監査法人の選び方7つの基準|判定表と相見積りの進め方
目次
監査法人を選ぶ場面は、大会社に該当して会計監査人を初めて置くとき、上場準備でショートレビューの依頼先を決めるとき、そして既存の監査法人から切り替えるときの3つに大きく分かれます。いずれの場面でも、担当者が最初につまずくのは「どこを見て比べればよいのか」という比較軸そのものです。
監査法人の選び方は、好みや知名度ではなく、法令上その事務所に依頼できるか、自社の規模と時期に体制が合うか、報酬と手続が社内で通せるかの3層で判断すると整理できます。この記事では、その3層を7つの基準に分解した判定表を最初に示し、そのうえで探し方・相見積りの進め方・切替時期の注意点を、会社法と公認会計士法の条文に沿って解説します。
監査法人選定チェックリスト(7基準の判定表)
まず、そのまま社内の検討資料に転記できる判定表を示します。左列が確認する基準、右列が「満たしていると言える状態」です。7項目すべてに○が付かない候補は、契約前に不足点を確認してください。
| 確認する基準 | 満たしていると言える状態 |
|---|---|
| 1 資格・登録 | 公認会計士または監査法人であり、上場会社等の監査を依頼するなら上場会社等監査人名簿に登録されている |
| 2 独立性・欠格事由 | 自社・子会社との間に継続的な報酬関係や役員兼務がなく、会社法上の欠格事由に当たらない |
| 3 規模と体制の適合 | 自社の売上規模・拠点数・連結範囲に対して、往査と査閲に回せる人員を具体的に示せる |
| 4 業種・上場区分の経験 | 同業種または同じ上場区分の監査実績があり、論点になりそうな会計処理を初回面談で挙げられる |
| 5 交代要件への対応 | 関与社員のローテーションの起算時期と交代予定が、契約期間と矛盾なく説明されている |
| 6 報酬と決定プロセス | 見積りが時間単価と想定工数に分解されており、監査役(監査役会)の同意を取れる根拠がある |
| 7 スケジュール適合 | 期首からの計画立案・期中往査・期末監査が自社の決算スケジュールに収まる |
この7基準のうち1と2は法令上の可否、3から5は体制の適合、6と7は社内手続と日程の問題です。順番に見ていきます。
7つの基準の読み方と根拠
基準1 資格と登録の確認
会計監査人になれるのは公認会計士または監査法人に限られます(会社法 第337条第1項)。監査法人に依頼する場合、その監査法人は社員の中から会計監査人の職務を行うべき者を選定し、会社に通知する必要があります(会社法 第337条第2項)。契約の相手は法人でも、実際に責任を負う個人が特定される仕組みです。
上場会社の監査、あるいは上場を見据えた監査を依頼する場合は、もう一段の確認が要ります。公認会計士および監査法人は、日本公認会計士協会による上場会社等監査人名簿への登録を受けなければ、上場会社等の財務書類について金融商品取引法上の監査証明業務を行うことができません(公認会計士法 第34条の34の2)。この上場会社等監査人登録制度は2022年の公認会計士法改正で創設され、2023年4月1日から運用が始まっています。登録の有無は日本公認会計士協会が公開する名簿で確認できます。
なお、監査法人はその設立にあたって社員となる者のうち5人以上の公認会計士を含むことが求められます(公認会計士法 第34条の7第1項)。個人事務所と監査法人では、体制の作り方が制度上そもそも異なる点を押さえておくと、規模の比較がしやすくなります。
基準2 独立性と欠格事由
資格があっても、自社との関係によっては会計監査人になれません。会社法は、公認会計士法の規定により計算書類の監査ができない者、自社の子会社やその取締役・会計参与・監査役・執行役から公認会計士または監査法人の業務以外の業務により継続的な報酬を受けている者とその配偶者、そして社員の半数以上がこれに該当する監査法人を、会計監査人となることができない者として定めています(会社法 第337条第3項)。
実務で見落としやすいのは、税務顧問やコンサルティングを既に依頼している事務所を監査法人の候補に挙げてしまうケースです。監査以外の業務による継続的な報酬が欠格事由に直結するため、候補を絞る前に既存の取引関係を洗い出しておく必要があります。
加えて、会計監査人は職務を行うにあたり、会社法第337条第3項第1号・第2号に掲げる者、自社または子会社の取締役・会計参与・監査役・執行役・支配人その他の使用人である者、自社または子会社から監査業務以外の業務により継続的な報酬を受けている者を使用してはなりません(会社法 第396条第5項)。監査法人側でも同様の制限があり、株式を所有している会社の財務書類については監査証明業務を行えません(公認会計士法 第34条の11第1項)。
