任意監査の費用相場と種類|法定監査との違いと見積りの見方
目次
任意監査の費用は、監査法人が見積もった監査時間に時間単価を掛けて決まります。法定監査のように会社の規模で自動的に水準が決まるものではないため、同じ会社でも監査の目的と範囲の決め方によって金額は大きく変わります。逆にいえば、時間と単価に分解して考えれば、提示された見積額が妥当かどうかは社内でも判断できます。
この記事では、任意監査の費用の目安を類型別に示したうえで、費用が決まる仕組み、法定監査との違い、見積書で確認すべき項目までを整理します。監査法人から見積りを受け取った段階で、そのまま照合できる形にしています。
任意監査の費用相場と類型別の目安
任意監査は法令に基づく監査ではないため、公的機関が集計した費用の統計はありません。そこで実務では、①依頼の目的から想定される監査時間を見積もり、②公表統計から確認できる時間単価を掛ける、という順序で水準感をつかみます。
依頼の目的別にみた費用の目安
当事務所の実務経験では、任意監査の費用は依頼の目的と対象範囲によって次の程度に分かれます。監査対象が単体の財務諸表で、子会社や海外拠点を含まない会社を前提とした目安です。統計値ではなく、実際に見積りを作成してきた経験に基づく水準感である点にご留意ください。
| 親会社への報告を目的 とする子会社の監査 |
年間150〜300時間程度、200万〜400万円程度 |
|---|---|
| 金融機関・取引先への 提出を目的とする監査 |
年間200〜400時間程度、300万〜550万円程度 |
| 株主・投資家への報告 を目的とする監査 |
年間250〜500時間程度、350万〜700万円程度 |
| 上場準備の初期段階で 受ける任意監査 |
年間400〜800時間程度、600万〜1,200万円程度 |
| 個別の財務表・項目に 限定した監査 |
年間50〜150時間程度、80万〜200万円程度 |
幅があるのは、売上高や拠点数よりも「どこまでを監査の対象にするか」で工数が動くためです。たとえば同じ子会社監査でも、在庫の実地棚卸への立会いが必要かどうか、期首残高の検証をどこまで行うかで、監査時間は倍近く変わります。
時間単価は公表統計で水準を確かめられる
任意監査の統計はありませんが、時間単価については日本公認会計士協会の監査実施状況調査で客観的な水準を確認できます。2024年度調査(2024年4月期から2025年3月期に係る監査が対象、2025年12月公表)によると、会社法監査における時間当たり平均単価は13,403円、すべての監査区分を合わせた総平均は12,779円でした。監査報酬額はいずれも消費税等を除いた金額です。
同じ調査では、会社法監査を受けている会社(6,160社)の1社当たり平均監査時間は1,212.6時間、平均監査報酬は16,253千円です。売上高10億円未満の区分(859社)に限ると平均385.2時間、平均5,111千円、時間当たり平均単価13,269円となっており、規模が小さくても単価そのものは大きく下がらないことが分かります。
つまり、任意監査の見積額が想定監査時間×1万3千円前後から大きく乖離している場合は、単価ではなく想定している監査時間に認識のずれがある可能性が高いといえます。見積りを比較するときは、金額の総額ではなく時間の前提から確認するのが実務的です。
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任意監査と法定監査の違い
法定監査は、法令が実施を義務づけている監査です。会社法では、大会社は会計監査人を置かなければならず(会社法 第328条第1項、第2項)、大会社とは最終事業年度の貸借対照表上の資本金が5億円以上、または負債の合計額が200億円以上の株式会社をいいます(会社法 第2条第6号)。会計監査人は計算書類およびその附属明細書等を監査し、会計監査報告を作成します(会社法 第396条第1項)。金融商品取引法では、上場会社等が同法の規定により提出する財務計算に関する書類について、公認会計士または監査法人の監査証明を受けなければならないとされています(金融商品取引法 第193条の2第1項)。
これに対して任意監査は、法令上の義務がないにもかかわらず、親会社の要請や融資の条件、株主への説明といった当事者の必要から契約に基づいて実施する監査です。義務ではないぶん、監査の対象・範囲・報告書の宛先を契約で設計できる点が最大の違いになります。
| 実施の根拠 | 法令上の義務はなく、依頼者と監査人の監査契約に基づいて実施します。 |
|---|---|
