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財務会計

一定の期間にわたり充足される履行義務|進捗度と原価回収基準

目次
  1. 一定の期間にわたり充足される履行義務の位置づけ
  2. ステップ5における判定の順序
  3. 工事契約と受注制作のソフトウェアの定義
  4. 一定の期間にわたり充足される履行義務の3要件
  5. 顧客による便益の同時享受
  6. 資産の生成又は価値の増加と顧客による支配
  7. 転用できない資産と対価を収受する強制力のある権利
  8. 履行義務の充足に係る進捗度の見積り
  9. アウトプット法とインプット法
  10. 原価比例法による進捗度の算定
  11. 進捗度に応じた収益認識の仕訳
  12. 方法の統一と各決算日の見直し
  13. 進捗度を合理的に見積れない場合の原価回収基準
  14. 原価回収基準による仕訳
  15. 契約の初期段階における代替的な取扱い
  16. 工事契約・受注制作のソフトウェアの実務論点
  17. 期間がごく短い工事契約等の取扱い
  18. 収益認識の単位に関する代替的な取扱い
  19. 工事損失引当金の計上
  20. 業績に基づく割増金やペナルティーの影響
  21. 表示・注記と適用時期
  22. 契約資産の表示
  23. 履行義務の充足時点に関する注記
  24. 適用時期と改正の経緯
  25. まとめ
  26. 参考文献
  27. よくある質問
  28. 一定の期間にわたり充足される履行義務かどうかは、いつ判定しますか。
  29. 進捗度の見積方法は契約ごとに変えてもよいですか。
  30. 原価回収基準では利益は計上されますか。
  31. 工期がごく短い工事契約でも、進捗度に基づく処理が必要ですか。
  32. 進捗度の見積りを変更した場合、過去の財務諸表を修正しますか。

収益認識の5つのステップのうち、実務で最も判断に迷いやすいのがステップ5の「履行義務の充足による収益の認識」です。なかでも、工事契約や受注制作のソフトウェアのように履行が長期にわたる取引では、一定の期間にわたり充足される履行義務に該当するかどうかの判定と、その後の進捗度の見積りが決算数値を大きく左右します。本記事では、一定の期間にわたり充足される履行義務の3要件、進捗度の見積方法、進捗度を合理的に見積ることができない場合の原価回収基準、そして工事契約・受注制作のソフトウェア特有の実務論点を、条項番号とともに整理します。

一定の期間にわたり充足される履行義務の位置づけ

企業は、約束した財又はサービスを顧客に移転することにより履行義務を充足した時に、又は充足するにつれて収益を認識します。資産が移転するのは、顧客が当該資産に対する支配を獲得した時又は獲得するにつれてです(収益認識に関する会計基準 第35項)。ここでいう支配とは、当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力をいいます(収益認識に関する会計基準 第37項)。

この「一時点か、一定の期間にわたりか」という区分が、いわゆる工事進行基準の後継論点にあたります。従来の工事進行基準・工事完成基準という区分は、収益認識に関する会計基準の適用により工事契約会計基準・工事契約適用指針・ソフトウェア取引実務対応報告が廃止されたことに伴い、一定の期間にわたり充足される履行義務に該当するかどうかの判定へ置き換わっています(収益認識に関する会計基準 第95項)。

ステップ5における判定の順序

判定は契約における取引開始日に行います。識別された履行義務のそれぞれについて、一定の期間にわたり充足されるものか、一時点で充足されるものかを判定します(収益認識に関する会計基準 第36項)。判定の順序は一方通行で、まず一定の期間にわたり充足される履行義務の要件を検討し、いずれも満たさない場合に一時点で充足される履行義務として扱います(収益認識に関する会計基準 第39項)。

実務では、この順序を逆にして「引渡時に収益計上できるか」から検討してしまう例が見られます。要件の検討を後回しにすると、本来は期間にわたって収益を認識すべき契約を完成時に一括計上してしまうおそれがあるため、契約類型ごとに判定手順を文書化しておくことが有効です。

