会計監査限定の監査役【判定表】定款の定め・登記と業務監査との違い
目次
- 会計監査限定の監査役を置けるかの判定表
- 会社法389条が定める限定の要件
- 定款の定めが必要
- 旧商法の小会社から移行した会社
- 業務監査権限との違い
- 「監査役設置会社」に当たらないことの影響
- 2015年改正後の登記
- 登記事項としての「会計限定」
- 改正前から定めがあった会社の経過措置
- 限定を外す・外れる場面
- 会計監査人を置くとき
- 株式の譲渡制限を廃止するとき
- 実務で迷いやすい論点
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- 会計監査限定の監査役かどうかは、どこで確認できますか。
- 取締役会設置会社でも監査役の監査範囲を会計に限定できますか。
- 会計監査限定の監査役は取締役会に出席できませんか。
- 会計監査人を任意に選任すると、監査役はどうなりますか。
会計監査限定の監査役とは、定款の定めによって監査の範囲を会計に関するものに絞った監査役のことです。置けるのは公開会社でない株式会社のうち、監査役会と会計監査人のどちらも置いていない会社に限られます(会社法 第389条第1項)。大会社は会計監査人の設置が義務づけられるため、非公開であっても限定できません(会社法 第328条第2項)。
「うちの監査役は会計だけを見ていればよいのか」「登記簿に何が載るのか」という疑問は、機関設計の見直しや資金調達、上場準備の場面で必ず出てきます。この記事では、限定できるかどうかを判定表で確かめたうえで、業務監査権限との違い、2015年改正後の登記、限定を外す場面までを条文に沿って整理します。
会計監査限定の監査役を置けるかの判定表
判定は上から順に確認します。1つでも「限定できない」に当たれば、監査役は業務監査権限を含む通常の監査役になります。
| 公開会社である | 限定できない(会社法 第389条第1項) |
|---|---|
| 監査役会を置いている | 限定できない(会社法 第389条第1項) |
| 会計監査人を置いている (任意設置を含む) |
限定できない(会社法 第389条第1項) |
| 大会社に当たる (資本金5億円以上 又は負債200億円以上) |
会計監査人の設置義務があるため限定できない(会社法 第2条第6号、第328条第2項) |
| 監査等委員会設置会社 又は指名委員会等設置会社 |
監査役そのものを置けない(会社法 第327条第4項) |
| 上のいずれにも当たらない 非公開会社 |
定款に定めれば限定できる(会社法 第389条第1項) |
ここでいう公開会社は、上場の有無ではなく、発行する株式の全部又は一部に譲渡制限の定めがない会社を指します(会社法 第2条第5号)。全株式に譲渡制限を付けている会社であれば、未上場か上場予定かを問わず非公開会社として判定します。
実務で見落としやすいのは、会計監査人を任意で置いた場合です。金融機関や取引先の要請で会計監査人を選任すると、その時点で会計監査人設置会社となり、会計監査限定の定めは維持できなくなります。
関連コラム監査役の設置義務【判定表】取締役会・会計参与の例外と置かない選択▸
会社法389条が定める限定の要件
定款の定めが必要
監査範囲の限定は、株主総会の決議や監査役との合意では足りず、定款に定めることが要件です(会社法 第389条第1項)。新たに定めを置く場合は定款変更になるため、株主総会の特別決議を経ます(会社法 第466条、第309条第2項第11号)。
定めを置いても、監査役の地位そのものは変わりません。変わるのは職務の範囲で、限定された監査役は会計に関する監査報告を作成し、取締役が株主総会に提出しようとする会計に関する議案や書類を調査して、その結果を株主総会に報告します(会社法 第389条第2項・第3項)。
旧商法の小会社から移行した会社
2006年5月1日の会社法施行時に旧商法特例法上の小会社であった株式会社は、定款に会計限定の定めがあるものとみなされています(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律 第53条)。定款の文面に記載が見当たらなくても、会計監査限定として扱われている会社があるのはこのためです。
