収益認識における本人・代理人の判定は、売上高を総額で表示するか純額で表示するかを分ける重要な論点です。結論から申し上げると、財又はサービスが顧客に提供される前に自社がそれを支配しているのであれば本人として対価の総額を収益に計上し、支配していないのであれば代理人として手数料相当の純額を収益に計上します。利益の金額は変わらなくても売上高の規模が大きく変わるため、EC・プラットフォーム事業や卸売業、上場準備企業にとって避けて通れない判断となります。
本記事では、企業会計基準適用指針第30号が定める判定の枠組みと3つの指標を整理したうえで、ECサイト運営、商社・卸売、ポイントサイトといった具体的なビジネスモデルでの当てはめ方、実務で陥りやすい落とし穴までを解説します。収益認識基準の5ステップ全体の概要ではなく、本人・代理人判定という一つの論点を深掘りする構成です。
本人・代理人判定はなぜ重要か
顧客への財又はサービスの提供に自社以外の当事者が関与する取引では、自社が「本人」と「代理人」のどちらに該当するかによって収益の計上額が大きく異なります。企業が本人に該当するときは、財又はサービスの提供と交換に企業が権利を得ると見込む対価の総額を収益として認識します企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第30号 収益認識に関する会計基準の適用指針。一方、企業が代理人に該当するときは、他の当事者により提供されるように手配することと交換に得る報酬又は手数料の金額、すなわち受け取る額から他の当事者に支払う額を控除した純額を収益として認識します。
数値で確認しましょう。仕入先から8,000円で仕入れた商品を、自社サイト経由で顧客に10,000円で販売する取引を考えます。
利益はどちらも2,000円で変わりませんが、売上高は10,000円と2,000円で5倍の開きが生じます。売上高は企業規模の指標として融資審査や上場審査、取引先の与信判断に用いられるため、誤った区分は財務諸表の信頼性を損ないます。特に上場準備企業では、監査の過程で総額表示から純額表示への修正を求められ、売上高が大幅に減少する事例が少なくありません。
この論点は、収益認識に関する会計基準の5ステップのうち、ステップ2(履行義務の識別)とステップ3(取引価格の算定)に関連する適用上の論点として位置付けられています。基準全体の枠組みを確認したい方は、以下の関連コラムをご覧ください。
関連コラム収益認識に関する会計基準の5ステップと実務ポイント▸
判定の基本枠組み:提供前に「支配」しているか
2段階の判定手順
本人か代理人かは、契約全体ではなく、顧客に約束した特定の財又はサービスのそれぞれについて判定します。したがって、一つの契約の中で、一部の財又はサービスについては本人に該当し、他の財又はサービスについては代理人に該当することもあり得ます企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第30号 収益認識に関する会計基準の適用指針。判定は次の2つの手順に従って行います。
- 顧客に提供する財又はサービスを識別する(顧客に提供する財又はサービスは、他の当事者が提供する財又はサービスに対する権利である可能性もあります)
- 財又はサービスのそれぞれが顧客に提供される前に、当該財又はサービスを企業が支配しているかどうかを判断する
顧客に提供される前に企業がその財又はサービスを支配しているときは本人に該当し、支配していないときは代理人に該当します。ここでいう「支配」とは、資産の使用を指図し、資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力(他の企業が資産の使用を指図して便益を享受することを妨げる能力を含みます)をいいます企業会計基準委員会 改正企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準 等の公表。
企業が支配している場合の3つの類型
顧客への提供前に企業が支配している対象としては、次の3つの類型が示されています。いずれかを支配しているときは、企業は本人に該当します企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第30号 収益認識に関する会計基準の適用指針。
- 企業が他の当事者から受領し、その後に顧客に移転する財又は他の資産
- 他の当事者が履行するサービスに対する権利(その権利を獲得し、他の当事者に顧客へサービスを提供するよう指図する能力を有する場合)
- 他の当事者から受領した財又はサービスで、企業が顧客に財又はサービスを提供する際に、他の財又はサービスと統合させるもの
