監査法人の報酬相場【一覧表】大手・準大手・中小の違いと交代時の増減
目次
- 監査法人の規模区分と報酬相場の見取り図
- 上場国内会社はどの区分に監査を依頼しているか
- 監査報酬はどう算定されるか|2つの方式
- 規模区分ごとの算定方式とチャージレート
- 監査法人を交代すると報酬はどう動くか|185件の実績
- 交代理由として挙げられているもの
- 金額水準の目安を確認するとき
- 報酬を決めるときに必要な会社法上の手続
- 監査役会等の同意
- 事業報告での開示
- 見積りを相場と照らすときの確認項目
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- 監査法人の報酬に公定の料金表はありますか。
- 大手監査法人と中小規模監査事務所では報酬の決まり方がどう違いますか。
- 監査法人を替えれば監査報酬は下がりますか。
- 監査報酬を決めるとき、社内ではどのような手続が必要ですか。
監査法人に支払う報酬の相場を調べても、公定の料金表は存在しません。監査報酬は契約当事者間の協議によって決まるものであり、同じ売上高の会社でも、どの規模の監査法人と契約するかで水準が変わります。相場を知るうえで実際に効くのは、金額の平均値よりも監査法人の規模区分ごとの報酬の組み立て方と、監査法人を替えたときに報酬が実際どう動いたかの2つです。
公認会計士・監査審査会が公表する令和8年版モニタリングレポートには、監査法人の規模区分ごとの報酬の算定方式と、上場会社が会計監査人を交代した185件の報酬増減の集計が載っています。この記事では、その一次データを一覧表に整理し、自社が受け取った見積りが相場のどの位置にあるかを判断できる形にまとめます。
監査法人の規模区分と報酬相場の見取り図
監査報酬の相場を語るとき、最初に押さえるべきなのは「どの区分の監査法人の話をしているか」です。監査法人は大きく3つの区分で語られます。公認会計士・監査審査会は、大手監査法人を「上場国内会社を概ね100社以上被監査会社として有し、かつ常勤の監査実施者が1,000名以上いる監査法人」と定義し、これに準ずる規模のものを準大手監査法人、それ以外の監査事務所を中小規模監査事務所としています。
| 監査法人の区分 | 区分の基準と規模の目安 |
|---|---|
| 大手監査法人 | 上場国内会社を概ね100社以上有し、常勤の監査実施者が1,000名以上いる監査法人。4法人が該当し、社員数は約250人から約550人、常勤職員数は約3,400人から約6,800人 |
| 準大手監査法人 | 大手監査法人に準ずる規模の監査法人。4法人が該当し、社員数は約40人から約100人、常勤職員数は約230人から約950人 |
| 中小規模監査事務所 | 大手監査法人および準大手監査法人以外の監査事務所(監査法人のほか共同事務所・個人事務所を含む)。中小監査法人の社員数は約50人まで、常勤職員数は約120人まで |
社員数・常勤職員数は2025年度の数値です(中小監査法人は2024年度まで)。区分の間には人員規模で10倍以上の開きがあり、この体制の差がそのままチャージレートと報酬水準の差につながります。
上場国内会社はどの区分に監査を依頼しているか
2026年3月末時点の上場国内会社3,843社について、会計監査人を規模別に見ると次のとおりです。
| 大手監査法人 | 2,177社(時価総額1,163兆7,024億円) |
|---|---|
| 準大手監査法人 | 610社(時価総額25兆61億円) |
| 中小規模監査事務所 | 1,056社(時価総額33兆9,874億円) |
会社数では中小規模監査事務所が全体の約4分の1を占める一方、時価総額では大手監査法人が圧倒的なシェアを持ちます。大規模な会社ほど大手監査法人に集中し、中小規模の会社は中小規模監査事務所が担うという住み分けが、報酬相場の分布をそのまま説明しています。
金融商品取引法または会社法に基づく被監査会社等の数は2024年度で10,028社あり、監査法人の規模別シェアは大手監査法人68.8%、準大手監査法人9.6%、中小監査法人21.6%です。大手監査法人のシェアは近年低下し、中小監査法人のシェアが上昇し続けています。
関連コラム中小監査法人へ依頼できる監査の範囲|登録制度と選任手続▸
監査報酬はどう算定されるか|2つの方式
