準大手監査法人の体制と品質管理|大手との違いと確認項目
目次
- 準大手監査法人と大手監査法人の体制比較
- 準大手監査法人の定義と該当する4法人
- 規模と業務構成からみた準大手監査法人の実像
- 品質管理・ガバナンスの状況と審査会が挙げる課題
- 準大手監査法人を検討するときに確認する8項目
- 選任・報酬決定で必要になる会社法の手続
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- 準大手監査法人とはどの監査法人を指しますか。
- 準大手監査法人と大手監査法人では品質管理体制に差がありますか。
- 準大手監査法人は上場会社の監査を行えますか。
- 準大手監査法人に依頼すると監査チームの体制はどうなりますか。
- 準大手監査法人でも上場準備の監査に対応できますか。
- 監査法人の選任は取締役会だけで決められますか。
準大手監査法人とは、金融庁 公認会計士・監査審査会が監査事務所を規模で分類する際に、大手監査法人に次ぐ区分として用いている監査法人をいいます。同審査会「令和8年版モニタリングレポート」では、仰星監査法人、三優監査法人、太陽有限責任監査法人、東陽監査法人の4法人がこの区分に該当し、2026年3月末時点で上場国内会社610社の会計監査人となっています。
依頼先を検討する立場からみると、知りたいのは法人名の一覧ではなく「大手監査法人と何がどう違う体制なのか」です。この記事では、公認会計士・監査審査会が公表している組織体制・品質管理体制の分析だけを材料に、準大手監査法人の体制の作りと同審査会が課題として挙げている点を整理し、最後に契約前に確認する8項目をチェックリストとして示します。
準大手監査法人と大手監査法人の体制比較
まず全体像です。公認会計士・監査審査会は、監査法人の組織体制を規模別に分析しており、準大手監査法人には大手監査法人と共通する部分と、規模の違いから生じる差の両方があります。同レポートの記載を体制の要素ごとに整理すると、次のとおりです。
| 体制の要素 | 準大手監査法人の特徴 (大手監査法人との対比) |
|---|---|
| 意思決定機関 | 最高意思決定機関は社員(総)会で、その下に理事会等の機関を設置する。大手監査法人では理事会に加えて経営会議等の機関も置かれる |
| 監督・評価機関 | 監督・評価機関を設置しているが、その権限は大手監査法人と比べると限定されている。「指名」「報酬」「監査」の小委員会は、一部の法人を除いて設けていない |
| 独立第三者 | 公益委員会等の独立機関を設置し、独立第三者を構成員として活用する。選任数は1人から3人で、大手監査法人の3人または4人より少ない |
| 業務運営機関 | 複数の監査事業部を設置するほか、地区事務所を含めた運営を行う。大手監査法人が置く金融専門の部門は挙げられていない |
| 事務所の展開 | 主たる事務所に加え、三大都市に事務所を設置している例が多い。大手監査法人は三大都市に加え全国規模で地区事務所を設置している例が多い |
| 品質管理部門 | 品質管理部門の下に、リスク管理や会計処理の相談、審査、定期的な検証等の担当部門をおおむね設置している |
要点は、準大手監査法人が「大手監査法人と同じ枠組みを、より小さい規模で持っている」構造だという点です。品質管理部門や独立第三者を含む監督・評価機関といった組織のパーツはそろっている一方、小委員会の設置や独立第三者の人数といった運用の厚みでは差があります。監査を依頼する側は、この差がどの場面で自社に影響するのかという視点で読むと判断しやすくなります。
準大手監査法人の定義と該当する4法人
準大手監査法人という区分は、法令上の資格や免許ではありません。公認会計士・監査審査会がモニタリングの単位として用いている分類で、同審査会は監査事務所を大手監査法人・準大手監査法人・中小規模監査事務所の3区分に整理しています。2025年3月末時点の事務所数は、大手監査法人4法人、準大手監査法人4法人、中小規模監査事務所2,403事務所です。
「令和8年版モニタリングレポート」において準大手監査法人として扱われているのは、仰星監査法人、三優監査法人、太陽有限責任監査法人、東陽監査法人の4法人です。2023年12月にPwCあらた有限責任監査法人とPwC京都監査法人が合併してPwC Japan有限責任監査法人が発足するまでは、PwC京都監査法人を含む5法人が準大手監査法人に区分されていました。区分は固定されたものではなく、合併等によって入れ替わる点は押さえておく必要があります。