注意すべきは、法的所有権の移転だけでは支配の根拠にならない点です。企業が財に対する法的所有権を顧客への移転前に一瞬だけ取得しても、それが瞬時に顧客へ移転される場合には、企業は必ずしも当該財を支配していることにはなりません。契約書上の権利移転の形式ではなく、取引の実態に基づいて支配の有無を評価する必要があります。
また、履行義務を自社で充足する場合だけでなく、外注先等の他の当事者に履行義務の一部又は全部を充足させる場合でも、企業が本人に該当する可能性があります。下請業者を使う建設業や開発業務の元請けが典型例です。
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支配を評価する3つの指標
財又はサービスを顧客への提供前に支配しているかどうかの判定にあたっては、例えば次の3つの指標を考慮するものとされています企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第30号 収益認識に関する会計基準の適用指針。
- 主たる責任:企業が財又はサービスを提供するという約束の履行に対して主たる責任を有していること。通常、財又はサービスの受入可能性(顧客の仕様を満たしていること)に対する主たる責任が含まれます。
- 在庫リスク:財又はサービスが顧客に提供される前、あるいは支配が顧客に移転した後(例えば顧客が返品権を有する場合)において、企業が在庫リスクを有していること。
- 価格の設定における裁量権:財又はサービスの価格の設定において企業が裁量権を有していること。
これらはあくまで支配の評価を補強する指標であり、チェックリストのように機械的に多数決で決めるものではありません。取引の性質に応じて各指標の関連性や重要性は異なるため、支配の有無という原則に立ち返って総合的に判断します。なお、価格設定の裁量権は代理人が有している場合もあります。例えば、財又はサービスが他の当事者によって提供されるように手配するサービスから追加的な収益を生み出すために、代理人が価格の設定について一定の裁量権を持つケースがあるためです。
本人と代理人の特徴を対比すると、次のように整理できます。
| 本人に該当する場合 | 代理人に該当する場合 |
|---|---|
| 財又はサービスを自ら提供する履行義務を負う | 他の当事者により提供されるよう手配する履行義務を負う |
| 顧客への提供前に財又はサービスを支配している | 顧客への提供前に財又はサービスを支配していない |
| 約束の履行や受入可能性に主たる責任を負う | 履行の主たる責任は他の当事者が負う |
| 在庫リスク(返品リスクを含む)を負担する | 在庫リスクを負担しない |
| 対価の総額を収益として認識する | 報酬又は手数料の金額(純額)を収益として認識する |
ビジネスモデル別の判定実務
ECサイト・プラットフォーム運営
自社で商品を仕入れて販売するECサイトは、商品の所有権と在庫リスクを自社が負い、販売価格も自社で決定するのが通常であるため、本人として総額表示となる典型例です。一方、出店者と購入者をつなぐマーケットプレイス型のプラットフォームでは、商品の提供に主たる責任を負うのは出店者であり、運営会社は在庫を持たず、価格も出店者が決めることが多いため、代理人として出店手数料や決済手数料の純額を収益に計上するのが一般的です。
判断が難しいのは中間形態です。例えば、プラットフォーム運営会社が返品対応や品質保証まで引き受ける場合、配送や検品を自社で行い顧客対応の窓口を一手に担う場合には、主たる責任や在庫リスクの一部を負っていると評価される余地があります。約款や利用規約で誰が履行責任を負う建付けになっているか、実際の運用でどこまでリスクを負担しているかを取引条件ごとに検討する必要があります。
商社・卸売業(消化仕入を含む)
商社や卸売業では、自社で商品を仕入れ在庫として保有したうえで販売する取引は本人に該当するのが通常です。他方、百貨店等で広く行われる消化仕入(売上仕入)では、商品が店頭で顧客に販売された時点で初めて仕入先から小売業者への仕入が計上され、小売業者は在庫リスクを負いません。この場合、顧客への提供前に商品を支配しているとはいえず、代理人として純額表示になるケースが多いと考えられます。
また、注文を受けてから仕入先に発注し、商品を顧客へ直送させるいわゆるスルー取引・直送取引では、法的所有権が一瞬自社を経由しても、それだけでは支配の根拠になりません。仕様の決定や検収への関与、価格設定の裁量、返品時のリスク負担などの実態を踏まえて判定します。
