社会福祉法人の会計監査人設置義務|収益30億円・負債60億円の判定
目次
- 会計監査人の設置義務がある社会福祉法人
- 収益30億円超・負債60億円超の判定基準
- 判定に用いる決算書の欄と「最終会計年度」
- 設置義務に該当した後の手続とスケジュール
- 定款変更と所轄庁の認可
- 評議員会の選任決議と監事による議案内容の決定
- 報酬の決定と監事の同意
- 該当判明から監査開始までの流れ
- 会計監査人を置いた後に変わる決算実務
- 該当が見込まれるときの確認事項
- 基準値の段階的引き下げをめぐる現状
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- 収益30億円と負債60億円の両方を超えないと設置義務は生じませんか。
- 判定に使う収益は事業活動計算書のどの欄ですか。
- 設置義務がない法人でも会計監査人を置けますか。
- 会計監査人の任期は何年ですか。毎年選任決議が必要ですか。
社会福祉法人の規模が大きくなると、ある年の決算をきっかけに「来期から会計監査人が必要になる」と所轄庁や顧問会計事務所から言われることがあります。会社法の大会社とは基準値も判定の仕方も異なるため、どの数字で判定されるのかが分かりにくいのが実情です。
この記事では、社会福祉法人の会計監査人設置義務について、収益30億円超・負債60億円超という2つの基準値と、判定に使う決算書の欄を条文ベースで整理します。あわせて、該当が判明してから定款変更・選任決議・所轄庁への届出までに何をどの順で進めるかを、1本のスケジュールにまとめました。
会計監査人の設置義務がある社会福祉法人
社会福祉法人は、評議員、評議員会、理事、理事会および監事を置かなければならないとされており、会計監査人はこの必置機関には含まれていません(社会福祉法 第36条第1項)。会計監査人は、定款の定めによって任意に置くことができる機関です(社会福祉法 第36条第2項)。
ただし、一定の規模を超える法人は「特定社会福祉法人」として、会計監査人を置かなければなりません(社会福祉法 第37条)。特定社会福祉法人とは、その事業の規模が政令で定める基準を超える社会福祉法人をいい、この基準値は社会福祉法施行令に置かれています。
収益30億円超・負債60億円超の判定基準
政令が定める基準は、収益と負債の2つです。2つの基準は「いずれかに該当すれば設置義務が生じる」という関係であり、両方を同時に超える必要はありません(社会福祉法施行令 第13条の3)。収益が20億円台でも負債が60億円を超えていれば、その時点で特定社会福祉法人に該当します。
| 収益基準 | 最終会計年度における社会福祉事業・公益事業・収益事業による経常的な収益の額が30億円を超えること(社会福祉法施行令 第13条の3第1号) |
|---|---|
| 負債基準 | 最終会計年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が60億円を超えること(社会福祉法施行令 第13条の3第2号) |
基準値は法人の事業内容や地域で変わるものではなく、全国一律です。介護・保育・障害福祉のいずれを主たる事業としていても、同じ数値で判定されます。
判定に用いる決算書の欄と「最終会計年度」
実務で迷いやすいのは、収益30億円をどの数字で測るかです。収益基準の「経常的な収益の額」は、社会福祉法人会計基準に基づく法人単位事業活動計算書の当年度決算(A)の「サービス活動収益計(1)」欄に計上した額と定められています(社会福祉法施行規則 第2条の6)。事業活動計算書の下部にあるサービス活動外収益や特別収益は含まれません。
この点を取り違えると判定を誤ります。たとえば施設整備補助金や固定資産売却益が特別収益に計上されている年度でも、それらは30億円の判定には入りません。逆に、拠点区分ごとではなく法人単位で合算した金額で判定するため、拠点単位では小さくても法人全体では基準を超えることがあります。
負債基準のほうは、法人単位貸借対照表の負債の部の合計額です。設備資金借入金や退職給付引当金、預り金などがすべて含まれるため、建替えのために独立行政法人福祉医療機構からの借入れを行った法人では、収益が基準未満でも負債側で該当するケースが起こりえます。