| 該当する監査法人 | 仰星監査法人、三優監査法人、太陽有限責任監査法人、東陽監査法人の4法人 |
|---|---|
| 上場国内会社数 (2026年3月末) |
610社(上場国内会社の総数3,843社に対する会社数シェアは15.9%) |
| 監査対象の 時価総額の合計 |
25兆61億円(上場国内会社の時価総額の合計1,222兆6,958億円に対して約2%) |
| 社員数と 常勤職員数の目安 |
2025年度で社員約40人から約100人、常勤職員約230人から約950人 |
| 職員に占める 非常勤職員の割合 |
2割前後で推移(大手監査法人は約2%、中小監査法人は6割程度) |
ここで区分と資格を混同しないことが重要です。会社法上の会計監査人は公認会計士または監査法人であれば就任でき、規模による制限はありません(会社法 第337条第1項)。一方、上場会社等の財務書類について金融商品取引法上の監査証明業務を行うには、日本公認会計士協会の上場会社等監査人名簿への登録が必要です(公認会計士法 第34条の34の2)。準大手監査法人かどうかは、この法令上の要件とは別の軸だということです。
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規模と業務構成からみた準大手監査法人の実像
体制の差の背景には、人員規模と業務の構成があります。公認会計士・監査審査会は、大手監査法人の所属人員が数千人を超える一方、それに続く準大手監査法人でも200人を超える規模になると説明しています。中小監査法人の社員数が約50人まで、常勤職員数が約120人までの水準であることと比べると、準大手監査法人は中小監査法人よりも大手監査法人に近い人員構成をとっています。
業務の構成はさらに特徴的です。2025年度の業務収入に占める監査証明業務収入の割合は、大手監査法人が約70%であるのに対し、準大手監査法人は約95%、中小監査法人は約90%となっています。準大手監査法人は監査証明業務を中心とした業務運営を行っており、非監査証明業務は、監査証明業務と併せて実施することが有用とされる業務や、人員等の状況を踏まえて実施可能な業務に限定されています。
この構成は、依頼する側に二面性をもたらします。監査に資源が集中している一方で、アドバイザリー業務の幅は大手監査法人ほど広くありません。監査以外の支援も同じ法人に期待する場合は、対応可能な業務の範囲を事前に確認しておく必要があります。
監査チームの編成については、準大手監査法人でも人員は限られるものの、大手監査法人と同様にメンバーの能力に応じた作業分担を基本としたチーム構成がとられています。一部の法人では、監査アシスタントの採用を継続的に強化する動きもみられます。株式公開を目指す会社との関係では、大手監査法人および準大手監査法人の多くが、内部統制の脆弱性など株式公開特有のリスクに対応するため、株式公開監査の経験が豊富なメンバーを監査事業部や監査チームへ優先的に配置し、株式公開関連業務を支援する部署等を設置している状況にあります。
品質管理・ガバナンスの状況と審査会が挙げる課題
監査法人を選ぶ際に最も確認しにくいのが品質管理体制です。上場会社等監査人名簿に登録された監査法人は、業務の品質の管理の状況を適切に評価し、その結果を公表する体制を含む業務管理体制を整備しなければならないとされています(公認会計士法 第34条の34の14)。公認会計士・監査審査会は、この評価結果を規模別に分析しています。
準大手監査法人については、2024年7月1日以降、すべての法人で改訂後の品質管理基準が適用されています。品質管理システムに関する最高責任者は、すべての準大手監査法人において「当法人の品質管理システムは、その目的が達成されているという合理的な保証を当法人に提供している」との結論に至っており、これは3つの結論の分類のうち最も良好な類型です。大手監査法人も同じ類型でしたが、すでに評価結果を公表した中小規模監査事務所の中には、重大ではあるが広範ではない不備があるとする類型の結論となった事務所もみられます。
