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棚卸資産の評価に関する会計基準と収益性低下による簿価切下げ

2026-07-18
目次

上場準備企業の経理・財務担当者にとって、期末の棚卸資産をいくらで貸借対照表に計上するかは、利益の質を左右する重要な論点です。結論から申し上げると、通常の販売目的で保有する棚卸資産は取得原価を基礎としつつ、期末の正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、正味売却価額まで簿価を切り下げるのが企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」の中心的な考え方です。企業会計基準委員会 企業会計基準第9号 棚卸資産の評価に関する会計基準

本稿では、収益性の低下による簿価切下げの考え方、正味売却価額の算定、洗替法・切放法の選択、トレーディング目的で保有する棚卸資産の取扱い、そして表示・開示までを、原典の定めに沿って実務目線で整理します。

棚卸資産の評価に関する会計基準の全体像

本会計基準は、棚卸資産の評価方法、評価基準および開示について定めることを目的としており、これらの事項については「企業会計原則」および「原価計算基準」に定めがある場合であっても、本会計基準が優先して適用されます。企業会計基準委員会 企業会計基準第9号 棚卸資産の評価に関する会計基準適用範囲はすべての企業に及ぶため、上場企業に限らず、上場準備段階の企業も早期に対応しておく必要があります。

対象となる棚卸資産の範囲

棚卸資産とは、商品、製品、半製品、原材料、仕掛品等の資産であり、企業がその営業目的を達成するために所有し、かつ、売却を予定する資産のほか、売却を予定しない資産であっても、販売活動および一般管理活動において短期間に消費される事務用消耗品等も含まれます。ここでいう「売却」には、通常の販売のほか、活発な市場が存在することを前提として、棚卸資産の保有者が単に市場価格の変動により利益を得ることを目的とするトレーディングも含まれます。企業会計基準委員会 企業会計基準第9号 棚卸資産の評価に関する会計基準

取得原価の期末配分(評価方法)

棚卸資産は、原則として購入代価または製造原価に引取費用等の付随費用を加算して取得原価とし、次の評価方法のうち選択した方法を適用して、売上原価等の払出原価と期末棚卸資産の価額を算定します。評価方法は、事業の種類、棚卸資産の種類、その性質および使用方法等を考慮した区分ごとに選択し、継続して適用しなければなりません。企業会計基準委員会 企業会計基準第9号 棚卸資産の評価に関する会計基準

個別法 取得原価の異なる棚卸資産を区別して記録し、その個々の実際原価によって期末棚卸資産の価額を算定する方法。個別性が強い棚卸資産の評価に適しています。
先入先出法 最も古く取得されたものから順次払出しが行われ、期末棚卸資産は最も新しく取得されたものからなるとみなして価額を算定する方法。
平均原価法 取得した棚卸資産の平均原価を算出し、この平均原価によって期末棚卸資産の価額を算定する方法。平均原価は総平均法または移動平均法によって算出します。
売価還元法 値入率等の類似性に基づく棚卸資産のグループごとの期末の売価合計額に、原価率を乗じて求めた金額を期末棚卸資産の価額とする方法。取扱品種の極めて多い小売業等に適用されます。

通常の販売目的で保有する棚卸資産の評価基準

通常の販売目的(販売するための製造目的を含みます)で保有する棚卸資産は、取得原価をもって貸借対照表価額とし、期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とします。この場合、取得原価と正味売却価額との差額は当期の費用として処理します。企業会計基準委員会 企業会計基準第9号 棚卸資産の評価に関する会計基準いわゆる低価法を強制するのではなく、収益性の低下という経済的実態を貸借対照表価額に反映させる点に、本会計基準の趣旨があります。

正味売却価額とは

正味売却価額とは、売価から見積追加製造原価および見積販売直接経費を控除したものをいいます。ここでの売価は、購買市場と売却市場とが区別される場合における売却市場の時価を指します。企業会計基準委員会 企業会計基準第9号 棚卸資産の評価に関する会計基準

正味売却価額 = 売価 − 見積追加製造原価 − 見積販売直接経費

この正味売却価額が取得原価を下回るとき、その差額が簿価切下額となります。

収益性の低下による簿価切下額 = 取得原価 − 正味売却価額

なお、売却市場において市場価格が観察できないときには、合理的に算定された価額を売価とします。これには、期末前後での販売実績に基づく価額を用いる場合や、契約により取り決められた一定の売価を用いる場合が含まれます。企業会計基準委員会 企業会計基準第9号 棚卸資産の評価に関する会計基準

原材料等における再調達原価の利用

製造業における原材料等のように再調達原価の方が把握しやすく、正味売却価額が当該再調達原価に歩調を合わせて動くと想定される場合には、継続して適用することを条件として、再調達原価(最終仕入原価を含みます)によることができます。再調達原価とは、購買市場と売却市場とが区別される場合における購買市場の時価に、購入に付随する費用を加算したものをいいます。企業会計基準委員会 企業会計基準第9号 棚卸資産の評価に関する会計基準

