医療法人の会計監査|負債50億円・収益70億円の判定と対応手順
目次
- 医療法人の会計監査が義務となる判定基準
- 一般の医療法人は負債50億円・事業収益70億円
- 社会医療法人は負債20億円・事業収益10億円
- 判定に使うのは「最終会計年度」の決算数値
- 会計監査の対象書類と監事監査との関係
- 適用される会計基準は医療法人会計基準
- 公告義務と書類の備置き・閲覧
- 決算から届出までのスケジュール
- 会計監査人設置会社との違いと監査人選定の手順
- 選任決議・登記は不要
- 該当した後に踏む5つのステップ
- 監査人の探し方
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- 負債50億円と事業収益70億円は両方を満たす必要がありますか。
- 今期の決算で初めて負債が50億円を超えました。今期から監査が必要ですか。
- 監査の対象になる書類は決算書すべてですか。
- 医療法人にも会計監査人の選任登記は必要ですか。
- 監査報告書はいつまでに受け取れますか。
医療法人の会計監査は、負債の合計額が50億円以上、または事業収益の合計額が70億円以上になった時点で法律上の義務になります。多くの法人にとっては「気づいたら対象になっていた」という形で始まるため、判定に使う決算数値と、該当した後に何をすればよいのかを早めに押さえておくことが重要です。
この記事では、医療法と医療法施行規則の条文をもとに、医療法人・社会医療法人の区分別の基準値を一覧表で整理し、いつの決算数値で判定するのか、該当したらどの順番で手続を進めるのかまでを1本にまとめます。会社法の会計監査人設置会社とは仕組みが異なる点にも触れます。
医療法人の会計監査が義務となる判定基準
医療法人のうち、事業活動の規模その他の事情を勘案して厚生労働省令で定める基準に該当する法人は、財産目録・貸借対照表・損益計算書について公認会計士または監査法人の監査を受けなければなりません(医療法 第51条第5項)。その「厚生労働省令で定める基準」を具体的に定めているのが医療法施行規則 第33条の2です。
基準は3つあり、いずれか1つに該当すれば会計監査の対象になります。区分ごとに基準値が異なるため、自法人がどの区分に当たるかをまず確認してください。
| 法人の区分 | 会計監査が義務となる基準 |
|---|---|
| 医療法人(社会医療法人を除く) | 負債の部の合計額が50億円以上、または事業収益の部の合計額が70億円以上 |
| 社会医療法人 | 負債の部の合計額が20億円以上、または事業収益の部の合計額が10億円以上 |
| 社会医療法人債発行法人である社会医療法人 | 金額基準にかかわらず対象 |
負債と事業収益は「かつ」ではなく「または」で結ばれています。つまり、負債が50億円に届かなくても事業収益が70億円以上あれば対象になり、その逆も同じです(医療法施行規則 第33条の2第1号)。病床数や職員数といった規模指標は判定に使いません。
一般の医療法人は負債50億円・事業収益70億円
社会医療法人以外の医療法人(持分あり・持分なしを問わず、社団・財団のいずれも含みます)は、負債50億円以上または事業収益70億円以上が基準です(医療法施行規則 第33条の2第1号)。特定医療法人や認定医療法人であっても、この区分の基準値が適用されます。
判定に使う「負債の部に計上した額の合計額」は、貸借対照表の負債合計です。長期借入金や退職給付引当金のほか、買掛金・未払金・預り金といった流動負債もすべて含みます。建物や医療機器の設備投資を借入金でまかなっている法人では、1回の建替えで負債合計が一気に基準を超えることがあるため注意が必要です。
「事業収益の部に計上した額の合計額」は、損益計算書の事業収益の合計です。本来業務・附帯業務・収益業務の各事業収益を合算した金額で判定することになり、受取利息などの事業外収益は含まれません。
社会医療法人は負債20億円・事業収益10億円
社会医療法人は、救急医療等確保事業に係る業務を行うことなどの要件を満たして都道府県知事の認定を受けた医療法人です(医療法 第42条の2第1項)。公益性が高く税制上の優遇もあるため、会計監査の基準値も一般の医療法人よりかなり低く設定されています。
