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財務会計

棚卸資産の評価に関する会計基準【仕訳例】収益性低下の簿価切下げと洗替法・切放法

目次
  1. 棚卸資産の評価に関する会計基準の全体像
  2. 基準の要点と条項の対応
  3. 原価法・低価法の選択適用から収益性の低下による簿価切下げへ
  4. 対象となる棚卸資産の範囲
  5. 評価方法と評価基準の違い
  6. 収益性の低下に基づく簿価切下げの方法
  7. 正味売却価額の算定と数値例
  8. 売価が観察できない場合の取扱い
  9. 原材料等における再調達原価の利用
  10. 簿価切下げを行う判断の単位と滞留在庫
  11. 売価還元法を採用している場合
  12. 商品評価切下額の仕訳と表示区分
  13. 商品評価切下額を計上する仕訳
  14. 売上原価・製造原価・特別損失の判定
  15. 洗替法と切放法の違いと翌期の仕訳
  16. 洗替法と切放法の比較
  17. 洗替法での翌期の仕訳
  18. 切放法での翌期の仕訳
  19. トレーディング目的で保有する棚卸資産
  20. 表示・開示と注記
  21. 適用時期と改正の経緯
  22. まとめ
  23. 参考文献
  24. よくある質問(FAQ)
  25. 棚卸資産の評価に関する会計基準の最新の改正はいつですか。
  26. 商品評価切下額はどのように計算しますか。
  27. 商品評価切下額の仕訳はどうなりますか。
  28. 簿価切下額は損益計算書のどこに表示しますか。
  29. 洗替法と切放法はどちらを選ぶべきですか。
  30. トレーディング目的で保有する棚卸資産の評価はどう異なりますか。

棚卸資産の評価に関する会計基準(企業会計基準第9号)は、在庫の評価方法・評価基準・開示を定めた基準です。2006年7月に公表され、2008年と2019年の改正を経た内容が現在の取扱いとなっています。結論から申し上げると、通常の販売目的で保有する棚卸資産は取得原価を基礎としつつ、期末の正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、正味売却価額まで簿価を切り下げ、その差額を当期の費用として処理します(棚卸資産の評価に関する会計基準 第7項)。

本稿では、まず基準の全体像と、かつての低価法から何が変わったのかを整理します。続いて収益性の低下に基づく簿価切下げの方法を正味売却価額の数値例で示し、商品評価切下額の仕訳と表示区分、洗替法と切放法の違いと翌期の仕訳、トレーディング目的の棚卸資産、開示、適用時期と改正の経緯までを確認します。金額はすべて自社作例で、単位は千円です。

棚卸資産の評価に関する会計基準の全体像

本会計基準は、棚卸資産の評価方法、評価基準および開示について定めることを目的としており、これらの事項については「企業会計原則」および「原価計算基準」に定めがある場合であっても、本会計基準が優先して適用されます(棚卸資産の評価に関する会計基準 第1項、第2項)。適用範囲はすべての企業における棚卸資産に及びます(棚卸資産の評価に関する会計基準 第3項)。

基準の要点と条項の対応

実務で参照する機会が多い定めを、論点ごとに条項と対応させると次のとおりです。決算での検討や監査対応で根拠条項を確認する際の索引としてご利用ください。

目的・範囲 評価方法・評価基準・開示を定め、企業会計原則等に優先して適用(第1項〜第3項)
用語の定義 時価・正味売却価額・再調達原価(第4項〜第6項)
評価方法 個別法・先入先出法・平均原価法・売価還元法から選択し継続適用(第6-2項、第6-3項)
通常の販売目的の
評価基準
正味売却価額が取得原価を下回れば簿価を切り下げ、差額を当期の費用とする(第7項〜第13項)
洗替法と切放法 前期の簿価切下額の戻入れの有無を選択し継続適用(第14項)
トレーディング目的の
評価基準
時価で評価し、評価差額は当期の損益(第15項、第16項)
表示・注記 簿価切下額の表示区分と注記、トレーディング損益の純額表示(第17項〜第19-2項)
適用時期 2006年会計基準、2008年改正、2019年改正の適用時期(第20項〜第21-7項)