| 監査の範囲 | 財務諸表の全体だけでなく、個別の財務表や特定の財務諸表項目に限定することもできます。 |
| 準拠する枠組み | 一般に公正妥当と認められる企業会計の基準のほか、契約や規程で定めた特別目的の財務報告の枠組みを用いる場合があります。 |
| 報告書の宛先 | 株主総会ではなく、親会社や金融機関など報告を求める特定の相手方となることが一般的です。 |
| 監査人の選任と報酬 | 株主総会による選任決議や監査役等の同意は要さず、契約当事者の合意で決まります。 |
なお、大会社に該当しない会社が定款の定めによって会計監査人を置くことができますが(会社法 第326条第2項)、この場合の監査は会社法に基づく監査であり、任意監査ではありません。会計監査人を置いた以上は、計算書類等について会計監査人の監査を受ける必要があり(会社法 第436条第2項第1号)、報酬を定める際には監査役等の同意も必要になります(会社法 第399条第1項)。「任意設置の会計監査人監査」と「任意監査」は費用の決まり方も手続も異なるため、見積りを依頼する前に区別しておくことが重要です。
任意監査が求められる主な場面
任意監査の費用は目的によって変わるため、まず自社がどの場面に当てはまるかを整理します。実務で相談が多いのは次の5つです。
- 親会社・グループからの要請:連結財務諸表の作成にあたり、重要性の高い子会社について個別に監査を求められるケース。連結パッケージの提出期限に合わせるため、監査のスケジュールが親会社の決算日程に拘束されます。
- 金融機関からの要請:融資契約や財務制限条項に関連して、監査済みの決算書の提出を求められるケース。提出期限と報告書の様式が費用に影響します。
- 株主・投資家への報告:ベンチャーキャピタルや少数株主から、投資契約に基づき監査を受けることを求められるケース。
- M&A・事業承継の局面:買収先や譲渡先に対して財務情報の信頼性を示すために監査を受けるケース。デューデリジェンスとは目的も手続も異なります。
- 上場準備の初期段階:金融商品取引法監査を受ける前の段階で、会計処理や決算体制を早めに整えるために任意で監査を受けるケース。
このうち上場準備の任意監査は、他の類型より費用が高くなりやすい傾向があります。将来の法定監査を見据えて、監査に耐える決算体制そのものの整備状況を確かめる必要があり、通常の監査手続に加えて期首残高の検証や過年度の会計方針の確認に時間を要するためです。
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見積書の内訳と確認すべきチェックポイント
任意監査の見積書は、監査法人によって記載の粒度が大きく異なります。総額だけを比較しても判断できないため、次の6項目が書かれているかを確認し、書かれていなければ必ず質問してください。
| 想定監査時間と 関与者の構成 |
総時間だけでなく、業務執行社員・公認会計士・その他補助者の内訳が示されているか。単価の妥当性は構成で決まります。 |
|---|---|
| 監査の範囲と 準拠する枠組み |
対象が財務諸表の全体か個別の財務表か、準拠する枠組みが一般目的か特別目的かが明記されているか。 |
| 発行される 報告書の種類 |
監査報告書なのか、レビューや合意された手続の報告書なのか。求められている保証の水準と一致しているか。 |
| 初年度に固有の作業 | 期首残高の検証、会計方針の確認、内部統制の理解など初年度だけ発生する工数が、次年度以降と区別されているか。 |
| 報酬に含まれない業務 | 決算支援、税務、システム対応、追加の往査などが別料金となる範囲。曖昧なままだと追加請求の原因になります。 |
| 報酬を改定する条件 | 想定時間を超過した場合の取扱い、事業規模や拠点数が変わった場合の改定ルール。 |
とくに見落としが多いのが「発行される報告書の種類」です。親会社や金融機関が求めているのが監査報告書ではなく、限定された手続の実施結果の報告で足りる場合があります。監査には財務諸表全体に対する合理的保証が伴うため相応の工数が必要ですが、対象を限定できれば費用は大きく下がります。依頼元に対して、どの水準の報告書が必要かを先に確認しておくことをおすすめします。
なお、財務諸表の全体ではなく個別の財務表や特定の項目だけを対象とする監査、契約や規程で定めた枠組みに準拠して作成された財務諸表に対する監査については、日本公認会計士協会の監査基準報告書805および監査基準報告書800に実務上の取扱いが定められています。どの類型で依頼するかによって報告書の記載も変わるため、見積り依頼の段階で監査人と目的を共有しておくと手戻りがありません。
