監査法人が見つからないときの手順|断られる理由と一時会計監査人
目次
- 打診前に固めておく6項目
- 打診時に監査法人へ渡す資料
- 監査法人に断られる主な理由
- 独立性や欠格事由に抵触している
- 期首残高を検証できる見込みが立たない
- 打診の時期が遅い
- 想定している報酬が業務量に見合わない
- 会計監査人が欠けた場合の会社法上の取扱い
- 一時会計監査人の職務を行うべき者を選任する
- 一時会計監査人は登記事項になる
- 選任手続を怠ると過料の対象になる
- 後任が決まったあとに必要な社内手続
- 実務で起きやすい落とし穴
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- 監査法人に断られ続けた場合、監査を受けずに決算を確定できますか。
- 後任が決まらないまま任期が満了したらどうすればよいですか。
- 一時会計監査人は誰でも就任できますか。
- 会計監査人を空席のままにすると、どのような不利益がありますか。
- 税務顧問を依頼している会計事務所に会計監査を頼めますか。
- 打診はいつから始めるべきですか。
監査法人に打診しても引き受けてもらえない、いわゆる「監査難民」の状態は、順番を整理すれば抜け出せる場合が少なくありません。打診が通らない原因の多くは、会社側の準備不足か、打診の時期の遅さか、独立性の抵触のいずれかに集約されます。
本記事では、打診前に社内で固めておく項目と、監査法人へ渡す資料を先に一覧で示したうえで、断られる主な理由、後任が決まらないまま会計監査人が欠けた場合の会社法上の取扱い(一時会計監査人の選任)までを、会社法の条文に沿って整理します。
打診前に固めておく6項目
監査法人は打診を受けると、引き受けられる業務かどうかを審査します。この審査に必要な情報が揃っていない打診は、内容以前に判断ができず、返答が保留されたまま時間だけが過ぎます。まず次の6項目を社内で確定してから打診してください。
| 監査を受ける根拠 | 大会社に該当するか(最終事業年度に係る貸借対照表の資本金が5億円以上、または負債の部の合計額が200億円以上)、それとも任意監査かを確定します(会社法 第2条第6号、第328条)。 |
|---|---|
| 対象事業年度と 定時株主総会の予定日 |
どの事業年度から監査を受けるのか、監査報告書がいつまでに必要かを決めます。定時株主総会の日程が後戻りできない期限になります。 |
| 現任者の任期の満了時期 | 会計監査人の任期は、選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までです(会社法 第338条第1項)。 |
| 議案の内容を決定する機関 | 監査役設置会社では、会計監査人の選任・解任・不再任に関する議案の内容は監査役が決定します。監査役会設置会社では監査役会が決定します(会社法 第344条第1項、第3項)。 |
| 報酬に関する同意手続 | 会計監査人および一時会計監査人の職務を行うべき者の報酬等を定めるには、監査役等の同意が必要です(会社法 第399条第1項から第4項まで)。 |
| 社内の受入体制 | 監査対応の窓口部署、資料提供の責任者、経理担当者の人数と繁忙期を整理します。監査法人は、この体制で監査が完了するかを見ています。 |
とくに3番目の任期は見落とされがちです。定時株主総会で別段の決議がされなければ、現任の会計監査人はその総会で再任されたものとみなされます(会社法 第338条第2項)。逆に言えば、後任が決まっていない状態で現任者が辞退の意向を示している場合は、その総会の終結とともに会計監査人が不在になり得ます。
打診時に監査法人へ渡す資料
引受審査の期間は、会社側の資料の揃い方で大きく変わります。次の資料を先にまとめて渡せると、審査の往復が減り、回答も早くなります。
| 直近3期の計算書類と 附属明細書 |
財務数値の規模と変動、監査上の重点領域の当たりをつけるために使われます。会計監査人は計算書類および附属明細書、臨時計算書類、連結計算書類を監査します(会社法 第396条第1項)。 |
|---|---|
| 会計方針と 重要な見積りの一覧 |
引当金、減損、税効果、収益認識など、判断を要する論点がどこにあるかを示します。未了の論点が多いほど審査は慎重になります。 |
| 決算・経理体制の資料 | 組織図、経理規程、決算スケジュール、使用している会計システムなど。決算が期限内に締まる体制かを確認されます。 |
| 前任監査人の 監査報告書と指摘事項 |
前任者がいる場合は、直近の監査報告書、監査上の主な検討事項、未解決の指摘を共有します。 |
| 関係会社と 関連当事者の一覧 |
子会社の所在地、決算日、監査の有無を示します。会計監査人は子会社に対して会計に関する報告を求め、調査をすることができます(会社法 第396条第3項)。 |
| 株主構成と機関設計 | 親会社等の有無、監査役会・監査等委員会・指名委員会等のいずれを置いているかを示します。独立性の判定と議案の決定機関の確認に使われます。 |
実務では、この一覧のうち「重要な見積りの一覧」と「未解決の指摘」を出せるかどうかで、監査法人側の反応が明確に変わります。都合の悪い論点を伏せた打診は、後から発覚したときに引受け自体が撤回されるため、先に開示するほうが結果的に早く決まります。
監査法人に断られる主な理由
