研究開発費・ソフトウェアの会計処理【4区分の判定一覧表と仕訳例】
目次
- 研究開発費・ソフトウェアの4区分の判定一覧表
- 4区分の判定の目安
- 4区分の会計処理の一覧
- 判定の3ステップ
- 会計基準と実務指針の条項マップ
- 研究開発費の範囲と会計処理
- 研究・開発の定義と典型例
- 原価要素と特定の研究開発目的の機械装置
- 発生時費用処理と外部委託の研究開発
- 表示と注記
- 繰延資産の「開発費」との関係
- ソフトウェアの範囲とコンテンツの扱い
- 市場販売目的のソフトウェア
- 研究開発の終了時点と製品マスター
- 完成後の改良・強化と機能維持
- 製品マスターの計上科目と仕訳例
- 自社利用のソフトウェア
- 資産計上の要件と3つの例
- 資産計上の開始時点・終了時点と証憑
- 導入費用の取扱い
- 受注制作のソフトウェア
- 資産計上したソフトウェアの減価償却
- 適用範囲と企業結合で受け入れたソフトウェア
- 基準の適用時期と改正の経緯
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- 研究開発費はなぜ資産計上できないのですか。
- 新製品の試作品にかかった費用は研究開発費ですか。
- 製品マスターとは何ですか。
- 自社利用ソフトウェアはいつから資産計上できますか。
- 受注制作のソフトウェアは現在どの基準で処理しますか。
- 研究開発費等に係る会計基準と実務指針はどう読み分ければよいですか。
研究開発費は、すべて発生時に費用として処理します。ソフトウェアの制作費は、研究開発に当たる部分を除いたうえで、自社利用・市場販売目的・受注制作のどれに当たるかによって、資産計上か費用処理か、収益認識の対象かが分かれます。つまり実務では「研究開発費/自社利用/市場販売目的/受注制作」の4区分のどれに当たるかを最初に決めることが、会計処理の出発点になります。
本稿では、冒頭で4区分の判定一覧表を示したうえで、研究開発費等に係る会計基準と、研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針(移管指針第8号)の定めを条項の順に整理し、判断に迷いやすい論点を仕訳例とあわせて解説します。
研究開発費・ソフトウェアの4区分の判定一覧表
基準は、ソフトウェアの制作費について、取得形態(自社制作か外部購入か)ではなく制作目的別に会計処理を定めています。まず研究開発に該当する部分を研究開発費として切り出し、残りを販売目的と自社利用に分け、販売目的をさらに受注制作と市場販売目的に分けます(研究開発費等に係る会計基準の設定に関する意見書 三3、研究開発費等に係る会計基準 三)。
4区分の判定の目安
| 研究開発費 | 新しい知識の発見を目的とした調査・探究や、新製品の計画・設計、既存製品の著しい改良のための支出。市場販売目的のソフトウェアでは、最初に製品化された製品マスターの完成までの制作費が含まれる |
|---|---|
| 自社利用のソフトウェア | 社内の業務に使うソフトウェアと、外部へ業務処理等のサービスを提供するために使うソフトウェア |
| 市場販売目的の ソフトウェア |
製品マスターを複写して不特定多数の顧客へ販売するソフトウェア |
| 受注制作のソフトウェア | 契約の形式にかかわらず、特定のユーザー向けに制作し提供するソフトウェア |
受注制作のソフトウェアの範囲は、現在は収益認識に関する会計基準で「契約の形式にかかわらず、特定のユーザー向けに制作され、提供されるソフトウェア」と定義されています(収益認識に関する会計基準 第14項)。
4区分の会計処理の一覧
| 研究開発費 | 発生時にすべて費用処理する。一般管理費又は当期製造費用として処理し、その総額を財務諸表に注記する |
|---|---|
| 自社利用のソフトウェア | 将来の収益獲得又は費用削減が確実と認められる場合は無形固定資産に計上し、それ以外は費用処理する。一般には定額法で、原則5年以内で償却する |
| 市場販売目的の ソフトウェア |
製品マスター完成後の制作費を無形固定資産に計上する(機能維持の費用は除く)。見込販売数量等に基づき、見込有効期間は原則3年以内で償却する |
| 受注制作のソフトウェア | 請負工事の会計処理に準じて処理する。現在は工事契約に準じて収益認識に関する会計基準を適用する |
それぞれの根拠は、研究開発費が基準の三・五、自社利用が四3、市場販売目的が四2、受注制作が四1、計上区分と減価償却が四4・四5です(研究開発費等に係る会計基準 三、四、五)。償却年数の目安は実務指針に定められています(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第18項、第21項)。
