監査難民とは?なりやすい会社のチェックリストと選択肢比較
目次
- 監査難民になりやすい会社のセルフチェックリスト
- 会計監査人の設置が必要になる会社の範囲
- 監査事務所が契約を見送る理由
- 公表データでみる会計監査人の異動理由
- 工数が増え、人員が増えない構造
- 打診先の選択肢と比較のしかた
- 会計監査人が決まらないまま欠員になった場合
- 監査難民にならないための準備スケジュール
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- 監査難民は法律上の用語ですか。
- 監査法人が見つからないのは、会社の規模が小さいからですか。
- 監査を断られた場合、理由を教えてもらってよいのですか。
- 中小規模の監査事務所に依頼すると、監査の質は下がりますか。
- 監査法人を変えると監査報酬は下がりますか。
- 顧問税理士に会計監査を依頼することはできますか。
監査難民とは、会社法や金融商品取引法によって会計監査を受けることが必要であるにもかかわらず、引き受けてくれる監査法人・公認会計士が見つからず、監査を受けられない状態に置かれた会社を指す通称です。法令上の用語ではありませんが、会計監査の担い手と需要のミスマッチを表す言葉として実務で定着しています。
会計監査人の設置が義務づけられる会社は、資本金や負債の規模で自動的に決まります(会社法 第2条第6号、第328条)。「監査を受けたいが受けられない」という状態は、会社側の意思とは関係なく法令違反の状態に近づいていくため、規模要件に該当しそうな会社ほど早い段階での備えが要ります。
この記事では、まず自社が監査難民になりやすいかどうかを判定するセルフチェックリストを示したうえで、監査事務所が契約を見送る理由を金融庁・公認会計士・監査審査会の公表データで確認し、打診先の選択肢を比較します。上場準備企業だけでなく、増資や借入で大会社の要件に近づいている非上場会社にも当てはまる内容です。
監査難民になりやすい会社のセルフチェックリスト
次の項目のうち、当てはまるものが多いほど、打診しても監査契約に至らないリスクが高いと考えられます。金融庁・公認会計士・監査審査会が2026年7月に公表したモニタリングレポートで示された会計監査人の異動理由や、金融庁の連絡協議会報告書(2020年3月27日)で指摘された課題を、会社側の状態に置き換えて整理したものです。実務では、この10項目を打診前の社内確認資料としてそのまま使うことができます。
- 会計監査人を置く必要が生じる時点を特定していない。資本金5億円以上または負債200億円以上に到達する事業年度を試算していない。
- 打診の開始が期末から6か月以内になっている。監査法人側の人員配置は年度単位で決まるため、直前の打診は物理的に受けられないことがある。
- 期首残高を検証できる資料がそろっていない。前期以前の実地棚卸記録、固定資産台帳、債権債務の残高確認資料が欠けている。
- 月次決算が翌月内に締まっていない。決算が期末後にまとめて作られており、監査日程を組みにくい。
- 経理担当者が1名で、承認と記帳が分離していない。内部統制の不備が監査リスクとして評価されやすい。
- 会計方針や見積りの根拠を文書化していない。引当金、収益認識、減損の判断過程を説明する資料がない。
- 顧問税理士・会計事務所に監査も依頼しようとしている。継続的な報酬を受けている者は会計監査人になれない(会社法 第337条第3項)。
- 直近に業績が大きく悪化している、または継続企業の前提に疑義が生じ得る状況にある。
- 過去に不適切な会計処理や、監査人との見解の相違による契約解除がある。
- 想定している監査報酬が、監査に必要な工数から逆算されていない。相場観だけで予算を組んでいる。
該当が3項目以内であれば、通常の打診で候補先を見つけられる可能性が高い状態です。4項目以上に当てはまる場合は、打診と並行して、体制整備そのものを先に進める判断が必要になります。
会計監査人の設置が必要になる会社の範囲
そもそも会計監査人を置かなければならないのはどのような会社か、という前提から確認します。大会社とは、最終事業年度に係る貸借対照表に資本金として計上した額が5億円以上である会社、または負債の部に計上した額の合計額が200億円以上である会社をいいます(会社法 第2条第6号)。判定は最終事業年度の貸借対照表を基準に行うため、増資や大型借入を実行した事業年度の翌期から、義務が現実のものになります。
| 大会社(公開会社) | 監査役会および会計監査人を置かなければならない(会社法 第328条第1項) |
|---|---|
| 大会社(公開会社でない会社) | 会計監査人を置かなければならない(会社法 第328条第2項) |