具体的には、負債20億円以上または事業収益10億円以上で対象です(医療法施行規則 第33条の2第2号)。事業収益10億円は、一般の医療法人の70億円に対して7分の1の水準であり、社会医療法人の認定を受けると多くの法人が会計監査の対象に入ります。認定申請を検討する段階で、監査対応のコストと体制も併せて見込んでおくのが実務的です。
さらに、社会医療法人債を発行している社会医療法人は、金額基準に関係なく会計監査の対象になります(医療法施行規則 第33条の2第3号)。債券投資家への情報提供という位置づけのため、規模による除外がありません。
判定に使うのは「最終会計年度」の決算数値
実務で最も間違えやすいのが、いつの決算数値で判定するのかという点です。条文は「最終会計年度」に係る貸借対照表・損益計算書の金額で判定すると定めており、この最終会計年度とは、事業報告書等について理事会の承認を受けた直近の会計年度を指します(医療法施行規則 第33条の2第1号、医療法 第51条第6項)。
つまり、当年度の決算数値ではなく、前年度の確定した決算数値で当年度が会計監査の対象になるかどうかが決まります。3月決算の法人であれば、2026年3月期の決算で負債が50億円を超えた場合、監査の対象となるのは2027年3月期です。前年度の決算が固まった時点で翌年度の監査対応が確定するため、準備期間としておよそ1年を確保できる設計になっています。
逆にいえば、前年度末で基準を下回っていれば、当年度中に負債が50億円を超えても当年度は対象になりません。ただし翌年度は確実に対象となるので、決算が固まった直後に判定を行い、該当するなら速やかに監査人の選定に入る流れが安全です。
なお、地域医療連携推進法人についても、負債50億円以上または事業収益70億円以上という同じ基準値で公認会計士等の監査が求められます(医療法施行規則 第39条の22の2)。
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会計監査の対象書類と監事監査との関係
医療法人の決算には、すべての法人が受ける監事の監査と、基準に該当する法人だけが受ける公認会計士等の監査の2つがあります。両者は対象書類も根拠条文も異なるため、混同しないよう整理しておきます。
| 監事の監査 | すべての医療法人が対象。事業報告書・財産目録・貸借対照表・損益計算書・関係事業者との取引の状況に関する報告書などの事業報告書等の全体について監査を受けます(医療法 第51条第4項)。 |
|---|---|
| 公認会計士等の監査 | 医療法施行規則 第33条の2に該当する法人のみが対象。対象書類は財産目録・貸借対照表・損益計算書の3点に限られます(医療法 第51条第5項)。 |
公認会計士等の監査には、公認会計士法第2条第1項に規定する監査のほか、貸借対照表および損益計算書に表示された情報と表示すべき情報との合致の程度を確かめ、その結果を利害関係者に伝達するための手続が含まれます(医療法施行規則 第33条の2の2第2項)。監査報告書には、監査の方法および内容、法令に準拠して作成されているかどうかについての意見、追記情報、作成日などを記載します(医療法施行規則 第33条の2の5第1項)。
適用される会計基準は医療法人会計基準
会計監査の対象となる医療法人は、医療法人会計基準(平成28年厚生労働省令第95号)に従って貸借対照表および損益計算書を作成しなければなりません(医療法人会計基準 第1条)。この省令は、2015年改正医療法の施行日である2017年4月2日から施行されており、対象となる医療法人にはすでに適用されています(医療法人会計基準 附則第1条)。
会計処理にあたっては、真実性・正規の簿記・継続性・重要性の4つの原則が定められています(医療法人会計基準 第2条)。また、資産の評価基準および評価方法、固定資産の減価償却の方法、引当金の計上基準、消費税および地方消費税の会計処理の方法などの重要な会計方針は、損益計算書の次に記載します(医療法人会計基準 第3条)。
従来から病院会計準則や独自の経理規程で決算を組んでいた法人では、退職給付引当金の計上方法や消費税の処理方法が医療法人会計基準の求める形と異なっているケースが少なくありません。監査初年度の論点になりやすいため、監査人の選定と並行して会計方針の棚卸しを進めることをおすすめします。
公告義務と書類の備置き・閲覧
負債50億円以上または事業収益70億円以上の医療法人と、金額を問わずすべての社会医療法人は、社員総会または評議員会の承認後遅滞なく、貸借対照表および損益計算書を公告しなければなりません(医療法 第51条の3第1項、医療法施行規則 第33条の2の8)。公告方法は官報、日刊新聞紙、電子公告のいずれかから選択します(医療法施行規則 第33条の2の9第1項)。