判定の3ステップ
- 研究開発に当たるか: 研究・開発の定義に当たる活動の費用は、ソフトウェアの制作費であっても研究開発費として費用処理します(研究開発費等に係る会計基準 三)。
- 販売目的か自社利用か: 研究開発費に当たらない制作費は、販売するためのものか、自社で利用するためのものかで分けます(研究開発費等に係る会計基準の設定に関する意見書 三3(3))。
- 販売目的なら受注制作か市場販売目的か: 特定のユーザー向けの個別制作なら受注制作、製品マスターを複写して販売するなら市場販売目的です。
本稿は、基準と実務指針の条項に沿って「どの定めが何を求めているか」を整理する記事です。ソフトウェア・システム開発費を実際にどの勘定科目で処理するか、制作段階ごとの科目の使い分けは、次のコラムで一覧表にまとめています。
関連コラムソフトウェア・システム開発費の勘定科目一覧|資産計上の判定と仕訳例▸
会計基準と実務指針の条項マップ
研究開発費とソフトウェアの会計処理は、1998年3月13日に企業会計審議会が公表した研究開発費等に係る会計基準(意見書・注解を含む)が大枠を定め、実務指針が具体的な判断の目安を示すという二層の構造になっています(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第1項)。論点ごとに、どの条項を読めばよいかを整理すると次のとおりです。
| 研究・開発の定義 | 基準 一1、実務指針 第2項・第26項 |
|---|---|
| 研究開発費の原価要素 | 基準 二・注1、実務指針 第5項・第28項 |
| 費用処理・表示・注記 | 基準 三・五・注2・注6、実務指針 第3項・第4項 |
| ソフトウェアの範囲 | 基準 一2、実務指針 第6項・第7項・第29項〜第31項 |
| 市場販売目的の ソフトウェア |
基準 四2・注3、実務指針 第8項〜第10項・第32項〜第35項 |
| 自社利用のソフトウェア | 基準 四3、実務指針 第11項〜第17項・第36項〜第41項 |
| 計上区分・減価償却 | 基準 四4・四5・注4・注5、実務指針 第18項〜第22項・第42項〜第46項 |
| 受注制作のソフトウェア | 基準 四1、収益認識に関する会計基準 第14項・第38項・第41項 |
| 適用範囲 | 基準 六1〜六3、企業会計基準第23号 第2項 |
基準の本文は短く、実務で迷う「研究開発の終了時点はいつか」「自社利用ソフトウェアの資産計上はいつ始めるか」「導入費用はどこまで取得価額に入れるか」といった論点は、実務指針の側に答えがあります。以下、この順に見ていきます。
研究開発費の範囲と会計処理
研究・開発の定義と典型例
研究とは、新しい知識の発見を目的とした計画的な調査及び探究をいいます。開発とは、新しい製品・サービス・生産方法についての計画若しくは設計又は既存の製品等を著しく改良するための計画若しくは設計として、研究の成果その他の知識を具体化することをいいます(研究開発費等に係る会計基準 一1)。
実務指針は、研究・開発の典型例として次のようなものを挙げています(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第2項)。
- 従来にはない製品、サービスに関する発想を導き出すための調査・探究
- 新しい知識の調査・探究の結果を受け、製品化、業務化等を行うための活動
- 新製品の試作品の設計・製作及び実験
- 商業生産化するために行うパイロットプラントの設計、建設等の計画
- 取得した特許を基にして販売可能な製品を製造するための技術的活動
一方、研究・開発に含まれない典型例として、製品を量産化するための試作、品質管理活動や完成品の製品検査に関する活動、既存製品の不具合などの修正に係る設計変更及び仕様変更、客先の要望等による設計変更や仕様変更などが示されています(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第26項)。同じ「試作」でも、新製品の試作品は研究開発、量産化のための試作は研究開発に当たらない、という線引きになる点に注意が必要です。
判断は名称ではなく活動の実質で行います。現在の製品や業務を前提に、著しいとはいえない改良・改善を行う活動は研究・開発には含まれません(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第26項)。反対に、製造現場で行う改良研究でも、明確なプロジェクトとして行われる場合は「著しい改良」に当たると考えられています(研究開発費等に係る会計基準の設定に関する意見書 三1)。
