会計監査人の報酬と監査役会の同意|手続と事業報告の開示
目次
会計監査人の報酬は、株主総会の決議ではなく取締役が決定します。ただし、取締役が単独で決められるわけではなく、監査役(監査役会設置会社では監査役会)の同意を得なければ有効に決定できません(会社法 第399条第1項、第2項)。この同意は、会計監査人の独立性を報酬面から確保するための仕組みです。
実務では、監査法人から提示された見積りをそのまま受け入れ、監査役会の同意を形式的に処理してしまう例が少なくありません。しかし同意した理由は事業報告に記載され、株主の目に触れます(会社法施行規則 第126条第2号)。本記事では、報酬決定から同意、事業報告での開示までの手続を、そのまま使えるチェックリストと開示事項の一覧で整理します。
会計監査人の報酬決定と同意の手続フロー
会計監査人の報酬等は、取締役(取締役会設置会社では通常は取締役会または委任を受けた業務執行者)が決定し、そのうえで監査役等の同意を得る流れになります。同意は報酬額を決定するための要件であり、決定後の事後承認ではありません。定時株主総会前後の決算スケジュールに組み込み、監査計画の提示を受けた段階から着手するのが実務的です。
| 段階 | 実施事項 |
|---|---|
| 1. 監査計画の受領 | 会計監査人から翌期の監査計画と監査時間の見積り、報酬の提示を受ける |
| 2. 監査役等への事前説明 | 会計監査人が監査役会へ監査計画を説明し、報酬の前提となる監査時間の考え方を共有する |
| 3. 報酬案の作成 | 経理部門・管理部門が会計監査人と協議し、報酬等の額の案を取りまとめる |
| 4. 監査役会への同意依頼 | 報酬案と算定根拠を付して、取締役から監査役会へ同意を求める |
| 5. 監査役会の審議・同意 | 監査役会で妥当性を審議し、同意の決議を行い議事録に理由を残す |
| 6. 報酬等の決定と契約締結 | 同意を得たうえで取締役が報酬等を決定し、監査契約を締結する |
| 7. 事業報告への記載 | 報酬等の額と同意の理由を事業報告に記載する |
監査役会の同意チェックリスト
同意の判断にあたって確認すべき事項は、会社法上の限定列挙ではありません。もっとも、同意した理由を事業報告に記載する以上、何を検討したかを説明できる形で記録に残す必要があります。次の項目を審議事項として定型化しておくと、毎期の議事録作成まで一貫して運用できます。
| 監査計画の妥当性 | リスク評価、往査先、重点監査項目が会社の事業内容と規模に見合っているか |
|---|---|
| 監査時間の見積り | 業務区分別・階層別の見積時間が示され、前期実績と比較して説明がつくか |
| 報酬単価の水準 | 監査責任者・主査・補助者の階層別単価が示され、同規模他社と比べて著しく乖離していないか |
| 増減理由の説明 | 前期からの増減について、会計基準の改正、子会社の増減、決算体制の変化など具体的な要因が示されているか |
| 会社側の対応負担 | 会社が準備する資料や内部統制の整備状況が報酬水準に反映されているか |
| 非監査業務の報酬 | 同一の監査法人へ支払う非監査業務の対価の内容と金額を把握し、独立性への影響を検討したか |
| 企業集団での総額 | 子会社が支払う分を含めた企業集団全体での支払額を把握しているか |
| 審議経過の記録 | 会計監査人への質問と回答、監査役会での議論の要点が議事録に残っているか |
会社法399条が求める監査役の同意
取締役は、会計監査人または一時会計監査人の職務を行うべき者の報酬等を定める場合には、監査役の同意を得なければなりません。監査役が2人以上ある場合には、その過半数の同意が必要です(会社法 第399条第1項)。会計監査人は会社法上の役員ではないため、取締役や監査役の報酬のように株主総会の決議で定める必要はありません(会社法 第361条第1項)。その代わりに、業務執行から独立した監査役等の同意権が牽制機能を担っています。
機関設計別の同意主体
同意の主体は機関設計によって読み替えられます。監査役会設置会社では個々の監査役ではなく監査役会が、委員会型の機関設計ではそれぞれの委員会が同意主体となります。
| 監査役設置会社 | 監査役の同意。監査役が2人以上いる場合はその過半数の同意が必要(会社法 第399条第1項) |
|---|---|
| 監査役会設置会社 | 監査役会の同意。監査役会の決議として行う(会社法 第399条第2項) |
| 監査等委員会設置会社 | 監査等委員会の同意(会社法 第399条第3項) |
| 指名委員会等設置会社 | 監査委員会の同意(会社法 第399条第4項) |
会計監査人を置くのは、大会社および会計監査人設置会社です。大会社とは、最終事業年度に係る貸借対照表の資本金として計上した額が5億円以上、または負債の部に計上した額の合計額が200億円以上の株式会社をいいます(会社法 第2条第6号)。公開会社である大会社は監査役会と会計監査人を置かなければならず、公開会社でない大会社も会計監査人を置く必要があります(会社法 第328条第1項、第2項)。
