ショートレビューとは|費用・期間の見方とチェック項目13件
目次
ショートレビューは、監査法人やアドバイザーが上場に向けた課題を洗い出すために行う調査で、予備調査、短期調査、制度調査、クイックレビューなどとも呼ばれます。法令に基づく監査ではなく任意の調査であるため、調査範囲・実施期間・費用のいずれにも決まった型がありません。だからこそ、依頼する側が「どこまで見てもらうのか」「何を準備しておくのか」を先に握っておくと、報告書の実用性が大きく変わります。
この記事では、ショートレビューの位置づけと実施時期、調査範囲と期間の考え方、見積りで確認しておきたい項目を整理し、公的資料で示されている事前準備13項目のチェック表を掲げます。IPO準備の第一歩として、自社が今どこまで整っているかを確かめる材料としてお使いください。
ショートレビューの定義と呼称
ショートレビューは、監査法人やアドバイザーが、上場に向けて改善すべき課題を抽出するために行う調査です。呼称は予備調査、短期調査、制度調査、クイックレビューなど様々で、調査範囲を会計面だけに限定するか、経営管理体制や人事労務まで広げるかも案件ごとに異なります。抽出される課題は上場準備において重要なものが多く、項目も多岐にわたるため、報告を受けたあと助言を受けながら解決していく流れが一般的です。
ここで押さえておきたいのは、ショートレビューが法令に基づく監査ではないという点です。上場申請の直前2期間について求められるのは、金融商品取引法に基づく監査証明を前提とした会計監査であり(金融商品取引法 第193条の2第1項)、ショートレビューはその前段階に置かれる任意の調査です。監査意見も監査報告書も出ません。したがって「ショートレビューを受けた」こと自体が、上場審査で監査を受けた実績として扱われるわけではありません。
| 位置づけ | 監査契約の締結に先立って行われる任意の調査。法令上の監査証明業務ではない |
|---|---|
| 主な目的 | 上場に向けて改善すべき課題の抽出と、改善の優先順位・スケジュールの整理 |
| 別の呼び方 | 予備調査、短期調査、制度調査、クイックレビュー |
| 成果物 | 抽出された課題と改善提案をまとめた報告書。監査意見は表明されない |
| 調査範囲 | 会計面に限定する場合と、経営管理体制・業務管理体制・人事労務などへ広げる場合がある |
実務では、経営者がこの報告書の内容を検討して最終的な上場意思決定を行う、という使われ方をします。上場するかどうかを決めるための材料でもあるため、「課題が多く出ること」は失敗ではありません。むしろ、後の期になって初めて発覚するほうが痛手になります。
実施時期と監査契約までの位置づけ
ショートレビューの時期は、会計監査を受けなければならない期間から逆算して決まります。上場申請の直前2期間は監査法人による監査証明が必要となるため、その期間に入る前、すなわち申請期の3期前(N-3期)までに監査法人へ相談し、ショートレビューを受けておく形が標準的です。監査対象期間に入ってから監査法人を探し始めると、遡って監査を受けること自体が難しく、スケジュールが1年単位で後ろにずれます。
順序を整理すると、次のようになります。
- 監査法人・アドバイザーへの相談と面談
- ショートレビューの実施と報告書の受領
- 抽出された課題の整理と改善着手
- 監査対象期間に入る前の期首残高の検証
- 監査契約の締結
公的資料でも、上場準備期間の早い段階で監査法人やアドバイザーに相談し、内部管理体制の整備を進めることが推奨されています。整備には時間がかかるうえ、上場審査では整備しただけでなく一定期間の運用実績が確認されるため、ショートレビューの時期が遅れると、その後のすべての工程が圧縮されてしまいます。
関連コラムIPO監査とは|N-2期からの逆算スケジュールと監査契約までの流れ▸
調査範囲と期間の目安
ショートレビューの期間と工数は、調査範囲の広さでほぼ決まります。会計方針と決算体制に絞る調査と、経営管理体制・業務管理体制・関係会社・人事労務・許認可まで含める調査では、必要な資料の量も面談する部署の数も変わります。見積りを比較するときは、金額の大小より先に「どの範囲を見る前提の金額か」を揃えて確認する必要があります。