原価要素と特定の研究開発目的の機械装置
研究開発費には、人件費、原材料費、固定資産の減価償却費及び間接費の配賦額等、研究開発のために費消されたすべての原価が含まれます(研究開発費等に係る会計基準 二)。特定の研究開発目的にのみ使用され、他の目的に使用できない機械装置や特許権等を取得した場合の原価は、取得時の研究開発費とします(研究開発費等に係る会計基準 注1)。
ここでいう「他の目的に使用できない」とは、特定の研究開発プロジェクトの目的のみに使用され、他のプロジェクトには機能的・物理的に使用できないことをいいます。特定のプロジェクトだけで使う予定で取得しても、目的を達成した後に他の研究や営業に転用できる設備は対象になりません(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第5項、第28項)。転用できる設備は固定資産として計上し、その減価償却費を研究開発費に含めることになります。
発生時費用処理と外部委託の研究開発
研究開発費は、すべて発生時に費用として処理しなければなりません(研究開発費等に係る会計基準 三)。外部に研究開発を委託した場合は、研究開発の内容について検収を行い、利用可能になった時点で費用として処理し、それまでに支払った契約金等は前渡金として処理します(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第3項)。
次の作例は、外部の研究機関へ新素材の評価試験を委託し、契約時に委託料3,000を支払い、翌期に成果物を検収したケースです(単位:千円)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 前渡金 | 3,000 | 普通預金 | 3,000 |
| 研究開発費 | 3,000 | 前渡金 | 3,000 |
1行目が契約時の支払、2行目が検収時の費用化です。支払った時点で費用にするのではなく、検収して利用可能になった時点で費用にする点がポイントです。なお、他の企業に行わせる研究開発には基準が適用されますが、他の企業のために受託して行う研究開発には基準は適用されません(研究開発費等に係る会計基準 六1)。
表示と注記
研究開発費を費用として処理する方法には、一般管理費として処理する方法と当期製造費用として処理する方法があります(研究開発費等に係る会計基準 注2)。研究開発費は一般的には原価性がないと考えられるため、通常は一般管理費として計上します(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第4項)。
当期製造費用に算入できるのは、製造現場で研究開発活動が行われ、その費用を製造現場の原価に含めて計上している場合です。ただし、研究開発費を当期製造費用として処理した結果、その大部分が期末仕掛品等として資産計上されることになる場合は、資産計上と変わらない結果になるため妥当な処理とは認められません。ソフトウェア制作費のうち研究開発に係る部分を製造費用に入れ、その大部分が資産に残るケースがこれに当たります(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第4項)。
一般管理費及び当期製造費用に含まれる研究開発費の総額は、財務諸表に注記しなければなりません(研究開発費等に係る会計基準 五)。ソフトウェアに係る研究開発費も、この総額に含めて注記します(研究開発費等に係る会計基準 注6)。
繰延資産の「開発費」との関係
財務諸表等規則には、繰延資産として計上できる科目に「開発費」が残っています。これは、従来の「開発費」が新技術の採用、新経営組織の採用、資源の開発及び市場の開拓まで含む広い概念で、基準の「開発」の定義に含まれない費用が生じ得るため、その計上区分を示したものと説明されています(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第27項)。基準の定義に当たる研究・開発の費用は、繰延資産の開発費として資産計上することはできません。
ソフトウェアの範囲とコンテンツの扱い
基準上のソフトウェアとは、コンピュータを機能させるように指令を組み合わせて表現したプログラム等をいいます(研究開発費等に係る会計基準 一2)。実務指針は、その範囲をコンピュータに一定の仕事を行わせるためのプログラムと、システム仕様書、フローチャート等の関連文書としています(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第6項)。
