労働組合の支部会計の合算【計算例】内部取引の相殺と合算収支計算書
目次
- 支部会計の合算が求められる根拠
- 合算が必要な支部・不要な支部【判定表】
- 支部会計の持ち方と内部取引の種類
- 支部を独立した会計単位にしない方法
- 支部交付金で渡し切る方法
- 総額主義との関係
- 合算の手順
- 本部1・支部2の計算例
- 手順1 交付金の照合と差異の修正
- 手順2 各会計の収支を科目ごとに合計
- 手順3 内部取引の相殺消去
- 合算収支計算書と合算貸借対照表
- 特別会計の総合貸借対照表との違い
- 外部の会計監査で確認されやすい点
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- 支部ごとに帳簿を分けていれば、合算しなくてもよいですか。
- 本部の支部交付金と支部の受入額が合わないときはどうしますか。
- 合算するとき、支部の収入と支出を差し引きした純額だけを取り込んでもよいですか。
- 特別会計と同じように、支部も総合貸借対照表だけ作ればよいですか。
- 相殺消去の仕訳は本部の帳簿に記帳しますか。
工場や事業所ごとに支部を置く労働組合では、決算のたびに「支部の帳簿をどう本部の決算書に取り込むか」が問題になります。結論からいうと、組織として一体で運営されている支部は、本部と支部を合わせた計算書類を作り、本部と支部のあいだの取引と残高は原則として相殺して表示します(労働組合会計基準 第5)。単純に足し算すると、本部が支部へ渡した交付金が「本部の支出」と「支部の収入」の両方に計上され、組合全体の規模が実態より大きく見えてしまうためです。
この記事では、合算が必要な支部の見分け方、内部取引の相殺の考え方、本部1・支部2のモデルを使った合算収支計算書と合算貸借対照表の計算例を、公認会計士事務所の実務の視点で順に整理します。
支部会計の合算が求められる根拠
労働組合法は、組合規約に「すべての財源及び使途、主要な寄附者の氏名並びに現在の経理状況を示す会計報告」を、職業的に資格がある会計監査人の証明書とともに少なくとも毎年1回組合員に公表する旨を定めるよう求めています(労働組合法 第5条第2項第7号)。法律自体は支部の扱いまで書いていませんが、支部で使われたお金を除いた決算書では「すべての財源及び使途」を示したことにならない、というのが実務での基本的な受け止め方です。
具体的な作り方は、日本公認会計士協会が公表している労働組合会計基準が示しています。同基準は、組合組織が一体として運営される支部を設けている場合には、その支部を含めた活動状況を明らかにする計算書類を作成しなければならないとし、あわせて本部・支部会計相互間の取引及び残高は原則として相殺して表示すると定めています(労働組合会計基準 第5)。ここでいう計算書類は、収支計算書・貸借対照表・附属明細表を指します(労働組合会計基準 第1の2)。
関連コラム労働組合の会計基準とは|計算書類の体系と勘定科目・特別会計▸
合算が必要な支部・不要な支部【判定表】
すべての支部を機械的に合算するわけではありません。労働組合会計基準解釈指針によれば、組織上一体として運営されている支部については支部を含めた計算書類を作るのが原則です。ただし、支部が自ら大会を開き、役員の選任や予算・決算の承認まで行っているなら、その支部は独立して運営されているとみることができます。この場合は同じ会社の組合であっても支部単独で計算書類を作れば足り、本部との合算までは求められません(労働組合会計基準解釈指針 4(1))。
判断の目安を表にまとめると、次のとおりです。
| 支部に独自の大会がなく 予算・決算も本部の大会で承認 |
一体運営の支部。本部と合算した計算書類を作成し、内部取引を相殺する |
|---|---|
| 支部が帳簿を持つが 役員選任は本部で行う |
帳簿が分かれていても一体運営にあたることが多い。合算の対象として扱う |
| 支部大会で役員選任と 予算・決算の承認を行う |
独立して運営されているといえるため、支部単独の計算書類で足りる |
| 支部がそれぞれ労働組合で 本部が連合団体として組織 |
単位労働組合と連合団体の関係。各組合がそれぞれ会計報告を行い、合算の問題にはならない |
労働組合法は、労働組合を「団体又はその連合団体」と定め、単位労働組合と連合団体を区別しています(労働組合法 第2条、第5条第2項第5号)。名称が「支部」でも、規約上は独立した単位労働組合になっている例があるため、判定は名称ではなく規約と大会の運営実態で行います。実務では、規約の「機関」と「会計」の章を読み、支部の予算・決算をどの機関が承認しているかを最初に確認します。