実務では、資料の依頼から報告書の提出までに1か月前後をみておくと、無理のない進め方になります。現地でのヒアリングそのものは数日で終わることが多い一方、事前に提出する資料の準備と、報告書ドラフトに対する事実確認のやり取りに時間がかかるためです。決算期末や申告期の直前は経理部門の手が空かないため、その時期を避けて日程を組むだけでも、社内の負担は目に見えて軽くなります。
調査で見られる領域は、おおむね次の範囲に及びます。
- 事業の内容、方針、競争環境と経営課題
- 事業計画・年度予算・月次予算と部門別の損益管理
- 会計方針、原価計算、決算書の作成状況
- 販売・購買・在庫・労務などの業務管理制度
- コーポレート・ガバナンス、組織、社内規程
- 関係会社および特別な利害関係者との取引
- 内部統制報告制度への対応状況
会計面だけを見てもらう前提で依頼したのに、労務や許認可の話まで聞かれて驚く、という声も実務では聞きます。範囲の広さは良し悪しではなく、依頼の目的と時期に合っているかどうかの問題です。上場意思決定の材料にしたい段階なら広く、会計面の課題を潰し込む段階なら絞る、という使い分けが現実的です。
事前準備のチェック項目13件
日本公認会計士協会は、初めてショートレビューを受ける会社、または初めて会計監査を受ける会社にありがちな指摘を、事前準備のポイントとして13項目に整理して公表しています。いずれも「監査法人に打診する前に自社で確かめられること」ばかりです。依頼前のセルフチェックとしてそのまま使えます。
| 確認項目 | 確認の着眼点 |
|---|---|
| 会計データ・裏付証憑の整理 | 仕訳の根拠となる証憑書類や計算資料が、検証可能な状態で網羅的に保管されているか |
| 発生主義会計と収益認識会計基準への対応 | 現金主義で処理している項目を発生主義に直せるか。売上について顧客との取引条件が整理されているか |
| 棚卸資産管理 | 実地棚卸を適切に実施しているか。在庫の受払記録を適切に作成しているか |
| 原価計算体制 | 原価計算を実施するための体制が整備されているか |
| 資産・負債の管理 | 固定資産台帳の資産が実在するか。勘定科目内訳に内容不明の残高が残っていないか |
| 連結決算 | 連結範囲の確定前に整理すべき関係会社がないか。子会社に連結決算へ対応できる体制があるか |
| 関連当事者取引の把握・整理 | 関連当事者との取引を網羅的に把握・整理できているか |
| 内部管理体制の構築 | 決算書を作成するための体制が、子会社を含めて整備され適切に運用されているか |
| 労務管理 | 労務管理に課題がないか |
| 情報システムの内部統制 | IT全社統制・IT全般統制が整っているか。外部業者が提供するITサービスの信頼性と安全性を確かめているか |
| 不正への対応 | 役職員の不正の防止体制ができているか。資金の出納と記帳の分離が図られているか |
| 会計上の見積り | 固定資産の減損や引当金の計上など、将来の見積りを検討する体制を整備しているか |
| 会計基準の選択 | 上場時の会計基準として日本基準とIFRS基準のどちらを選択するか |
会計面で指摘されやすい論点
13項目のうち会計面に関わるものは、要するに「税務申告のための決算」から「投資家に開示するための決算」へ切り替えられるか、という一点に集約されます。非上場の段階では、税法上の取扱いに合わせた処理や、入出金の時点での計上が残っていることが珍しくありません。上場を目指すのであれば、収益は収益認識に関する会計基準に従って計上し、費用は請求書の受領や支払の有無にかかわらず、提供を受けた時点で計上するのが基本になります。
実務でとくに時間がかかるのは、次のような領域です。
- 現金主義で処理していた項目の発生主義への切替えと、そのための証憑の入手
- 収益認識に関する会計基準にあてはめた売上の計上単位・計上時点の整理
- 連結範囲の確定と、子会社側の決算体制の立ち上げ
- 減損や各種引当金など、会計上の見積りを検討する社内プロセスの新設
- 原価計算の仕組みと、在庫の受払記録の整備
いずれも、仕組みを作ってから1期分のデータが揃うまで待つ必要があるものです。ショートレビューの時期を前に倒す価値がいちばん大きいのは、この領域です。
関連コラム初年度監査の準備|開始残高の検証と追加で求められる資料一覧▸
会計以外で指摘されやすい論点
会計以外では、労務管理、情報システムの内部統制、不正の防止体制、関連当事者取引の4つが繰り返し取り上げられます。いずれも金額としては小さく見えても、解消に社外との交渉や社内制度の変更を伴うため、着手が遅れると期をまたぐことになります。
