法定監査と任意監査の違い|種類一覧と対象会社の判定
目次
法定監査とは、法令によって公認会計士または監査法人の監査を受けることが義務づけられている監査をいいます。これに対して任意監査は、法令上の義務がないにもかかわらず、会社や法人が自らの判断で受ける監査です。両者を分ける基準は「受けたいかどうか」ではなく、根拠となる条文が存在するかどうかの一点にあります。
この記事では、会社法・金融商品取引法から学校法人・社会福祉法人・医療法人・労働組合・公益法人までの法定監査を一覧にまとめ、自社が対象になるかを短時間で判定できるようにしています。判定に必要な数値基準はすべて条文で確認したものを載せていますので、手元の直近の貸借対照表と損益計算書を用意してお読みください。
法定監査の種類一覧マップ
法定監査は制度ごとに根拠法が分かれており、「上場しているか」だけでは判定できません。自社の法人格と規模に対応する行を先に探してください。
| 監査の種類 | 対象となる法人と根拠 |
|---|---|
| 会社法監査 | 大会社(資本金5億円以上、または負債合計200億円以上の株式会社)。監査役会と会計監査人の設置義務を負います(会社法 第2条第6号、第328条第1項)。公開会社でない大会社は会計監査人のみ設置します(会社法 第328条第2項)。 |
| 会社法監査(機関設計による) | 監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社。規模を問わず会計監査人の設置義務があります(会社法 第327条第5項)。 |
| 金融商品取引法監査 | 金融商品取引所に上場されている有価証券の発行会社その他政令で定める者。提出する財務計算に関する書類に監査証明が必要です(金融商品取引法 第193条の2第1項)。内部統制報告書も監査証明の対象です(同条第2項)。 |
| 学校法人監査(補助金交付) | 国または地方公共団体から補助金の交付を受ける学校法人。計算書類および附属明細書について公認会計士または監査法人の監査を受けます(私立学校振興助成法 第14条第2項)。 |
| 学校法人監査(大臣所轄法人) | 大臣所轄学校法人等(文部科学大臣が所轄庁である学校法人など)。会計監査人の設置義務があります(私立学校法 第143条、第144条第1項)。 |
| 社会福祉法人監査 | 特定社会福祉法人。経常的な収益の額が30億円超、または負債合計が60億円超の社会福祉法人が該当し、会計監査人を置く義務があります(社会福祉法 第37条、社会福祉法施行令 第13条の3)。 |
| 医療法人監査 | 負債合計50億円以上、または事業収益70億円以上の医療法人。財産目録・貸借対照表・損益計算書について公認会計士または監査法人の監査を受けます(医療法 第51条第2項・第5項、医療法施行規則 第33条の2第1号)。 |
| 労働組合の会計監査 | 労働委員会の資格審査を受ける労働組合。会計報告に、組合員が委嘱した職業的に資格がある会計監査人の証明書を添えて年1回公表する旨を規約に定める必要があります(労働組合法 第5条第2項第7号)。 |
| 一般社団・財団法人監査 | 大規模一般社団法人および大規模一般財団法人(負債合計200億円以上)。会計監査人の設置義務があります(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律 第2条第2号・第3号、第62条、第171条)。 |
| 公益法人監査 | 公益社団法人・公益財団法人。会計監査人の設置が公益認定の基準です。ただし収益100億円、費用及び損失100億円、負債50億円のいずれにも達しない場合は設置を要しません(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律 第5条第13号、同法施行令 第6条)。 |
自社が対象かを確かめるチェックリスト
上の一覧を自社に当てはめるときは、次の順に確認すると判定を誤りません。いずれも直近の事業年度に係る計算書類の数値で判断します。
- 法人格を特定する。株式会社か、学校法人・社会福祉法人・医療法人・一般社団法人・労働組合などの非営利法人かで、参照すべき法律が変わります。
- 株式会社であれば、最終事業年度に係る貸借対照表の資本金が5億円以上か、負債の部の合計額が200億円以上かを確認する。いずれかに該当すれば大会社です(会社法 第2条第6号)。
- 機関設計を確認する。監査等委員会設置会社または指名委員会等設置会社であれば、規模にかかわらず会計監査人が必要です(会社法 第327条第5項)。
