期中監査と期末監査の違い|年間スケジュールと往査対応
目次
会計監査人による監査は、決算が終わってから一度に行われるわけではありません。事業年度の途中に実施される期中監査と、決算数値が固まってから実施される期末監査に役割が分かれており、期中で確かめた内容が期末監査の前提として引き継がれます。ここを理解しないまま期末だけ身構えると、期中に求められた資料の遅れがそのまま期末の追加手続に跳ね返ります。
本記事では、期中監査と期末監査の役割の違い、監査人が期中に何を確かめているのか、そして往査を受け入れる会社側が押さえるべき対応のポイントを、会社法・会社計算規則と監査の実務指針に沿って整理します。
期中監査と期末監査の役割の違い
会計監査人は、株式会社の計算書類及びその附属明細書、臨時計算書類並びに連結計算書類を監査し、会計監査報告を作成します(会社法 第396条第1項)。監査の対象そのものは決算書類ですが、監査人は決算を待って初めて動くわけではありません。会計監査人は、いつでも会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧及び謄写をし、取締役や使用人に対して会計に関する報告を求めることができるとされています(会社法 第396条第2項)。期中監査は、この権限を前提に、年度の途中で監査証拠を積み上げていく手続です。
両者の違いを観点ごとに整理すると、次のようになります。
| 主な目的 | 期中監査は、会社の業務プロセスと内部統制を理解し、どこに虚偽表示のリスクがあるかを見極めて監査計画を固めること。期末監査は、確定した決算数値が適正に表示されているかどうかについて意見を形成すること。 |
|---|---|
| 主な対象 | 期中監査は、販売・購買・在庫・給与などの業務プロセス、内部統制の整備と運用状況、期中までの取引記録。期末監査は、期末残高と年度の計算書類、附属明細書、連結計算書類。 |
| 代表的な手続 | 期中監査は、経理・営業・システム担当者への質問、業務の観察、証憑の閲覧、内部統制の運用評価手続。期末監査は、残高確認、実地棚卸の立会、期末残高の詳細テスト、計算書類の表示・注記の検討。 |
| 会社側の 主な負担 |
期中監査は、規程・業務フロー・サンプル証憑の提出と担当部署への説明対応が中心。期末監査は、決算資料一式の提出と、短期間に集中する質問・追加依頼への回答が中心。 |
| 結果の 使われ方 |
期中監査の結果は、期末監査で行う手続の種類・時期・範囲を決める前提になる。期末監査の結果は、会計監査報告として監査役等と取締役に通知される。 |
期中監査と期末監査は、別々の監査が2回行われるという関係ではありません。期中で得た心証が期末の手続量を決めるという一本の流れです。期中監査で内部統制が有効に運用されていると判断できれば、期末に行う詳細テストの範囲を絞り込める一方、期中に統制の不備や説明のつかない取引が見つかれば、期末の手続は厚くなります。
なお、会計監査人が監査の過程で取締役の職務の執行に関する不正の行為や、法令・定款に違反する重大な事実を発見したときは、遅滞なくこれを監査役に報告しなければならないとされています(会社法 第397条第1項)。期中監査は、こうした事実が年度末より前に把握される場面でもあります。
監査人が期中に確かめていること
期中監査で監査人が時間を割いているのは、決算数値そのものよりも、その数値が生まれてくる仕組みです。会社の業務プロセスを理解し、内部統制が設計どおりに運用されているかを確かめ、依拠できる統制とできない統制を仕分けていきます。
内部統制の運用評価手続と期中の監査証拠
監査人が内部統制に依拠しようとする場合、その依拠に関する適切な基礎を得るために運用評価手続を実施します。この手続を期中に実施して監査証拠を入手したときは、監査人は、手続を実施した後に当該内部統制に重要な変更がなかったかについての監査証拠を入手し、あわせて期末日までの残余期間についてどのような追加的な監査証拠を入手すべきかを決定しなければならないとされています(監査基準報告書330 第11項)。
実務では、これが期中の往査後に「その後、承認権限や締めのルールに変更はありませんか」と繰り返し確認される理由になります。期中に確かめた統制が年度の途中で入れ替わっていれば、期中に積み上げた監査証拠はその範囲で使えなくなるためです。
また、過年度の監査で入手した内部統制の運用状況の有効性に関する監査証拠を利用する場合でも、当該内部統制に重要な変更がないときであっても、少なくとも3年に1回は運用評価手続を実施しなければならないとされています。さらに、依拠する全ての内部統制について運用評価手続をある年度にまとめて実施し、その後2年間実施しないという運用は認められていません(監査基準報告書330 第13項第2号)。毎年の期中監査で対象となる業務プロセスが少しずつ入れ替わるのは、このためです。