原価法・低価法の選択適用から収益性の低下による簿価切下げへ

本会計基準が設けられる前は、取得原価で評価する原価法と、時価が取得原価を下回った場合に時価で評価する低価法との選択適用が認められていました。原価法を採用していても、時価が著しく下落し回復の見込みがない場合には時価まで切り下げる強制評価減が求められていました(棚卸資産の評価に関する会計基準 第23項)。

本会計基準はこの選択適用を見直し、取得原価基準の下で回収可能性を反映させるため、収益性が低下した場合に過大な帳簿価額を減額し、将来に損失を繰り延べないという考え方を採っています(棚卸資産の評価に関する会計基準 第36項)。実務では今でも「低価法」と呼ばれることがありますが、現行の基準では会計方針として選ぶものではなく、収益性の低下があれば簿価を切り下げることが求められる点を押さえておく必要があります。

対象となる棚卸資産の範囲

棚卸資産とは、商品、製品、半製品、原材料、仕掛品等の資産であり、企業がその営業目的を達成するために所有し、かつ、売却を予定する資産のほか、売却を予定しない資産であっても、販売活動および一般管理活動において短期間に消費される事務用消耗品等も含まれます。ここでいう「売却」には、通常の販売のほか、活発な市場が存在することを前提として、棚卸資産の保有者が単に市場価格の変動により利益を得ることを目的とするトレーディングも含まれます(棚卸資産の評価に関する会計基準 第3項)。未成工事支出金等、注文生産や請負作業についての仕掛中のものも棚卸資産に含まれます(棚卸資産の評価に関する会計基準 第31項)。

なお、金融商品会計基準に定める売買目的有価証券や、研究開発費等に係る会計基準に定める市場販売目的のソフトウェアのように、他の会計基準において取扱いが示されているものは、当該他の会計基準の定めによります(棚卸資産の評価に関する会計基準 第27項)。

評価方法と評価基準の違い

棚卸資産は、原則として購入代価または製造原価に引取費用等の付随費用を加算して取得原価とし、次の評価方法のうち選択した方法を適用して、売上原価等の払出原価と期末棚卸資産の価額を算定します(棚卸資産の評価に関する会計基準 第6-2項)。評価方法は、事業の種類、棚卸資産の種類、その性質および使用方法等を考慮した区分ごとに選択し、継続して適用しなければなりません(棚卸資産の評価に関する会計基準 第6-3項)。

個別法 取得原価の異なる棚卸資産を区別して記録し、その個々の実際原価によって期末棚卸資産の価額を算定する方法。個別性が強い棚卸資産の評価に適しています。
先入先出法 最も古く取得されたものから順次払出しが行われ、期末棚卸資産は最も新しく取得されたものからなるとみなして価額を算定する方法。
平均原価法 取得した棚卸資産の平均原価を算出し、この平均原価によって期末棚卸資産の価額を算定する方法。平均原価は総平均法または移動平均法によって算出します。
売価還元法 値入率等の類似性に基づく棚卸資産のグループごとの期末の売価合計額に、原価率を乗じて求めた金額を期末棚卸資産の価額とする方法。取扱品種の極めて多い小売業等に適用されます。

評価方法は取得原価を期末在庫と払出原価に配分する手続であり、評価基準(収益性の低下による簿価切下げ)とは別の論点です。この2つを混同すると、会計方針の注記でも記載がぶれやすくなります。本稿は評価基準を中心に扱います。各評価方法による払出単価の計算手順は、次のコラムで数値例とともに解説しています。

関連コラム棚卸資産の評価方法【計算例】先入先出法・平均法と最終仕入原価法▸

収益性の低下に基づく簿価切下げの方法

通常の販売目的(販売するための製造目的を含みます)で保有する棚卸資産は、取得原価をもって貸借対照表価額とし、期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とします。この場合、取得原価と正味売却価額との差額は当期の費用として処理します(棚卸資産の評価に関する会計基準 第7項)。実務の手順は「正味売却価額を算定する」「取得原価と比較する」「差額を費用計上する」の3段階に整理できます。