この「みなし定款」の会社では、社内で業務監査を担っているつもりでいても、法律上は会計監査限定の監査役になっていることがあります。定款の現物と登記事項証明書の両方を確認すると、認識のずれを防げます。
業務監査権限との違い
会計監査限定の定めがある会社では、業務監査に関する第381条から第386条までの規定が適用されません(会社法 第389条第7項)。代わりに、会計に関する調査権限が第389条第4項・第5項で個別に与えられています。外れる権限と残る権限を一覧にすると次のとおりです。
| 取締役の職務執行の監査 | 外れる。監査の範囲は会計に関するものに限られる(会社法 第381条第1項、第389条第1項) |
|---|---|
| 会計帳簿の閲覧・謄写、 会計に関する報告請求 |
残る。取締役・会計参与・使用人に対していつでも行える(会社法 第389条第4項) |
| 子会社への報告請求・調査 | 職務に必要な範囲で残る。子会社は正当な理由があれば拒める(会社法 第389条第5項・第6項) |
| 取締役会への出席義務 | 外れる(会社法 第383条第1項、第389条第7項) |
| 不正行為等の 取締役(会)への報告、 取締役会の招集請求 |
外れる(会社法 第382条、第383条第2項、第389条第7項) |
| 株主総会提出議案の調査 | 計算関係書類や剰余金の配当・資本金の額の減少など、会計に関する議案に絞られる(会社法 第389条第3項、会社法施行規則 第108条) |
| 取締役の違法行為の差止め請求 | 外れる(会社法 第385条、第389条第7項) |
| 取締役との訴訟での会社代表 | 外れる。株主総会又は取締役会が会社を代表する者を定めることができる(会社法 第386条、第353条、第364条) |
| 事業報告の監査 | 外れる。監査報告には事業報告を監査する権限がないことを明らかにする(会社法施行規則 第129条第2項) |
計算書類とその附属明細書の監査は、限定の有無にかかわらず監査役の仕事として残ります(会社法 第436条第1項)。監査報告では、監査の方法とその内容、計算関係書類が財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかの意見などを記載します(会社計算規則 第122条第1項)。
実務で多い誤りは、会計監査限定の会社が、業務監査権限を持つ監査役と同じひな形で監査報告を作ってしまうことです。事業報告について「法令又は定款に従い正しく示している」といった意見を書くと、権限のない事項に意見を述べた形になります。事業報告を監査する権限がない旨を明記した様式に置き換えておくと安全です。
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「監査役設置会社」に当たらないことの影響
会社法上の「監査役設置会社」の定義からは、監査の範囲を会計に関するものに限定する定款の定めがある会社が除かれています(会社法 第2条第9号)。このため、条文に「監査役設置会社」とある規定では、適用関係が通常の監査役を置く会社と変わります。代表的なものは次の5つです。
- 取締役の報告先: 会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見した取締役は、監査役ではなく株主に報告する(会社法 第357条第1項)
- 株主の差止め請求の要件: 「回復することができない損害」への読み替えがなく、「著しい損害」が生ずるおそれで足りる(会社法 第360条第1項・第3項)
- 株主による取締役会の招集請求: 取締役会設置会社の株主は、取締役の法令・定款違反の行為等があると認めるときに取締役会の招集を請求できる(会社法 第367条第1項)
- 取締役会議事録の閲覧: 株主は裁判所の許可なく、営業時間内いつでも閲覧・謄写を請求できる(会社法 第371条第2項・第3項)
- 取締役等の責任の一部免除: 取締役会決議等で責任を免除できる旨の定款の定め(第426条)は、監査役設置会社等に限られるため置けない(会社法 第426条第1項)
つまり、会計監査限定を選ぶと監査役の負担は軽くなる一方、取締役の業務執行に対するチェックは株主の権限で補う設計になります。株主が経営陣と同じである同族会社では影響は小さい一方、外部株主がいる会社では、議事録の閲覧や招集請求が直接株主に開かれる点を理解しておく必要があります。条文ごとの適用関係は、規定の文言に照らして個別に確認してください。
