残高確認状とは|監査で求められる理由と種類・回収フローの実務
目次
- 残高確認状とは何か
- 監査人が残高確認状にこだわる理由
- 残高確認状の種類と使い分け
- 消極的確認を単独で使える条件
- 確認の対象になる残高と確認項目
- 送付から回収までの流れ
- 回答パターン別の対応
- 残高が一致しないことが即誤りとは限らない
- 未回答が続くと監査意見に影響することがある
- 確認状の送付に同意しない場合の帰結
- 電子的な確認の実務
- 電子メールを利用した確認で企業側に求められること
- 経理担当者の事前準備チェックリスト
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- 残高確認状が届いたら必ず回答しなければなりませんか。
- 積極的確認と消極的確認はどのように使い分けられますか。
- 電子メールでの回答は監査証拠として認められますか。
- 確認状の残高が自社の帳簿と一致しない場合、誤りとみなされますか。
- 特定の取引先には確認状を送らないよう依頼できますか。
残高確認状は、監査人が企業の取引先や金融機関といった第三者から直接、文書で回答を受け取る監査手続です。監査の基準では「確認」と呼ばれ、紙媒体、電子媒体その他の媒体により、監査人が確認の相手先である第三者から文書による回答を直接入手する監査手続と定義されています(監査基準報告書505 第5項(1))。会社の帳簿の中だけで完結しないため、経理担当者からは「なぜ毎期これを送るのか」「取引先から返事が来ないときはどうなるのか」が見えにくい手続でもあります。
この記事では、残高確認状が監査で求められる理由から、積極的確認と消極的確認という種類の違い、送付から回収までの流れ、未回答や残高の不一致が出たときの扱い、そして電子的な確認の実務までを1本にまとめました。確認状の依頼を受ける側の経理担当者が、監査人とのやりとりの前に押さえておきたい順序で並べています。
残高確認状とは何か
確認とは、紙媒体、電子媒体又はその他の媒体により、監査人が確認の相手先である第三者(確認回答者)から文書による回答を直接入手する監査手続をいいます(監査基準報告書505 第5項(1))。ここで重要なのは「監査人が」「直接」「文書で」という3つの条件です。会社が取引先から受け取った残高証明書を監査人へ渡す形では、この定義に当てはまりません。確認状の発送も回収も監査人が行うのは、この条件を満たすためです。
確認状は勘定残高とその明細を確かめるために実施されることが多い一方、企業と第三者との間の合意、契約又は取引に係る条件や付帯契約のような一定の条件の有無を確認するために実施されることもあります(監査基準報告書505 A1項)。残高だけでなく、担保差入の有無や引出制限といった「条件」も確認の対象になります。
監査人が残高確認状にこだわる理由
監査証拠は、企業から独立した情報源から入手した場合にはより証明力が強く、監査人が直接入手した監査証拠は間接的に又は推論に基づいて入手する監査証拠よりも証明力が強く、紙媒体、電子媒体又はその他の媒体にかかわらず、文書化されたものの方が証明力が強いとされています(監査基準報告書500 A31項)。残高確認状は、この3つの条件を同時に満たす数少ない手続です。そのため、監査人が確認回答者から直接受領する確認により入手した監査証拠は、一般的には企業が内部的に作成した証拠よりも証明力が強いと整理されています(監査基準報告書505 第2項)。
手続として実施するかどうかも、監査人の裁量に完全に委ねられているわけではありません。監査人は、確認手続を実証手続として実施すべきかどうかを考慮することが要求されています(監査基準報告書330 第18項)。実務では、預金・借入金などの金融機関との取引と、売掛金・買掛金などの主要な債権債務が確認の中心になります。
| 監査の基準上の呼び方 | 確認(残高確認状は確認手続で用いる文書の通称) |
|---|---|
| 発送と回収を 行うのは誰か |
監査人。企業を経由せず監査人が直接回答を入手します(監査基準報告書505 第5項(1)) |
| 主な確認対象 | 勘定残高とその明細、契約条件や付帯契約の有無(監査基準報告書505 A1項) |
| 口頭の回答の扱い | 監査人への直接の文書による回答ではないため、確認の定義には該当しません(監査基準報告書505 A15項) |