特別な検討を必要とするリスクに対する内部統制に依拠しようとする場合には、過年度の証拠にかかわらず、当年度の監査において関連する内部統制の運用評価手続を実施しなければならないとされています(監査基準報告書330 第14項)。重要性の高い論点ほど、毎期きちんと見られると考えておくのが実態に合っています。
期中に実施した実証手続と残余期間の取扱い
監査人は、内部統制の評価だけでなく、実証手続の一部も期末日前を基準日として実施することがあります。この場合、期末日前に実施した手続の結果を期末日まで更新して利用するための合理的な根拠を得るため、残余期間について、運用評価手続と組み合わせて実証手続を実施するか、監査人が十分と判断する場合には実証手続のみを実施するか、いずれかの手続を行わなければならないとされています(監査基準報告書330 第21項)。
会社側から見ると、期中に一度確かめた売掛金や在庫について、期末近くに残余期間分の資料を改めて求められる場面がこれにあたります。二度手間に見えても、期中から期末までの間の動きを埋めるための手続であり、期中に丁寧に対応しておくほど期末の追加依頼は軽くなります。
逆に、期中にリスク評価の段階では予期していなかった虚偽表示が発見された場合、監査人は関連するリスク評価と、残余期間に対して計画していた実証手続の種類・時期・範囲を変更する必要があるかどうかを評価しなければならないとされています(監査基準報告書330 第22項)。期中に見つかった一件の誤りが、期末の手続全体を押し広げることがあるのはこのためです。
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年間スケジュールのなかでの位置づけ
会計監査人設置会社では、各事業年度に係る計算書類及びその附属明細書は、監査役(監査等委員会設置会社にあっては監査等委員会、指名委員会等設置会社にあっては監査委員会)及び会計監査人の監査を受けなければならないとされています(会社法 第436条第2項第1号)。そして会計監査人は、計算書類の全部を受領した日から4週間を経過した日、附属明細書を受領した日から1週間を経過した日、当事者間の合意により定めた日のうち、いずれか遅い日までに会計監査報告の内容を特定監査役及び特定取締役に通知しなければなりません(会社計算規則 第130条第1項第1号)。
つまり、決算日から定時株主総会までの限られた期間に、会計監査報告の通知、監査役等の監査報告、取締役会の承認という手順が連続します。期末監査だけで年度の監査をすべて片付けようとすると、この日程に収まりません。期中監査は、期末に集中する作業を前倒しして年間に均す仕組みでもあります。3月決算会社であれば、上期に業務プロセスの理解と内部統制の運用評価、下期に残余期間の手続と期末の準備、決算後に期末監査という配分が一般的です。
各工程で会社側が用意する資料や、法定の期限から逆算した準備の進め方は、次のコラムで工程別に整理しています。
関連コラム会計監査の流れ|準備スケジュールと必要書類チェックリスト▸
往査を受け入れるときの対応ポイント
往査とは、監査チームが会社を訪問し、その場で資料を閲覧し、担当者に質問しながら手続を進めることをいいます。期中監査の往査は、経理部門だけでなく、営業・購買・物流・情報システムなど、業務の現場に質問が及ぶ点が期末監査と大きく異なります。受け入れ側の準備として押さえておきたい項目を整理します。
| 窓口の一本化 | 依頼と回答を経理の窓口担当に集約し、誰がいつ何を渡したかを一覧で管理します。部署ごとに個別対応すると、同じ資料の重複提出や回答漏れが起きます。 |
|---|---|
| 依頼資料リストの 事前確認 |
往査の数週間前に依頼資料リストを受け取り、自社で用意できるもの・システムからの出力に時間がかかるもの・そもそも存在しないものに仕分けます。存在しない資料は早めにその旨を伝えます。 |
| 現場担当者の 日程確保 |
内部統制の運用評価では、実際に承認や照合を行っている担当者への質問が必要です。役職者だけでなく、日々手を動かしている担当者の時間を確保します。 |
| 規程と実態の 突合 |
職務権限規程や業務マニュアルと、実際の運用が食い違っていないかを事前に点検します。運用が変わっているのに規程が古いままという状態は、期中監査で最も指摘を受けやすい類型です。 |
| 期中の変更点の 棚卸し |
組織変更、システム更改、承認権限の見直し、新しい取引形態の開始など、前年度から変わった点をまとめて伝えます。監査人は変更点を起点に手続を組み立てます。 |
| 作業場所と アクセス権 |
会議室、ネットワーク、会計システムの閲覧権限をあらかじめ手配します。閲覧権限の付与に社内申請が必要な場合は、往査初日に間に合うよう逆算します。 |
実務で差が出るのは、資料の完成度よりも回答の速さと、答えられない理由の説明です。すぐに出せない資料であっても、いつまでに出せるかを伝えられていれば、監査人は手続の順序を組み替えられます。無言の遅延が続くと、統制に依拠できないと判断され、期末の詳細テストが増える方向に働きます。