一方で、同審査会は準大手監査法人に固有の課題も指摘しています。準大手監査法人では本部組織の人員増加などにより本部機能の強化を進めているものの、監査現場に監査品質への意識を浸透させるための組織風土の醸成や、監査リスクが高い監査業務をサポートする体制の構築などに課題がみられるとされています。実務では、この2点をそのまま質問項目に置き換えて確認するのが有効です。
ガバナンス面では、監督・評価機関に独立第三者を含める取組が進んでいます。ただし、独立第三者が主体的に情報を入手するための権限を定めていない法人もみられると指摘されており、経営執行機関の会議への出席権限や資料要求の権限が付与されているかどうかで実効性に差が出ます。監査調書については、海外のメンバーファームが用いる調書管理システムの採用や市販の電子監査調書システムの導入という形で電子化が浸透しており、この点は品質管理部門を設置していない事務所が多い中小監査法人との明確な違いです。
なお、2025事務年度の報告徴収では、多くの準大手監査法人が将来の業務運営戦略の一つとして合併を検討するとしています。長期の監査契約を前提に検討する場合は、体制変更の可能性も視野に入れておくと安全です。
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準大手監査法人を検討するときに確認する8項目
ここまでの分析を、契約前の確認項目に落とし込みます。公認会計士・監査審査会が示した準大手監査法人の体制の特徴と課題に対応させた8項目です。提案依頼書や面談の場で、この順に確認すると論点が漏れにくくなります。
- 上場会社または上場準備会社であれば、上場会社等監査人名簿への登録があるかを最初に確認する
- 自社の監査チームに入る人数と職階、監査責任者の関与時間を提案書に明記してもらう
- 監査リスクが高い論点が生じたときに、本部のどの部門がどのように監査チームを支援するかを確認する
- 審査を担当する部門と審査担当者の独立性、監査上の見解相違が生じた場合の解決手順を確認する
- 品質管理システムの評価結果の公表資料を入手し、結論の類型と識別された不備の有無を確認する
- 自社の本社・工場・子会社の所在地に対して、往査を担当する事務所と移動の負担を確認する
- 金融業や特定の業種に固有の会計基準が適用される場合、その業種の監査実績と担当者の経験を確認する
- 監査以外に依頼したい業務がある場合、独立性の観点から同一法人で受託できる範囲を確認する
特に3番目と5番目は、準大手監査法人を検討するときに固有の意味を持ちます。同審査会が課題として挙げている論点そのものであり、法人ごとの取組の差が出やすい部分だからです。回答が抽象的であれば、具体的な事例を挙げてもらうと実態が見えます。
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選任・報酬決定で必要になる会社法の手続
候補が絞れたあとは、会社法の手続に沿って社内の意思決定を進めます。会計監査人の選任は取締役会だけで完結しません。株主総会に提出する会計監査人の選任および解任ならびに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容は、監査役設置会社では監査役が決定し、監査役が2人以上あるときはその過半数をもって決定します(会社法 第344条第1項、第2項)。監査役会設置会社では監査役会が決定します(会社法 第344条第3項)。
報酬についても同様です。取締役が会計監査人の報酬等を定める場合には、監査役(監査役が2人以上ある場合はその過半数)の同意を得なければならず、監査役会設置会社では監査役会の同意に読み替えられます(会社法 第399条第1項、第2項)。監査等委員会設置会社では監査等委員会、指名委員会等設置会社では監査委員会の同意が必要です(会社法 第399条第3項、第4項)。比較検討の段階から監査役等と情報を共有しておくと、選任時期に手戻りが生じません。
スケジュール面では任期の定めが起点になります。会計監査人の任期は選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までであり、その定時株主総会において別段の決議がされなかったときは再任されたものとみなされます(会社法 第338条第1項、第2項)。したがって、監査法人の見直しを検討するのであれば、定時株主総会より前に意思決定を終える必要があります。