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残高確認状の種類と使い分け
確認状は、回答の求め方によって積極的確認と消極的確認に分かれます。さらに積極的確認には、金額を記載せずに相手方に記入してもらう「ブランク型」があります。日本の実務で大半を占めるのは積極的確認です。
| 積極的確認 | 確認回答者が、確認依頼の情報に同意するか、又は不同意かを示したり、依頼された情報を提供することにより、監査人に直接回答する方法です。回答の有無にかかわらず、必ず返信を求めます(監査基準報告書505 第5項(2))。 |
|---|---|
| ブランク型の 積極的確認 |
確認依頼に金額や情報を記載せず、確認回答者に金額の記入や他の情報の提供を依頼する方法です。回答者が正確性を検討せずに同意してしまうリスクを抑えられる一方、追加作業が生じるため回答率が低くなることがあります(監査基準報告書505 A5項)。 |
| 消極的確認 | 確認回答者が確認依頼で提供された情報に同意しない場合にのみ、監査人に直接回答する方法です(監査基準報告書505 第5項(3))。回答がないことは、依頼が届いたことや内容が検討されたことを示すわけではないため、証明力は積極的確認より弱くなります(監査基準報告書505 A23項)。 |
消極的確認を単独で使える条件
消極的確認から入手する監査証拠は積極的確認から入手する監査証拠と比べて証明力が弱いため、監査人は、次の全てに該当しない限り、アサーション・レベルで評価した重要な虚偽表示リスクに対応するための単独の実証手続として消極的確認を利用してはならないとされています(監査基準報告書505 第14項)。
- 監査人が、重要な虚偽表示リスクを低いと評価し、アサーションに関連する内部統制の運用状況の有効性に関して十分かつ適切な監査証拠を入手したこと
- 消極的確認の対象となる項目の母集団が、多数の少額で同種な勘定残高、取引又は条件から構成されていること
- 確認差異の割合が非常に低く予想されていること
- 消極的確認の相手先が確認依頼を無視するであろう状況や条件の存在を監査人が認識していないこと
4つの条件がすべて揃う場面は限られます。とくに預金のように、残高が過小に記載されていれば回答する可能性が高く、過大に記載されていれば回答する可能性が小さいという偏りがある相手先では、過大表示の証拠を求める手続として有効ではないことが多いとされています(監査基準報告書505 A23項)。自社の確認状が積極的確認ばかりであっても、それは監査人が手を抜いていないことの表れと考えて差し支えありません。
確認の対象になる残高と確認項目
確認依頼は、確認すべき情報に精通していると監査人が考える確認回答者に送付するとその回答はより適合性と証明力のある監査証拠となるため、金融機関であれば確認の対象となる取引や取決めに精通している担当部署又は担当責任者等に送付することが適切なことがあります(監査基準報告書505 A2項)。宛先を「本店御中」で一括りにしない理由はここにあります。
銀行や証券会社への確認状については、日本公認会計士協会が様式例を示しており、確認項目が細かく定められています。経理担当者が事前に明細を整えておくべき範囲の目安になります。
| 銀行等取引 残高確認書 |
預金等残高(外貨預金・金取引等を含む)、特定金銭信託及び指定金外信託の信託元本残高、現先取引残高、貸付金残高及び当座貸越残高、割引手形残高、取立依頼手形残高、担保として預かっている手形残高、支払承諾見返勘定、差し入れられている保証及び担保、預り有価証券、外国為替残高、貸付・借入有価証券残高、デリバティブ取引の契約額等(監査基準報告書505実務ガイダンス第1号 第3項) |
|---|---|
| 証券取引 残高確認書 |
取引残高(顧客勘定元帳残高)、現先取引残高、預り有価証券等、投資信託・商品ファンド残高等、貸付・借入有価証券残高など(監査基準報告書505実務ガイダンス第1号 第9項) |
| 取引先への確認 | 売掛金・買掛金などの勘定残高とその明細のほか、契約条件や付帯契約の有無(監査基準報告書505 A1項) |