支部会計の持ち方と内部取引の種類
合算の手間は、支部会計をどう持っているかで大きく変わります。代表的な持ち方は次の2つです。
支部を独立した会計単位にしない方法
小規模な支部では、支部に現金出納帳だけを置き、支出の証憑を本部へ送って本部の帳簿にすべて記帳する方法が取られます。この場合、支部の収支は最初から本部の帳簿に入っているため、決算時に改めて合算する作業はありません。その代わり、本部側で支部ごとの使途が見えるよう、補助科目や支出明細を設けておくことが大切です。
支部交付金で渡し切る方法
支部の規模が大きくなると、本部が予算に基づいて支部へ交付金を渡し、支部は自らの帳簿と予算で支出を管理する方法が一般的になります。労働組合会計基準が例示する科目にも、支出の部に「支部交付金」(支部への交付金、補助金)が置かれています(労働組合会計基準 計算書類の科目)。受け取った支部側は「本部交付金収入」などの科目で受け入れます。科目は組合の態様・規模に応じて加除・変更できるため、名称は会計規程で決めておけば足ります(労働組合会計基準 第1の5、計算書類の科目)。
この方法で合算時に相殺の対象となる内部取引は、主に次のとおりです。
| 本部の支部交付金と 支部の本部交付金収入 |
収支計算書の内部取引。合算時に同額を相殺する |
|---|---|
| 立替払いの未収・未払 | 支部が本部の経費を立て替えた場合などに生じる貸借勘定。貸借対照表で相殺する |
| 本部・支部間の貸付・借入 | 一時的な資金融通の残高。貸借対照表で相殺する |
解釈指針は、組合費を全額いったん本部で受け入れてから支部へ交付金を出す組合を想定し、支部の収支も本部と一体の計算書類に含める以上、本部・支部間の取引と貸借勘定の残高は相殺して示す必要があると説明しています(労働組合会計基準解釈指針 4(2))。あわせて、支部が期末に持っている現・預金の残高を本部側で支部交付金から差し引き、本部の貸借対照表に載せるやり方も認められています(同 4(2)ただし書)。
総額主義との関係
労働組合会計基準は、収入と支出、資産と負債を直接相殺して計算書類から除いてはならないという総額主義を原則としています(労働組合会計基準 注解3、注解4)。合算時の相殺はこの原則と矛盾しないかという質問をよく受けますが、相殺するのはあくまで組合の内部でお金が移動しただけの取引です。組合の外部との取引、たとえば支部が集めた行事参加費とその行事の費用は、合算後も総額のまま表示します。
実務で起きやすい誤りは、「支部の収入と支出を差し引きして純額だけ本部に取り込む」処理です。これは内部取引の相殺ではなく外部取引の相殺にあたり、総額主義に反します。合算は「全部を科目ごとに足す」「内部取引だけを消す」の2段階で行う、と覚えておくと迷いません。
合算の手順
当事務所で支部のある組合の決算・監査を支援するときは、おおむね次の順で進めます。
- 合算範囲の確定: 判定表に沿って、合算する支部と単独で決算する支部を分ける。
- 資金の範囲と科目の統一: 本部と支部で資金の範囲・科目体系がそろっているか確認する(資金の範囲は組合が選択でき、注解2で4つの例が示されています)。
- 交付金の照合: 本部の支部交付金と各支部の本部交付金収入を支部ごとに突き合わせる。
- 差異の調整: 記帳時期のずれや記帳漏れによる差異を、どちらの帳簿で直すか決めて修正する。
- 貸借勘定の照合: 立替金・未払金、貸付金・借入金の残高を相手方と突き合わせる。
- 合算精算表の作成と相殺: 科目ごとに本部・各支部の金額を足し、内部取引を消去して合算額を出す。
- 注記: 合算の範囲と、内部取引を相殺している旨を重要な会計方針として注記する(労働組合会計基準 第1の6)。
3と5の照合で差異が残ったまま合算すると、次年度繰越金が組合全体で合わなくなります。差異の原因を特定せずに「調整額」で埋める処理は、外部の会計監査でも質問されやすい箇所です。
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本部1・支部2の計算例
ここからは、当事務所で作成したモデルで合算の流れを確認します(数値はすべて架空です)。前提は次のとおりです。
- 本部・A支部・B支部の3会計。支部はいずれも組織上一体として運営されている。
- 資金の範囲は「現金預金及び短期金銭債権債務」で、本部・支部とも同じ。
- 本部は支部交付金として、A支部に12,000千円、B支部に8,000千円を支出した。