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まとめ
準大手監査法人は、公認会計士・監査審査会の規模区分で大手監査法人に次ぐ位置にある4法人を指し、2026年3月末時点で上場国内会社610社の会計監査人となっています。品質管理部門や独立第三者を含む監督・評価機関といった組織のパーツは大手監査法人と同じ枠組みでそろっており、品質管理システムの評価結果もすべての法人が最も良好な類型の結論に至っています。
違いが出るのは運用の厚みです。小委員会の設置状況や独立第三者の人数、全国の事務所展開、金融専門部門の有無といった点で大手監査法人との差があり、同審査会は組織風土の醸成と監査リスクが高い監査業務のサポート体制を課題として挙げています。区分名で選ぶのではなく、この記事の8項目を使って各法人の体制を個別に確認することが、監査を依頼する側の実務的な進め方です。具体的なケースの判断は個別性が高いため、公認会計士へのご相談をおすすめします。
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よくある質問
準大手監査法人とはどの監査法人を指しますか。
金融庁 公認会計士・監査審査会「令和8年版モニタリングレポート」において準大手監査法人として扱われているのは、仰星監査法人、三優監査法人、太陽有限責任監査法人、東陽監査法人の4法人です。この区分は法令上の資格ではなく、同審査会がモニタリングの単位として用いている分類です。2023年12月にPwCあらた有限責任監査法人とPwC京都監査法人が合併するまでは、PwC京都監査法人を含む5法人が準大手監査法人に区分されていました。
準大手監査法人と大手監査法人では品質管理体制に差がありますか。
組織の枠組みは同じです。準大手監査法人では2024年7月1日以降すべての法人で改訂後の品質管理基準が適用されており、品質管理システムに関する最高責任者は、すべての法人で最も良好な類型の結論に至っています。ただし公認会計士・監査審査会は、監査現場に監査品質への意識を浸透させるための組織風土の醸成や、監査リスクが高い監査業務をサポートする体制の構築に課題がみられるとしています。
準大手監査法人は上場会社の監査を行えますか。
行えます。上場会社等の財務書類について金融商品取引法上の監査証明業務を行うには、日本公認会計士協会の上場会社等監査人名簿への登録が必要です(公認会計士法 第34条の34の2)。準大手監査法人4法人は2026年3月末時点で上場国内会社610社の会計監査人となっており、これは上場国内会社の総数3,843社の15.9%にあたります。
準大手監査法人に依頼すると監査チームの体制はどうなりますか。
公認会計士・監査審査会によれば、準大手監査法人では監査チームの人員が限られるものの、大手監査法人と同様にメンバーの能力に応じた作業分担を基本としたチーム構成がとられています。職員に占める非常勤職員の割合は2割前後で、6割程度である中小監査法人と比べると常勤中心の体制です。実際の体制は法人によって異なるため、提案段階で自社の監査チームの人数と職階を確認してください。
準大手監査法人でも上場準備の監査に対応できますか。
公認会計士・監査審査会は、大手監査法人および準大手監査法人が、内部統制の脆弱性など株式公開特有のリスクに適切に対応するため、株式公開監査の経験が豊富なメンバーを監査事業部や監査チームへ優先的に配置していると説明しています。また、これらの法人の多くが株式公開関連業務を支援する部署等を設置しています。個別の対応可否は、担当予定者の実績を確認したうえで判断してください。
監査法人の選任は取締役会だけで決められますか。
決められません。株主総会に提出する会計監査人の選任等に関する議案の内容は、監査役設置会社では監査役が、監査役が2人以上あるときはその過半数をもって決定し、監査役会設置会社では監査役会が決定します(会社法 第344条第1項、第2項、第3項)。報酬等を定める場合にも監査役等の同意が必要です(会社法 第399条第1項、第2項)。
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