監査報酬は契約当事者間の協議により決定されます。日本公認会計士協会は会員である監査事務所の参考に供するため監査報酬算定のためのガイドラインを定めており、そこでは次の2つの方式が例示されています。いずれも標準報酬額すなわち見積金額の算定時に使われるもので、最終的な金額は被監査会社との調整で決まります。
| 算定方式 | 報酬見積金額の組み立て方 |
|---|---|
| タイムチャージ方式 | 公認会計士、公認会計士試験合格者、その他監査従事者の執務時間に、それぞれの請求報酬単価(チャージレート)を乗じて算定する |
| 基本報酬+執務報酬方式 | 報酬を基本報酬(固定金額)と執務報酬(変動金額)に区分する。基本報酬は監査の種類(金融商品取引法監査、会社法監査等)や被監査会社の規模(資本金、資産、売上高等)で決定し、執務報酬は執務時間にチャージレートを乗じて算定する |
実務上重要なのは、どちらの方式でも報酬額を決めているのは「時間」と「単価」の2つだけという点です。見積りを受け取ったら、総額ではなく想定時間と単価に分解して確認すれば、相場との比較が可能になります。
規模区分ごとの算定方式とチャージレート
公認会計士・監査審査会が2025事務年度に実施した報告徴収によると、算定方式の採用状況は区分によって明確に異なります。
| 大手監査法人 | すべてタイムチャージ方式。チャージレートは監査実施者の職階ごとに設定され、間接部門の人件費やシステム関連費用など、法人の経営や品質管理に要する間接的な費用を含めて算定される。監査業務の難易度や提供サービスごとに細かくレートを設定している例もある |
|---|---|
| 準大手監査法人 | 4法人のうち3法人がタイムチャージ方式、1法人が基本報酬+執務報酬方式。タイムチャージ方式を採る4法人のうち3法人は職階ごとのチャージレートを設定している |
| 中小規模 監査事務所 |
タイムチャージ方式、またはタイムチャージ方式を原則としつつ他の方法を組み合わせる複数方式を採る事務所が多い。報告徴収の対象44法人のうち、職階ごとのチャージレートを設定しているのは10法人(23%)にとどまり、34法人(77%)は設定していない |
ここに相場を読むうえでの実務的な含意があります。大手監査法人の見積りには品質管理体制や間接部門の費用が単価に織り込まれており、職階別のレートで積み上げられます。一方、中小規模監査事務所では職階別のレートを持たない事務所が8割近くを占めるため、見積りの前提が「誰が何時間関与するか」まで分解されていない場合があります。金額の多寡だけでなく、単価の根拠が説明されているかどうかを確認することが、相場との比較には欠かせません。
なお、日本公認会計士協会の倫理規則(2025年7月最終改正)では、専門業務の内容または価値に基づいた報酬見積額を提示することが適切であり、正当な根拠に基づかない低廉な報酬見積額の提示は、職業的専門家としての能力および正当な注意の原則の遵守に対する自己利益という阻害要因を生じさせるとされています。極端に安い見積りが必ずしも歓迎されるわけではない点は、依頼する側も理解しておく必要があります。
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監査法人を交代すると報酬はどう動くか|185件の実績
相場を知るもっとも実践的な材料は、実際に監査法人を替えた会社の報酬がどう動いたかです。公認会計士・監査審査会は、2024年7月から2025年6月までに適時開示された上場国内会社の会計監査人の異動185件(監査法人の合併による異動を除く)について、異動先の会計監査人の規模の変化に着目して報酬を比較しています。
| より規模の大きい 監査事務所へ交代 |
8件。約7割にあたる6件で報酬が増加し、減少は約3割の2件 |
|---|---|
| 同規模の 監査事務所へ交代 |
91件。約6割にあたる56件で報酬が増加し、約3割の28件で減少 |
| より規模の小さい 監査事務所へ交代 |
86件。約7割にあたる64件で報酬が減少し、増加は約2割の19件 |
読み取れることは3つあります。第一に、報酬を下げる目的で規模の小さい事務所へ移した場合でも、5件に1件は逆に増えているという事実です。第二に、同規模の事務所へ移った場合は6割が増加しており、交代そのものが値下げを意味しないことです。第三に、規模の大きい事務所へ移れば、ほとんどの場合で報酬は上がります。