ポイントサイト・広告型ビジネス
ポイントサイトやアフィリエイト型のビジネスでは、広告主のサービスへの送客を手配する立場であれば、広告主から受け取る報酬のうちユーザーに付与するポイント原資を控除した純額ではなく、そもそも何が顧客への財又はサービスかの識別から検討が始まります。顧客(広告主)に提供するのが送客というサービスそのものであれば自社が本人となる一方、第三者のサービスが提供されるように手配するにすぎない部分は代理人と評価され得ます。一つの契約内で本人の部分と代理人の部分が併存し得るため、特定の財又はサービスごとに判定するという原則が特に重要になります企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第30号 収益認識に関する会計基準の適用指針。
実務で陥りやすい落とし穴
第一の落とし穴は、契約書の形式だけで判断してしまうことです。売買契約の形式をとっていても、在庫リスクや履行責任の実態が伴わなければ本人とは認められません。逆に、業務委託契約の名称でも実態として支配があれば本人に該当します。会計監査では契約条項と業務フローの両面から実態を確認されるため、判定の根拠を文書化しておくことが重要です。
第二に、3つの指標を多数決のように使うことです。指標はあくまで支配の評価を助けるものであり、2つ該当すれば本人といった機械的な判定はできません。取引ごとに、どの指標がその取引の支配の評価にとって重要かを検討する姿勢が求められます。
第三に、取引価格から控除すべき第三者のために回収する額の見落としです。取引価格とは、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額であり、消費税のように第三者のために回収する額は除かれます企業会計基準委員会 改正企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準 等の公表。本人・代理人の判定と併せて、収益の計上額そのものの整理も必要です。
第四に、一度行った判定の放置です。ビジネスモデルの変更、返品条件や価格決定権の見直し、物流機能の内製化などにより支配の状況は変わり得ます。契約更改や新規サービス開始のタイミングで判定を見直すプロセスを整備しておきましょう。
まとめ
本人・代理人の判定は、顧客への提供前に財又はサービスを支配しているかという一点に集約されます。本人であれば対価の総額を、代理人であれば報酬又は手数料の純額を収益として認識し、その評価にあたっては主たる責任、在庫リスク、価格設定の裁量権という3つの指標を考慮します。判定は契約単位ではなく特定の財又はサービスごとに行い、契約の形式ではなく取引の実態に基づいて判断することが実務の要諦です。
EC・プラットフォーム、商社・卸売、ポイントサイトなど、他の当事者が関与するビジネスモデルでは、売上高の表示金額が大きく変わるだけに、監査対応や上場審査でも重点的に確認される論点です。自社の取引について具体的なケースの判定に迷われた場合は、公認会計士へのご相談をおすすめします。公認会計士事務所プライムパートナーズ/株式会社プライムパートナーズコンサルティングでは、収益認識基準の適用支援から上場準備まで一貫してサポートしています。
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よくある質問
本人と代理人はどのように判定しますか?
顧客に約束した特定の財又はサービスごとに、まず顧客に提供する財又はサービスを識別し、次にそれが顧客に提供される前に自社が支配しているかどうかを判断します。提供前に支配していれば本人として総額を、支配していなければ代理人として手数料等の純額を収益に計上します。
3つの指標がすべて揃わないと本人になれないのですか?
いいえ。主たる責任、在庫リスク、価格設定の裁量権の3つは支配の有無を評価する際に考慮する指標であり、要件ではありません。取引の性質に応じて各指標の重要性は異なるため、支配という原則に照らして総合的に判断します。
代理人になると利益も減りますか?
いいえ。純額表示になっても収益から費用を差し引いた利益の金額は変わりません。変わるのは売上高の表示規模であり、売上総利益率などの財務指標や、売上高を基準とする社内目標・与信評価に影響します。
消化仕入はなぜ純額表示になることが多いのですか?
消化仕入では、店頭で顧客に販売された時点で仕入が計上される契約構造のため、小売業者は在庫リスクを負わず、顧客への提供前に商品を支配しているとは通常いえないためです。ただし最終的には、価格設定の裁量や返品リスクの負担など個々の契約条件を踏まえて判定します。