- B支部の通帳には3月31日に8,000千円が入金されているが、うち500千円の記帳が翌期にずれ、帳簿上の本部交付金収入は7,500千円になっている。
- 期末に、A支部が本部役員の出張旅費200千円を立て替えている(本部は事務局費と未払金、A支部は立替金で処理済み)。
手順1 交付金の照合と差異の修正
まず支部ごとに、本部の支部交付金と支部の本部交付金収入を突き合わせます。
B支部の差異500千円は、通帳への入金を確認できるため、B支部の帳簿で当期の収入として修正します(単位:千円)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 500 | 本部交付金収入 | 500 |
修正後のB支部は、本部交付金収入8,000千円、次年度繰越金1,100千円になります。
手順2 各会計の収支を科目ごとに合計
修正後の各会計の主な金額は次のとおりです(単位:千円)。
- 本部:組合費収入60,000、雑収入50、前年度繰越金8,000/人件費18,000、事務局費6,000、会議費4,000、上部団体会費7,000、支部交付金20,000/次年度繰越金13,050
- A支部:本部交付金収入12,000、雑収入300、前年度繰越金1,500/事務局費3,500、会議費2,800、事業費5,200/次年度繰越金2,300
- B支部:本部交付金収入8,000、雑収入100、前年度繰越金900/事務局費2,400、会議費1,900、事業費3,600/次年度繰越金1,100
相殺前の単純合計は、収入と支出がそれぞれ次のようになります。
手順3 内部取引の相殺消去
合算精算表の上で、収支計算書の支部交付金と本部交付金収入、貸借対照表の立替金と未払金を消去します(労働組合会計基準 第5)。精算表上の消去を仕訳の形で表すと次のとおりです(単位:千円)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 本部交付金収入 | 20,000 | 支部交付金 | 20,000 |
| 未払金 | 200 | 立替金 | 200 |
この消去は合算精算表の上だけで行うもので、本部・支部それぞれの帳簿には記帳しません。
最後に、各会計の次年度繰越金の合計(13,050+2,300+1,100=16,450)と一致することを確かめます。一致しなければ、照合か相殺のどこかに誤りがあります。
合算収支計算書と合算貸借対照表
相殺後の合算収支計算書(決算額)は次のとおりです(単位:千円)。
| 組合費収入 | 60,000 |
|---|---|
| 雑収入 | 450 |
| 前年度繰越金 | 10,400 |
| 収入合計 | 70,850 |
| 人件費 | 18,000 |
| 事務局費 | 11,900 |
| 会議費 | 8,700 |
| 事業費 | 8,800 |
| 上部団体会費 | 7,000 |
| 支出合計 | 54,400 |
| 次年度繰越金 | 16,450 |
相殺しなかった場合、収入合計は90,850千円、支出合計は74,400千円と、いずれも20,000千円過大になります。支出合計は実態の54,400千円より約37%大きく見えることになり、大会で予算規模を議論する前提が崩れてしまいます。
貸借対照表は、本部の現金預金13,250千円・未払金200千円、A支部の現金預金2,100千円・立替金200千円、B支部の現金預金1,100千円を合計し、立替金と未払金を相殺します。
| 現金預金 | 16,450 |
|---|---|
| 資産合計 | 16,450 |
| 負債合計 | 0 |
| 次年度繰越金 | 16,450 |
| 負債・正味財産合計 | 16,450 |
モデルでは説明を簡単にするため固定資産や積立金を置いていませんが、実際の組合では支部の備品や積立預金も合算の対象になります。予算額の欄も同じ要領で本部・支部の予算を合算し、交付金の予算を相殺して作ります。
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特別会計の総合貸借対照表との違い
支部会計の合算と混同されやすいのが、特別会計の取扱いです。特別会計を設けた場合は、一般会計と特別会計を総合した貸借対照表を作り、会計区分間の貸借は相殺して表示します(労働組合会計基準 第7)。一方で、総合収支計算書は作成しないものとされています(労働組合会計基準解釈指針 6(2))。