基準3 規模と体制の適合
監査法人は、公認会計士・監査審査会のモニタリングレポートにおいて、大手監査法人・準大手監査法人・中小規模監査事務所の3区分で整理されています。大手監査法人は上場国内会社を概ね100社以上被監査会社として有し、かつ常勤の監査実施者が1,000名以上いる監査法人を指し、準大手監査法人はこれに準ずる規模、中小規模監査事務所はそれ以外の監査事務所とされています。
実務では、区分そのものよりも「自社に何人が、いつ来るのか」のほうが重要です。提案を受ける際は、往査に入る人数と日数、関与社員の稼働の目安、海外子会社がある場合の対応方法を、具体的な数字で説明してもらうようにします。名前の大きさではなく投入工数で比べるのが、監査法人の選び方として最も実務的です。
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基準4 業種と上場区分の経験
会計監査人は、計算書類およびその附属明細書、臨時計算書類、連結計算書類を監査し、会計監査報告を作成します(会社法 第396条第1項)。この職務を果たすため、いつでも会計帳簿等の閲覧・謄写や、取締役・使用人への会計に関する報告の請求ができ、必要があるときは子会社への報告請求や業務・財産の状況の調査もできます(会社法 第396条第2項、第3項)。
言い換えれば、監査法人は自社の帳簿と子会社の実態に踏み込む立場にあります。したがって、自社の主要な会計論点に土地勘があるかどうかが監査の進み方を大きく左右します。初回面談では、収益認識の単位、在庫や工事進行の見積り、関係会社株式の評価など、自社で論点になりそうな項目を先に提示し、どのような手続を想定するかを聞いてみてください。抽象的な回答しか返ってこない候補は、期中に手戻りが生じやすい傾向があります。
基準5 交代要件とローテーション
監査の担当者は、同じ会社を長く見続けることができません。公認会計士は、大会社等について7会計期間の範囲内で政令で定める連続会計期間のすべての会計期間に係る財務書類について監査関連業務を行った場合、その翌会計期間以後の政令で定める会計期間については監査関連業務を行うことができません(公認会計士法 第24条の3第1項)。監査法人の場合も、その社員について同様の制限が課されます(公認会計士法 第34条の11の3)。
さらに、大規模監査法人が上場有価証券発行者等の監査を行う場合、業務を執行する社員のうち事務を統括する者などの筆頭業務執行社員等については、5会計期間の範囲内で政令で定める連続会計期間に短縮されます(公認会計士法 第34条の11の4第1項)。
上場準備企業にとって重要なのは、上場前の監査も起算に含まれ得る点です。金融商品取引所に有価証券を上場しようとする者などが、上場日の属する会計期間前の3会計期間の範囲内で内閣府令で定める会計期間に係る財務書類について監査関連業務を受けていた場合、その者を大会社等とみなして継続監査期間の制限が適用されます(公認会計士法 第24条の3第2項)。契約時に、関与社員がいつから関与しており、いつ交代する見込みかを確認しておくと、上場後に予定外の担当交代が起きる事態を避けられます。
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基準6 報酬の水準と決定プロセス
監査報酬は、取締役が一方的に決められるものではありません。取締役が会計監査人または一時会計監査人の職務を行うべき者の報酬等を定める場合には、監査役(監査役が2人以上あるときはその過半数)の同意を得なければならず、監査役会設置会社では監査役会の同意が必要です(会社法 第399条第1項、第2項)。監査等委員会設置会社では監査等委員会、指名委員会等設置会社では監査委員会が同意の主体になります(会社法 第399条第3項、第4項)。
したがって、見積書は金額の多寡だけでなく、同意を与える側が納得できる根拠になっているかという観点で評価する必要があります。総額のみが記載された見積書は、社内手続で必ず差し戻されます。想定工数、単価の区分、往査日数、追加請求が発生する条件までを分解した形で提出を依頼してください。
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基準7 スケジュールの適合