データベースのデータや画像・音楽データなどのコンテンツは、ソフトウェアとは別個のものとして扱い、ソフトウェアには含めません。ただし、ソフトウェアとコンテンツが経済的・機能的に一体不可分と認められる場合には、両者を一体として取り扱うことができます(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第7項、第29項)。制作者は原則として両者を区分し、区分できない場合は主要な性格でどちらかにみなして処理します(同 第30項)。
また、機械装置等に組み込まれているソフトウェアは、その機械装置等に含めて処理します(研究開発費等に係る会計基準 四3)。有機的一体として機能する機器組込みソフトウェアは独立した科目とせず、「機械及び装置」等の取得原価に算入します(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第17項)。
市場販売目的のソフトウェア
研究開発の終了時点と製品マスター
市場で販売するソフトウェアは、複写可能な完成品である製品マスターを制作し、それを複写して販売します。研究開発の終了時点は、製品番号を付すこと等により販売の意思が明らかにされた製品マスター、すなわち「最初に製品化された製品マスター」の完成時点であり、それまでに発生した費用は研究開発費として処理します(研究開発費等に係る会計基準 注3、研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第8項)。
この完成時点は、プロトタイプを制作するかどうかに応じて、次の2点で判断します(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第8項)。
- 製品性を判断できる程度のプロトタイプが完成していること
- プロトタイプを制作しない場合は、製品として販売するための重要な機能が完成しており、かつ重要な不具合を解消していること
研究開発の終了と判断するには、製品マスターについて販売の意思が明らかにされていることと、最初に製品化された製品マスターが完成していることの二つを満たす必要があります(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第32項)。実務では、プロトタイプの完成を確認した社内の記録や、販売の意思決定を示す資料を残しておくことが、後の監査で判断の根拠を示すうえで重要になります。
完成後の改良・強化と機能維持
製品マスターの制作費は、研究開発費に該当する部分を除き、資産として計上しなければなりません。ただし、製品マスターの機能維持に要した費用は、資産として計上してはなりません(研究開発費等に係る会計基準 四2)。
完成後に製品マスター又は購入したソフトウェアの機能の改良・強化を行う費用は、原則として資産に計上します。ただし、著しい改良と認められる場合は、その改良が終わるまで研究開発の終了時点に達していないことになるため、研究開発費として処理します(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第9項、第33項)。バグ取り等の機能維持に要した費用は、機能の改良・強化には当たらず、発生時の費用です(研究開発費等に係る会計基準の設定に関する意見書 三3(3)②ロ)。
製品マスターの計上科目と仕訳例
製品マスターの取得原価は適正な原価計算で算定し、制作途中のものはソフトウェア仮勘定など、完成品はソフトウェアなどの科目で、いずれも無形固定資産として計上します。表示上は制作途中と完成品を区分せず一括して掲げますが、制作途中のものに重要性がある場合は区分表示が望ましいとされています(研究開発費等に係る会計基準 四4・注4、研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第10項)。
次の作例は、会計ソフトの新製品を外注で開発し、当期中にプロトタイプ完成(研究開発の終了)までの外注費6,000、その後の製品化作業の外注費1,800が発生し、期末に製品マスターが完成したケースです(単位:千円)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 研究開発費 | 6,000 | 未払金 | 6,000 |
| ソフトウェア仮勘定 | 1,800 | 未払金 | 1,800 |
| ソフトウェア | 1,800 | ソフトウェア仮勘定 | 1,800 |
1行目が研究開発の終了時点までの費用処理、2行目が終了後の制作費の資産計上、3行目が完成時の本勘定への振替です。プロトタイプの完成時点をどこに置くかで、1行目と2行目の金額の配分が変わります。