- 有価証券報告書の提出義務があるかを確認する。上場会社その他の特定発行者は、会社法監査とは別に金融商品取引法監査を受けます(金融商品取引法 第193条の2第1項)。
- 非営利法人であれば、収益・負債の数値基準と補助金の有無を確認する。学校法人は補助金の交付と所轄庁、社会福祉法人は収益30億円超・負債60億円超、医療法人は負債50億円以上・事業収益70億円以上が分岐点です。
- 判定時点を確認する。会社法の大会社は最終事業年度に係る貸借対照表で判定するため、基準に達した事業年度の翌年度から監査対応が始まります。
数値がぎりぎりの場合ほど、判定を1年間違えると定時株主総会での会計監査人の選任が間に合いません。前年度の数値で当年度の体制を決める構造になっている点に注意してください。
関連コラム会計監査人の設置義務がある会社は?大会社・委員会設置会社の判定フロー▸
会社法監査と金融商品取引法監査の重なり
株式会社にとって中心となる法定監査は、会社法監査と金融商品取引法監査の2つです。会社法監査は計算書類および附属明細書、臨時計算書類、連結計算書類を対象とし、会計監査人が会計監査報告を作成します(会社法 第396条第1項)。会計監査人設置会社では、計算書類およびその附属明細書は監査役と会計監査人の双方の監査を受けます(会社法 第436条第2項第1号)。
金融商品取引法監査は、有価証券報告書などに含まれる財務計算に関する書類を対象とし、発行者と特別の利害関係のない公認会計士または監査法人の監査証明を必要とします(金融商品取引法 第193条の2第1項)。さらに内部統制報告書についても監査証明が求められます(同条第2項)。
上場会社は両方の監査を受けますが、実務では同じ監査法人が一体として実施するのが通例です。一方、非上場の大会社は会社法監査のみが対象となり、内部統制報告書の監査証明は不要です。
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非営利法人の法定監査で見落としやすい点
学校法人
学校法人には2系統の監査義務があります。1つは補助金の交付を受ける学校法人に課される公認会計士または監査法人の監査で、計算書類および附属明細書が対象です(私立学校振興助成法 第14条第2項)。補助金の額が少額で所轄庁の許可を受けた場合は例外とされています(同項ただし書)。
もう1つは、大臣所轄学校法人等に課される会計監査人の設置義務です(私立学校法 第144条第1項)。大臣所轄学校法人等とは、文部科学大臣が所轄庁である学校法人およびそれ以外で事業の規模等が政令の基準に該当する学校法人をいいます(私立学校法 第143条)。この規定を含む改正私立学校法は2025年4月1日から施行されています。
社会福祉法人・医療法人
社会福祉法人は、特定社会福祉法人に該当すると会計監査人の設置義務を負います(社会福祉法 第37条)。該当基準は、最終会計年度の経常的な収益の額が30億円を超えること、または負債の部の合計額が60億円を超えることです(社会福祉法施行令 第13条の3)。会計監査人は計算書類および附属明細書を監査し、会計監査報告を作成します(社会福祉法 第45条の19第1項)。
医療法人の基準は社会福祉法人とは異なります。負債の部の合計額が50億円以上、または事業収益が70億円以上の医療法人が対象で、財産目録・貸借対照表・損益計算書について公認会計士または監査法人の監査を受けます(医療法 第51条第5項、医療法施行規則 第33条の2第1号)。社会医療法人はより低い水準で対象となり、負債20億円以上または事業収益10億円以上、および社会医療法人債発行法人が該当します(医療法施行規則 第33条の2第2号・第3号)。
労働組合
労働組合の会計監査は、規模ではなく手続の面から義務づけられている点が特徴です。労働委員会の資格審査を受けるには、すべての財源および使途、主要な寄附者の氏名、現在の経理状況を示す会計報告を、組合員によって委嘱された職業的に資格がある会計監査人の証明書とともに年1回以上組合員に公表する旨を規約に定める必要があります(労働組合法 第5条第2項第7号)。
不当労働行為の救済申立てや労働協約の地域的拡張適用を求める場面で資格審査が行われるため、規模の小さい組合でも会計監査の体制が問われます。
関連コラム労働組合法の監査規定|第5条第2項第7号の要件と改正の経緯▸
任意監査が選ばれる場面
一覧のいずれにも該当しない会社・法人が受ける監査が任意監査です。法令上の義務がないため、対象範囲・報告書の様式・実施時期を当事者間の契約で決められる自由度があります。