公認会計士・監査審査会は、規模の小さい監査事務所へ交代した場合でも報酬が増加したケースが前年度より多く認められたとし、被監査会社が報酬の相当性を重視しつつも自社の事業規模に適した監査対応を優先させた結果、報酬の増加を受け入れたものと分析しています。報酬の軽減が、より小規模な事務所への交代と必ずしも直結しない状況に変わりつつあるという整理です。
交代理由として挙げられているもの
前任の会計監査人が回答した異動理由を集計すると、「監査報酬」が58件ともっとも多く、次いで「継続監査期間」が31件でした。被監査会社側が開示する異動理由でも、会社の事業規模に適した監査対応や監査報酬の相当性を挙げるケースが多くなっています。
また、中小監査法人のシェアが増加している背景には、大手監査法人や準大手監査法人においてリソース不足の問題があること、そしてIPO監査のリスクを考慮した監査工数に見合う報酬水準を高く求めていることが指摘されています。相場の上昇は監査法人側の受嘱方針の変化とも結びついており、単純な価格交渉では動かない部分があるということです。
関連コラム監査報酬の値上げ|JICPA調査でみる5年25%増の実額と対応手順▸
金額水準の目安を確認するとき
ここまで見たとおり、監査法人の区分そのものに対応した報酬の平均額は公表されていません。金額の目安を確認したい場合は、監査の種類別・被監査会社の売上高規模別に集計された統計を用いることになります。会社法監査については、売上高区分ごとの1社当たり平均監査報酬が公表されており、自社に近い規模の区分と照らすことができます。
関連コラム会社法監査の費用相場と決まり方|会計監査人報酬の実務▸
金額の平均を見るときに気をつけたいのは、平均値が大企業まで含めた分布の代表値にすぎないという点です。実務では、同じ売上高区分の中でも連結子会社の数、海外拠点の有無、内部統制の整備状況、前年度の指摘事項の残り方によって工数が大きく変わります。平均額との差そのものを問題にするのではなく、差を生んでいる要因が自社の実態と整合しているかを確認するのが、見積り検討の正しい順序です。
報酬を決めるときに必要な会社法上の手続
監査報酬は当事者間の合意だけで完結しません。会計監査人設置会社では、会社法上の手続を経る必要があります。大会社は、資本金として計上した額が5億円以上であるか、負債の部に計上した額の合計額が200億円以上である株式会社をいいます(会社法 第2条第6号)。大会社(公開会社でないもの、監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を除く)は監査役会および会計監査人を置かなければならず、公開会社でない大会社は会計監査人を置かなければなりません(会社法 第328条第1項、第2項)。
会計監査人は、株式会社の計算書類およびその附属明細書、臨時計算書類ならびに連結計算書類を監査し、会計監査報告を作成します(会社法 第396条第1項)。この法定の職責を果たすために必要な手続量が、そのまま報酬の見積工数に反映されます。
監査役会等の同意
取締役は、会計監査人または一時会計監査人の職務を行うべき者の報酬等を定める場合には、監査役(監査役が2人以上あるときはその過半数)の同意を得なければなりません(会社法 第399条第1項)。監査役会設置会社では監査役会、監査等委員会設置会社では監査等委員会、指名委員会等設置会社では監査委員会の同意に読み替えられます(会社法 第399条第2項から第4項)。
相場との比較資料は、この同意を得る場面でそのまま使えます。規模区分ごとの算定方式、想定時間と単価の内訳、交代時の増減実績といった客観的な材料を添えることで、監査役会等は金額の妥当性を検討したうえで同意できるようになります。
事業報告での開示
会計監査人設置会社は、会計監査人の氏名または名称のほか、当該事業年度に係る各会計監査人の報酬等の額と、その報酬等について監査役会等が会社法第399条第1項の同意をした理由を、事業報告の内容としなければなりません(会社法施行規則 第126条第2号)。公開会社でない場合はこの事項は除かれます。
つまり、報酬の水準をどう判断したかは、社内の議事録にとどまらず株主へ開示されるということです。相場の検討過程を文書として残しておくことは、交渉の材料であると同時に、開示上の要請でもあります。
関連コラム会計監査人の報酬と監査役会の同意|手続と事業報告の開示▸
見積りを相場と照らすときの確認項目
提示された監査報酬が相場のどの位置にあるかを判断するには、次の順序で確認すると社内の議論が進みます。