判定の基礎となる「最終会計年度」は、計算書類について定時評議員会の承認(会計監査人設置社会福祉法人の特則が適用される場合は理事会の承認)を受けた会計年度のうち、最も遅いものをいいます(社会福祉法施行令 第13条の3)。つまり、直近の決算が定時評議員会で確定した時点の数値で判定されることになります。翌期の予算や見込みで判定するわけではありません。
設置義務に該当した後の手続とスケジュール
設置義務は決算の確定によって明らかになるため、実務では「決算作業のさなかに来期の体制づくりが始まる」形になります。定款変更には所轄庁の認可が必要で、認可には一定の期間を要するため、決算見込みの段階から逆算して動くことが重要です。
定款変更と所轄庁の認可
会計監査人を置く場合、その事項は定款の記載事項です(社会福祉法 第31条第1項第8号)。したがって、これまで会計監査人を置いていなかった法人は、まず定款変更が必要になります。定款の変更は評議員会の決議によらなければならず、さらに所轄庁の認可を受けなければ効力を生じません(社会福祉法 第45条の36第1項、第2項)。
ここで注意したいのが、届出で足りる定款変更と、認可が必要な定款変更の区別です。届出で足りるのは、事務所の所在地、基本財産の増加、公告の方法に関する変更に限られています(社会福祉法施行規則 第4条第1項)。会計監査人に関する定款変更はこれに含まれないため、所轄庁の認可が必要です。認可申請には、定款に定める手続を経たことを証明する書類と変更後の定款を添付します(社会福祉法施行規則 第3条第1項)。
評議員会の選任決議と監事による議案内容の決定
会計監査人は、評議員会の決議によって選任します(社会福祉法 第43条第1項)。見落とされやすいのが、議案の内容を誰が決めるかという点です。評議員会に提出する会計監査人の選任・解任および不再任に関する議案の内容は、理事や理事会ではなく監事が決定します。監事が2人以上いる場合は、その過半数をもって決定します(社会福祉法 第43条第3項において準用する一般社団法人及び一般財団法人に関する法律 第73条第1項)。
会計監査人になれるのは、公認会計士(外国公認会計士を含む)または監査法人に限られます(社会福祉法 第45条の2第1項)。また、公認会計士法の規定により計算書類について監査をすることができない者は、会計監査人となることができません(社会福祉法 第45条の2第3項)。監査法人を選任した場合、その監査法人は社員のなかから職務を行うべき者を選定し、法人に通知します(社会福祉法 第45条の2第2項)。
報酬の決定と監事の同意
会計監査人の報酬等を定める場合、理事は監事(監事が2人以上ある場合はその過半数)の同意を得なければなりません(社会福祉法 第45条の19第6項において準用する一般社団法人及び一般財団法人に関する法律 第110条)。監査契約の金額を理事長の判断だけで決めることはできない、という点は契約実務で必ず確認が必要です。
報酬の水準そのものは、法人の事業規模、拠点・施設の数、拠点区分の複雑さ、内部統制の整備状況などによって幅があります。相見積りを取る場合も、金額だけでなく、往査の回数や拠点への訪問範囲、どこまでの資料を法人側で準備するのかという前提条件をそろえて比較することが実務上は有効です。
該当判明から監査開始までの流れ
ここまでの手続を時系列に並べると、次のようになります。定款変更の認可には所轄庁の審査期間が必要なため、決算の確定を待ってから動き始めると監査対象年度の期首に間に合わないおそれがあります。
| 決算見込みの把握 | 会計年度末の前後に、サービス活動収益計と負債の部の合計額の見込みを確認し、基準への該当可能性を早期に把握する |
|---|---|
| 計算書類の作成 | 毎会計年度終了後3月以内に計算書類・事業報告およびこれらの附属明細書を作成する(社会福祉法 第45条の27第2項) |
| 該当の確定 | 定時評議員会で計算書類の承認を受けた時点の数値により、特定社会福祉法人への該当が確定する |
| 監事による議案決定 | 選任議案の内容を監事(2人以上の場合は過半数)が決定する |