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自社利用のソフトウェア
資産計上の要件と3つの例
自社利用のソフトウェアは、その利用により将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められるかどうかで判断します。確実と認められる場合は無形固定資産に計上し、確実と認められない場合や確実かどうか不明な場合は費用処理します(研究開発費等に係る会計基準 四3、研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第11項)。
実務指針は、資産計上される一般的な例として次の3つを示しています(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第11項)。
- 通信ソフトウェアや第三者への業務処理サービスの提供に用いるソフトウェアで、契約に基づいて情報等を提供し対価を得る場合
- 自社で利用するために制作し、利用前と比べて業務を効率的又は効果的に遂行できると明確に認められる場合(例: 間接人員の削減による人件費の削減効果が確実に見込まれる場合、複数業務を統合するシステムで入力業務等を効率化できる場合)
- 市場で販売しているソフトウェアを購入し、予定した使途に継続して利用することで業務を効率的又は効果的に遂行できると認められる場合
2の自社制作のケースは、制作の意思決定の段階から制作の意図・効果が明確になっていることが前提です。資産計上の要件は様々な態様があるため包括的には示されておらず、例示を手がかりに個別に判断することになります(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第11項、第36項)。
資産計上の開始時点・終了時点と証憑
資産計上の開始時点は、将来の収益獲得又は費用削減が確実と認められる状況になった時点で、それを立証できる証憑に基づいて決定します。証憑の例として、制作予算が承認された社内稟議書や、制作原価を集計するための制作番号を記入した管理台帳が挙げられています(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第12項)。
資産計上の終了時点は、実質的に制作作業が完了したと認められる時点で、ソフトウェア作業完了報告書や最終テスト報告書などの証憑で決定します(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第13項)。上場準備の過程では、稟議書と原価集計の仕組みが整っていないために、資産計上の開始時点を説明できないケースが少なくありません。
導入費用の取扱い
パッケージソフトウェアを導入する際に発生する費用は、性格ごとに次のように扱います(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第14項〜第16項)。
| 導入時の設定作業・ 付随的な修正作業 |
購入ソフトウェアの取得価額に含める。重要性が乏しい場合は費用処理できる |
|---|---|
| 仕様を大幅に変更して 自社仕様にする費用 |
原則として研究開発目的の費用とし、購入ソフトウェアの価額も含めて費用処理する。将来の収益獲得又は費用削減が確実と認められる場合は、購入価額を含めて無形固定資産に計上する |
| データのコンバート費用 | 発生した事業年度の費用とする |
| 操作のトレーニング費用 | 発生した事業年度の費用とする |
大幅な仕様変更は、完成品を購入したというより、パッケージを部品として使って新しいソフトウェアを制作していると考えるためです(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第39項)。次の作例は、業務システムのパッケージ5,000を購入し、設定作業800、旧システムからのデータ移行300、操作研修200が発生したケースです(単位:千円)。データ移行と研修は、勘定科目の一例として支払手数料・研修費を用いています。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| ソフトウェア | 5,800 | 未払金 | 6,300 |
| 支払手数料 | 300 | ||
| 研修費 | 200 |
受注制作のソフトウェア
受注制作のソフトウェアの制作費は、請負工事の会計処理に準じて処理します(研究開発費等に係る会計基準 四1)。請負工事の会計処理を定めていた工事契約に関する会計基準と、ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実務上の取扱いは、収益認識に関する会計基準の適用に伴い廃止されています(収益認識に関する会計基準 第90項)。