正味売却価額の算定と数値例

正味売却価額とは、売価(購買市場と売却市場とが区別される場合における売却市場の時価)から見積追加製造原価および見積販売直接経費を控除したものをいいます(棚卸資産の評価に関する会計基準 第5項)。

正味売却価額 = 売価 − 見積追加製造原価 − 見積販売直接経費

例えば、期末の帳簿価額(取得原価)5,000千円の商品について、売却市場の時価に基づく売価が4,600千円、販売までに追加で必要な製造原価の見積りが200千円、販売手数料など見積販売直接経費が300千円であったとします。この場合の正味売却価額は次のとおりです。

正味売却価額 4,100千円 = 売価 4,600千円 − 見積追加製造原価 200千円 − 見積販売直接経費 300千円

正味売却価額4,100千円は取得原価5,000千円を下回っているため、その差額が簿価切下額(商品評価切下額)となります。

簿価切下額 900千円 = 取得原価 5,000千円 − 正味売却価額 4,100千円

実務で誤りやすいのは、売価をそのまま正味売却価額として扱ってしまう点です。見積追加製造原価と見積販売直接経費を控除しないと切下額が過少になり、在庫が過大計上となります。仕掛品や半製品では、完成までに要する追加製造原価の見積りが切下額を大きく左右します。

また、期末時点の売価が突発的な要因で異常な水準になっているときは、期末時点の売価ではなく、期末付近の合理的な期間の平均的な売価に基づく正味売却価額によることが適当とされています(棚卸資産の評価に関する会計基準 第43項)。見積追加製造原価と見積販売直接経費が売価を上回り正味売却価額がマイナスになる場合、帳簿価額をゼロまで切り下げてもマイナス部分は反映できず、その部分は引当金の論点として別途検討することになります(棚卸資産の評価に関する会計基準 第44項)。

売価が観察できない場合の取扱い

売却市場において市場価格が観察できないときには、合理的に算定された価額を売価とします。これには、期末前後での販売実績に基づく価額を用いる場合や、契約により取り決められた一定の売価を用いる場合が含まれます(棚卸資産の評価に関する会計基準 第8項)。また、企業が複数の売却市場に参加し得る場合には実際に販売できると見込まれる売価を用い、複数の売却市場が存在し売価が異なる場合であって棚卸資産をそれぞれの市場向けに区分できないときには、それぞれの市場の販売比率に基づいた加重平均売価等によります(棚卸資産の評価に関する会計基準 第11項)。

なお、収益性が低下していないことが明らかで、事務負担をかけて判断するまでもないと認められる場合には、正味売却価額を見積る必要はないと考えられています(棚卸資産の評価に関する会計基準 第48項)。全品目を一律に見積るのではなく、回転の鈍い品目や売価の下がった品目に検討を集中させるのが実務的です。

原材料等における再調達原価の利用

製造業における原材料等のように再調達原価の方が把握しやすく、正味売却価額が当該再調達原価に歩調を合わせて動くと想定される場合には、継続して適用することを条件として、再調達原価(最終仕入原価を含みます)によることができます(棚卸資産の評価に関する会計基準 第10項)。再調達原価とは、購買市場と売却市場とが区別される場合における購買市場の時価に、購入に付随する費用を加算したものをいいます(棚卸資産の評価に関する会計基準 第6項)。

再調達原価 = 購買市場の時価 + 購入に付随する費用

簿価切下げを行う判断の単位と滞留在庫

収益性の低下の有無に係る判断および簿価切下げは、原則として個別品目ごとに行います。ただし、複数の棚卸資産を一括りとした単位で行うことが適切と判断されるときには、継続して適用することを条件として、その方法によることができます(棚卸資産の評価に関する会計基準 第12項)。

また、営業循環過程から外れた滞留または処分見込等の棚卸資産について、合理的に算定された価額によることが困難な場合には、正味売却価額まで切り下げる方法に代えて、帳簿価額を処分見込価額(ゼロまたは備忘価額を含みます)まで切り下げる方法や、一定の回転期間を超える場合に規則的に帳簿価額を切り下げる方法によることができます(棚卸資産の評価に関する会計基準 第9項)。上場準備企業では、この滞留在庫の切下げルールを社内規程として明文化できているかが、監査上の論点になりやすい部分です。