| 監査等委員会設置会社・ 指名委員会等設置会社 |
規模にかかわらず会計監査人を置かなければならない(会社法 第327条第5項) |
| 定款で任意に設置した会社 | 大会社でなくても、定款の定めにより会計監査人を置くことができる |
会計監査人は、公認会計士または監査法人でなければなりません(会社法 第337条第1項)。会計監査人は計算書類およびその附属明細書、臨時計算書類ならびに連結計算書類を監査し、会計監査報告を作成します(会社法 第396条第1項)。会計監査人設置会社では、計算書類およびその附属明細書は監査役および会計監査人の監査を受けなければならないとされており、この監査を経ていない計算書類は定時株主総会に付議できません(会社法 第436条第2項第1号)。つまり、会計監査人が見つからないことは、決算手続そのものが止まることを意味します。
あわせて、会計監査人の任期は選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までであり、その総会で別段の決議がされなかったときは再任されたものとみなされます(会社法 第338条第1項、第2項)。任期が1年単位で更新される仕組みであるため、監査法人側が契約を継続しない判断をすれば、毎年、後任を探す可能性が生じます。
監査事務所が契約を見送る理由
監査難民という現象を、会社側の準備不足だけの問題として捉えると対策を誤ります。監査事務所側にも、引き受けられる件数の上限があるためです。
公表データでみる会計監査人の異動理由
金融庁・公認会計士・監査審査会のモニタリングレポート(2026年7月公表)によると、上場国内会社の会計監査人の異動件数は2026年6月期で133件と、直近5年間で最も少ない水準になりました。2022年6月期の236件をピークとする高い水準からは落ち着きつつある一方で、大手監査法人から準大手監査法人または中小規模監査事務所へ変更する傾向は継続しています。
同レポートでは、検査および報告徴収で把握した大手監査法人の異動94件について、前任の会計監査人が挙げた理由が集計されています(複数理由は重複計上、合計143件)。
| 監査報酬 | 58件 |
|---|---|
| 継続監査期間 | 31件 |
| 会計監査人からの 契約継続の辞退 |
23件 |
| 監査リソース | 11件 |
| 親会社等の監査人の統一 | 6件 |
注目したいのは、監査法人側から契約継続を辞退した事例が23件確認されている点です。同レポートは、その背景として、監査資源の配分やクライアントポートフォリオの見直しのなかで、監査リスク・監査工数・報酬水準を総合的に勘案し、契約継続が困難と判断されたと思われるものが見受けられたとしています。前年度の辞退件数は4件であり、大幅に増加しています。
準大手監査法人および中小規模監査事務所の異動66件についても、「会計監査人からの契約継続の辞退」と「監査報酬」が各22件で最も多く、次いで「継続監査期間」が14件でした。辞退の背景には、被監査会社の業績悪化や経理体制の脆弱さに伴う監査リスクの高まりにより、必要な監査工数に対して監査資源の確保が困難となった事例が挙げられています。
実務でこの数字が示すのは、「断られる」のは会社の規模が小さいからではなく、監査工数と監査リスクが報酬に見合うかどうかで判断されているということです。経理体制の弱さは監査工数を押し上げる要因として直接効いてきます。
工数が増え、人員が増えない構造
金融庁が設置した連絡協議会の報告書(2020年3月27日)では、監査契約のハードルが高くなっている要因として、会計不正事案などを受けた監査手続の厳格化により監査工数が増加していること、働き方改革や公認会計士の事業会社への転籍などにより監査に必要な人員や監査時間の確保が難しくなっていることが指摘されています。
同報告書には、監査法人によるショートレビューを受けた後、相当期間が経過してから内部管理体制の整備の遅れ等を理由に監査契約を断られ、スケジュールが大幅に後ろ倒しになった事例も記載されています。調査を受けたこと自体は、契約が約束されたことを意味しません。ここに、会社側と監査法人側の認識のズレが生じやすい点があります。
なお、これらの公表統計はいずれも上場国内会社を対象としたものです。非上場の大会社について、監査人が見つからない件数を示す公的な統計は公表されていません。ただし、監査事務所側の受嘱判断の考え方は同じであるため、傾向として参考になります。
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打診先の選択肢と比較のしかた