初めて会計監査を受ける年度は、期中監査の負担がとりわけ大きくなります。開始残高の検証など、初年度特有の手続については次のコラムで整理しています。
関連コラム初年度監査の準備|開始残高の検証と追加で求められる資料一覧▸
期中監査を自社の改善に使う視点
期中監査は、監査人のための作業だと受け止められがちですが、会社にとっては決算前に業務の弱点を知らせてもらえる機会でもあります。期中に指摘された承認漏れや証憑の不備は、そのまま放置すれば期末に同じ論点で時間を取られます。往査の終了時に監査人から共有される気付き事項は、残りの期間で手当てできるものが少なくありません。
上場準備企業や、会計監査人を新たに設置した会社で多いのは、期中監査で洗い出された論点を「監査対応のリスト」としてだけ管理し、業務そのものを直さないまま期末を迎えるパターンです。承認ルートの見直しや証憑の保存方法の変更は、期中のうちに手を付けたほうが、年度を通じた統制の運用実績として残ります。
会社法監査が必要になる範囲や、金融商品取引法に基づく監査との関係は、次のコラムで整理しています。
関連コラム会社法監査とは|金商法監査との違いと対応スケジュール▸
まとめ
期中監査は業務プロセスと内部統制を確かめて監査計画を固める手続、期末監査は確定した計算書類について意見を形成する手続であり、両者は連続した一本の流れです。会計監査人はいつでも会計帳簿の閲覧や会計に関する報告を求めることができ(会社法 第396条第2項)、期中に入手した監査証拠は、重要な変更の有無の確認と残余期間の追加手続を経て期末監査へ引き継がれます(監査基準報告書330 第11項、第21項)。
受け入れ側としては、窓口の一本化、依頼資料リストの事前確認、現場担当者の日程確保、規程と実態の突合という基本を押さえておけば、期末に生じる追加依頼の多くは前倒しで解消できます。期中監査で得られた指摘を業務の改善に結びつけられるかどうかが、翌年度以降の監査対応の負担を左右します。
監査の受け入れ体制や往査の進め方は会社の規模・業種・機関設計によって異なるため、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
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よくある質問
期中監査は必ず実施されるのですか。
会社法は期中監査の実施を直接に義務付けてはいませんが、会計監査人はいつでも会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧及び謄写をし、会計に関する報告を求めることができるとされています(会社法 第396条第2項)。内部統制に依拠して監査を計画する場合、期中に運用評価手続を実施することが通常であり、実務上はほとんどの会社で期中監査が行われます。
期中監査で内部統制を見てもらえば、毎年は不要になりますか。
いいえ。過年度の監査で入手した運用状況の有効性に関する監査証拠を利用する場合でも、内部統制に重要な変更がないときであっても、少なくとも3年に1回は運用評価手続を実施しなければならないとされています。また、依拠する全ての内部統制についてある年度にまとめて実施し、その後2年間実施しないという運用は認められていません(監査基準報告書330 第13項第2号)。
期中に確認した売掛金を期末にもう一度聞かれるのはなぜですか。
期末日前を基準日として実証手続を実施した場合、その結果を期末日まで更新して利用するための合理的な根拠を得るため、残余期間について運用評価手続と組み合わせた実証手続、または実証手続のみを実施しなければならないとされているためです(監査基準報告書330 第21項)。期中から期末までの動きを埋める手続であり、重複ではありません。
期中監査で不備を指摘されると、期末監査の負担は増えますか。
増える可能性があります。期中にリスク評価の段階で予期していなかった虚偽表示が発見された場合、監査人はリスク評価と、残余期間に計画していた実証手続の種類・時期・範囲を変更する必要があるかどうかを評価しなければならないとされています(監査基準報告書330 第22項)。期中のうちに原因を手当てしておくことが、期末の負担を抑える近道です。
期中監査の往査には、経理以外の部署も対応が必要ですか。
必要になることが多いです。期中監査では販売・購買・在庫・給与などの業務プロセスと内部統制の運用状況が対象となるため、実際に承認や照合を行っている現場担当者への質問が行われます。役職者だけでなく、日々の運用を担当している方の時間をあらかじめ確保しておくと進行が滞りません。
本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。