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工事契約と受注制作のソフトウェアの定義

工事契約とは、仕事の完成に対して対価が支払われる請負契約のうち、土木、建築、造船や一定の機械装置の製造等で、基本的な仕様や作業内容を顧客の指図に基づいて行うものをいいます(収益認識に関する会計基準 第13項)。また、受注制作のソフトウェアとは、契約の形式にかかわらず、特定のユーザー向けに制作され、提供されるソフトウェアをいいます(収益認識に関する会計基準 第14項)。

これらは基準上、他の取引と別枠の収益認識ルールが用意されているわけではありません。あくまで一般の判定枠組みに乗せたうえで、後述する代替的な取扱いや工事損失引当金の定めが上乗せされる構造になっています。

一定の期間にわたり充足される履行義務の3要件

次の3つの要件のいずれかを満たす場合、資産に対する支配を顧客に一定の期間にわたり移転することにより、一定の期間にわたり履行義務を充足し収益を認識します(収益認識に関する会計基準 第38項)。3要件はすべてを満たす必要はなく、いずれか1つを満たせば足りる点が判定上の要です。

要件1
便益の同時享受
企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること
要件2
資産の生成と顧客による支配
企業の履行により資産が生じる又は資産の価値が増加し、それにつれて顧客が当該資産を支配すること
要件3
転用不可と対価収受の権利
企業の履行により別の用途に転用することができない資産が生じ、かつ、履行を完了した部分について対価を収受する強制力のある権利を有していること

顧客による便益の同時享受

要件1に該当するかどうかは、仮に他の企業が顧客に対する残存履行義務を充足する場合に、企業が現在までに完了した作業を当該他の企業が大幅にやり直す必要がないかどうかで判定します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第9項)。清掃サービスや保守サービスのように、日常的又は反復的なサービスが典型例です(収益認識に関する会計基準の適用指針 第115項)。

この判定を行う際には、企業の残存履行義務を他の企業に移転することを妨げる契約上又は実務上の制約は存在しない、という仮定を置きます(収益認識に関する会計基準の適用指針 第9項)。実際に外注できるかどうかではなく、作業の性質として積み上げが引き継げるかどうかを見る点に注意が必要です。

資産の生成又は価値の増加と顧客による支配

要件2は、企業の履行によって生じる資産、あるいは価値が増加していく資産を、その過程で顧客が支配していることを求めるものです(収益認識に関する会計基準 第38項(2))。顧客の土地の上で建物を建設する工事のように、仕掛中の成果物が顧客の資産に組み込まれていく取引が該当しやすい類型です。

転用できない資産と対価を収受する強制力のある権利

要件3は2つの条件をともに満たす必要があります。第一に、企業の履行により別の用途に転用することができない資産が生じることです。この判定は契約における取引開始日に行い、取引開始日後は、履行義務を著しく変更する契約変更がある場合を除いて見直しません(収益認識に関する会計基準の適用指針 第10項)。転用できない場合とは、履行につれて生じる資産を別の用途に容易に使用することが契約上制限されている場合、あるいは完成した資産を別の用途に容易に使用することが実務上制約されている場合をいいます(収益認識に関する会計基準の適用指針 第10項)。

第二に、履行を完了した部分について対価を収受する強制力のある権利を有していることです。これは、契約期間にわたり、企業が履行しなかったこと以外の理由で顧客又は他の当事者が契約を解約する際に、少なくとも履行を完了した部分についての補償を受ける権利を企業が有している場合をいいます(収益認識に関する会計基準の適用指針 第11項)。ここでいう補償額は、合理的な利益相当額を含む、現在までに移転した財又はサービスの販売価格相当額です(収益認識に関する会計基準の適用指針 第12項)。

実務上の落とし穴は、この権利の有無を契約書の文言だけで判断してしまうことです。契約条件及び当該契約条件を補足する又は覆す可能性のある法令や判例等まで考慮して判定する必要があり、契約上明記されていない場合でも法令や判例等により権利が確認されることがあります(収益認識に関する会計基準の適用指針 第13項)。発注者都合の中途解約条項に出来高精算の定めがあるか、法務部門と合わせて確認しておくことが有効です。

履行義務の充足に係る進捗度の見積り

一定の期間にわたり充足される履行義務については、履行義務の充足に係る進捗度を見積り、当該進捗度に基づき収益を一定の期間にわたり認識します(収益認識に関する会計基準 第41項)。ここで重要なのは、進捗度を合理的に見積ることができる場合にのみ収益を認識するという制約が置かれていることです(収益認識に関する会計基準 第44項)。