監査法人には規模による区分があり、それぞれ受け入れやすい会社の像が異なります。大手監査法人だけに打診して断られた段階で「監査難民になった」と考える会社が少なくありませんが、実際の選択肢はもう少し広いものです。
| 打診先の区分 | 検討の目安と確認したい点 |
|---|---|
| 大手監査法人 | 海外子会社の重要性が高い会社や、時価総額が大きくなることが見込まれる会社。グローバル・ネットワークとの提携関係を使える一方、監査工数と報酬水準の見合いが厳しく判断される。 |
| 準大手監査法人 | 大手に準ずる規模と体制を持ち、近年、大手が受嘱しない案件を引き受ける件数が増えている区分。組織的な品質管理体制と、担当できる人員が確保できるかを確認する。 |
| 中小規模監査事務所 | 事業規模に見合った監査対応を求める会社の受け皿になっている区分。上場会社等の監査を行うには上場会社等監査人名簿への登録が必要であり、登録の有無と品質管理体制を必ず確認する。 |
日本公認会計士協会は、金融庁の連絡協議会報告書を受けて、監査の担い手となり得る中小監査事務所のリストを作成・公表しています。上場会社等監査人登録制度は2023年4月1日から運用が始まっており、2023年4月から2026年6月までに130の監査事務所が上場会社等監査人名簿に登録されています。打診先を探す際は、こうした公表情報から候補を洗い出すのが確実です。
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関連コラム中小監査法人へ依頼できる監査の範囲|登録制度と選任手続▸
報酬面の見通しについても、公表データがあります。同モニタリングレポートは、適時開示された上場国内会社の会計監査人の異動185件を対象に異動前後の監査報酬を分析しており、より規模の小さい監査事務所へ異動した86件では約7割にあたる64件で監査報酬が減少した一方、約2割にあたる19件では増加していました。また、同規模の監査事務所へ異動した91件では、約6割にあたる56件で監査報酬が増加しています。規模の小さい事務所に移れば必ず報酬が下がる、という前提で予算を組むのは危険です。
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会計監査人が決まらないまま欠員になった場合
後任が決まらないまま会計監査人が欠けた場合、会社法は空席のまま放置することを認めていません。会計監査人が欠けた場合または定款で定めた会計監査人の員数が欠けた場合において、遅滞なく会計監査人が選任されないときは、監査役は、一時会計監査人の職務を行うべき者を選任しなければならないとされています(会社法 第346条第4項)。監査役会設置会社では、この選任は監査役会が行います(会社法 第346条第6項)。
一時会計監査人にも、会計監査人と同じ資格・欠格事由の規定が準用されます(会社法 第346条第5項、第337条)。また、一時会計監査人の職務を行うべき者を置いたときは、その氏名または名称が登記事項となります(会社法 第911条第3項第20号)。選任の手続を怠った場合には、100万円以下の過料に処せられる可能性があります(会社法 第976条第22号)。
なお、会計監査人の選任および解任ならびに再任しないことに関する株主総会の議案の内容は、監査役(監査役会設置会社では監査役会)が決定します(会社法 第344条第1項、第3項)。後任探しは経理部門だけの仕事ではなく、監査役・監査役会を巻き込んで進める必要があります。
関連コラム監査法人が見つからないときの手順|断られる理由と一時会計監査人▸
監査難民にならないための準備スケジュール
会計監査人を置く必要が生じる事業年度の期首を起点に、逆算で準備を組みます。3月決算で翌期から会計監査人が必要になる会社を想定した場合の目安は、次のとおりです。
- 18か月前:資本金・負債の見込みから、大会社に該当する事業年度を特定する。定款に会計監査人設置の定めを置く場合は、株主総会の日程も併せて検討する。
- 15か月前:月次決算の締め日を翌月中旬までに前倒しし、会計方針と見積りの根拠を文書化する。実地棚卸の手続を書面化し、立会いを受けられる形にする。
- 12か月前:複数の監査事務所へ打診を開始する。大手・準大手・中小規模を並行して当たり、1社の回答を待って次に進めない。
- 9か月前:候補先による予備的な調査を受け、指摘された不備の改善計画を作る。この段階で契約が確定するわけではない点に注意する。
- 6か月前:監査役・監査役会と選任議案の内容を協議し、報酬の同意手続の段取りを確認する。
- 期首まで:監査契約を締結し、期首残高の検証に必要な資料の引継ぎを進める。