これに対し、一体運営の支部は「支部を含めた活動状況を明らかにする計算書類」が求められるため、貸借対照表だけでなく収支計算書も合算して作ります(労働組合会計基準 第5)。支部と特別会計の両方がある組合では、「支部は収支計算書と貸借対照表を合算」「特別会計は総合貸借対照表のみ」と整理しておくと、決算書の構成を間違えません。
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外部の会計監査で確認されやすい点
労働組合法上の労働組合は、職業的に資格がある会計監査人による監査を受けなければなりません(労働組合法 第5条第2項第7号、非営利法人委員会実務指針第37号 第4項)。支部のある組合の監査では、合算の結果だけでなく、合算に至る過程も確認の対象になります。当事務所の経験上、特に確認に時間がかかるのは次の点です。
- 合算範囲の根拠(規約・大会議事録で支部の運営実態を説明できるか)
- 支部交付金と本部交付金収入の支部別の一致、差異がある場合の原因
- 支部名義の預金口座がすべて帳簿に載っているか(通帳・残高証明との照合)
- 支部の支出証憑の保存状況と、支部での承認手続
- 合算範囲と相殺の方針が注記に書かれているか
支部の預金口座が本部の把握外にあると、合算の前提そのものが崩れます。決算前に支部の口座一覧を本部でとりまとめておくと、監査の手戻りを大きく減らせます。
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まとめ
- 組織として一体で運営されている支部は、本部と合算した計算書類(収支計算書・貸借対照表・附属明細表)を作る(労働組合会計基準 第5)。
- 支部大会で役員選任と予算・決算の承認を行う支部は、独立した計算書類で足りる(解釈指針 4(1))。
- 相殺するのは支部交付金と本部交付金収入、立替や貸借の残高といった内部取引だけで、外部との取引は総額のまま表示する。
- 合算前に交付金と貸借残高を支部別に照合し、各会計の次年度繰越金の合計と合算後の次年度繰越金が一致することを確かめる。
- 特別会計は総合貸借対照表のみ、支部は収支計算書も合算、と区別して決算書を構成する。
支部の数や会計の持ち方によって、合算範囲の判断や照合の進め方は組合ごとに変わります。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
労働組合監査の無料見積り・ご相談はこちら参考文献
- e-Gov法令検索 労働組合法
- 日本公認会計士協会 公益法人委員会報告第5号 労働組合会計基準
- 日本公認会計士協会 非営利法人委員会実務指針第37号 労働組合監査における監査上の取扱い及び監査報告書の文例の改正について
よくある質問
支部ごとに帳簿を分けていれば、合算しなくてもよいですか。
帳簿が分かれているかどうかではなく、運営の実態で判断します。支部が組織上一体として運営されていれば、本部と支部を含めた計算書類を作るのが原則です(労働組合会計基準 第5)。支部大会で役員の選任や予算・決算の承認を行っている場合に限り、支部単独の計算書類で足りるとされています(労働組合会計基準解釈指針 4(1))。
本部の支部交付金と支部の受入額が合わないときはどうしますか。
まず原因を特定します。期末の送金と記帳時期のずれ、記帳漏れ、科目の誤りが典型です。通帳などで事実を確認したうえで、正しい側に合わせてどちらかの帳簿を修正し、支部別に一致させてから相殺します。原因が分からない差異を調整額として処理するのは避けてください。
合算するとき、支部の収入と支出を差し引きした純額だけを取り込んでもよいですか。
取り込めません。労働組合会計基準は収入と支出を直接相殺しない総額主義を原則としています(労働組合会計基準 注解3)。相殺してよいのは本部・支部間の取引と残高だけで(労働組合会計基準 第5)、外部との取引は科目ごとに総額で合算します。
特別会計と同じように、支部も総合貸借対照表だけ作ればよいですか。
一体運営の支部は、貸借対照表だけでなく収支計算書も合算します(労働組合会計基準 第5)。総合収支計算書を作らず総合貸借対照表のみでよいとされているのは特別会計の場合です(労働組合会計基準 第7、労働組合会計基準解釈指針 6(2))。
相殺消去の仕訳は本部の帳簿に記帳しますか。
記帳しません。相殺消去は合算精算表の上で行う作業で、本部・支部それぞれの帳簿は内部取引を含んだまま残します。帳簿に記帳してしまうと、本部単体の収支計算書から支部交付金が消え、予算との対比ができなくなります。
本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。