任意監査の費用を抑える実務
費用の大半は監査時間であるため、抑えられる余地も監査時間の側にあります。実務で効果が大きいのは次の4点です。
- 目的と範囲を先に確定する:報告を求めている相手に必要な保証の水準を確認し、対象範囲を絞り込みます。範囲が固まらないまま見積りを取ると、監査人はリスクを織り込んで時間を厚めに見積もります。
- 決算資料の様式を事前に揃える:勘定科目明細、増減分析、契約書のファイリングを監査人の依頼様式に合わせて準備しておくと、質問と再依頼の往復が減ります。
- 決算日程に余裕を持たせる:短期間に手続を集中させると人員を厚く配置する必要が生じ、単価も工数も上振れします。
- 複数年の契約を前提に相談する:初年度に発生する期首残高の検証などは翌年度以降には生じないため、複数年で見た総額で比較すると判断しやすくなります。
反対に、単価の引下げだけを交渉しても効果は限定的です。前述のとおり時間単価は監査全体で1万3千円前後に収れんしており、大幅に低い単価が提示された場合は、想定監査時間や関与者の構成が実態と合っていない可能性を疑うべきです。
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まとめ
任意監査の費用は、監査時間と時間単価の掛け算で決まります。時間単価は日本公認会計士協会の監査実施状況調査で確認でき、2024年度調査では会社法監査で13,403円、全体平均で12,779円でした。したがって、見積額の妥当性を判断する起点は単価ではなく想定監査時間です。
そのうえで、依頼の目的(親会社報告・金融機関提出・株主報告・M&A・上場準備)によって必要な範囲と保証の水準は異なります。見積書では、想定時間と関与者の構成、監査の範囲と枠組み、発行される報告書の種類、初年度固有の作業、報酬に含まれない業務、改定条件の6項目を必ず確認してください。範囲の設計次第で費用は大きく変わるため、監査人へ相談する前に依頼元が求める報告書の水準を確かめておくことが、結果的にもっとも費用の抑制につながります。
任意監査は法令上の要件がないぶん、どこまでを対象とするかの設計が費用と有用性を左右します。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
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よくある質問
任意監査の費用相場はいくらですか。
任意監査には公的な統計がないため一律の相場はありませんが、当事務所の実務経験では、単体の財務諸表を対象とする場合で年間200万〜700万円程度、上場準備の初期段階では年間600万〜1,200万円程度が目安です。想定監査時間に時間単価1万3千円前後を掛けた金額が一つの基準になります。
任意監査は法定監査より費用が安くなりますか。
監査の対象範囲を限定できるぶん、財務諸表全体を対象とする法定監査より低く収まることが多くあります。ただし範囲を限定しない場合、監査手続そのものは法定監査と変わらないため、費用も同水準になります。安くなるかどうかは会社の規模ではなく範囲の設計で決まります。
任意監査の報酬に監査役の同意は必要ですか。
不要です。監査役等の同意が求められるのは会計監査人の報酬等を定める場合であり(会社法 第399条第1項)、会計監査人を置かずに契約で実施する任意監査には適用されません。社内規程で決裁手続を定めておくとよいでしょう。
任意監査でも監査報告書は発行されますか。
発行されます。ただし宛先は株主総会ではなく、親会社や金融機関など報告を求める特定の相手方となるのが一般的です。個別の財務表や特定の項目だけを対象とする場合は、その範囲に対応した監査報告書が発行されます。
見積りを比較するときは何を見ればよいですか。
総額ではなく想定監査時間とその内訳(業務執行社員・公認会計士・その他補助者の構成)を比較してください。総額が低くても想定時間が実態より少なければ、期中で追加報酬が発生する可能性があります。あわせて、報酬に含まれない業務の範囲と改定条件も確認します。
上場準備では任意監査をいつから受けるべきですか。
上場後は金融商品取引法に基づく監査証明が必要になるため(金融商品取引法 第193条の2第1項)、申請期から逆算して決算体制を整える時間を確保する必要があります。初年度は期首残高の検証など固有の作業が発生するため、法定監査が必要になる時期の手前に余裕をもって着手することをおすすめします。
本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。