銀行等取引の確認項目は多数にわたるため、確認書はB4、A3、特殊サイズ又は複数枚になることが想定されており、複数枚による場合や銀行独自の様式が添付される場合には、割印の押印又は別紙の枚数の記載を依頼することが考えられるとされています(監査基準報告書505実務ガイダンス第1号 第8項)。当座預金口座については、期末日前後の当座勘定照合表の写しの添付を依頼することが考えられます(同 第4項)。確認状が返ってきてから「別紙が足りない」と気づくと再依頼になるため、発送前に枚数の扱いを監査人と決めておくと手戻りを防げます。
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送付から回収までの流れ
監査人は、確認手続を利用する場合、確認又は依頼すべき情報の決定、適切な確認回答者の選定、確認依頼の立案、確認回答者への依頼状の送付(該当する場合には再発送等の依頼を含む)について管理しなければならないとされています(監査基準報告書505 第6項)。この4つが、そのまま実務の流れになります。
| 1. 対象先と 確認項目の決定 |
監査人が確認対象の勘定と相手先を決めます。経理は残高明細と取引先の住所・部署を提供します(監査基準報告書505 第6項(1))。 |
|---|---|
| 2. 確認回答者の選定 | 確認すべき情報に精通した担当部署・担当責任者を宛先にします(監査基準報告書505 第6項(2)、A2項)。 |
| 3. 確認依頼状の作成 | 宛先が適切であること、監査人に直接返送する旨、回答に当たっての留意事項を含めて立案します(監査基準報告書505 第6項(3))。残高確認依頼状には、通常、確認依頼会社の記名及び届出印の押印をします(監査基準報告書505実務ガイダンス第1号 第6項)。 |
| 4. 宛先の妥当性の 事前テスト |
確認状が適切な宛先に送付されることを確かめるため、送付前に宛先の一部又は全部の妥当性をテストすることがあります(監査基準報告書505 A6項)。 |
| 5. 監査人からの発送 | 監査人が確認回答者へ送付します。経営者が回答を承諾している旨を確認状に記載すると、回答が得やすくなる場合があります(監査基準報告書505 A4項)。 |
| 6. 未回答先への 督促・再発送 |
合理的期間内に回答を入手できなかった場合、当初の宛先の正確性を検討した上で、確認依頼を再発送又は追加送付することがあります(監査基準報告書505 第6項(4)、A7項)。 |
| 7. 回答の評価と 差異の調査 |
監査人は、確認手続の結果、適合性と証明力のある監査証拠が入手できたか、追加的な監査証拠の入手が必要かを評価します(監査基準報告書505 第15項)。 |
実務で滞りやすいのは3と6です。届出印の押印は依頼会社側の作業になるため、決算作業と重なる時期に印鑑の管理者が不在だと発送そのものが遅れます。確認状の発送時期は決算スケジュールの早い段階で監査人と握っておくのが安全です。
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回答パターン別の対応
監査人は、個々の確認依頼の結果を、確認差異がなく確認状に記載した情報に同意する旨を示す適切な確認回答者による回答、信頼性がないと考えられる回答、未回答、確認差異がある回答の4つに分類することがあります(監査基準報告書505 A24項)。経理担当者から見ると、追加の作業が発生するのは後半の3つです。
| 差異のない 同意の回答 |
追加の対応は原則として生じません。監査人は他の監査手続も考慮して、十分かつ適切な監査証拠を入手したかを結論付けます(監査基準報告書505 A25項)。 |
|---|---|
| 信頼性に疑義が ある回答 |
監査人は疑義を解消するため追加の監査証拠を入手し、信頼性がないと判断した場合は、不正リスクを含む重要な虚偽表示リスクの評価や他の監査手続への影響を評価します(監査基準報告書505 第9項、第10項)。監査人が回答を間接的に受け取った場合や、当初想定した確認回答者以外の者が回答したと疑われる場合が該当します(同 A11項)。 |
| 未回答 | 監査人は、適合性と証明力のある監査証拠を入手するための代替的な監査手続を実施しなければなりません(監査基準報告書505 第11項)。売掛金残高であれば回収状況の検討、出荷書類との突合、期末近くの売上取引の調査、買掛金残高であれば支払状況の検討や納品書等の記録の調査が例示されています(同 A18項)。 |