売価還元法を採用している場合

売価還元法を採用している場合においても、期末における正味売却価額が帳簿価額よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とします。ただし、値下額等が売価合計額に適切に反映されている場合には、値下額および値下取消額を除外した売価還元法の原価率により求められた期末棚卸資産の帳簿価額は、収益性の低下に基づく簿価切下額を反映したものとみなすことができます(棚卸資産の評価に関する会計基準 第13項)。

商品評価切下額の仕訳と表示区分

簿価切下額を算定したら、仕訳を起こし、損益計算書のどの区分に表示するかを判定します。勘定科目の名称よりも表示区分の判断のほうが財務諸表への影響が大きいため、両方をセットで確認します。

商品評価切下額を計上する仕訳

取得原価と正味売却価額との差額は、当期の費用として処理します(棚卸資産の評価に関する会計基準 第7項)。上記の例(取得原価5,000千円、正味売却価額4,100千円、切下額900千円、単位:千円)について、期末に計上する仕訳は次のとおりです。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
商品評価損 900 商品 900

借方の科目名は「商品評価損」「棚卸資産評価損」など自社の勘定科目体系に合わせて設定します。重要なのは科目名そのものではなく、次に述べる損益計算書のどの区分に表示するかです。貸方は棚卸資産の帳簿価額を直接減額する方法のほか、評価勘定を用いて間接的に減額する方法もありますが、いずれの場合も貸借対照表価額は正味売却価額となります。

売上原価・製造原価・特別損失の判定

簿価切下額の表示区分は、基準で明確に定められています。原則は売上原価であり、製造に関連して不可避的に発生する場合は製造原価、臨時かつ多額の場合は特別損失となります(棚卸資産の評価に関する会計基準 第17項)。判定の軸を整理すると次のとおりです。

売上原価(原則) 通常の販売目的で保有する棚卸資産について、収益性の低下により計上した簿価切下額。前期に計上した簿価切下額を戻し入れる場合には、当該戻入額と相殺した後の額を売上原価とします。
製造原価 棚卸資産の製造に関連し、不可避的に発生すると認められるとき。仕損や歩留まりの悪化など、製造活動に内在する原因によるものが該当します。
特別損失 臨時の事象に起因し、かつ、多額であるとき。基準は臨時の事象の例として、重要な事業部門の廃止と災害損失の発生を挙げています。

特別損失に計上する場合の注意点として、臨時かつ多額に該当して特別損失としたときは、洗替法を適用していても当該簿価切下額の戻入れを行ってはなりません(棚卸資産の評価に関する会計基準 第17項)。会計方針として洗替法を選択していれば無条件に戻入れる、という運用は誤りです。

臨時かつ多額の事象として特別損失に計上する場合(切下額2,500千円、単位:千円)の仕訳は次のとおりです。借方の評価損は損益計算書上、特別損失の区分に表示します。表示区分が変わるだけで、貸方が棚卸資産の減額である点は変わりません。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
棚卸資産評価損 2,500 商品 2,500

実務では「多額」の判定に迷う場面が少なくありません。金額の重要性だけでなく、通常の販売活動の中で反復的に生じる評価損か、事業の廃止や災害という臨時の事象に起因するものかという発生原因を先に確認すると、判断がぶれにくくなります。

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洗替法と切放法の違いと翌期の仕訳

前期に計上した簿価切下額の戻入れに関しては、当期に戻入れを行う方法(基準上の表記は「洗替え法」)と行わない方法(同じく「切放し法」)のいずれかを、棚卸資産の種類ごとに選択適用できます。また、売価の下落要因を区分把握できる場合には、物理的劣化、経済的劣化、市場の需給変化という要因ごとに選択適用できます。いったん採用した方法は、原則として継続して適用しなければなりません(棚卸資産の評価に関する会計基準 第14項)。