2015年改正後の登記
登記事項としての「会計限定」
会社法の一部を改正する法律(平成26年法律第90号)は2015年5月1日に施行され、この改正で、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する定款の定めがある会社は、その旨を登記することになりました。現行法では、監査役を置く会社の登記事項として、会計限定の定めがある旨と監査役の氏名が並んでいます(会社法 第911条第3項第17号イ・ロ)。
登記事項に変更が生じたときは、2週間以内に本店所在地で変更の登記をしなければなりません(会社法 第915条第1項)。定款を変更して限定を新設・廃止した場合も同じです。登記を怠ると、代表者等は100万円以下の過料の対象になります(会社法 第976条第1号)。
改正前から定めがあった会社の経過措置
2015年5月1日の時点ですでに会計限定の定めがあった会社には、経過措置があります。施行後に最初に監査役が就任し、又は退任するまでの間は、会計限定である旨を登記しなくてよいとされました(会社法の一部を改正する法律 附則第22条第1項)。
裏返すと、施行後に監査役の就任・退任(任期満了による重任を含む)の登記をする際には、会計限定である旨もあわせて登記する必要があります。非公開会社では監査役の任期を定款で最長10年まで伸ばせるため(会社法 第336条第2項)、改正から長期間、監査役の変更登記をしていない会社では、登記簿に会計限定の表示がないまま残っていることがあります。次の改選時に漏れなく申請するよう、登記事項証明書で現状を確かめておくとよいでしょう。
| 登記事項 | 会計限定の定めがある旨、監査役の氏名(会社法 第911条第3項第17号) |
|---|---|
| 変更登記の期限 | 変更が生じてから2週間以内(会社法 第915条第1項) |
| 2015年5月1日前からの会社 | 施行後最初の監査役の就任・退任まで登記不要(会社法の一部を改正する法律 附則第22条第1項) |
| 登記を怠った場合 | 100万円以下の過料(会社法 第976条第1号) |
限定を外す・外れる場面
会計監査人を置くとき
会計監査人を置く会社は会計監査限定の対象から外れます(会社法 第389条第1項)。資本金や負債の増加で大会社に該当した場合も、会計監査人の設置が義務になるため同じ結論です(会社法 第328条第2項)。この場合は定款の会計限定の定めを廃止し、業務監査権限を持つ監査役を置く体制へ切り替えます。
会計限定の定めを廃止する定款変更の効力が生じた時点で、在任中の監査役の任期は満了します(会社法 第336条第4項第3号)。同じ人に続けてもらう場合でも、株主総会で改めて選任し、退任・就任の変更登記と、会計限定の定めの廃止の登記を2週間以内に申請します(会社法 第915条第1項)。
関連コラム会計監査人設置会社の定款変更と登記|条文例・添付書面・登録免許税▸
株式の譲渡制限を廃止するとき
上場準備などで株式の譲渡制限の定めを廃止し公開会社になると、非公開会社という前提が崩れるため、会計限定の定めも維持できません(会社法 第389条第1項)。譲渡制限を廃止する定款変更の効力が生じた時点で、監査役の任期は満了します(会社法 第336条第4項第4号)。
公開会社は取締役会の設置が必要で(会社法 第327条第1項第1号)、取締役会設置会社は原則として監査役を置かなければなりません(会社法 第327条第2項)。上場準備では、譲渡制限の廃止より前の段階で会計監査人を選任するのが通常の流れのため、実務上は会計監査人の選任時点で会計限定の定めを外すことになります。新たに業務監査を担う監査役には、取締役会への出席や事業報告の監査といった職務が加わるため、人選と準備の時間を見込んでおく必要があります。
関連コラム会計監査人の設置義務【判定フロー表】機関設計別の線引きと任意設置▸
実務で迷いやすい論点
- 定款・登記・運用の三つがそろっているか: 定款では会計限定なのに取締役会に毎回出席して業務監査の意見を述べている、あるいは登記簿に会計限定の表示がない、といったずれは珍しくありません。まず定款と登記事項証明書を突き合わせます。
- 監査報告のひな形: 会計限定の監査役は事業報告を監査する権限がない旨を明記します(会社法施行規則 第129条第2項)。業務監査用のひな形の流用は避けます。