| 確認差異が ある回答 |
監査人は、確認差異が虚偽表示の兆候を示しているか否かを判断するために当該事項を調査しなければなりません(監査基準報告書505 第13項)。企業側には差異の内訳説明と裏付資料の提出が求められます。 |
残高が一致しないことが即誤りとは限らない
確認差異は必ずしも虚偽表示を意味するとは限らず、確認手続の時期(基準日の設定)、測定、又は事務処理上の誤りなどに起因していると結論付けることがあるとされています(監査基準報告書505 A22項)。実務で多いのは、期末日をまたぐ出荷と検収の期ずれ、相殺処理の有無の違い、手形の割引や裏書の反映時点の違いです。差異が出たときは、まず基準日と計上のタイミングを並べて突合すると、説明のつく差異とつかない差異を切り分けられます。
一方で、確認差異は財務諸表における虚偽表示又は虚偽表示の可能性を示唆していることがあり、企業の財務報告に係る内部統制の不備を示唆していることもあります(監査基準報告書505 A21項)。差異の件数が毎期同じ取引先で繰り返し発生する場合は、債権債務の計上プロセスそのものを見直す契機として扱うのが実務的です。
未回答が続くと監査意見に影響することがある
代替的な監査手続を実施しても十分かつ適切な監査証拠が入手できず、積極的確認に対する回答が必要であると監査人が判断する場合、監査人は監査基準報告書705に従い、監査の継続と監査意見に対する影響を判断しなければならないとされています(監査基準報告書505 第12項)。経営者のアサーションを裏付けるための利用可能な情報が企業外部でのみ入手可能である場合や、経営者が内部統制を無効化するリスクなど特定の不正リスク要因があり企業から入手する監査証拠に依拠できない場合が、その典型として挙げられています(同 A20項)。
取引先の未回答は自社の落ち度ではありませんが、放置すると監査意見の問題に発展し得ます。回答が得られない相手先が判明した段階で、代替手続に使える資料(入金消込の記録、出荷・検収の証憑、支払記録)を先回りして揃えておくと、決算スケジュールへの影響を抑えられます。
確認状の送付に同意しない場合の帰結
「この取引先には送らないでほしい」という依頼は、監査上は重い意味を持ちます。経営者が監査人の確認依頼の送付に同意しない場合、監査人は、同意しない理由について質問してその正当性と合理性に関する監査証拠を求め、不正リスクを含む関連する重要な虚偽表示リスクの評価や他の監査手続の種類・時期・範囲に及ぼす影響を評価し、代替的な監査手続を実施しなければならないとされています(監査基準報告書505 第7項)。
そして、確認依頼の送付に経営者が同意しないことに合理性がないと結論付けた場合、又は代替的な監査手続から適合性と証明力のある監査証拠を入手できなかった場合、監査人は監査役若しくは監査役会、監査等委員会又は監査委員会に報告し、監査の継続と監査意見に対する影響を判断しなければなりません(監査基準報告書505 第8項)。一般的な不同意の理由としては確認回答者との法的な紛争や現在継続中の交渉の存在が想定されており、正当な理由があるなら早い段階で共有したほうが監査人も代替手続を組み立てやすくなります(同 A8項)。
会社法上も、会計監査人はいつでも会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧及び謄写をし、又は取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人に対し会計に関する報告を求めることができます(会社法 第396条第2項)。さらに、その職務を行うため必要があるときは、会計監査人設置会社の子会社に対して会計に関する報告を求め、又は会計監査人設置会社若しくはその子会社の業務及び財産の状況の調査をすることができます(会社法 第396条第3項)。会計監査人が取締役の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実を発見したときは、遅滞なく監査役に報告しなければならないとも定められています(会社法 第397条第1項)。確認状の送付を止める判断は、これらの規定を背景に監査役等へ共有される前提で考える必要があります。
電子的な確認の実務
