KAMは会社法監査で必要か【一覧表】金商法監査との記載要否
目次
KAM(監査上の主要な検討事項)は、監査人が当年度の監査で特に重要と判断した事項を監査報告書に書き出す仕組みです。結論からいうと、法令で記載が求められるのは金融商品取引法に基づく監査(金商法監査)の監査報告書で、会社法に基づく会計監査人の監査(会社法監査)の会計監査報告には記載義務がありません。会社法監査でKAMを載せるのは、監査人と会社が監査契約で合意した場合に限られます。
同じ会社でも、株主総会の招集通知に添付される会計監査報告と、有価証券報告書の監査報告書とでKAMの有無が分かれるのはこのためです。本記事では、会社の区分ごとの記載の要否を一覧表で示し、会社法監査で任意に記載する場合の扱いまで整理します。
KAM(監査上の主要な検討事項)の定義と記載項目
KAMは、監査役等と協議した事項の中から、監査人が監査及び会計の専門家として当該事業年度の監査で特に重要と判断したものをいいます(財務諸表等の監査証明に関する内閣府令 第4条第5項)。ここでいう「監査役等」には、監査役・監査役会・監査等委員会・監査委員会が含まれます(同府令 第4条第1項第1号ト)。
選定は二段階です。監査人はまず、監査役等とコミュニケーションを行った事項の中から、特別な検討を必要とするリスクや重要な虚偽表示リスクが高い領域、経営者の重要な判断が関わる領域(見積りの不確実性が高い会計上の見積りなど)、当年度に発生した重要な事象や取引の影響などを考慮して「特に注意を払った事項」を決めます。そのうえで、さらに特に重要と判断した事項に絞り込み、KAMとします(監査基準報告書701 第8項・第9項)。
監査報告書には、KAMごとに次の4項目を記載します(財務諸表等の監査証明に関する内閣府令 第4条第5項各号、監査基準報告書701 第12項)。
| 関連する開示の箇所 | 財務諸表等にKAMに関連する開示がある場合、その開示が記載されている箇所 |
|---|---|
| KAMの内容 | どの事項をKAMとしたか |
| KAMと決定した理由 | 当年度の監査で特に重要であると判断した理由 |
| 監査における対応 | その事項に対して監査人が実施した対応 |
KAMは監査意見の代わりになるものではありません。除外事項付意見を表明すべき状況で、その代わりにKAMとして報告することは認められていませんし(監査基準報告書701 第4項・第11項)、KAMの区分の冒頭には、個々の事項に対して個別に意見を表明するものではない旨を書きます(同 第10項)。
【一覧表】会社区分別のKAM記載の要否
KAMの適用範囲は、監査基準そのものではなく関係法令で定めることとされました。金商法監査の監査報告書の記載事項は監査証明府令が定めており、KAMはその記載事項の一つです(財務諸表等の監査証明に関する内閣府令 第4条第1項第1号ニ)。ただし、同府令第3条第5項各号に掲げる会社が有価証券届出書や有価証券報告書を提出する場合に当たらなければ、KAMは記載しないことができます(同 第4条第10項)。この線引きを会社の区分ごとに並べると次のとおりです。
| 上場会社 (金商法監査) |
記載が必要。上場有価証券の発行会社として有価証券報告書を提出する会社は第3条第5項第1号に当たる(財務諸表等の監査証明に関する内閣府令 第3条第5項第1号、第4条第10項第2号) |
|---|---|
| 非上場の有価証券報告書 提出会社(規模基準以上) |
記載が必要。負債200億円以上、または資本金5億円以上かつ売上高10億円以上の会社(同 第3条第5項第2号) |
| 非上場の有価証券報告書 提出会社(規模基準未満) |
記載しないことができる。資本金5億円未満または売上高10億円未満で、かつ負債200億円未満の会社(同 第3条第5項第2号括弧書、第4条第10項) |
| 有価証券届出書の 監査報告書 |
第3条第5項各号に掲げる会社が届出書を提出する場合は記載が必要(同 第4条第10項第1号)。それ以外は記載しないことができる |
| 会社法監査 (計算書類・連結計算書類) |
法令上の記載事項ではない(会社計算規則 第126条第1項)。監査契約で合意した場合に限り任意で記載する(監査基準報告書700 第31項) |
| 意見不表明の場合 | 金商法監査・会社法監査を問わず記載しない(財務諸表等の監査証明に関する内閣府令 第4条第1項第1号ニ、監査基準報告書701 第5項) |
上場会社であっても、個別財務諸表の監査報告書に記載すべきKAMが連結財務諸表の監査報告書と同一の内容であれば、その旨を書いて内容の記載を省略できます(財務諸表等の監査証明に関する内閣府令 第4条第11項第1号、監査基準報告書701 第12項ただし書)。省略する場合も、KAMの見出しを付けた区分は設けて、その旨を記載します(監査基準報告書701 第15項)。
非上場会社の規模基準の当てはめ
非上場の有価証券報告書提出会社は、最終事業年度の貸借対照表と損益計算書の数値で判定します。売上高は、最終事業年度の売上高か、直近3年間に終了した事業年度の売上高の平均額(合計の3分の1)の、大きい方を使います(財務諸表等の監査証明に関する内閣府令 第3条第5項第2号)。判定の順序は次のとおりです。