関連コラム監査役会の設置義務チェックリスト|大会社の要件と機関設計▸
同意の対象となる報酬等の範囲
同意の対象は、会計監査人としての職務の執行に対する報酬等です。会計監査人の職務は、計算書類およびその附属明細書、臨時計算書類ならびに連結計算書類の監査と、会計監査報告の作成です(会社法 第396条第1項)。したがって、期中に臨時計算書類の監査が追加された場合や、連結計算書類の作成義務が生じた場合には、追加報酬についてあらためて同意の手続が必要になります。
また、条文は「会計監査人又は一時会計監査人の職務を行うべき者」と定めており、一時会計監査人の報酬も同意の対象です(会社法 第399条第1項)。会計監査人が期中に退任し、監査役会が一時会計監査人を選任した場合も、報酬の決定には同じ手続を経る必要があります。
同意の判断材料と報酬水準の確認
監査報酬は、監査に投入される時間に階層別の単価を乗じて積み上げるのが基本的な考え方です。したがって監査役会が確認すべき中心は、提示された監査時間が監査計画の内容に照らして過不足ないか、単価が合理的な水準かの2点になります。総額だけを前期と比較しても、増減の理由は説明できません。
水準感の把握には、日本公認会計士協会が毎年公表している監査実施状況調査が参考になります。2024年度(2024年4月から2025年3月)の調査では、会社法監査6,160社について、1社当たりの監査時間の平均が1,212.6時間、1社当たりの監査報酬の平均が16,253千円、時間当たりの平均単価が13,403円と集計されています。同調査は売上高別・負債総額別・業種別にも集計されているため、自社に近い区分の数値を同意の判断材料として参照できます。
ただし、初年度監査、子会社の新規取得、会計基準の改正対応などがある期は、平均値との比較だけでは判断できません。増減要因ごとに追加時間の見積りを求め、その積み上げで説明を受けることが重要です。
関連コラム会社法監査の費用相場と決まり方|会計監査人報酬の実務▸
会社法監査・会計監査人の選任は公認会計士へ
大手品質×中堅価格の会社法監査|公認会計士事務所プライムパートナーズ
無料見積り・ご相談はこちら
事業報告における会計監査人の報酬等の開示
事業年度の末日において会計監査人設置会社である株式会社は、会計監査人に関する事項を事業報告の内容としなければなりません(会社法施行規則 第126条)。報酬等の額と同意の理由、非監査業務の内容、解任または不再任の決定の方針は、事業年度の末日において公開会社でない場合には記載が不要とされています(会社法施行規則 第126条柱書)。
| 氏名又は名称 | 会計監査人の氏名または名称(会社法施行規則 第126条第1号) |
|---|---|
| 報酬等の額と同意の理由 | 当該事業年度に係る各会計監査人の報酬等の額、および監査役会等が会社法第399条第1項の同意をした理由(会社法施行規則 第126条第2号) |
| 非監査業務の内容 | 公認会計士法第2条第1項の業務以外の業務の対価を支払っているときは、その非監査業務の内容(会社法施行規則 第126条第3号) |
| 解任・不再任の方針 | 会計監査人の解任または不再任の決定の方針(会社法施行規則 第126条第4号) |
| 企業集団の支払総額 | 大会社である場合、会計監査人である公認会計士または監査法人に会社およびその子会社が支払うべき金銭その他の財産上の利益の合計額(会社法施行規則 第126条第8号イ) |
企業集団の支払総額を記載するのは、連結計算書類を作成しなければならない大会社です。事業年度の末日において大会社であって、金融商品取引法第24条第1項の規定により有価証券報告書を提出しなければならない会社が、連結計算書類の作成義務を負います(会社法 第444条第3項)。連結損益計算書に計上すべき金額に限られる点にも注意が必要です。
同意の理由の書き方
実務で最も悩ましいのが、同意の理由をどう記載するかです。「報酬額が相当であると判断したため」とだけ書く例も見られますが、何を検討した結果そう判断したのかが読み取れません。監査役会で審議した内容を、次の観点から具体的に落とし込むと、記載が形式的になりません。
- 会計監査人の監査計画の内容を確認し、監査の方法と体制が相当であると認めたこと
- 前期の職務執行状況と監査の実績時間を検証したこと
- 報酬見積りの算定根拠として、業務区分別の想定監査時間と単価の説明を受けたこと
- 前期からの増減について、具体的な要因の説明を受けて内容を検討したこと
- 以上を踏まえ、報酬等の額が会計監査人の職務の内容に照らして相当であると判断したこと
記載は事業報告の様式や分量に合わせて調整しますが、監査役会議事録に審議の経過を残しておけば、事業報告の記載はその要約として無理なく作成できます。議事録と事業報告の記載内容が食い違わないよう、同じ資料に基づいて作成することが実務上のポイントです。