進捗度の見積りにあたっては、履行義務を充足する際に顧客に支配が移転する財又はサービスの影響を進捗度の見積りに反映し、顧客に支配が移転しない財又はサービスの影響は反映しません(収益認識に関する会計基準の適用指針 第16項)。

アウトプット法とインプット法

進捗度の適切な見積りの方法には、アウトプット法とインプット法があり、その方法を決定するにあたっては、財又はサービスの性質を考慮します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第15項)。両者の違いは次のとおりです。

アウトプット法 インプット法
現在までに移転した財又はサービスの顧客にとっての価値を直接的に見積り、残りの財又はサービスとの比率に基づき収益を認識する方法 履行義務の充足に使用されたインプットが、取引開始日から完全に充足するまでに予想されるインプット合計に占める割合に基づき収益を認識する方法
指標の例は、現在までに履行を完了した部分の調査、達成した成果の評価、達成したマイルストーン、経過期間、生産単位数、引渡単位数 指標の例は、消費した資源、発生した労働時間、発生したコスト、経過期間、機械使用時間
顧客が支配する仕掛品又は製品がアウトプットの見積りに含まれていない場合には、企業の履行を忠実に描写していない 財又はサービスに対する支配を顧客に移転する際の企業の履行を描写しないものの影響は反映しない

アウトプット法を採用する場合は、選択したアウトプットが進捗度を忠実に描写するような方法で適用する必要があります(収益認識に関する会計基準の適用指針 第18項)。なお、提供したサービスの時間に基づき固定額を請求する契約等、現在までに企業の履行が完了した部分に対する顧客にとっての価値に直接対応する対価の額を顧客から受け取る権利を有している場合には、請求する権利を有している金額で収益を認識することができます(収益認識に関する会計基準の適用指針 第19項)。

インプット法のうち発生コストに基づく方法では、進捗度の見積りを修正すべきかどうかの判断が必要です。発生したコストが進捗度に寄与しない場合、たとえば契約の価格に反映されていない著しく非効率な履行に起因して発生したコストに対応する収益は認識しません(収益認識に関する会計基準の適用指針 第22項(1))。また、発生したコストが進捗度に比例しない場合には、インプット法を修正して、発生したコストの額で収益を認識するかどうかを判断します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第22項(2))。

原価比例法による進捗度の算定

工事契約や受注制作のソフトウェアで最も広く用いられているのは、発生コストに基づくインプット法、いわゆる原価比例法です。算式は次のとおりです。

進捗度 = 決算日までに発生した工事原価 ÷ 見積工事原価総額
当期の収益 = 取引価格 × 進捗度 − 前期までに認識した収益の累計額

たとえば、取引価格100,000千円、見積工事原価総額80,000千円の工事契約で、当期末までに20,000千円の工事原価が発生したとします。この場合の進捗度と当期の収益は次のように算定されます。

進捗度 = 20,000千円 ÷ 80,000千円 = 25%
当期の収益 = 100,000千円 × 25% = 25,000千円

進捗度に応じた収益認識の仕訳

上記の前提(取引価格100,000千円、見積工事原価総額80,000千円、当期発生原価20,000千円、単位:千円)に基づき、当期の仕訳を示します。工事の完成引渡前で対価に対する権利がまだ無条件になっていないため、認識した収益に対応する権利は契約資産として計上します(収益認識に関する会計基準 第41項、第77項)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
契約資産 25,000 売上高 25,000
売上原価 20,000 未成工事支出金 20,000

この結果、当期の損益は収益25,000千円と原価20,000千円の差額5,000千円の利益となります。進捗度に応じて収益と原価が対応して計上されるため、契約全体の利益率が期間按分されて表れる形になります。

方法の統一と各決算日の見直し

一定の期間にわたり充足される履行義務については、単一の方法で進捗度を見積り、類似の履行義務及び状況に首尾一貫した方法を適用します(収益認識に関する会計基準 第42項)。契約ごとに都合のよい方法を選ぶことは認められないため、契約類型ごとに採用する方法をあらかじめ会計方針として定めておく必要があります。