| 評議員会の決議 | 会計監査人を置く旨の定款変更と、会計監査人の選任を評議員会で決議する |
| 所轄庁への認可申請 | 定款変更の条項と理由を記載した申請書に、手続を経たことの証明書類と変更後の定款を添付して提出する |
| 報酬の決定と契約 | 監事の同意を得たうえで報酬等を定め、監査契約を締結する |
| 計算書類等の届出 | 毎会計年度終了後3月以内に、計算書類等と財産目録等を所轄庁へ届け出る(社会福祉法 第59条) |
なお、監査を受ける初年度は、期首残高の妥当性を確かめる手続が追加で必要になるのが一般的です。監査対象となる会計年度が始まる前に監査人を決めておくと、期首の実地棚卸や固定資産の実査への立会いを含めた計画が立てやすくなります。
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会計監査人を置いた後に変わる決算実務
会計監査人を置くと、法人は「会計監査人設置社会福祉法人」となり(社会福祉法 第31条第4項)、決算から評議員会までの手続がいくつか変わります。主な変更点は次のとおりです。
| 計算書類等の監査 | 計算書類およびその附属明細書は監事および会計監査人の監査を、事業報告およびその附属明細書は監事の監査を受ける(社会福祉法 第45条の28第2項) |
|---|---|
| 財産目録等の監査 | 会計監査人は計算書類等のほか、財産目録その他厚生労働省令で定める書類を監査し、会計監査報告に結果を併せて記載する(社会福祉法 第45条の19第2項) |
| 監事の監査報告 | 会計監査人が行った監査の方法・結果について相当でないと判断した場合は、その理由を監事の監査報告に記載する(社会福祉法施行規則 第2条の31) |
| 定時評議員会での 計算書類の扱い |
厚生労働省令で定める要件に該当する場合、計算書類は定時評議員会の承認を要せず、理事が内容を報告する(社会福祉法 第45条の31) |
| 会計監査人の任期 | 選任後1年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時まで。別段の決議がなければ再任されたものとみなされる(社会福祉法 第45条の3第1項、第2項) |
| 内部管理体制の整備 | 政令で定める基準を超える社会福祉法人では、理事会が業務の適正を確保するための体制の整備を決定しなければならない(社会福祉法 第45条の13第5項) |
特に見落としやすいのが、最後の内部管理体制の整備です。会計監査人の設置義務と同じ政令の基準(社会福祉法施行令 第13条の3)が用いられているため、設置義務に該当した法人は、会計監査人の選任と同時に内部管理体制の整備も理事会で決定する必要があります。監査の準備と並行して、経理規程や決裁権限の整備状況を点検しておくと二度手間になりません。
該当が見込まれるときの確認事項
基準への該当が視野に入ってきた法人が、決算前に確認しておきたい項目を整理しました。
- 法人単位事業活動計算書のサービス活動収益計が30億円に近づいていないか(拠点区分単位ではなく法人単位で確認)
- 法人単位貸借対照表の負債の部の合計額が60億円に近づいていないか(設備資金借入金・退職給付引当金を含む)
- 新たな施設整備や法人の合併・事業譲受けの予定が、翌年度以降の収益・負債をどう動かすか
- 定款に会計監査人に関する定めがあるか。無い場合、定款変更の評議員会をいつ開くか
- 監事の人数と、選任議案の内容を決定する手続の段取り(監事が2人以上なら過半数の決定が必要)
- 経理規程・固定資産管理・資金管理の各規程が実際の運用と一致しているか
- 計算書類等を定時評議員会の日の2週間前から主たる事務所に備え置く体制があるか(社会福祉法 第45条の32第1項)
基準値の段階的引き下げをめぐる現状
会計監査人制度が社会福祉法人に導入された際、対象範囲を段階的に広げる方向性が示され、収益20億円超・負債40億円超、さらに収益10億円超・負債20億円超へと基準を下げる案が検討されてきました。実務の現場でも「いずれ10億円まで下がる」という前提で準備を進めている法人があります。