関連当事者取引については、そもそも「誰が関連当事者にあたるか」の洗い出しから始める会社が多く、把握の網羅性が論点になります。取引を解消するのか、条件を見直して継続するのかという判断も伴うため、早い段階で全体像をつかんでおくほど選択肢が広がります。
関連コラム会社法監査の要件と開始時期|大会社の判定時点と会計監査人の選任▸
会社法監査・会計監査人の選任は公認会計士へ
大手品質×中堅価格の会社法監査|公認会計士事務所プライムパートナーズ
無料見積り・ご相談はこちら
費用の考え方と見積りで確認する項目
ショートレビューは任意の調査であるため、報酬に法令上の基準はなく、公的な統計も公表されていません。金額は、調査範囲の広さ、会社および子会社の規模、拠点や海外子会社の有無、担当者の職階と関与工数によって決まります。したがって、一律の相場を示すことはできず、見積書に書かれた金額だけを並べて比較しても意味のある判断になりません。
実務で費用の妥当性を見るときは、金額を「工数」と「単価」に分解し、そのうえで前提条件を揃えます。見積書を受け取ったら、少なくとも次の項目を確認しておくことをおすすめします。
| 調査範囲 | 会計面に限定するのか、経営管理体制・人事労務・許認可まで含むのか |
|---|---|
| 対象会社の範囲 | 単体のみか、子会社・関連会社を含むか。海外子会社の扱い |
| 想定工数と 担当者の職階 |
パートナー・マネージャー・スタッフごとの想定時間が示されているか |
| 現地調査の日数 | 訪問日数と訪問拠点の数。オンラインで代替する範囲 |
| 成果物の形式 | 報告書の分量と粒度。業務フローや改善スケジュールの提示を含むか |
| 報告会の有無 | 経営陣への報告会や質疑の場が含まれるか。回数の上限 |
| 追加費用の条件 | 範囲外の論点が出た場合の取扱い。期首残高の検証が別途費用となるか |
| 実費の扱い | 交通費・宿泊費が報酬に含まれるか、別途請求か |
とくに見落としやすいのが最後の2つです。ショートレビューの後に続く期首残高の検証や、その後のアドバイザリー業務が別契約・別費用になるケースは実務上珍しくありません。合計でいくらかかるのかを、監査契約の年額とあわせて確認しておくと、後から予算が足りなくなる事態を避けられます。
なお、監査時間の単価水準そのものは、任意監査の費用を考えるときと同じ見方が使えます。工数と単価に分解して見る方法は、次のコラムで具体的に整理しています。
関連コラム任意監査の費用相場と種類|法定監査との違いと見積りの見方▸
依頼先の要件と独立性の制約
ショートレビュー自体は任意の調査なので、依頼先に法令上の資格要件はありません。ただし、その後に続く会計監査には要件があります。上場会社等の財務書類について金融商品取引法に基づく監査証明業務を行うには、日本公認会計士協会の上場会社等監査人名簿への登録を受けている必要があり(公認会計士法 第34条の34の2、金融商品取引法 第193条の2第1項)、登録を受けていない事務所は上場後の監査を担えません。将来の監査を見据えて相談するのであれば、この登録の有無を最初に確認しておくのが確実です。
もう一点、注意しておきたいのが独立性です。ショートレビューやその後のアドバイザリー業務を、会計監査を依頼する予定の監査法人が実施する場合がありますが、独立性の制約から、監査と並行して同じ法人から助言を受けられないことがあります。改善作業の伴走をどこに頼むのかは、監査法人の選定と切り離さずに考えておくと、途中で体制を組み替える手戻りを防げます。
関連コラム監査法人の選び方7つの基準|判定表と相見積りの進め方▸
報告書を受け取ったあとの進め方
ショートレビューの価値は、報告書を受け取った時点ではまだ半分も実現していません。抽出された課題を一覧のまま置いておくと、次の期に同じ指摘を繰り返し受けることになります。実務では、報告書を課題管理の表に置き換える作業を、受領後すぐに行うことをおすすめしています。
- 課題ごとに「いつまでに、誰が、どの水準まで」対応するかを決める
- 決算期末をまたぐ課題と、制度を作れば終わる課題を分ける
- 運用実績が必要な課題を洗い出し、整備の期限を1期前に前倒しする
- 解消状況を定期的に更新し、社内の会議体で共有する