会計監査の対象と公告義務の対象は一致しない点に注意してください。社会医療法人は、負債20億円・事業収益10億円の基準に該当しなくても公告義務だけは負います。電子公告を選んだ場合は、承認をした社員総会または評議員会の終結の日後3年を経過する日まで継続して公告する必要があります(医療法施行規則 第33条の2の10)。
また、会計監査の対象法人は、事業報告書等・監事の監査報告書・公認会計士等の監査報告書・定款または寄附行為を主たる事務所に備え置き、請求があった場合には閲覧に供しなければなりません(医療法 第51条の4第2項)。備置期間は、社員総会または評議員会の日の1週間前の日から5年間です(医療法 第51条の4第3項)。
決算から届出までのスケジュール
医療法人の決算スケジュールは、会計年度終了後2か月以内の書類作成と3か月以内の届出という2つの期限で挟まれています。会計監査を受ける場合、この限られた期間に監査手続と各承認をすべて収める必要があります。
| 事業報告書等の作成 | 毎会計年度終了後2か月以内に、事業報告書・財産目録・貸借対照表・損益計算書・関係事業者との取引の状況に関する報告書などを作成します(医療法 第51条第1項)。 |
|---|---|
| 公認会計士等の監査報告書の通知 | 書類を受領した日から4週間を経過した日と、理事・監事・公認会計士等が合意により定めた日のいずれか遅い日までに、理事および監事へ通知されます(医療法施行規則 第33条の2の6第1項)。 |
| 理事会の承認 | 監事および公認会計士等の監査を受けた事業報告書等について、理事会の承認を受けます(医療法 第51条第6項)。 |
| 社員総会・評議員会の承認 | 貸借対照表および損益計算書は社員総会(財団たる医療法人では評議員会)の承認を受け、それ以外の書類は内容を報告します(医療法 第51条の2第3項・第4項・第5項)。 |
| 都道府県知事への届出 | 毎会計年度終了後3か月以内に、事業報告書等・監事の監査報告書・公認会計士等の監査報告書を届け出ます(医療法 第52条第1項)。 |
3月決算の法人であれば、5月末までに書類を作成し、6月末までに届出を完了させる流れになります。監査報告書の通知期限が書類受領日から4週間後であることを踏まえると、決算作業そのものを例年より前倒しして、4月末から5月初旬には監査人へ書類を渡せる体制を作っておく必要があります。
なお、経営情報等の報告については、会計監査の対象となる医療法人に限り、毎会計年度終了後4か月以内という緩和された期限が設けられています(医療法施行規則 第38条の5第1項)。届出期限そのものが延びるわけではないので、混同しないようにしてください。
会計監査人設置会社との違いと監査人選定の手順
会社法上の大会社では「会計監査人」という機関を置き、株主総会での選任決議と登記が必要です。一方、医療法には会計監査人という機関の規定がなく、条文上は「公認会計士又は監査法人の監査を受けなければならない」と定められているだけです(医療法 第51条第5項)。
選任決議・登記は不要
医療法人の場合、監査を担う公認会計士または監査法人は法人の機関ではないため、社員総会での選任決議も、登記も、任期の管理も不要です。法人と監査人が監査契約を締結すれば足りる仕組みになっています。手続面の負担は会社法監査より軽い一方で、「誰がいつ選ぶか」を法律が決めていないぶん、法人側が主体的に動かないと監査人が決まらないまま期限が近づくことになります。
実務では、理事会に監査人選定の議案を上程して承認を得たうえで契約を締結する運用が一般的です。法律上の要求ではありませんが、監査報酬という重要な支出を伴うため、意思決定の記録を残しておくことをおすすめします。
該当した後に踏む5つのステップ
前年度の決算で基準に該当することが判明したら、次の順序で進めると監査初年度を無理なく迎えられます。届出期限から逆算すると、遅くとも当年度の上半期中に監査契約まで到達しておきたいところです。
- 前年度の貸借対照表の負債合計と損益計算書の事業収益合計を確定し、区分別の基準値と照合して該当の有無を判定する
- 該当する場合は、公認会計士または監査法人に打診し、予備的な調査を通じて監査上の論点と報酬の見積りを把握する