再調達原価 = 購買市場の時価 + 購入に付随する費用

簿価切下げを行う判断の単位

収益性の低下の有無に係る判断および簿価切下げは、原則として個別品目ごとに行います。ただし、複数の棚卸資産を一括りとした単位で行うことが適切と判断されるときには、継続して適用することを条件として、その方法によることができます。また、営業循環過程から外れた滞留または処分見込等の棚卸資産について、合理的に算定された価額によることが困難な場合には、正味売却価額まで切り下げる方法に代えて、帳簿価額を処分見込価額(ゼロまたは備忘価額を含みます)まで切り下げる方法や、一定の回転期間を超える場合に規則的に帳簿価額を切り下げる方法によることができます。企業会計基準委員会 企業会計基準第9号 棚卸資産の評価に関する会計基準

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簿価切下額の戻入れ(洗替法・切放法)

前期に計上した簿価切下額の戻入れに関しては、当期に戻入れを行う方法(洗替法)と行わない方法(切放法)のいずれかを、棚卸資産の種類ごとに選択適用できます。また、売価の下落要因を区分把握できる場合には、物理的劣化や経済的劣化、若しくは市場の需給変化の要因ごとに選択適用できます。この場合、いったん採用した方法は、原則として継続して適用しなければなりません。企業会計基準委員会 企業会計基準第9号 棚卸資産の評価に関する会計基準

洗替法では、前期末に計上した簿価切下額を当期に戻し入れたうえで、当期末に改めて収益性の低下を判断します。切放法では、前期の切下後の帳簿価額を新たな取得原価とみなし、戻入れを行いません。いずれの方法も、棚卸資産の種類ごとに継続適用することが求められます。

トレーディング目的で保有する棚卸資産

トレーディング目的で保有する棚卸資産については、時価をもって貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額(評価差額)は、当期の損益として処理します。ここでの時価の定義は、企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」に従います。トレーディング目的で保有する棚卸資産として分類するための留意点や保有目的の変更の処理は、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」における売買目的有価証券に関する取扱いに準じます。企業会計基準委員会 企業会計基準第9号 棚卸資産の評価に関する会計基準

また、トレーディング目的で保有する棚卸資産に係る損益は、原則として、純額で売上高に表示します。通常の販売目的で保有する棚卸資産とは、貸借対照表価額の基礎(正味売却価額か時価か)も、評価差額の損益への反映のさせ方も異なる点に留意が必要です。

表示・開示の取扱い

通常の販売目的で保有する棚卸資産について、収益性の低下による簿価切下額(前期に計上した簿価切下額を戻し入れる場合には、当該戻入額相殺後の額)は売上原価とします。ただし、棚卸資産の製造に関連し不可避的に発生すると認められるときには製造原価として処理します。企業会計基準委員会 企業会計基準第9号 棚卸資産の評価に関する会計基準

さらに、収益性の低下に基づく簿価切下額が、臨時の事象に起因し、かつ、多額であるときには、特別損失に計上します。この場合には、洗替法を適用していても、当該簿価切下額の戻入れを行ってはなりません。臨時の事象とは、例えば次のような事象をいいます。

  • 重要な事業部門の廃止
  • 災害損失の発生

開示については、収益性の低下による簿価切下額(戻入れがある場合は相殺後の額)を、注記による方法または売上原価等の内訳項目として独立掲記する方法により示さなければなりません。ただし、当該金額の重要性が乏しい場合には、この限りではありません。企業会計基準委員会 企業会計基準第9号 棚卸資産の評価に関する会計基準

適用時期

2006年(平成18年)7月に公表された本会計基準は、2008年(平成20年)4月1日以後開始する事業年度から適用されました。その後、2019年に改正された本会計基準は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されています。改正はトレーディング目的で保有する棚卸資産の時価の定義の見直し等に関するものであり、時価の算定に関する会計基準等とあわせて理解しておく必要があります。企業会計基準委員会 企業会計基準第9号 棚卸資産の評価に関する会計基準

まとめ

棚卸資産の評価に関する会計基準の要点は、通常の販売目的で保有する棚卸資産について、取得原価を基礎としつつ、期末の正味売却価額が取得原価を下回る場合に収益性の低下を反映して簿価を切り下げる点にあります。正味売却価額は「売価−見積追加製造原価−見積販売直接経費」で算定し、原材料等では再調達原価によることも認められます。簿価切下額は原則として売上原価に計上し、臨時かつ多額の場合は特別損失とします。トレーディング目的の棚卸資産は時価評価し、評価差額を当期の損益とする点で取扱いが異なります。

棚卸資産の評価は、洗替法・切放法の選択や判断単位の設定など、継続適用を前提とした会計方針の設計が実務上の鍵となります。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。

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参考文献

よくある質問(FAQ)

正味売却価額はどのように計算しますか。

正味売却価額は、売価から見積追加製造原価および見積販売直接経費を控除して算定します。売却市場において市場価格が観察できないときは、期末前後の販売実績に基づく価額や契約上の売価など、合理的に算定された価額を売価として用います。

洗替法と切放法はどちらを選ぶべきですか。

前期に計上した簿価切下額の戻入れを当期に行う方法が洗替法、行わない方法が切放法です。いずれかを棚卸資産の種類ごとに選択適用でき、いったん採用した方法は原則として継続して適用しなければなりません。自社の在庫特性や実務負荷を踏まえて選択します。

簿価切下額は損益計算書のどこに表示しますか。

収益性の低下による簿価切下額は、原則として売上原価に計上します。製造に関連し不可避的に発生すると認められるときは製造原価として処理し、臨時の事象に起因し、かつ、多額であるときには特別損失に計上します。

事務所概要
社名
公認会計士事務所プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
03-6773-5062
対応責任者
公認会計士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。

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