- 負債の合計額が200億円以上なら、資本金・売上高にかかわらずKAMの記載が必要
- 負債200億円未満なら、資本金5億円以上かつ売上高10億円以上のときだけ記載が必要
- 資本金5億円未満、または売上高10億円未満のどちらか一方でも当てはまれば記載しないことができる
架空の3社で当てはめると、次のようになります。
| 前提(最終事業年度) | 判定 |
|---|---|
| A社:資本金3億円、売上高80億円、負債120億円 | 資本金5億円未満かつ負債200億円未満のため、記載しないことができる |
| B社:資本金3億円、売上高80億円、負債230億円 | 負債200億円以上のため、記載が必要 |
| C社:資本金6億円、当期売上高9億円、直近3年平均の売上高11億円、負債40億円 | 大きい方の売上高11億円で判定し、資本金5億円以上かつ売上高10億円以上のため、記載が必要 |
C社のように当期の売上高だけで見ると基準を下回る会社でも、3年平均を使うと基準を超えることがあります。期末前に数値を試算し、監査人と早めに認識を合わせておくと、決算期になってKAMの準備が足りないという事態を避けられます。
上場前の会社が新規上場のために有価証券届出書を提出する場合も、同府令第4条第10項第1号に当たるかどうかで記載の要否が決まります。上場準備期の監査の位置付けは、次のコラムで整理しています。
関連コラム準金商法監査【一覧表】IPO直前2期の監査と非上場会社の金商法監査・会社法監査の違い▸
会社法監査の会計監査報告にKAMが求められない理由
会計監査人設置会社の計算書類とその附属明細書、連結計算書類は、会計監査人の監査を受けなければなりません(会社法 第436条第2項第1号、第444条第4項)。その結果として作る会計監査報告の内容は会社計算規則が定めており、記載事項は次の7つです(会社計算規則 第126条第1項)。
- 会計監査人の監査の方法とその内容
- 計算関係書類が財産と損益の状況を適正に表示しているかどうかについての意見
- 意見がないときは、その旨と理由
- 継続企業の前提に関する注記に係る事項
- 事業報告とその附属明細書の内容と、計算関係書類の内容などとの重要な相違等について報告すべき事項の有無
- 追記情報(会計方針の変更、重要な偶発事象、重要な後発事象など)
- 会計監査報告を作成した日
この中にKAMは含まれていません。日本公認会計士協会が示す会社法監査の監査報告書の文例(計算書類・連結計算書類)も、監査意見、監査意見の根拠、その他の記載内容、経営者と監査役等の責任、監査人の責任などで構成され、KAMの区分は置かれていません(監査基準報告書700実務指針第1号 文例11・文例12)。
実務上の影響は、報告の時期の違いに表れます。会社法の会計監査報告は、計算書類の全部を受領した日から4週間を経過した日などまでに特定監査役・特定取締役へ通知され(会社計算規則 第130条第1項)、定時株主総会の前に固まります。金商法監査の監査報告書は、事業年度経過後3月以内に提出する有価証券報告書とともに開示されます(金融商品取引法 第24条第1項)。株主総会の前に固まる会計監査報告にはKAMの記載義務がなく、金商法監査のKAMは有価証券報告書の監査報告書で開示されます。
関連コラム計算書類の監査報告書の記載事項と通知期限|会社法監査の実務▸
会社法監査でKAMを任意に記載する場合の扱い
法令で求められていない監査でも、監査人が監査報告書にKAMを任意で報告することを契約条件として合意している場合は、監査基準報告書701に従ってKAMを報告しなければなりません(監査基準報告書700 第31項、監査基準報告書701 第5項)。任意の合意が考えられる例として、利害関係者が多く広範で、事業の内容や規模から公共の利益への影響が高い可能性がある場合が挙げられています(監査基準報告書700 A42項)。
任意であっても、一度合意すれば「書ける範囲で書く」という運用にはなりません。次の点は金商法監査と同じ水準で求められます。
| 決定の手順 | 監査役等とコミュニケーションを行った事項から特に注意を払った事項を選び、さらに絞り込む(監査基準報告書701 第8項・第9項) |
|---|---|
| 記載する内容 | 関連する注記事項への参照、KAMの内容、決定した理由、監査上の対応(同 第12項) |
| 記載しない場合 | 法令等で公表が禁止されている場合と、報告による不利益が公共の利益を上回ると合理的に見込まれる極めて限定的な場合だけ(同 第13項) |
| 除外事項・継続企業の 前提に関する重要な不確実性 |
性質上KAMに該当するが、KAMの区分には書かず、それぞれの区分で報告する(同 第14項) |
| 報告すべきKAMがない場合 | KAMの見出しを付けた区分を設けて、その旨を記載する(同 第15項) |
| 監査役等への報告 | KAMと決定した事項、または報告すべきKAMがないと判断した旨を伝える(同 第16項) |