- 会計監査人の任意設置を検討する時期: 選任した時点で会計限定は外れ、監査役の任期も満了します(会社法 第389条第1項、第336条第4項第3号)。選任議案と定款変更議案を同じ株主総会に上程し、監査役の選任もあわせて決議しておくと手続が一度で済みます。
- 「監査役設置会社」の文言: 会計限定の会社は定義から外れるため(会社法 第2条第9号)、責任免除の定款規定や株主の権利行使の要件が通常と異なります。定款変更や役員の責任に関する手続を検討する際は、適用条文を確認します。
関連コラム監査役監査と会計監査人監査の違い|相当性判断のチェックリスト▸
まとめ
- 会計監査限定の監査役を置けるのは、監査役会と会計監査人を置かない非公開会社だけで、定款の定めが必要(会社法 第389条第1項)
- 大会社は非公開でも会計監査人の設置義務があるため限定できない(会社法 第328条第2項)
- 限定すると業務監査に関する第381条から第386条までが適用されず、取締役会への出席義務や差止め請求権がなくなる(会社法 第389条第7項)
- 会計限定の会社は「監査役設置会社」に当たらず、株主の招集請求や議事録閲覧などの権限が広がる(会社法 第2条第9号)
- 2015年5月1日施行の改正で会計限定の旨は登記事項になり、改正前からの会社も最初の監査役の就任・退任時に登記が必要(会社法 第911条第3項第17号、改正法附則第22条第1項)
- 会計監査人の選任や譲渡制限の廃止で限定は外れ、監査役の任期はその時点で満了する(会社法 第336条第4項)
会計監査限定にするか、業務監査権限を持つ監査役を置くかは、株主構成や資金調達・上場の予定によって最適解が変わります。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。公認会計士事務所プライムパートナーズ/株式会社プライムパートナーズコンサルティングでは、会計監査人の新規選任や機関設計の見直しに伴う会社法監査のご相談を承っています。
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- e-Gov法令検索 会社法
- e-Gov法令検索 会社法施行規則
- e-Gov法令検索 会社計算規則
- e-Gov法令検索 会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律
- 法務省 会社法の一部を改正する法律案
- 法務省 役員の変更の登記を忘れていませんか? 再任の方も必要です
よくある質問
会計監査限定の監査役かどうかは、どこで確認できますか。
定款に監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定めがあるかを確認し、あわせて登記事項証明書の監査役の欄を確認します。会計限定の定めがある旨は登記事項です(会社法 第911条第3項第17号イ)。2006年の会社法施行時に旧商法特例法上の小会社だった会社は、定款に記載がなくても定めがあるものとみなされます(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律 第53条)。
取締役会設置会社でも監査役の監査範囲を会計に限定できますか。
公開会社でなく、監査役会と会計監査人を置いていなければ、取締役会設置会社でも定款で限定できます(会社法 第389条第1項)。この場合、監査役に取締役会への出席義務はありません(会社法 第389条第7項)。
会計監査限定の監査役は取締役会に出席できませんか。
出席義務を定めた規定が適用されないだけで(会社法 第389条第7項)、出席を禁止する規定ではありません。ただし、出席しても業務監査の権限は持たないため、取締役会で述べる意見は会計に関する職務の範囲で整理しておく必要があります。
会計監査人を任意に選任すると、監査役はどうなりますか。
会計監査人設置会社は監査範囲を会計に限定できないため、会計限定の定めを廃止します(会社法 第389条第1項)。廃止の定款変更の効力が生じた時点で監査役の任期は満了するので、改めて監査役を選任し、2週間以内に変更登記を申請します(会社法 第336条第4項第3号、第915条第1項)。
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