語対応や現地監査人との連携が加わります。 |
|---|---|
| 内部統制の整備 および運用状況 |
統制が有効に機能していれば試査の範囲を絞れます。整備が不十分だと詳細な実証手続に頼ることになり、時間が増えます。 |
| 会計上の見積り の複雑さ |
減損、繰延税金資産の回収可能性、引当金など、判断を要する論点が多いほど検討時間と専門家の関与が増えます。 |
| 決算体制と 資料提出の精度 |
決算早期化が進み、依頼資料が期日どおりに整う会社は手戻りが少なく、工数が安定します。 |
| 初年度監査か 継続監査か |
監査人を交代した初年度は、期首残高の検証や事業理解に追加の時間が必要となり、報酬が高めになる傾向があります。 |
2024年度調査では、会社法監査1社当たりの関与人数の平均は14.7人で、その内訳は監査責任者1.5人、公認会計士5.2人、その他の補助者8.1人です。監査は責任者だけで行うものではなく、階層のあるチームで実施されます。見積書に記載された金額は、この人員構成と各階層の想定時間を積み上げた結果と理解すると読み解きやすくなります。
報酬の対象となる業務範囲
会計監査人設置会社では、計算書類およびその附属明細書は監査役等と会計監査人の双方の監査を受けます(会社法 第436条第2項第1号)。一方、事業報告およびその附属明細書は監査役等の監査対象であり、会計監査人の監査対象ではありません(会社法 第436条第2項第2号)。見積りを比較する際は、どこまでが会計監査人の業務に含まれているかを確認してください。
また、計算書類が法務省令で定める要件に該当する場合、定時株主総会の承認は不要となり報告で足ります(会社法 第439条)。会計監査人を置くことは総会運営の負担軽減にもつながるため、費用だけでなく制度全体の便益と併せて評価することが望まれます。
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会社法監査が必要となる会社
費用を検討する前提として、自社が会社法監査の対象かどうかを確定させる必要があります。判定の中心は大会社に該当するかどうかです。
大会社の判定基準
大会社とは、最終事業年度に係る貸借対照表に資本金として計上した額が5億円以上である株式会社、または最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上である株式会社をいいます(会社法 第2条第6号)。いずれか一方に該当すれば大会社です。判定は最終事業年度の貸借対照表の計上額によるため、増資や大型の借入れを行った事業年度の翌期から義務が生じる点に注意してください。
公開会社である大会社(監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を除く)は、監査役会および会計監査人を置かなければなりません(会社法 第328条第1項)。公開会社でない大会社も、会計監査人を置かなければなりません(会社法 第328条第2項)。会計監査人は公認会計士または監査法人でなければならず、個人の会計事務所や税理士は就任できません(会社法 第337条第1項)。
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任意設置という選択肢
大会社に該当しない株式会社でも、定款の定めによって会計監査人を置くことができます(会社法 第326条第2項)。上場準備、金融機関や取引先からの要請、株主構成の変化への備えなどを理由に任意設置を選ぶ会社は少なくありません。2024年度調査の売上高10億円未満の区分に859社が含まれていることからも、小規模でも会社法監査を受けている会社が一定数あることが分かります。
会計監査人の報酬を決定する手続
会社法監査の費用は、取締役会が一存で決められるものではありません。監査人の独立性を確保するため、報酬の決定には監査役等の関与が法律上求められています。
監査役等の同意
取締役は、会計監査人または一時会計監査人の職務を行うべき者の報酬等を定める場合には、監査役(監査役が2人以上ある場合はその過半数)の同意を得なければなりません(会社法 第399条第1項)。監査役会設置会社ではこの同意は監査役会が行い(会社法 第399条第2項)、監査等委員会設置会社では監査等委員会が(会社法 第399条第3項)、指名委員会等設置会社では監査委員会が行います(会社法 第399条第4項)。
この同意は形式的な手続ではありません。監査役等は、監査計画に示された監査時間・人員構成と報酬額の対応関係を確認し、監査の品質を確保できる水準かどうかを判断します。値下げ交渉が過度になると同意が得られない可能性がある点は、管理部門としてあらかじめ理解しておくべきです。
選任議案の内容決定と任期
監査役設置会社では、株主総会に提出する会計監査人の選任および解任ならびに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容は、監査役が決定します(会社法 第344条第1項)。監査役会設置会社ではこれを監査役会が決定します(会社法 第344条第3項)。監査法人の切替えを検討する場合、実務上の主導権は監査役等にあるという前提で進める必要があります。
