収益認識における変動対価とは、顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分をいい、返品・値引・リベート・返金などがこれに該当します。契約に変動対価が含まれる場合は、最頻値法または期待値法のうち、企業が権利を得ることとなる対価の額をより適切に予測できる方法で見積り、収益の著しい減額が生じない可能性が高い部分だけを取引価格に含めます。返品や返金が見込まれる部分は収益として認識せず、返金負債として計上します。本稿では、上場準備企業の経理・財務の実務を念頭に、見積りの考え方から返品権付き販売・値引・リベートの会計処理までを、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」および適用指針第30号に沿って整理します。
変動対価とは|収益認識における定義と位置づけ
変動対価とは、顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分をいいます。契約において顧客と約束した対価に変動対価が含まれる場合、企業は、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ることとなる対価の額を見積る必要があります。企業会計基準委員会 企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準
取引価格を算定する際には、変動対価のほか、契約における重要な金融要素、現金以外の対価、顧客に支払われる対価の影響を考慮します。変動対価は、値引きや返品権付き販売のように「あとから対価が減る」場面で特に問題になり、上場準備の過程では、見積りの根拠と各期末の見直しプロセスを文書化できているかが監査対応上の論点になりやすい領域です。
変動対価に該当する取引の例(返品・値引・リベート・返金)
実務で変動対価として扱われる代表的なものには、返品権付き販売による返品見込み、売上リベートや数量値引き、返金、インセンティブ、価格の遡及調整などがあります。これらは「対価の額が契約後の事象によって変わり得る」という共通点を持ち、いずれも取引価格の見積りに反映させる必要があります。
変動対価の見積り方法|最頻値法と期待値法
変動対価の額の見積りにあたっては、発生し得ると考えられる対価の額における最も可能性の高い単一の金額による方法(最頻値法)と、発生し得ると考えられる対価の額を確率で加重平均した金額による方法(期待値法)のいずれかのうち、企業が権利を得ることとなる対価の額をより適切に予測できる方法を用います。二つの方法は「選択適用」ではなく、契約の性質に応じてより適切に予測できる方をその都度用いる点に注意が必要です。企業会計基準委員会 企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準
また、変動対価の額に関する不確実性の影響を見積るにあたっては、契約全体を通じて単一の方法を首尾一貫して適用し、企業が合理的に入手できるすべての情報を考慮して、発生し得ると考えられる対価の額について合理的な数のシナリオを識別します。実務では、結果が「返品するか・しないか」のように二値に近い契約は最頻値法、多数の顧客に対する数量リベートのように結果が幅広く分布する契約は期待値法がなじみやすい、と整理されます。企業会計基準委員会 企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準
見積りの制限(収益の著しい減額が生じない可能性が高い部分)
見積った変動対価の額は、その全額を取引価格に含めるわけではありません。変動対価の額に関する不確実性が事後的に解消される際に、解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が高い部分に限り、取引価格に含めます。これを一般に「変動対価の見積りの制限」と呼びます。企業会計基準委員会 企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準
上場準備で多いのは、過去の実績データが乏しい新製品や、外部要因に左右されやすいインセンティブについて、制限を十分にかけずに収益を先行計上してしまうケースです。見積りの制限は「保守的に少なめに計上する」ための調整であり、後日の収益の取消しリスクを抑える役割を担います。
返金負債と返品権付き販売の会計処理
顧客から受け取った又は受け取る対価の一部あるいは全部を顧客に返金すると見込む場合、受け取った又は受け取る対価の額のうち、企業が権利を得ると見込まない額について、返金負債を認識します。返金負債の額は、各決算日に見直します。企業会計基準委員会 企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準
返品権付き販売の3つの処理(収益・返金負債・返品資産)
返品権付きの商品又は製品(及び返金条件付きで提供される一部のサービス)を販売した場合は、次の三つをあわせて処理します。第一に、企業が権利を得ると見込む対価の額(返品されると見込まれる商品又は製品の対価を除く。)で収益を認識します。第二に、返品されると見込まれる商品又は製品については収益を認識せず、受け取った又は受け取る対価の額で返金負債を認識します。第三に、返金負債の決済時に顧客から商品又は製品を回収する権利について資産(返品資産)を認識します。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第30号 収益認識に関する会計基準の適用指針