現在は、受注制作のソフトウェアも収益認識に関する会計基準の対象です。一定の期間にわたり充足される履行義務の要件を満たす場合は、進捗度を見積り、それに基づいて一定の期間にわたり収益を認識します(収益認識に関する会計基準 第38項、第41項)。進捗度を合理的に見積れないものの発生費用の回収が見込まれる場合は、原価回収基準で処理します(同 第45項)。
取引開始日から完全に履行義務を充足するまでの期間がごく短い場合は、工事契約に準じて、一定の期間にわたる認識をせず、履行義務の充足が完了した時点でまとめて収益を計上する方法も認められます。また、損失が見込まれる場合には、工事契約に準じて工事損失引当金を計上します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第90項、第91項、第95項、第96項)。収益認識に関する会計基準は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されています(収益認識に関する会計基準 第81項)。
関連コラム一定の期間にわたり充足される履行義務|進捗度と原価回収基準▸
資産計上したソフトウェアの減価償却
無形固定資産として計上したソフトウェアの取得原価は、ソフトウェアの性格に応じて、見込販売数量に基づく償却方法その他合理的な方法により償却します。ただし、毎期の償却額は、残存有効期間に基づく均等配分額を下回ってはなりません(研究開発費等に係る会計基準 四5)。いずれの方法でも毎期見込販売数量等を見直し、減少が見込まれる販売数量等に相当する取得原価は費用又は損失として処理します(研究開発費等に係る会計基準 注5)。
市場販売目的のソフトウェアは、見込販売数量に基づく方法のほか見込販売収益に基づく方法も認められ、毎期の償却額はそれらによる償却額と均等配分額のいずれか大きい額とします。当初の見込有効期間は原則3年以内で、3年を超える場合は合理的な根拠が必要です(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第18項)。
自社利用のソフトウェアは、一般的には定額法による償却が合理的とされ、耐用年数は利用可能期間によりますが、原則5年以内で、5年を超える場合は合理的な根拠が必要です(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第21項)。見込有効期間や見込利用可能期間の変更は会計上の見積りの変更、減価償却方法の変更は会計方針の変更に当たります(同 第22項)。3期通しの計算例や見積りを変えたときの償却額は、次のコラムで数値例を使って解説しています。
関連コラムソフトウェアの減価償却【計算例】市場販売目的と自社利用の償却方法▸
適用範囲と企業結合で受け入れたソフトウェア
基準は、探査、掘削等の鉱業における資源の開発に特有の活動には適用されません(研究開発費等に係る会計基準 六2)。また、企業結合により被取得企業から受け入れた資産には基準を適用しませんが、受注制作、市場販売目的及び自社利用のソフトウェアはこの除外から外されています(研究開発費等に係る会計基準 六3、企業会計基準第23号 第2項)。
この定めは、企業結合の取得対価の一部を研究開発費等に配分して費用処理する会計処理が廃止されたことに合わせて追加されたものです(企業会計基準第23号 第5項、第6項)。したがって、企業結合で受け入れたソフトウェアは、引き続き基準の区分に従って会計処理します。この改正は、2010年4月1日以後実施される企業結合及び事業分離等から適用されています(企業会計基準第23号 第3項)。
基準の適用時期と改正の経緯
研究開発費等に係る会計基準と実務指針は、1999年4月1日以後開始する事業年度から適用されています(研究開発費等に係る会計基準の設定に関する意見書 五、研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第23項)。その後の主な改正は次のとおりです。
- 企業会計基準第23号により、適用範囲に企業結合で受け入れた資産の定めを追加(2010年4月1日以後実施される企業結合等から適用)
- 2011年3月29日の実務指針の改正で、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準への対応を反映(2011年4月1日以後開始する事業年度の期首以後に行われる会計上の変更等から適用)
- 2014年11月28日に実務指針を改正(同日から適用)