会計監査人の任期は、選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされ、その定時株主総会で別段の決議がされなかったときは再任されたものとみなされます(会社法 第338条第1項、第2項)。任期は1年ごとに自動更新される建付けであり、切り替えるのであれば定時株主総会の議案として準備する必要があります。
そのため、選定作業は決算日から逆算して組み立てます。監査は期末だけの作業ではなく、期首の監査計画、期中の内部統制の評価、期末の実証手続という流れで進むため、期が始まってから探し始めると初年度の監査に支障が出ます。
監査法人の探し方
候補をどこから集めるかによって、比較できる情報の質が変わります。実務で使われる主な経路は次の3つです。
| 公開名簿から 探す |
日本公認会計士協会が公開する上場会社等監査人名簿や事務所情報から、登録の有無と概要を確認して候補を作る方法。法令上の適格性から入れるため、上場準備企業に向く |
|---|---|
| 主幹事証券・ 金融機関からの紹介 |
上場準備では主幹事証券会社や取引金融機関からの紹介が使われる。審査の目線が共有されやすい一方、紹介元への配慮から断りにくくなる点に注意 |
| 顧問会計士・ 専門家経由の紹介 |
自社の事情を把握している専門家から、規模と論点に合う事務所を紹介してもらう方法。候補の絞り込みが早いが、独立性の観点から既存の取引関係を先に整理しておく |
どの経路でも、候補は最低3社程度を並べるのが現実的です。1社だけに当たると、提示された報酬と体制が妥当かどうかを判断する基準が持てません。
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相見積りの進め方
監査法人の見積りは、提示する情報が各社で違うと比較できません。同じ依頼書を全社に配り、同じ様式で回答してもらうことが、相見積りの前提になります。依頼書に含める項目は次のとおりです。
| 会社概要と 連結の範囲 |
売上高・総資産・従業員数・拠点数、子会社と関連会社の一覧、海外拠点の有無 |
|---|---|
| 監査の目的と 根拠法令 |
会社法監査か、金融商品取引法監査か、任意監査か。上場準備なら申請予定期と市場区分 |
| 会計上の論点 | 収益認識の単位、見積りを伴う項目、関係会社取引、直近で変更した会計方針 |
| 決算スケジュール | 決算日、取締役会と定時株主総会の予定日、計算書類の作成完了予定日 |
| 見積りの内訳様式 | 関与社員・主査・スタッフ別の想定工数と単価、往査日数、追加請求が発生する条件 |
| 体制と交代予定 | 関与社員と主査の氏名・経験、ローテーションの起算時期、交代予定時期 |
回答が揃ったら、金額を並べる前に体制と工数を並べます。総額が安い提案は工数が少ないだけのことが多く、期中に追加請求が発生したり、期末で手続が終わらず日程が延びたりする原因になります。単価の差ではなく工数の差がどこから生じているかを確認すると、提案の質が見えてきます。
また、選任の議案そのものは取締役会だけで決められません。監査役設置会社では、株主総会に提出する会計監査人の選任・解任および再任しないことに関する議案の内容は監査役が決定し、監査役が2人以上あるときはその過半数、監査役会設置会社では監査役会が決定します(会社法 第344条第1項、第2項、第3項)。相見積りの段階から監査役(監査役会)を関与させておくことが、手戻りを防ぐ実務上の要点です。
切替時期の注意点
既存の監査法人から切り替える場合、任期の構造を踏まえて動く必要があります。任期は定時株主総会の終結時までであり、別段の決議がなければ自動的に再任されたものとみなされるため(会社法 第338条第1項、第2項)、切り替えるのであれば定時株主総会までに新しい候補を決め、議案の内容を監査役(監査役会)が決定しておかなければなりません(会社法 第344条)。
任期の満了を待たずに解任する場面もあります。監査役は、会計監査人が職務上の義務に違反し、もしくは職務を怠ったとき、会計監査人としてふさわしくない非行があったとき、または心身の故障のため職務の執行に支障があり、もしくはこれに堪えないときは、その会計監査人を解任することができます(会社法 第340条第1項)。この解任は、監査役が2人以上ある場合には監査役全員の同意によって行う必要があり、監査役会設置会社では監査役会が主体となります(会社法 第340条第2項、第4項)。