実務で最も多い失敗は、大手監査法人に打診して回答を待ち、断られてから次を探し始める進め方です。1社あたりの検討期間は数か月に及ぶことがあり、直列で進めると1年があっという間に過ぎます。並行して打診し、断られた場合はその理由を確認することが重要です。前掲の連絡協議会報告書では、大手監査法人の取組みとして、監査を受嘱しない場合にはその理由を企業に説明し、適切なフォローアップを行うことが挙げられています。断られた理由は、次の打診先に対する改善材料になります。
まとめ
監査難民は、会社側の準備不足と、監査事務所側の受嘱能力の制約が重なったところで発生します。会計監査人の設置義務は資本金5億円以上または負債200億円以上という規模要件で自動的に生じ(会社法 第2条第6号、第328条)、会計監査人の監査を経ていない計算書類は定時株主総会に付議できません(会社法 第436条第2項第1号)。
公表データが示すとおり、監査事務所は監査報酬・監査工数・監査リスクの見合いで契約の可否を判断しています。したがって対策も、報酬を上積みする発想ではなく、監査工数を押し上げる要因を先に取り除き、打診を並行して早く始めるという順序になります。冒頭のセルフチェックリストで4項目以上に当てはまった場合は、打診の前に体制整備の計画を立てることをおすすめします。
会計監査人の設置義務の判定や、打診先の選定・体制整備の進め方は個別性が高いため、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
会社法監査の無料見積り・ご相談はこちら参考文献
- e-Gov法令検索 会社法
- 金融庁 「令和8年版モニタリングレポート」の公表について
- 金融庁 「株式新規上場(IPO)に係る監査事務所の選任等に関する連絡協議会」報告書の公表について
- 日本公認会計士協会 IPOを目指す企業の監査の担い手となる中小監査事務所リスト
- 日本公認会計士協会 上場会社等監査人登録制度
よくある質問
監査難民は法律上の用語ですか。
法令に定義された用語ではありません。会計監査を受ける必要があるにもかかわらず、引き受ける監査法人・公認会計士が見つからない状態を指す実務上の通称です。会社法は会計監査人を欠いた状態を想定しておらず、欠員が生じた場合には一時会計監査人の職務を行うべき者を選任しなければならないと定めています(会社法 第346条第4項)。
監査法人が見つからないのは、会社の規模が小さいからですか。
規模だけが理由ではありません。金融庁・公認会計士・監査審査会のモニタリングレポート(2026年7月公表)では、前任の会計監査人が挙げた異動理由として監査報酬・継続監査期間が上位を占め、契約継続の辞退の背景としては、業績悪化や経理体制の脆弱さに伴う監査リスクの高まりにより、必要な監査工数に対して監査資源の確保が困難となった事例が挙げられています。会社の規模より、監査工数とリスクが報酬に見合うかどうかが判断の軸になっています。
監査を断られた場合、理由を教えてもらってよいのですか。
確認して差し支えありません。金融庁の連絡協議会報告書(2020年3月27日)では、大手監査法人の取組みとして、監査を受嘱しない場合にはその理由を企業に説明し、適切なフォローアップを行うことが挙げられています。断られた理由は、次の打診先に向けた改善項目として活用できます。
中小規模の監査事務所に依頼すると、監査の質は下がりますか。
事務所の規模と監査品質は別の問題です。上場会社等の監査を行うには上場会社等監査人名簿への登録が必要であり、登録に当たっては品質管理システムの整備状況が確認されます。2023年4月から2026年6月までに130の監査事務所が登録されています。一方で、モニタリングレポートは中小規模監査事務所における監査品質の維持・向上が課題であるとも指摘しているため、打診の際は登録の有無と品質管理体制を確認することが必要です。
監査法人を変えると監査報酬は下がりますか。
必ず下がるとは限りません。モニタリングレポートが分析した上場国内会社の会計監査人の異動185件では、より規模の小さい監査事務所へ異動した86件のうち約7割にあたる64件で監査報酬が減少した一方、約2割にあたる19件では増加していました。同規模の監査事務所への異動91件では、約6割にあたる56件で監査報酬が増加しています。
顧問税理士に会計監査を依頼することはできますか。
できません。会計監査人は公認会計士または監査法人でなければならず(会社法 第337条第1項)、公認会計士または監査法人の業務以外の業務により継続的な報酬を受けている者は会計監査人となることができないとされています(会社法 第337条第3項第2号)。税務顧問として継続的に報酬を受けている場合、独立性の観点から会計監査人には就任できません。
本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。