- 理事会で監査人選定の方針を決議し、監査契約を締結する
- 従来の会計処理を医療法人会計基準に照らして棚卸しし、退職給付引当金・減価償却・消費税の処理など差異のある項目を修正する
- 決算スケジュールを前倒しし、監査人が期中に往査できる日程と、会計年度終了後2か月以内の書類完成を確保する
特に4つ目の会計方針の棚卸しは、監査初年度に最も時間がかかる工程です。開始残高の検証や、過去の処理の妥当性の確認が必要になることがあるため、契約前の段階で論点を洗い出しておくと初年度の混乱を減らせます。
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監査人の探し方
医療法人の監査は、病院や診療所の収益構造、診療報酬の請求と入金のサイクル、医療機器のリースや設備投資といった業種特有の論点を理解している必要があります。規模の大小よりも、非営利法人や医療機関の監査実績があるかどうかを優先して候補を絞るのが現実的です。
複数の候補から見積りを取る場合は、監査報酬の総額だけでなく、想定される往査日数、担当者の体制、初年度の追加手続の有無まで含めて比較してください。初年度は開始残高の検証などで工数が増えるため、2年目以降の報酬水準も併せて確認しておくと予算を立てやすくなります。
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まとめ
医療法人の会計監査は、負債50億円以上または事業収益70億円以上で義務となり、社会医療法人では負債20億円以上または事業収益10億円以上、社会医療法人債発行法人は金額を問わず対象です(医療法施行規則 第33条の2)。判定は当年度ではなく、理事会の承認を受けた直近の会計年度、つまり前年度の決算数値で行います。
該当した場合は、公認会計士または監査法人の監査を受けたうえで、会計年度終了後3か月以内に監査報告書を添えて都道府県知事へ届け出ます(医療法 第51条第5項、第52条第1項)。会社法の会計監査人と違って選任決議も登記も不要な反面、法人側が自ら監査人を探して契約する必要があるため、前年度の決算が固まった時点で動き出すことが実務上の要になります。個別の判定や医療法人会計基準への移行については、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
参考文献
よくある質問
負債50億円と事業収益70億円は両方を満たす必要がありますか。
いずれか一方を満たせば会計監査の対象になります。条文は「負債の部に計上した額の合計額が五十億円以上又は……事業収益の部に計上した額の合計額が七十億円以上」と定めており、「または」の関係です(医療法施行規則 第33条の2第1号)。
今期の決算で初めて負債が50億円を超えました。今期から監査が必要ですか。
今期は対象になりません。判定は理事会の承認を受けた直近の会計年度、すなわち前年度の決算数値で行うため、今期の決算で基準を超えた場合は翌期から会計監査の対象になります(医療法施行規則 第33条の2第1号)。
監査の対象になる書類は決算書すべてですか。
公認会計士または監査法人の監査の対象は、財産目録・貸借対照表・損益計算書の3点です(医療法 第51条第5項)。事業報告書や関係事業者との取引の状況に関する報告書を含む事業報告書等の全体については、監事の監査を受けます(医療法 第51条第4項)。
医療法人にも会計監査人の選任登記は必要ですか。
必要ありません。医療法には会計監査人という機関の規定がなく、公認会計士または監査法人の監査を受けることが義務づけられているだけです(医療法 第51条第5項)。社員総会の選任決議や登記は求められず、監査契約の締結で足ります。
監査報告書はいつまでに受け取れますか。
公認会計士等は、財産目録・貸借対照表・損益計算書を受領した日から4週間を経過した日と、理事・監事・公認会計士等が合意により定めた日のいずれか遅い日までに、監査報告書の内容を理事および監事へ通知します(医療法施行規則 第33条の2の6第1項)。届出期限は会計年度終了後3か月以内のため、決算作業の前倒しが必要です(医療法 第52条第1項)。
会計監査の対象になったものの、どこから手をつければよいか判断がつかない場合は、現状の決算書をもとにした判定と初年度の論点整理からご相談いただけます。
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