任意記載を合意する前の確認事項
会社側が会社法監査でのKAMの任意記載を検討する場合、実務では次の点を事前に詰めておくと、決算日程の中で慌てずに済みます。
- 監査契約への明記:任意で報告することを契約条件として合意したことが、701の適用の起点になります。
- 監査役等との協議日程:KAMは監査役等と協議した事項から選ばれるため、監査計画の段階から候補を共有する日程を組みます。会社法の会計監査報告の通知期限から逆算することが前提です。
- 未公表情報の扱い:KAMに企業の未公表情報を含める必要があると監査人が判断した場合、経営者には追加の開示が促されることがあります。開示責任は経営者にあり、KAMは経営者による開示の代わりにはならないとされています(企業会計審議会「監査基準の改訂に関する意見書」2018年7月)。
- 金商法監査のKAMとの関係:上場会社が会社法監査でも任意に記載する場合、後に開示される有価証券報告書の監査報告書と内容が食い違わないよう、監査人と記載の範囲を確認しておきます。
関連コラム三様監査【一覧表】監査役・会計監査人・内部監査の権限と連携の時期▸
KAMの適用時期と改正の経緯
KAMは、企業会計審議会が2018年7月に公表した監査基準の改訂で導入されました。2021年3月決算に係る財務諸表の監査から適用されており、それ以前の決算からの早期適用も認められていました。適用範囲その他の所要の整備は関係法令で行うこととされ、監査証明府令に記載事項として定められています(財務諸表等の監査証明に関する内閣府令 第4条第1項第1号ニ)。
実務指針である監査基準報告書701は2019年2月に公表され、2021年3月31日以後終了する事業年度に係る監査から適用されています(2020年3月31日以後終了する事業年度からの早期適用も可能でした)。その後、会計上の見積りの監査やグループ監査などの関連する報告書の改正に合わせて改正が重ねられ、2024年9月26日に監査役等とのコミュニケーションと監査報告に関する報告書(監査基準報告書260・700)の改正に伴う改正が行われています。
まとめ
- KAMの記載が法令で求められるのは金商法監査の監査報告書。上場会社と、規模基準以上の非上場の有価証券報告書提出会社が対象です(財務諸表等の監査証明に関する内閣府令 第3条第5項、第4条第10項)。
- 非上場会社の規模基準は「負債200億円以上」または「資本金5億円以上かつ売上高10億円以上」。売上高は3年平均と比べて大きい方で判定します。
- 会社法監査の会計監査報告の記載事項にKAMは含まれていません(会社計算規則 第126条第1項)。
- 会社法監査でもKAMを任意で記載できますが、監査契約で合意すれば監査基準報告書701の要求事項がそのまま適用されます(監査基準報告書700 第31項)。
自社が記載の対象に当たるか、会社法監査で任意に記載するべきかは、資本金・売上高・負債の数値や株主構成によって判断が分かれます。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
会社法監査の無料見積り・ご相談はこちら参考文献
- e-Gov法令検索 財務諸表等の監査証明に関する内閣府令
- e-Gov法令検索 会社計算規則
- e-Gov法令検索 会社法
- e-Gov法令検索 金融商品取引法
- 金融庁 監査基準の改訂に関する意見書の公表について
- 日本公認会計士協会 監査実務指針等
よくある質問
会社法監査の会計監査報告にKAMを書かないのは問題ですか。
問題ありません。会社法監査の会計監査報告の記載事項(会社計算規則 第126条第1項)にKAMは含まれていないため、記載しないのが原則です。監査人と会社が監査契約で合意した場合に限り、監査基準報告書701に従って任意に記載します(監査基準報告書700 第31項)。
非上場でも有価証券報告書を提出していればKAMは必要ですか。
規模によります。負債200億円以上、または資本金5億円以上かつ売上高10億円以上であれば記載が必要です。資本金5億円未満または売上高10億円未満で、かつ負債200億円未満なら記載しないことができます(財務諸表等の監査証明に関する内閣府令 第3条第5項第2号、第4条第10項)。
上場会社は個別財務諸表の監査報告書にもKAMを書く必要がありますか。
記載が求められますが、連結財務諸表の監査報告書と同一内容であれば、その旨を記載して内容を省略できます(財務諸表等の監査証明に関する内閣府令 第4条第11項第1号、監査基準報告書701 第12項ただし書)。この場合もKAMの区分は設けます(監査基準報告書701 第15項)。
監査の結果、KAMが1つもないということはありますか。
あります。報告すべきKAMがないと監査人が判断した場合は、KAMの見出しを付けた区分を設けて、その旨を記載します(監査基準報告書701 第15項)。監査人はその判断を監査役等に伝え、根拠を監査調書に残します(同 第16項・第17項)。
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