洗替法と切放法の比較

洗替法 切放法
翌期に前期の簿価切下額を戻し入れる 翌期に戻入れを行わない
翌期末は当初の取得原価と正味売却価額を比較する 翌期末は切下後の帳簿価額を新たな取得原価とみなして正味売却価額と比較する
評価損と戻入額が総額で把握でき、期ごとの収益性の変動が見えやすい 評価損のみが計上され、期首の戻入処理が不要で事務負担が軽い
売価が回復した場合、切下額の範囲内で戻入額として損益に反映される 売価が回復しても切り下げた簿価は戻さない

洗替法での翌期の仕訳

洗替法では、前期末に計上した簿価切下額900千円を翌期に戻し入れたうえで、翌期末に当初の取得原価5,000千円と改めて算定した正味売却価額とを比較します。翌期の正味売却価額が3,800千円まで下落したとすると、仕訳は次のとおりです(単位:千円)。戻入額は、翌期に計上する簿価切下額と相殺したうえで売上原価とします(棚卸資産の評価に関する会計基準 第17項)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
商品 900 商品評価損戻入 900
商品評価損 1,200 商品 1,200

翌期末の簿価切下額は、取得原価5,000千円と正味売却価額3,800千円との差額1,200千円です。戻入額900千円と相殺した後の300千円が、翌期の売上原価に反映される金額となります。

切放法での翌期の仕訳

切放法では戻入れを行わないため、前期末の切下後の帳簿価額4,100千円をそのまま引き継ぎ、これを新たな取得原価とみなして翌期末の正味売却価額3,800千円と比較します。追加の切下額は300千円となり、仕訳は次のとおりです(単位:千円)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
商品評価損 300 商品 300

この例では、洗替法でも切放法でも翌期の売上原価に与える純額の影響は300千円で一致し、期末の貸借対照表価額も3,800千円で同じになります。両者の違いが損益に表れるのは、売価が回復して正味売却価額が切下後の帳簿価額を上回る場合です。洗替法では当初の取得原価まで戻入れが生じますが、切放法では戻入れが生じません。選択にあたっては、事務負担の軽さだけでなく、市況変動が損益にどう表れるかまで踏まえて検討することをおすすめします。

トレーディング目的で保有する棚卸資産

トレーディング目的で保有する棚卸資産については、時価をもって貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額(評価差額)は、当期の損益として処理します(棚卸資産の評価に関する会計基準 第15項)。ここでいう時価の定義は、時価の算定に関する会計基準に従い、算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格とされています(棚卸資産の評価に関する会計基準 第4項、時価の算定に関する会計基準 第5項)。

トレーディング目的で保有する棚卸資産として分類するための留意点や保有目的の変更の処理は、金融商品会計基準における売買目的有価証券に関する取扱いに準じます(棚卸資産の評価に関する会計基準 第16項)。したがって、単に相場が上がったから転売する、といった事後的な理由では区分できず、活発な市場の存在とトレーディング目的での保有という実態を、取得時点から社内規程や記録で裏付けておく必要があります。

関連コラム時価の算定に関する会計基準|インプットのレベル1〜3と評価技法▸

また、トレーディング目的で保有する棚卸資産に係る損益は、原則として、純額で売上高に表示します(棚卸資産の評価に関する会計基準 第19項)。通常の販売目的で保有する棚卸資産とは、貸借対照表価額の基礎(正味売却価額か時価か)も、評価差額の損益への反映のさせ方も異なる点に留意が必要です。

表示・開示と注記

通常の販売目的で保有する棚卸資産について、収益性の低下による簿価切下額(前期に計上した簿価切下額を戻し入れる場合には、当該戻入額相殺後の額)は、注記による方法または売上原価等の内訳項目として独立掲記する方法により示さなければなりません。ただし、当該金額の重要性が乏しい場合には、この限りではありません(棚卸資産の評価に関する会計基準 第18項)。

トレーディング目的で保有する棚卸資産については、売買目的有価証券に関する注記に準じて、金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項のうち、売買目的有価証券について注記される項目について注記します。ただし、重要性が乏しいものは注記を省略でき、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しません(棚卸資産の評価に関する会計基準 第19-2項)。

実務では、正味売却価額の見積りが翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすおそれがある場合、会計上の見積りの開示の対象として、見積りの算出方法や主要な仮定の記載を検討することになります。