断られる理由は会社ごとに異なりますが、実務で繰り返し見られるのは次の4つです。自社がどれに当たるかを見極めると、打診先を変えるべきなのか、社内を整えるべきなのかが分かります。
独立性や欠格事由に抵触している
会計監査人は公認会計士または監査法人でなければなりません(会社法 第337条第1項)。そのうえで、公認会計士法の規定により計算書類の監査ができない者、会社の子会社やその取締役・会計参与・監査役・執行役から公認会計士または監査法人の業務以外の業務により継続的な報酬を受けている者およびその配偶者、社員の半数以上がこれに該当する監査法人は、会計監査人となることができません(会社法 第337条第3項各号)。
税務顧問やコンサルティングを同じ事務所に委託している会社では、この点で候補が絞られます。会計監査人は職務を行うにあたり、これらに該当する者を使用することもできません(会社法 第396条第5項)。打診前に、既存の委託関係を洗い出しておくと無駄な往復を避けられます。
期首残高を検証できる見込みが立たない
初めて監査を受ける会社や、前任者からの引継ぎが十分にできない会社では、期首残高の検証に必要な証拠が得られるかが引受けの分かれ目になります。棚卸資産の実地棚卸に立ち会えていない過年度分や、固定資産台帳が現物と一致していない場合は、追加の手続が必要になり、その負荷が引受けの可否を左右します。
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打診の時期が遅い
監査は期中から手続を積み上げるため、事業年度が進んでから打診しても、その年度の監査を引き受けられない場合があります。実務上は、監査対象年度の期首前に打診を始め、遅くとも第2四半期までに契約を締結できる状態にしておくのが目安です。決算日直前や、定時株主総会の数か月前になってからの打診は、内容にかかわらず断られる可能性が高くなります。
想定している報酬が業務量に見合わない
監査に必要な時間は、事業の複雑さ、拠点数、会計論点の多さで決まります。会社側の想定額が業務量と離れていると、条件が折り合わずに見送りとなります。近年は監査に投入される時間の増加を背景に報酬水準が上昇しており、過去の実績額を前提にした予算では通らない場合があります。
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会計監査人が欠けた場合の会社法上の取扱い
後任が決まらないまま任期が満了すると、会計監査人が不在の状態になります。この場合に会社が何もしないでよいわけではなく、会社法は代替の手当てを義務として定めています。
一時会計監査人の職務を行うべき者を選任する
会計監査人が欠けた場合、または定款で定めた会計監査人の員数が欠けた場合において、遅滞なく会計監査人が選任されないときは、監査役は一時会計監査人の職務を行うべき者を選任しなければなりません(会社法 第346条第4項)。これは任意の措置ではなく義務です。監査役会設置会社では監査役会、監査等委員会設置会社では監査等委員会、指名委員会等設置会社では監査委員会が選任します(会社法 第346条第6項から第8項まで)。
一時会計監査人の職務を行うべき者にも、会計監査人と同じ資格および欠格事由の規定と、監査役等による解任の規定が準用されます(会社法 第346条第5項)。つまり、資格のない者を暫定的に置くことはできません。報酬を定める際に監査役等の同意が必要な点も、会計監査人と同じです(会社法 第399条第1項)。
一時会計監査人は登記事項になる
会計監査人設置会社である旨および会計監査人の氏名または名称は登記事項であり、一時会計監査人の職務を行うべき者を置いたときは、その氏名または名称も登記事項です(会社法 第911条第3項第19号、第20号)。登記事項に変更が生じたときは、2週間以内に本店の所在地において変更の登記をしなければなりません(会社法 第915条第1項)。
選任手続を怠ると過料の対象になる
会計監査人が法律または定款で定めた員数を欠くこととなった場合において、その選任(一時会計監査人の職務を行うべき者の選任を含みます)の手続をすることを怠ったときは、取締役や監査役などは100万円以下の過料に処せられます(会社法 第976条第22号)。「後任が見つからないので空席のままにしている」という状態は、この過料の対象になり得ます。
計算書類および附属明細書は、会計監査人設置会社では監査役等と会計監査人の監査を受けなければなりません(会社法 第436条第2項第1号)。会計監査人が不在のままでは、この監査を受けられず、定時株主総会に提出する計算書類が整いません。会計監査人設置会社の特則により計算書類の承認が不要となる取扱いも受けられなくなります(会社法 第439条)。空席を放置するリスクは、過料だけにとどまりません。
後任が決まったあとに必要な社内手続
引受けの内諾が得られたら、株主総会に向けた手続に移ります。ここで押さえるのは、議案の決定機関と、参考書類・事業報告への記載です。
取締役が会計監査人の選任に関する議案を提出する場合、株主総会参考書類には、候補者が監査法人であればその名称・主たる事務所の所在場所・沿革、就任の承諾を得ていないときはその旨、監査役等が当該候補者を会計監査人の候補者とした理由などを記載しなければなりません(会社法施行規則 第77条)。解任または不再任に関する議案では、監査役等が議案の内容を決定した理由の記載が求められます(会社法施行規則 第81条)。