残高確認は長らく紙と押印の手続でしたが、電子的媒体又は経路による確認が実務として広がっています。日本公認会計士協会は、確認回答者のウェブサイト、確認回答者が指定した第三者サービスプロバイダのウェブサイト、CD-ROM等の電子的媒体、電子メール及びファクシミリという方式を整理しています(監査基準報告書505実務ガイダンス第3号 Ⅱ1.)。
| 確認回答者の ウェブサイト |
確認回答者が用意した固有のURLに回答データを掲載し、監査人がパスワードでアクセスして電子ファイルとして入手する方式です。 |
|---|---|
| 第三者サービス プロバイダのサイト |
確認回答者が指定したサービスプロバイダのウェブサイトで、監査人が被監査会社名と確認対象項目を登録し、回答データを入手する方式です。 |
| CD-ROM等の 電子的媒体 |
確認回答者が回答データをCD-ROMやUSBメモリなどに記録して監査人に送付する方式です。 |
| 電子メール・ ファクシミリ |
確認回答者が回答データを電子メール又はファクシミリで監査人に送付する方式です。この場合、監査人は確認回答者が実際に回答を送信したことを電話等により確かめます。 |
電子的な回答には固有のリスクもあります。ファクシミリや電子メールなどによって電子的に受領した回答は、回答者の属性と権限を明らかにすることが困難であり、改竄が発見困難となることがあるため信頼性についてのリスクに関連しているとされ、暗号化、電子署名、ウェブサイトの信頼性を検討する手続などを利用したプロセスが信頼でき適切に管理されていると監査人が心証を得た場合に、回答の信頼性は高まるとされています(監査基準報告書505 A12項)。
電子メールを利用した確認で企業側に求められること
日本公認会計士協会は、電子メールを利用した確認について、確認依頼を紙媒体により送付して確認回答を電子メールにより入手する方式と、確認依頼及び確認回答を電子メールにより送受信する方式の2つを整理しています(監査基準報告書505周知文書第3号 Ⅱ3.)。いずれの場合も、監査人は確認回答者が実際に回答を電子メールで送付したことを電話等により直接確かめるとされています。
企業側が関わるのは、確認依頼が自社の意思によるものだと相手方に伝わるようにする部分です。確認回答者は通常、郵送される紙媒体の記名捺印を一定の根拠として、監査人への回答について被監査会社の同意がなされたものと判断しています。そのため、確認依頼を電子メールで送付する場合には、電子形式で作成された確認依頼書に被監査会社が電子署名を付す、又は被監査会社が事前に確認回答者に監査人が確認を実施する旨を知らせ、その際に監査人をメールの宛先としてCCに入れるといった方法が考えられるとされています(監査基準報告書505周知文書第3号 Ⅱ3.)。
なお、電子メールを利用した確認については、送受信時の不適切な介入や改竄が検出されず情報伝達の完全性が確保されないリスクが高いため、紙媒体又は電子的確認システムによる確認の実施を検討した上で実施が困難な場合に採用を検討することになると考えられ、リスクへの対応について複数の手続を組み合わせるなど慎重な検討が必要であるとされています(監査基準報告書505周知文書第3号 Ⅰ)。電子メールへの切替えを監査人に相談するときは、金融機関など相手先の合意が得られるかどうかも併せて確認しておくと話が早く進みます。
経理担当者の事前準備チェックリスト
確認状の回収が遅れる原因の多くは、発送前の準備にあります。決算作業に入る前に次の点を整理しておくと、監査人とのやりとりが1往復で済みます。
- 確認対象になりそうな勘定(預金、借入金、売掛金、買掛金、貸付金、預り有価証券、デリバティブ)の期末残高明細を、相手先別に出力できる状態にしておく
- 金融機関の宛先を、本店ではなく取引を所管する部署・担当者まで特定しておく(監査基準報告書505 A2項)
- 確認依頼状への記名・届出印の押印を担当する部署と決裁ルートを決めておく(監査基準報告書505実務ガイダンス第1号 第6項)
- 当座預金がある場合、期末日前後の当座勘定照合表の写しを手配しておく(監査基準報告書505実務ガイダンス第1号 第4項)
- 前期に未回答・差異が出た相手先を洗い出し、代替手続に使える資料(入金消込記録、出荷・検収証憑、支払記録)の所在を確認しておく
- 電子メールや電子的確認システムを使う場合、相手先が電子回答に応じるかを事前に打診しておく