- 相手先の区分を確認する。大手監査法人・準大手監査法人・中小規模監査事務所のいずれかによって、単価に含まれる間接費用の考え方が異なります。
- 算定方式を確認する。タイムチャージ方式か、基本報酬+執務報酬方式か。後者であれば、基本報酬の根拠となる会社規模の指標を確認します。
- 職階別のチャージレートの有無を確認する。レートが職階別に設定されていれば、関与者の構成と単価の妥当性を検証できます。設定がない場合は、総額の根拠を別の形で説明してもらいます。
- 想定時間の内訳を手続単位で確認する。連結子会社の往査、内部統制の評価、専門家の関与など、時間を押し上げている領域を特定します。
- 自社側の要因を切り分ける。資料提出の遅延、決算早期化の未達、前年度の指摘事項の未解消など、改善すれば工数を減らせる項目を洗い出します。
- 交代を検討する場合は増減の実績と照らす。より小さい規模の事務所へ移った86件のうち19件は報酬が増えています。交代が値下げに直結するとは限りません。
この6点を押さえておけば、値引き交渉ではなく、工数と単価の根拠に基づく協議になります。監査報酬の水準や監査法人の見直しの判断は、自社の事業構造・連結範囲・内部統制の整備状況によって結論が変わるため、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
まとめ
監査法人の報酬には公定の料金表がなく、相場は「どの区分の監査法人に、何時間の監査を、いくらの単価で依頼するか」で決まります。大手監査法人はすべてタイムチャージ方式を採り、職階別のチャージレートに間接部門の費用まで織り込んで算定します。中小規模監査事務所では、報告徴収の対象44法人のうち職階別のレートを設定しているのは10法人(23%)にとどまります。
監査法人を交代した185件の実績では、より規模の小さい事務所へ移った86件のうち約7割の64件で報酬が減少した一方、約2割の19件では増加しています。同規模の事務所へ移った91件では約6割の56件が増加しました。交代は値下げの手段として確実ではありません。
報酬を決めるには監査役会等の同意が必要であり(会社法 第399条第1項)、同意した理由は事業報告として開示されます(会社法施行規則 第126条第2号)。相場との比較は交渉のためだけでなく、同意と開示を支える検討過程そのものです。
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よくある質問
監査法人の報酬に公定の料金表はありますか。
ありません。監査報酬は契約当事者間の協議により決定されます。日本公認会計士協会が会員である監査事務所の参考に供するため監査報酬算定のためのガイドラインを定めており、タイムチャージ方式と基本報酬+執務報酬方式の2つが例示されていますが、これは見積金額の算定方法を示すものであり、金額そのものを定めるものではありません。
大手監査法人と中小規模監査事務所では報酬の決まり方がどう違いますか。
大手監査法人はすべてタイムチャージ方式を採用し、チャージレートを監査実施者の職階ごとに設定したうえで、間接部門の人件費やシステム関連費用など法人の経営や品質管理に要する費用を含めて算定しています。中小規模監査事務所では、報告徴収の対象44法人のうち職階ごとのチャージレートを設定しているのは10法人(23%)で、34法人(77%)は設定していません。
監査法人を替えれば監査報酬は下がりますか。
必ず下がるとは限りません。2024年7月から2025年6月までに適時開示された上場国内会社の会計監査人の異動185件では、より規模の小さい監査事務所へ交代した86件のうち約7割の64件で報酬が減少した一方、約2割の19件では増加しています。同規模の監査事務所へ交代した91件では、約6割の56件で報酬が増加しました。
監査報酬を決めるとき、社内ではどのような手続が必要ですか。
取締役は会計監査人の報酬等を定める場合に監査役の同意を得る必要があり、監査役が2人以上あるときはその過半数の同意が必要です(会社法 第399条第1項)。監査役会設置会社では監査役会、監査等委員会設置会社では監査等委員会、指名委員会等設置会社では監査委員会の同意に読み替えられます(会社法 第399条第2項から第4項)。同意した理由は事業報告の内容としなければなりません(会社法施行規則 第126条第2号)。
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