また、進捗度は各決算日に見直し、見積りを変更する場合には、会計上の見積りの変更として処理します(収益認識に関する会計基準 第43項)。見積工事原価総額の増減は進捗度を通じて収益額に直接影響するため、原価見積りの更新プロセスと決算プロセスを連動させることが重要です。

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進捗度を合理的に見積れない場合の原価回収基準

原価回収基準とは、履行義務を充足する際に発生する費用のうち、回収することが見込まれる費用の金額で収益を認識する方法をいいます(収益認識に関する会計基準 第15項)。進捗度を合理的に見積ることができないが、当該履行義務を充足する際に発生する費用を回収することが見込まれる場合には、進捗度を合理的に見積ることができる時まで、一定の期間にわたり充足される履行義務について原価回収基準により処理します(収益認識に関する会計基準 第45項)。

整理すると、一定の期間にわたり充足される履行義務に該当する契約では、進捗度を合理的に見積ることができれば進捗度に基づき収益を認識し(収益認識に関する会計基準 第41項、第44項)、見積ることができない場合でも費用の回収が見込まれるのであれば原価回収基準を適用します(収益認識に関する会計基準 第45項)。完成まで収益をまったく認識しないという選択肢は、原則としては用意されていません。

原価回収基準による仕訳

取引価格60,000千円の受注制作のソフトウェアについて、仕様変更の協議が続いており見積総原価が固まらず進捗度を合理的に見積ることができないものの、当期に発生した原価12,000千円は全額回収が見込まれるとします(単位:千円)。この場合、発生原価と同額の収益を認識します(収益認識に関する会計基準 第15項、第45項)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
契約資産 12,000 売上高 12,000
売上原価 12,000 仕掛品 12,000

収益と原価が同額となるため、原価回収基準を適用している期間の利益はゼロになります。利益は、進捗度を合理的に見積ることができるようになった期以降にまとめて表れることになるため、期間比較を行う際は説明を添えることが望まれます。

契約の初期段階における代替的な取扱い

日本基準には、原価回収基準の適用について日本独自の代替的な取扱いが用意されています。一定の期間にわたり充足される履行義務について、契約の初期段階において進捗度を合理的に見積ることができない場合には、当該契約の初期段階に収益を認識せず、進捗度を合理的に見積ることができる時から収益を認識することができます(収益認識に関する会計基準の適用指針 第99項)。

この取扱いは、契約の初期段階に限って認められるものである点に注意が必要です。初期段階を過ぎてもなお進捗度を合理的に見積ることができない状況が続く場合は、費用の回収が見込まれる限り原価回収基準に戻ることになります(収益認識に関する会計基準 第45項)。どの時点までを初期段階とするかの判断根拠は、監査上の論点になりやすいため、契約類型ごとに考え方を整理しておくことが有効です。

工事契約・受注制作のソフトウェアの実務論点

工事契約及び受注制作のソフトウェアについては、重要性等に関する代替的な取扱いが複数設けられています。主なものは次のとおりです。

期間がごく短い
工事契約等
取引開始日から完全に履行義務を充足すると見込まれる時点までの期間がごく短い場合には、一定の期間にわたり収益を認識せず、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識できる
契約の初期段階に
おける取扱い
契約の初期段階において進捗度を合理的に見積ることができない場合には、初期段階に収益を認識せず、合理的に見積ることができる時から収益を認識できる
収益認識の単位 当事者間で合意された実質的な取引の単位を反映するように複数の契約を結合した場合との差異に重要性が乏しいときは、複数の契約を結合し単一の履行義務として識別できる

期間がごく短い工事契約等の取扱い

工事契約について、契約における取引開始日から完全に履行義務を充足すると見込まれる時点までの期間がごく短い場合には、一定の期間にわたり収益を認識せず、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識することができます(収益認識に関する会計基準の適用指針 第95項)。受注制作のソフトウェアについても、工事契約に準じてこの定めを適用することができます(収益認識に関する会計基準の適用指針 第96項)。

実務では、短期の改修工事や小規模な受注案件にこの取扱いを適用し、期末をまたぐ長期案件のみ進捗度に基づく処理を行う運用が多く見られます。ただし「ごく短い」の基準を社内で明文化せずに運用すると、案件ごとに判断がぶれて監査対応の負荷が高まります。