実務では、確認状そのものよりも「宛先の精度」が回収率を左右します。取引先マスタの住所・部署が古いまま送られると、配達不能で返送され未回答として扱われ、そのまま代替手続の対象になってしまいます。
まとめ
残高確認状は、監査人が第三者から直接、文書で回答を入手する監査手続であり、企業内部の証拠より証明力が強いことから監査の中核に置かれています(監査基準報告書505 第2項、第5項(1))。積極的確認と消極的確認の違い、未回答と確認差異の扱い、送付に同意しない場合の帰結まで押さえておけば、監査人からの依頼の意図が読みやすくなります。
経理側でできることは、残高明細と宛先の精度を上げ、押印と発送のスケジュールを前倒しし、未回答に備えて代替手続用の資料を手元に置いておくことです。とくに会計監査人設置会社では、確認状の遅れがそのまま計算書類の監査スケジュールに響きます(会社法 第436条第2項第1号)。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
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よくある質問
残高確認状が届いたら必ず回答しなければなりませんか。
監査の基準は、回答が得られない場合があることを前提に組み立てられており、未回答の場合、監査人は適合性と証明力のある監査証拠を入手するための代替的な監査手続を実施しなければならないとされています(監査基準報告書505 第11項)。もっとも、未回答が続くと監査人が代替手続を積み増すことになり、相手方の決算にも自社の決算にも負担が生じます。確認状に経営者が回答を承諾している旨を記載することにより回答が得やすくなる場合があるとされており、事前の一報が回収率を上げます(監査基準報告書505 A4項)。
積極的確認と消極的確認はどのように使い分けられますか。
消極的確認は、重要な虚偽表示リスクを低いと評価し内部統制の運用状況の有効性について十分かつ適切な監査証拠を入手していること、母集団が多数の少額で同種な勘定残高等から構成されていること、確認差異の割合が非常に低く予想されていること、相手先が確認依頼を無視する状況や条件の存在を監査人が認識していないことの全てに該当しない限り、単独の実証手続としては利用できません(監査基準報告書505 第14項)。この4条件が揃う場面は限られるため、実務では積極的確認が中心になります。
電子メールでの回答は監査証拠として認められますか。
電子メールによる回答も、確認回答者から監査人へ直接届く文書による回答であれば確認に当たります。ただし回答者の属性と権限を明らかにすることが困難で、改竄が発見困難となることがあるため、暗号化や電子署名などにより信頼できるプロセスであることが前提になります(監査基準報告書505 A12項)。また、確認依頼への口頭による回答は監査人への直接の文書による回答ではないため、確認の定義には該当しません(同 A15項)。電話やウェブ会議での口頭回答は、別途文書での回答が求められます。
確認状の残高が自社の帳簿と一致しない場合、誤りとみなされますか。
確認差異は必ずしも虚偽表示を意味するとは限らず、確認手続の時期(基準日の設定)、測定、又は事務処理上の誤りなどに起因していると結論付けられることがあります(監査基準報告書505 A22項)。ただし監査人は、確認差異が虚偽表示の兆候を示しているか否かを判断するために当該事項を調査しなければならないため、差異の内訳と裏付資料の提出を求められます(同 第13項)。期ずれや相殺処理の違いなど、説明のつく差異かどうかを先に切り分けておくと対応が早まります。
特定の取引先には確認状を送らないよう依頼できますか。
依頼自体は可能ですが、監査人は同意しない理由を質問してその正当性と合理性に関する監査証拠を求め、重要な虚偽表示リスクの評価や他の監査手続への影響を評価し、代替的な監査手続を実施しなければならないとされています(監査基準報告書505 第7項)。合理性がないと結論付けられた場合や代替手続で証拠を入手できなかった場合には、監査役等への報告と監査意見への影響の判断に進みます(同 第8項)。法的紛争や継続中の交渉など正当な理由があるときは、早い段階で監査人に共有するのが現実的です。
本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。