- 実務指針は日本公認会計士協会から企業会計基準委員会へ移管され、移管指針第8号として公表日以後適用
根拠は、実務指針 第1-2項、第23-2項、第23-3項、第23-4項と、企業会計基準第23号 第3項です。あわせて、受注制作のソフトウェアの収益は、2021年4月1日以後開始する事業年度の期首から収益認識に関する会計基準で処理されています。
まとめ
研究開発費とソフトウェアの会計処理は、「研究開発費/自社利用/市場販売目的/受注制作」の4区分のどれに当たるかを決めることから始まります。研究開発費は発生時に費用処理して総額を注記し、市場販売目的は最初に製品化された製品マスターの完成後の制作費を、自社利用は将来の収益獲得又は費用削減が確実な場合の取得費用を、それぞれ無形固定資産に計上します。受注制作のソフトウェアは、現在は収益認識に関する会計基準で工事契約に準じて処理します。
基準の本文は短く、研究開発の終了時点、資産計上の開始・終了時点の証憑、導入費用の扱いといった実務の分かれ目は、実務指針の条項で確認するのが確実です。特に上場準備企業では、どこまでを研究開発費とし、どこからを資産とするかの判断と、それを裏付ける社内資料の整備が、監査対応の論点になりやすい部分です。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
お問い合わせはこちら参考文献
- 企業会計審議会 研究開発費等に係る会計基準
- 企業会計基準委員会 移管指針第8号 研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第23号 研究開発費等に係る会計基準の一部改正
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準
- 企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第30号 収益認識に関する会計基準の適用指針
よくある質問
研究開発費はなぜ資産計上できないのですか。
研究開発費は、発生時には将来の収益を獲得できるか不明で、計画が進んでも獲得が確実とはいえないためです。一定の要件で資産計上を求める方法も検討されましたが、客観的に判断できる要件を定めるのが難しく、企業間の比較可能性が損なわれるおそれがあるとして、発生時に費用処理することとされました(研究開発費等に係る会計基準の設定に関する意見書 三2)。
新製品の試作品にかかった費用は研究開発費ですか。
新製品の試作品の設計・製作及び実験は研究開発の典型例に当たり、研究開発費として費用処理します。一方、製品を量産化するための試作は研究開発には含まれません(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第2項、第26項)。
製品マスターとは何ですか。
市場販売目的のソフトウェアで、複写して製品を作るための複写可能な完成品をいいます。最初に製品化された製品マスターの完成までの費用は研究開発費、完成後の制作費は機能維持の費用を除いて無形固定資産に計上します(研究開発費等に係る会計基準 四2・注3、研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第8項)。
自社利用ソフトウェアはいつから資産計上できますか。
将来の収益獲得又は費用削減が確実と認められる状況になった時点からです。制作予算を承認した社内稟議書や、制作番号を付した原価集計の管理台帳などの証憑で開始時点を決め、作業完了報告書や最終テスト報告書などで終了時点を決めます(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 第12項、第13項)。
受注制作のソフトウェアは現在どの基準で処理しますか。
基準は請負工事の会計処理に準じるとしており、現在は収益認識に関する会計基準で工事契約に準じて処理します。一定の期間にわたり充足される履行義務に当たる場合は、進捗度に基づいて収益を認識します(研究開発費等に係る会計基準 四1、収益認識に関する会計基準 第38項、第41項)。
研究開発費等に係る会計基準と実務指針はどう読み分ければよいですか。
会計基準が研究開発費の費用処理やソフトウェアの区分・計上区分・償却の原則を定め、実務指針が研究開発の範囲の典型例、製品マスターの完成時点の判断、自社利用ソフトウェアの資産計上の時点や導入費用、償却年数の目安といった具体的な取扱いを示しています。条項ごとの対応は本文の条項マップをご覧ください。
本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。