また、辞任した会計監査人または株主総会の決議によらずに解任された会計監査人があるときは、その氏名または名称、解任の理由、会計監査人が述べた意見などを事業報告の内容としなければなりません(会社法施行規則 第126条第9号)。会計監査人は、選任・解任・不再任・辞任について株主総会に出席して意見を述べることができます(会社法 第345条第5項において準用する同条第1項)。
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前任者がいる場合の引継ぎについては、日本公認会計士協会の監査基準報告書900「監査人の交代」に実務指針が定められています。会社側は、前任監査人に対して後任への情報提供を承諾する意思を早めに伝えておくと、引継ぎが滞りません。
実務で起きやすい落とし穴
- 1社ずつ順番に打診してしまう。1社あたりの引受審査には相応の期間がかかります。断られてから次に動くと、任期満了に間に合いません。複数社へ同時に打診し、審査を並行させるのが実務的です。
- 大手監査法人だけに絞る。規模や上場区分によっては、中小規模の監査事務所のほうが体制と報酬の折り合いがつく場合があります。打診先の範囲を先に狭めないことが重要です。
- 不利な情報を後出しする。未解決の会計論点や関係会社の状況を伏せた打診は、審査の途中で判明した時点で振り出しに戻ります。
- 報酬の同意手続を後回しにする。監査役等の同意は会社法上の要件であり、契約締結の直前に慌てて取るものではありません(会社法 第399条第1項)。
- 会計監査人が欠けた状態を放置する。一時会計監査人の選任は義務であり、怠れば過料の対象になります(会社法 第346条第4項、第976条第22号)。
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まとめ
監査法人が見つからない状況は、打診前の準備、打診の時期、独立性の3点を点検すると原因が絞り込めます。打診前に固める6項目と、渡す資料の一覧を先に整えることで、引受審査の往復が減り、回答までの時間が短くなります。
後任が決まらないまま会計監査人が欠けた場合は、監査役等が一時会計監査人の職務を行うべき者を選任する義務を負い(会社法 第346条第4項)、これを怠ると100万円以下の過料の対象になります(会社法 第976条第22号)。空席のまま様子を見る選択肢はない、という前提で動くことが大切です。
監査法人の引受可否は、機関設計・会計論点の状況・決算体制によって判断が分かれます。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
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よくある質問
監査法人に断られ続けた場合、監査を受けずに決算を確定できますか。
会計監査人設置会社では、計算書類および附属明細書は監査役等と会計監査人の監査を受けなければなりません(会社法 第436条第2項第1号)。会計監査人が不在のままでは、この監査を受けられず、会計監査人設置会社の特則による計算書類の承認の省略も適用されません(会社法 第439条)。監査を受けずに決算手続を完結させることはできません。
後任が決まらないまま任期が満了したらどうすればよいですか。
会計監査人が欠けた場合において遅滞なく会計監査人が選任されないときは、監査役が一時会計監査人の職務を行うべき者を選任しなければなりません(会社法 第346条第4項)。監査役会設置会社では監査役会、監査等委員会設置会社では監査等委員会、指名委員会等設置会社では監査委員会が選任します(会社法 第346条第6項から第8項まで)。
一時会計監査人は誰でも就任できますか。
一時会計監査人の職務を行うべき者には、会計監査人の資格および欠格事由の規定が準用されるため、公認会計士または監査法人であり、かつ欠格事由に該当しない者でなければなりません(会社法 第346条第5項、第337条)。報酬を定める際には監査役等の同意が必要です(会社法 第399条第1項)。
会計監査人を空席のままにすると、どのような不利益がありますか。
会計監査人が定めた員数を欠いた場合において選任の手続を怠ったときは、100万円以下の過料に処せられます(会社法 第976条第22号)。一時会計監査人の職務を行うべき者の選任を怠った場合も含まれます。また、一時会計監査人を置いたときはその氏名または名称が登記事項となり、変更から2週間以内の登記が必要です(会社法 第911条第3項第20号、第915条第1項)。
税務顧問を依頼している会計事務所に会計監査を頼めますか。
会社の子会社やその取締役等から公認会計士または監査法人の業務以外の業務により継続的な報酬を受けている者は、会計監査人となることができません(会社法 第337条第3項第2号)。会社本体との関係についても公認会計士法上の制限があり、同法により計算書類の監査ができない者は会計監査人になれません(会社法 第337条第3項第1号)。既存の委託関係は打診前に整理してください。
打診はいつから始めるべきですか。
実務上は、監査対象とする事業年度の期首前に打診を開始し、遅くとも第2四半期までに契約を締結できる状態にしておくのが目安です。監査は期中から手続を積み上げるため、期末が近づいてからの打診は、その年度の監査を引き受けられない可能性が高くなります。
本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。