実務でよく選ばれるのは次の場面です。第1に、株式上場の準備で、申請期の2期前から監査を受けて上場後の金融商品取引法監査に接続する場合です。第2に、大会社の基準に近づいており、翌年度から会社法監査が始まる見込みがある場合に、前倒しで体制を整える場合です。第3に、金融機関や取引先、出資者から財務諸表の信頼性の確認を求められた場合です。
任意監査は法定監査へ移行するときの助走にもなります。初年度の監査では期首残高の検証に手間がかかるため、義務化を待たずに監査法人と関係を作っておくと、対象になった年度の負担を抑えられます。
関連コラム任意監査の費用相場と種類|法定監査との違いと見積りの見方▸
まとめ
法定監査と任意監査の違いは、根拠となる条文があるかどうかで決まります。判定にあたっては、法人格を特定し、その法人格に対応する法律の数値基準を直近の計算書類に当てはめる手順を踏んでください。株式会社なら資本金5億円以上または負債200億円以上(会社法 第2条第6号)、社会福祉法人なら収益30億円超または負債60億円超、医療法人なら負債50億円以上または事業収益70億円以上が分岐点です。
また、判定は最終事業年度の数値で行うため、基準に達したことに気づくのは決算が固まった後になります。監査法人の選定と会計監査人の選任には準備期間が必要ですので、基準の8割程度に達した段階で情報収集を始めておくと安全です。
制度の分岐点は条文の数値で決まりますが、判定時点や機関設計の組み合わせによって結論が変わる場面もあります。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。公認会計士事務所プライムパートナーズでは、法定監査の対象判定から監査法人の選定までを支援しています。
会社法監査の無料見積り・ご相談はこちら参考文献
- e-Gov法令検索 会社法
- e-Gov法令検索 金融商品取引法
- e-Gov法令検索 私立学校振興助成法
- e-Gov法令検索 私立学校法
- e-Gov法令検索 社会福祉法
- e-Gov法令検索 社会福祉法施行令
- e-Gov法令検索 医療法
- e-Gov法令検索 医療法施行規則
- e-Gov法令検索 労働組合法
- e-Gov法令検索 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律
- e-Gov法令検索 公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律
- e-Gov法令検索 公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律施行令
よくある質問
資本金は5億円未満ですが、負債が200億円を超えています。法定監査の対象ですか。
対象です。大会社の要件は、最終事業年度に係る貸借対照表の資本金が5億円以上であること、または負債の部に計上した額の合計額が200億円以上であることのいずれかに該当することとされています(会社法 第2条第6号)。負債基準のみを満たす場合も大会社に該当し、会計監査人の設置義務が生じます(会社法 第328条第1項・第2項)。
非上場でも金融商品取引法監査の対象になることはありますか。
あります。監査証明の対象は、金融商品取引所に上場されている有価証券の発行会社その他政令で定める者とされており、上場していなくても有価証券届出書や有価証券報告書の提出義務がある発行者は対象となります(金融商品取引法 第193条の2第1項)。株主数や募集の態様によって判定が分かれるため、個別に確認が必要です。
監査役の監査があれば、会計監査人の監査は不要ですか。
代替できません。会計監査人設置会社では、計算書類およびその附属明細書は監査役と会計監査人の双方の監査を受けることとされています(会社法 第436条第2項第1号)。監査役は会社の機関であるのに対し、会計監査人は公認会計士または監査法人でなければならず、求められる役割が異なります。
任意監査の監査報告書は、法定監査のものと同じ効力がありますか。
法令上の位置づけは異なります。任意監査は契約に基づいて実施されるため、監査の範囲や報告の様式を当事者間で定めることになり、法定監査のように会社法や金融商品取引法上の手続と結びつくわけではありません。ただし、監査基準に準拠して実施された任意監査であれば、財務諸表の信頼性を対外的に示す資料として機能します。
本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。