関連コラム会計上の見積りの開示の記載例|注記項目の選び方と文例▸

適用時期と改正の経緯

2006年7月に公表された本会計基準は、2008年4月1日以後開始する事業年度から適用されています(棚卸資産の評価に関する会計基準 第20項)。その後、後入先出法の廃止等を内容とする2008年9月改正の会計基準が、2010年4月1日以後開始する事業年度から適用されています(棚卸資産の評価に関する会計基準 第21-2項)。

直近の改正である2019年改正会計基準は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されています(棚卸資産の評価に関する会計基準 第21-5項)。この改正は、トレーディング目的で保有する棚卸資産の時価の定義を時価の算定に関する会計基準に整合させるとともに、時価のレベルごとの内訳等の注記を定めるものです(棚卸資産の評価に関する会計基準 第26-7項)。いずれの改正も適用済みであり、現在はこの2019年改正後の内容が現行の取扱いとなります。

まとめ

棚卸資産の評価に関する会計基準(企業会計基準第9号)は、原価法と低価法の選択適用を見直し、収益性の低下があれば簿価を切り下げるという考え方で在庫の評価基準を定めています。通常の販売目的で保有する棚卸資産は、正味売却価額(売価−見積追加製造原価−見積販売直接経費)が取得原価を下回れば、その差額を当期の費用とします。切下額は原則として売上原価とし、製造に関連して不可避的に発生する場合は製造原価、臨時かつ多額の場合は特別損失に計上します。特別損失とした場合は、洗替法を採用していても戻入れを行いません。

洗替法と切放法は、翌期の比較基礎が当初の取得原価か切下後の帳簿価額かという点で異なります。下落が続く局面では損益への純額の影響が一致する一方、売価が回復する局面では結果が分かれます。判断単位の設定や滞留在庫の切下げルールとあわせて、継続適用を前提とした会計方針として設計することが実務上の鍵となります。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。

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参考文献

よくある質問(FAQ)

棚卸資産の評価に関する会計基準の最新の改正はいつですか。

本会計基準は2006年7月に公表され、2008年9月の改正(後入先出法の廃止等)と2019年の改正(トレーディング目的で保有する棚卸資産の時価の定義と注記の見直し)を経ています。2019年改正会計基準は2021年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されており、現在はこの改正後の内容が現行の取扱いです。

商品評価切下額はどのように計算しますか。

取得原価から正味売却価額を控除した差額が商品評価切下額です。正味売却価額は、売価から見積追加製造原価および見積販売直接経費を控除して算定します。例えば取得原価5,000千円、売価4,600千円、見積追加製造原価200千円、見積販売直接経費300千円であれば、正味売却価額は4,100千円、切下額は900千円となります。

商品評価切下額の仕訳はどうなりますか。

借方に商品評価損などの費用科目、貸方に棚卸資産の科目を計上し、帳簿価額を正味売却価額まで減額します。洗替法を採用している場合は、翌期に前期の切下額を戻し入れる仕訳を行い、その戻入額を翌期の切下額と相殺した後の金額を売上原価とします。

簿価切下額は損益計算書のどこに表示しますか。

収益性の低下による簿価切下額は、原則として売上原価に計上します。製造に関連し不可避的に発生すると認められるときは製造原価として処理し、臨時の事象に起因し、かつ、多額であるときには特別損失に計上します。特別損失とした場合は、洗替法を適用していても戻入れを行いません。

洗替法と切放法はどちらを選ぶべきですか。

いずれかを棚卸資産の種類ごとに選択適用でき、いったん採用した方法は原則として継続して適用しなければなりません。洗替法は売価が回復した局面で戻入額が損益に表れ、切放法は期首の戻入処理が不要で事務負担が軽くなります。在庫の市況変動の大きさと実務負荷を踏まえて選択します。

トレーディング目的で保有する棚卸資産の評価はどう異なりますか。

トレーディング目的で保有する棚卸資産は、時価をもって貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額である評価差額を当期の損益として処理します。通常の販売目的で保有する棚卸資産のように正味売却価額との比較で切り下げるのではなく、時価で評価する点が異なり、損益は原則として純額で売上高に表示します。

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。

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