販売後は、各決算日に、企業が権利を得ると見込む対価及び返金負債の額を見直し、認識した収益の額を変更します。返金負債の決済時に顧客から商品又は製品を回収する権利として認識した資産の額は、当該商品又は製品の従前の帳簿価額から予想される回収費用(価値の潜在的な下落の見積額を含む。)を控除して算定し、各決算日に当該控除した額を見直します。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第30号 収益認識に関する会計基準の適用指針
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値引き・リベート(顧客に支払われる対価)の取扱い
顧客に支払われる対価は、企業が顧客に対して支払う又は支払うと見込まれる現金の額や、顧客が企業に対する債務額に充当できるもの(例えば、クーポン)の額を含みます。顧客に支払われる対価は、顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われるものである場合を除き、取引価格から減額します。顧客に支払われる対価に変動対価が含まれる場合には、取引価格の見積りを変動対価の定めに従って行います。企業会計基準委員会 企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準
売上リベートのように顧客に支払われる対価を取引価格から減額する場合には、関連する財又はサービスの移転に対する収益を認識する時と、企業が対価を支払うか又は支払を約束する時のいずれか遅い方が発生した時点で(又は発生するにつれて)、収益を減額します。取引価格から減額するのか、別個の財又はサービスの購入として費用処理するのかは、総額・純額の判断とも重なる論点です。企業会計基準委員会 企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準
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なお、約束した財又はサービスの独立販売価格の合計額が取引価格を超える場合には、契約における財又はサービスの束について顧客に値引きを行っているものとして、当該値引きを、契約におけるすべての履行義務に対して比例的に配分します。一定の要件を満たす場合に限り、値引きを一部の履行義務にのみ配分することが認められます。企業会計基準委員会 企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準
各期末の見直しと適用時期
見積った取引価格は、各決算日に見直し、取引価格が変動する場合には、履行義務への配分に関する定めを適用します。変動対価は「一度見積れば終わり」ではなく、返品実績やリベート消化状況などの新しい情報を踏まえて毎期見直す点が実務上の要です。企業会計基準委員会 企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準
適用時期と改正の経緯
収益認識に関する会計基準は、2018年に公表され、2020年に改正されました。2020年改正会計基準は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されています(2020年4月1日以後開始する期首からの早期適用も認められていました)。すでに強制適用されている基準であり、上場準備企業は、これから備えるというより、適用済みの基準に上場準備の過程で対応していく位置づけになります。企業会計基準委員会 企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準
その後、2024年には、同年に公表されたリース会計基準(企業会計基準第34号)の新設に伴う改正が行われています。この2024年改正の適用時期は、当該リース会計基準の適用時期と同様とされており、変動対価の実務に与える影響は限定的です。企業会計基準委員会 企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準
変動対価の見積りは、契約条件の読み方や過去実績の評価など判断を要する領域が多く、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
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変動対価は、返品・値引・リベート・返金など対価が変動し得る部分を、最頻値法又は期待値法で見積り、収益の著しい減額が生じない可能性が高い部分だけを取引価格に含める仕組みです。返品や返金が見込まれる部分は返金負債として認識し、返品権付き販売では返金負債と返品資産をあわせて計上します。いずれの見積りも各決算日に見直す必要があり、上場準備企業では見積りの根拠と見直しプロセスの文書化が監査対応の鍵になります。適用済みの基準として、実務の運用が適切に回っているかを点検することが重要です。
参考文献
よくある質問
最頻値法と期待値法はどちらを使うべきですか。
いずれか一方を選んで固定するのではなく、企業が権利を得ることとなる対価の額をより適切に予測できる方法を用います。契約全体を通じては単一の方法を首尾一貫して適用します。実務上は、結果が二値に近い契約は最頻値法、結果が幅広く分布する契約は期待値法がなじみやすいと整理されます。
返金負債と返品資産はどのように計上しますか。
返品されると見込まれる部分は収益を認識せず、受け取る対価の額で返金負債を認識します。あわせて、返金負債の決済時に顧客から商品又は製品を回収する権利について、従前の帳簿価額から予想回収費用を控除した額で返品資産を認識し、いずれも各決算日に見直します。
収益認識基準はいつから適用されていますか。
2020年改正会計基準が、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されています。すでに強制適用されている基準であり、2024年にはリース会計基準の新設に伴う改正も行われています。