切替が間に合わず会計監査人が欠けた場合の備えもあります。会計監査人が欠けた場合または定款で定めた員数が欠けた場合において、遅滞なく会計監査人が選任されないときは、監査役は一時会計監査人の職務を行うべき者を選任しなければなりません(会社法 第346条第4項)。一時会計監査人にも会計監査人と同じ資格と解任の規定が準用されます(会社法 第346条第5項)。ただしこれは緊急対応であり、選定を後ろ倒しにしてよい理由にはなりません。
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選定でつまずきやすい点
実務で相談を受ける中で、特に多い誤解を3つ挙げます。
第一に、大会社に該当してから探し始めるケースです。大会社は、最終事業年度に係る貸借対照表に資本金として計上した額が5億円以上であること、または負債の部に計上した額の合計額が200億円以上であることのいずれかに該当する株式会社をいい(会社法 第2条第6号)、大会社は会計監査人を置かなければなりません(会社法 第328条第1項、第2項)。該当が確定してから動くと、初年度の期首残高の検証に必要な時間を確保できません。
第二に、報酬の総額だけで比較するケースです。前述のとおり報酬の決定には監査役(監査役会)の同意が必要であり(会社法 第399条)、根拠を説明できない見積りは社内で通りません。
第三に、既存の税務顧問にそのまま監査を依頼しようとするケースです。監査業務以外の業務による継続的な報酬は欠格事由に直結するため(会社法 第337条第3項)、関係を整理しないまま候補に含めると、選定の終盤で候補を失うことになります。
監査法人の選定は、法令上の可否・体制の適合・社内手続の3つが同時に満たされて初めて成立します。個別の事情によって判断が分かれる場面も多いため、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
まとめ
監査法人の選び方は、冒頭の7基準に沿って判定すると整理できます。資格と登録、独立性、規模と体制、業種の経験、ローテーション、報酬と決定プロセス、スケジュールの7点です。
探し方は公開名簿・主幹事証券等からの紹介・専門家経由の3経路が中心で、候補は3社程度を並べます。相見積りは同じ依頼書と同じ様式で集め、金額より先に工数と体制を比べます。切替は任期が定時株主総会の終結時までであること、議案の内容を監査役(監査役会)が決定することを踏まえ、決算日から逆算して着手してください。
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よくある質問
監査法人は何社から相見積りを取るべきですか
実務では3社程度を並べる例が多く見られます。1社だけでは提示された報酬と体制が妥当かどうかを判断する基準を持てないためです。ただし社数を増やすこと自体が目的ではなく、同じ依頼書で同じ様式の回答を集め、工数と体制を比較できる状態にすることが重要です。
監査法人の選定は誰が決めるのですか
候補の選定は執行側で進めますが、株主総会に提出する会計監査人の選任・解任および再任しないことに関する議案の内容は監査役が決定し、監査役会設置会社では監査役会が決定します(会社法 第344条第1項、第3項)。報酬等を定める場合にも監査役(監査役会)の同意が必要です(会社法 第399条第1項、第2項)。
期の途中で監査法人を変えられますか
任期は選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までであり、通常は定時株主総会のタイミングで交代します(会社法 第338条第1項)。期中でも、職務上の義務違反や非行、心身の故障による職務執行の支障がある場合には、監査役が解任することができます(会社法 第340条第1項)。会計監査人が欠けて遅滞なく選任されないときは、監査役が一時会計監査人の職務を行うべき者を選任しなければなりません(会社法 第346条第4項)。
上場準備でも監査法人の登録状況を確認すべきですか
確認が必要です。上場会社等の財務書類について金融商品取引法上の監査証明業務を行うには、日本公認会計士協会による上場会社等監査人名簿への登録を受けていなければなりません(公認会計士法 第34条の34の2)。上場時点で登録がない事務所に依頼していると、申請前に交代を迫られる可能性があります。
本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。