会計監査人の任期は、選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までです(会社法 第338条第1項)。ただし、その定時株主総会で別段の決議がされなかったときは再任されたものとみなされます(会社法 第338条第2項)。毎年自動的に更新される仕組みであるため、報酬水準の見直しは監査計画の協議が始まる前に着手するのが実務的です。
監査費用を適正化する実務
監査報酬は法定の義務に基づくコストであり、単純な値下げ交渉にはなじみません。適正化の要点は、監査人が負うリスクと工数を実態に即して減らし、その結果として報酬に反映させることにあります。
社内側で工数を減らす準備
依頼資料の提出遅延、期中の会計処理の未確定、決算数値の再修正は、いずれも監査人の手戻りを生み工数を押し上げます。決算スケジュールを前倒しし、監査人が求める資料の様式と提出期日を年間計画として合意しておくだけでも、追加工数の発生は抑えられます。会計上の見積りについては、算定根拠となる資料を社内で整理し、監査人との協議を期末より前に済ませておくことが有効です。
見積りを比較する際の着眼点
複数の監査法人から見積りを取る場合、総額だけを並べても比較になりません。想定監査時間、階層別の人員構成と単価、往査回数、連結子会社のどこまでを直接監査するか、四半期レビューや他の業務が含まれているかを同じ条件に揃えたうえで比較してください。安価な見積りが、実は監査範囲を限定した前提になっていることもあります。
また、監査人の交代には初年度の追加工数が伴います。切替えによる削減額が初年度の上振れと引継ぎの社内負担を上回るかどうか、複数年の視点で判断することをおすすめします。会計監査人は公認会計士または監査法人に限られるため(会社法 第337条第1項)、候補先の選択肢そのものが限られる点も考慮が必要です。
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まとめ
会社法監査の費用相場は、2024年度の実績で1社当たり平均16,253千円、時間当たり単価13,403円です。売上高10億円未満で平均5,111千円、100億円以上500億円未満で平均14,221千円と、規模による幅が大きいため、自社に近い区分で相場をつかむことが出発点になります。報酬の差の大半は単価ではなく監査時間の差から生じるため、工数を左右する要因を把握することが費用管理の核心です。
あわせて、大会社の判定(会社法 第2条第6号)、会計監査人の設置義務(会社法 第328条)、報酬決定に対する監査役等の同意(会社法 第399条)といった法的な枠組みを押さえておけば、監査法人との協議も社内の意思決定も進めやすくなります。自社の規模・体制に応じた適正な報酬水準や監査法人の切替えの判断など、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
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よくある質問
会社法監査の費用相場
日本公認会計士協会の監査実施状況調査(2024年度)では、会社法監査6,160社の1社当たり平均監査報酬は16,253千円です。売上高10億円未満では平均5,111千円、10億円以上50億円未満では平均7,720千円、100億円以上500億円未満では平均14,221千円と、規模により大きく異なります。いずれも消費税等を抜いた金額です。
監査報酬の算定方法
実務上は、監査に必要と見込まれる時間に時間単価を乗じて算定します。2024年度調査の会社法監査における時間当たり平均単価は13,403円、1社当たり平均総監査時間は1,212.6時間でした。単価の水準は規模による差が小さいため、報酬の差は主に必要な監査時間の差から生じます。
報酬決定に必要な社内手続
取締役が会計監査人の報酬等を定める場合、監査役(監査役が2人以上ある場合はその過半数)の同意が必要です(会社法 第399条第1項)。監査役会設置会社では監査役会、監査等委員会設置会社では監査等委員会、指名委員会等設置会社では監査委員会の同意が必要となります(会社法 第399条第2項から第4項)。
会社法監査と金融商品取引法監査の費用差
2024年度調査では、会社法監査のみの会社の1社当たり平均監査報酬が16,253千円であるのに対し、連結財務諸表を提出する金融商品取引法監査の会社は60,877千円、個別財務諸表のみの会社は20,381千円でした。開示制度に基づく監査は手続量が多く、報酬水準も高くなります。
大会社に該当しない会社の会計監査人設置
大会社に該当しなくても、定款の定めによって会計監査人を置くことができます(会社法 第326条第2項)。上場準備や取引先・金融機関からの要請を理由に任意で設置する例があり、2024年度調査でも売上高10億円未満の区分に859社が集計されています。