収益認識の単位に関する代替的な取扱い

工事契約について、当事者間で合意された実質的な取引の単位を反映するように複数の契約を結合した際の収益認識の時期及び金額と、原則的な定めに基づく収益認識の時期及び金額との差異に重要性が乏しいと認められる場合には、当該複数の契約を結合し、単一の履行義務として識別することができます(収益認識に関する会計基準の適用指針 第102項)。受注制作のソフトウェアについても、工事契約に準じてこの定めを適用することができます(収益認識に関する会計基準の適用指針 第103項)。

工事損失引当金の計上

工事契約について、工事原価総額等が工事収益総額を超過する可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、その超過すると見込まれる額のうち、当該工事契約に関して既に計上された損益の額を控除した残額を、工事損失が見込まれた期の損失として処理し、工事損失引当金を計上します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第90項)。受注制作のソフトウェアについても、工事契約に準じてこの定めを適用します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第91項)。

工事損失引当金 = 工事損失 − 当該工事契約に関して既に計上された損失の額

取引価格100,000千円の工事契約について、見積工事原価総額が110,000千円に増加し、10,000千円の工事損失が見込まれたとします。進捗度30%の時点で収益30,000千円と原価33,000千円を計上済みで、既に3,000千円の損失を計上しているため、差額7,000千円を工事損失引当金として計上します(単位:千円)。工事損失引当金の繰入額は損益計算書の売上原価として表示します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第106項)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
売上原価 7,000 工事損失引当金 7,000

計上した工事損失引当金は、貸借対照表の流動負債の区分に、その内容を示す科目をもって表示します。なお、同一の工事契約に関する棚卸資産と工事損失引当金がともに計上されることとなる場合には、貸借対照表の表示上、相殺して表示することができます(収益認識に関する会計基準の適用指針 第106項)。この場合の注記事項も定められており、相殺の有無に応じて記載内容が異なります(収益認識に関する会計基準の適用指針 第106-9項)。

業績に基づく割増金やペナルティーの影響

工事契約では、工期短縮に対する割増金や遅延に対するペナルティーが契約に織り込まれていることがあります。これらは変動対価が含まれる取引の例に挙げられており、対価の額が変動する場合として取引価格の見積りに反映されます(収益認識に関する会計基準の適用指針 第23項)。進捗度が同じでも取引価格が動けば認識する収益額が変わるため、進捗度の見積りと取引価格の見積りは決算のたびに両輪で見直す必要があります。

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表示・注記と適用時期

契約資産の表示

顧客から対価を受け取る前又は対価を受け取る期限が到来する前に、財又はサービスを顧客に移転した場合は、収益を認識し、契約資産又は顧客との契約から生じた債権を貸借対照表に計上します(収益認識に関する会計基準 第77項)。契約資産については、たとえば契約資産、工事未収入金等として表示します(収益認識に関する会計基準の適用指針 第104-3項)。

進捗度に応じて収益を認識する契約では、対価の請求権が出来高検収や完成引渡に紐づくことが多いため、期末時点では契約資産として計上される残高が大きくなります。契約資産と顧客との契約から生じた債権のそれぞれについて、貸借対照表に他の資産と区分して表示しない場合には、それぞれの残高を注記します(収益認識に関する会計基準 第79項)。

履行義務の充足時点に関する注記

履行義務を充足する通常の時点の判断及び当該時点における会計処理の方法を理解できるよう、一定の期間にわたり充足される履行義務について、収益を認識するために使用した方法及び当該方法が財又はサービスの移転の忠実な描写となる根拠を注記します(収益認識に関する会計基準 第80-18項(2))。この注記にあたっては、使用したアウトプット法又はインプット法の記述及び当該方法をどのように適用しているのかの記述を行います(収益認識に関する会計基準の適用指針 第106-7項)。

上場準備企業の実務では、この「忠実な描写となる根拠」の記載が形式的な一文で終わってしまう例が少なくありません。採用した指標が履行の実態を表していることを説明できるよう、方法の選定理由を社内資料として残しておくことが有効です。