もっとも、2026年9月時点の社会福祉法施行令第13条の3は、収益30億円超・負債60億円超のままであり、基準値の引き下げは行われていません。引き下げが実施されるのであれば政令の改正が必要になるため、判定は現行の政令の数値で行うことになります。古い引き下げ予定を前提に対象を広く見積もると、不要な負担を先取りすることになりかねません。
一方で、設置義務がない法人であっても、定款の定めによって会計監査人を置くことは可能です(社会福祉法 第36条第2項)。所轄庁の指導監査や金融機関・行政への説明の場面で、外部の会計監査を受けていること自体が説明材料になる場合もあります。義務か任意かにかかわらず、自法人にとっての実益から判断する視点が有効です。
なお、法定監査が求められる範囲と基準値は法人の類型ごとに異なります。株式会社や学校法人など、ほかの類型との違いを整理したい場合は次のコラムもあわせてご確認ください。
関連コラム法定監査と任意監査の違い|種類一覧と対象会社の判定▸
関連コラム学校法人監査とは|私学助成法・私学法の2本立てと対象判定表▸
まとめ
社会福祉法人の会計監査人設置義務は、特定社会福祉法人に該当するかどうかで決まります(社会福祉法 第37条)。判定基準は収益30億円超または負債60億円超のいずれかで、収益はサービス活動収益計の額、負債は貸借対照表の負債の部の合計額を用います(社会福祉法施行令 第13条の3、社会福祉法施行規則 第2条の6)。
該当が確定したら、会計監査人を置く旨の定款変更(所轄庁の認可が必要)、監事による選任議案の内容決定、評議員会での選任決議、監事の同意を得た報酬の決定、という順で手続を進めます。あわせて、同じ政令基準により内部管理体制の整備も理事会の決定事項となる点を忘れないようにしてください。
基準値の該当が見込まれる段階で早めに監査法人の選定と体制整備に着手しておくと、監査対象年度の期首から余裕をもって対応できます。判定の当てはめや準備の進め方について、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
参考文献
- e-Gov法令検索 社会福祉法
- e-Gov法令検索 社会福祉法施行令
- e-Gov法令検索 社会福祉法施行規則
- e-Gov法令検索 社会福祉法人会計基準
- e-Gov法令検索 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律
- 厚生労働省 法人指導監査
よくある質問
収益30億円と負債60億円の両方を超えないと設置義務は生じませんか。
いいえ。2つの基準はいずれかに該当すれば足ります(社会福祉法施行令 第13条の3)。収益が30億円以下でも、貸借対照表の負債の部の合計額が60億円を超えていれば特定社会福祉法人に該当し、会計監査人を置かなければなりません(社会福祉法 第37条)。
判定に使う収益は事業活動計算書のどの欄ですか。
法人単位事業活動計算書の当年度決算(A)の「サービス活動収益計(1)」欄に計上した額です(社会福祉法施行規則 第2条の6)。サービス活動外収益や特別収益は判定に含まれません。拠点区分単位ではなく、法人単位で合算した金額を用います。
設置義務がない法人でも会計監査人を置けますか。
置くことができます。社会福祉法人は定款の定めによって会計監査人を置くことができるとされており(社会福祉法 第36条第2項)、この場合も定款に会計監査人に関する事項を定める必要があります(社会福祉法 第31条第1項第8号)。任意設置の場合も、会計監査人設置社会福祉法人として決算手続の特則が適用されます。
会計監査人の任期は何年ですか。毎年選任決議が必要ですか。
任期は、選任後1年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時までです(社会福祉法 第45条の3第1項)。ただし、その定時評議員会で別段の決議がされなかったときは再任されたものとみなされるため(同条第2項)、毎年あらためて選任決議を行う必要はありません。
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