とくに3番目が肝心です。規程を整えるだけで済む課題と、整えたうえで運用した実績が求められる課題では、必要な時間がまったく違います。内部監査や社内規程の運用のように、整備してから1期分の運用が前提になる課題は、ショートレビューの直後から着手しておく必要があります。
また、会社の規模が会社法上の大会社に該当すれば、上場準備とは別に会計監査人を置く義務が生じます(会社法 第328条)。会計監査人は計算書類およびその附属明細書、臨時計算書類、連結計算書類を監査し、会計監査報告を作成します(会社法 第396条第1項)。ショートレビューの段階で自社の資本金と負債の規模を確認しておくと、会社法監査と上場準備の監査の関係を早めに整理できます。
まとめ
ショートレビューは、上場に向けた課題を洗い出すための任意の調査で、予備調査や短期調査とも呼ばれます。法令に基づく監査ではないため監査意見は出ませんが、申請の直前2期間について監査証明が必要となることから(金融商品取引法 第193条の2第1項)、その期間に入る前、申請期の3期前までに受けておく流れが標準的です。
費用と期間は調査範囲で大きく変わるため、相場を一律に示すことはできません。見積りは工数と単価に分解し、範囲・対象会社・成果物・追加費用の条件まで揃えて比較してください。依頼前には、本記事の13項目のチェック表で自社の準備状況を確かめておくと、限られた調査時間を本質的な論点に使えます。将来の監査を見据えるのであれば、上場会社等監査人名簿への登録の有無も最初に確認しておきましょう。
調査範囲の決め方や課題の優先順位づけは会社の状況によって異なりますので、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
会社法監査の無料見積り・ご相談はこちら参考文献
- e-Gov法令検索 金融商品取引法
- e-Gov法令検索 公認会計士法
- e-Gov法令検索 会社法
- 日本公認会計士協会 株式新規上場(IPO)のための事前準備ガイドブック~会計監査を受ける前に準備しておきたいポイント~
よくある質問
ショートレビューは監査と同じものですか。
異なります。ショートレビューは上場に向けた課題を抽出するための任意の調査で、予備調査や短期調査とも呼ばれます。法令に基づく監査証明業務ではないため、監査意見は表明されず、監査報告書も発行されません。申請の直前2期間について求められる監査証明は別に受ける必要があります(金融商品取引法 第193条の2第1項)。
ショートレビューの費用はいくらですか。
任意の調査であるため法令上の基準や公的な統計はなく、一律の相場を示すことはできません。金額は調査範囲、単体か連結か、拠点や海外子会社の有無、担当者の職階と想定工数で決まります。見積りを比べるときは、金額だけでなく範囲・対象会社・成果物の形式・追加費用の条件を揃えて確認してください。
ショートレビューはいつ受けるべきですか。
上場申請の直前2期間は監査証明が必要となるため、その期間に入る前、すなわち申請期の3期前までに受けておく形が標準的です。整備した体制の運用実績が求められる課題もあるため、実務では前に倒すほど選択肢が広がります。
どのくらいの期間がかかりますか。
調査範囲によって変わります。実務では、資料の依頼から報告書の提出までに1か月前後をみておくと無理のない進め方になります。現地でのヒアリングは数日で終わることが多く、時間がかかるのは事前資料の準備と報告書ドラフトの事実確認です。
ショートレビューを受けた監査法人と必ず監査契約を結ぶのですか。
必ずしもそうではありません。ただし別の監査法人へ切り替えると、会社の理解を一から共有し直すことになり、時間と費用の面で負担が増えます。将来の監査を見据えるのであれば、上場会社等監査人名簿への登録の有無を含め、依頼先の選定を先に済ませておくのが現実的です(公認会計士法 第34条の34の2)。
ショートレビューで多くの課題を指摘されたら、上場は難しいのですか。
そうとは限りません。ショートレビューは課題を早い段階で可視化するための調査であり、指摘の多さがそのまま上場可否を決めるものではありません。重要なのは、課題ごとに期限と担当を決め、運用実績が必要なものから着手できているかという点です。
本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。