適用時期と改正の経緯

収益認識に関する会計基準は、2018年(平成30年)3月に企業会計基準第29号として公表され、あわせて企業会計基準適用指針第30号が公表されました(収益認識に関する会計基準の適用指針 第109項)。その後、2020年3月に注記事項及び表示に関する定めを中心とした改正が行われ、2020年改正会計基準は2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されています(収益認識に関する会計基準 第81項)。

適用指針についてはその後も改正が続いています。2021年改正適用指針では代替的な取扱いの追加が行われ、その適用時期等は2020年改正の会計基準と同様とされています(収益認識に関する会計基準の適用指針 第107項、第109-3項)。さらに2024年には、リース会計基準の公表に伴う改正が行われました。会計基準側では結論の背景における記載の一部が削除され(収益認識に関する会計基準 第96-3項)、適用指針側では買戻契約の取扱いに関する改正が行われています(収益認識に関する会計基準の適用指針 第109-4項)。この2024年改正の適用時期は、2024年に公表されたリース会計基準の適用時期と同様とされています(収益認識に関する会計基準 第83-3項、収益認識に関する会計基準の適用指針 第107-2項)。

したがって、一定の期間にわたり充足される履行義務の判定と進捗度の見積りに関する定めは、すでに適用されている枠組みです。適用初年度の経過措置ではなく、毎期の見積りプロセスの精度をどう担保するかが現在の実務課題となっています。

まとめ

一定の期間にわたり充足される履行義務は、収益認識に関する会計基準第38項の3要件のいずれかを満たすかどうかで判定し、判定は契約における取引開始日に行います。該当する場合は進捗度を見積り、その進捗度に基づいて収益を一定の期間にわたり認識します。進捗度の見積方法にはアウトプット法とインプット法があり、単一の方法を類似の履行義務及び状況に首尾一貫して適用したうえで、各決算日に見直します。

進捗度を合理的に見積ることができない場合でも、費用の回収が見込まれるのであれば原価回収基準により処理し、契約の初期段階については収益を認識しない代替的な取扱いも用意されています。工事契約や受注制作のソフトウェアでは、期間がごく短い場合の取扱い、収益認識の単位、工事損失引当金といった上乗せの論点があり、契約類型ごとに判断基準を文書化しておくことが実務の負担を大きく下げます。

収益認識の判定は契約条件や取引実態によって結論が変わるため、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。

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参考文献

よくある質問

一定の期間にわたり充足される履行義務かどうかは、いつ判定しますか。

契約における取引開始日に判定します。識別された履行義務のそれぞれについて、一定の期間にわたり充足されるものか一時点で充足されるものかを判定し、3要件のいずれも満たさない場合に一時点で充足される履行義務として扱います(収益認識に関する会計基準 第36項、第38項、第39項)。

進捗度の見積方法は契約ごとに変えてもよいですか。

認められません。一定の期間にわたり充足される履行義務については、単一の方法で進捗度を見積り、類似の履行義務及び状況に首尾一貫した方法を適用する必要があります(収益認識に関する会計基準 第42項)。契約類型ごとに採用する方法を会計方針として定めておくことが実務的です。

原価回収基準では利益は計上されますか。

計上されません。原価回収基準は、履行義務を充足する際に発生する費用のうち回収することが見込まれる費用の金額で収益を認識する方法であるため、収益と原価が同額となり利益はゼロになります(収益認識に関する会計基準 第15項、第45項)。

工期がごく短い工事契約でも、進捗度に基づく処理が必要ですか。

代替的な取扱いがあります。契約における取引開始日から完全に履行義務を充足すると見込まれる時点までの期間がごく短い場合には、一定の期間にわたり収益を認識せず、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識することができます。受注制作のソフトウェアについても工事契約に準じて適用できます(収益認識に関する会計基準の適用指針 第95項、第96項)。

進捗度の見積りを変更した場合、過去の財務諸表を修正しますか。

遡って修正はしません。進捗度は各決算日に見直し、見積りを変更する場合には会計上の見積りの変更として処理します(収益認識に関する会計基準 第43項)。見積工事原価総額の増減は進捗度を通じて収益額に影響するため、原価見積りの更新を決算プロセスに組み込んでおくことが重要です。

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。

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