同意が得られない場合と関連する手続
同意は報酬等を決定するための法律上の要件です。したがって、監査役会が同意しない場合、取締役は当該金額で報酬等を有効に決定できません。実務上は、監査役会が示した疑問点について会計監査人から追加の説明を受け、監査時間の見積りや業務範囲を見直したうえで、あらためて同意を求めることになります。期首に間に合わない場合でも、同意を省略して契約を締結することは避けるべきです。
報酬に関する同意権と混同されやすいのが、選任・解任・不再任に関する権限です。株主総会に提出する会計監査人の選任および解任ならびに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容は、監査役(監査役会設置会社では監査役会)が決定します(会社法 第344条第1項、第3項)。報酬は「同意」、議案の内容は「決定」と権限の性質が異なります。
関連コラム会計監査人の選任議案と監査役会の同意|記載例と決議要件▸
なお、会計監査人の任期は、選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までです。定時株主総会において別段の決議がされなかったときは、当該定時株主総会において再任されたものとみなされます(会社法 第338条第1項、第2項)。自動再任であっても報酬等は毎期決定し直すため、同意の手続は毎年必要になります。
報酬水準の見直しをきっかけに監査法人の交代を検討する場合は、交代時期と引継ぎの手順を先に固めたうえで、報酬の協議を進めることが安全です。
関連コラム会計監査人の変更手続き|交代スケジュールと臨時報告書・引継ぎ▸
まとめ
会計監査人の報酬等は取締役が決定しますが、監査役(監査役会設置会社では監査役会)の同意が決定の要件です(会社法 第399条第1項、第2項)。監査等委員会設置会社では監査等委員会、指名委員会等設置会社では監査委員会が同意主体となります(会社法 第399条第3項、第4項)。
同意した理由は事業報告に記載され、報酬等の額とともに開示されます(会社法施行規則 第126条第2号)。監査計画の確認、監査時間の見積りの検証、単価の水準、前期からの増減要因という順で審議を定型化し、その経過を監査役会議事録に残しておけば、事業報告の記載まで一貫して作成できます。報酬水準の妥当性は、日本公認会計士協会の監査実施状況調査の区分別データを補助的に用いると判断しやすくなります。
機関設計の変更、初年度監査、監査法人の交代など、個別の事情が絡む場合は判断が分かれることがあります。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。公認会計士事務所プライムパートナーズでは、会社法監査の受嘱と報酬の見積りについてご相談を承っています。
会社法監査の無料見積り・ご相談はこちら参考文献
よくある質問
会計監査人の報酬に株主総会の決議は必要ですか。
必要ありません。会計監査人は会社法上の役員ではないため、取締役や監査役の報酬のように株主総会の決議で定める必要はありません(会社法 第361条第1項)。報酬等は取締役が決定し、監査役(監査役会設置会社では監査役会)の同意を得る手続によります(会社法 第399条第1項、第2項)。
監査役会が同意しない場合、報酬を決められますか。
同意は報酬等を定めるための要件であるため、同意が得られない金額で有効に決定することはできません(会社法 第399条第1項)。実務上は、監査役会から示された疑問点について会計監査人の説明を受け、監査時間の見積りや業務範囲を再検討したうえで、あらためて同意を求めます。
一時会計監査人の報酬にも同意は必要ですか。
必要です。条文は「会計監査人又は一時会計監査人の職務を行うべき者の報酬等を定める場合」と規定しており、一時会計監査人の職務を行うべき者の報酬等も同意の対象に含まれます(会社法 第399条第1項)。
非監査業務の報酬も同意の対象になりますか。
会社法第399条第1項の同意の対象は、会計監査人の職務の執行に対する報酬等です。公認会計士法第2条第1項の業務以外の業務の対価を支払っているときは、その非監査業務の内容を事業報告に記載します(会社法施行規則 第126条第3号)。金額そのものが同意の対象でない場合でも、独立性への影響を検討するため、監査役会が内容と金額を把握しておくことが実務上望まれます。
非公開会社でも報酬等の額を事業報告に記載しますか。
事業年度の末日において公開会社でない場合、報酬等の額と同意の理由、非監査業務の内容、解任または不再任の決定の方針は事業報告の記載事項から除かれます(会社法施行規則 第126条柱書)。ただし、記載が不要であることと、監査役等の同意の手続が不要であることは別問題であり、同意の手続自体は必要です。
本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。



