種類株式と属人株の違い|判定軸と定款・決議要件
目次
- 種類株式と属人株の判定軸
- 種類株式が適する場面
- 属人株が適する場面
- 種類株式の内容と定款の定め
- 会社法第108条第1項の9項目
- 定款に定める事項
- 属人株(属人的定め)の内容
- 対象となる3つの権利
- 種類株式とみなす規定
- 導入手続と決議要件
- 種類株式の導入手続
- 属人株の導入手続と特殊決議
- 実務上の落とし穴
- 株式移転による属人株の失効
- 種類株主総会の追加負担
- 議決権制限株式の数の制限
- 会計・開示への影響
- 導入前チェックリスト
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- 属人株は登記されますか
- 属人株は相続で引き継がれますか
- 公開会社でも属人的定めを置けますか
- 種類株式と属人株は併用できますか
- 属人的定めの廃止にも特殊決議が必要ですか
種類株式と属人株のどちらを使うかは、「対象会社」「定められる事項」「決議要件」「株式が移転したときの効力」の4つの軸で決まります。結論から申し上げると、非公開会社で特定の個人に議決権を集中させたいだけであれば属人株が簡便で、拒否権や取得条項など株式そのものに権利を組み込みたい場合は種類株式が必要です。
種類株式は株式の内容として権利を設計する制度で、株式が移転しても権利は株式とともに移ります(会社法 第108条第1項)。一方の属人株は株主という人に着目した定款の定めであり、公開会社でない株式会社でしか設けられません(会社法 第109条第2項)。この性質の違いが、事業承継やIPO準備での使い分けを分けます。
本記事では、公認会計士事務所プライムパートナーズが、両制度の条文上の違いを比較表で整理したうえで、導入手続・決議要件・登記の要否、そして実務で見落とされやすい落とし穴と導入前チェックリストを解説します。
種類株式と属人株の判定軸
まず、両制度の違いを条文ベースで一覧にします。ここを押さえれば、案件ごとにどちらを選ぶべきかの当たりが付けられます。
| 対象となる会社 | 種類株式は会社の類型を問わず発行できますが、公開会社と指名委員会等設置会社は役員選任権付種類株式を発行できません(会社法 第108条第1項ただし書)。属人株は公開会社でない株式会社に限られます(会社法 第109条第2項)。 |
|---|---|
| 定められる事項 | 種類株式は剰余金の配当から役員選任権まで9項目に及びます(会社法 第108条第1項)。属人株は剰余金の配当、残余財産の分配、株主総会の議決権の3つに限られます(会社法 第105条第1項、第109条第2項)。 |
| 定款変更の決議要件 | 種類株式の新設は株主総会の特別決議です(会社法 第309条第2項第11号、第466条)。属人株の新設・変更はより重い特殊決議が求められます(会社法 第309条第4項)。 |
| 登記の要否 | 種類株式は発行可能種類株式総数と各種類の内容が登記事項です(会社法 第911条第3項第7号)。属人株はこの登記事項に含まれず、定款にのみ記載されます。 |
| 株式移転時の効力 | 種類株式の権利は株式の内容であるため、譲渡や相続で取得者に引き継がれます。属人株は「株主ごと」の取扱いを定めるものであるため、対象株主が株式を手放すと取得者には及ばないと解されています(会社法 第109条第2項)。 |
| 発行後の追加手続 | 種類株式発行会社では、一定の行為について種類株主総会の決議が必要になります(会社法 第322条第1項)。属人株には種類株主総会の手続はありませんが、定めの内容変更のたびに特殊決議が必要です。 |
種類株式が適する場面
株式そのものに権利を組み込む必要がある場面では、種類株式を選びます。具体的には、重要事項について拒否権を持たせる場合(会社法 第108条第1項第8号)、一定の事由が生じたときに会社が株式を強制的に取得する仕組みを入れる場合(同項第6号)、投資家に取得請求権を与える場合(同項第5号)です。属人株の3権利では設計できません。
また、後継者の死亡後も権利を維持したい場合や、第三者から出資を受け入れる場面でも種類株式が前提になります。権利が株式に付着しているため、株主の交代に左右されないためです。
属人株が適する場面
現経営者が存命・在任中に限って議決権を集中させたい場合には、属人株が有効です。たとえば「代表取締役である株主は1株につき10個の議決権を有する」といった定めを置けば、保有株式数を動かさずに議決権比率だけを調整できます(会社法 第109条第2項)。
登記事項ではないため、外部から株主構成の特殊性が見えにくい点も実務上の利点です。ただしこれは裏を返せば、株主・債権者が登記からは把握できないということでもあり、後述する落とし穴につながります。
種類株式の内容と定款の定め
種類株式とは、会社法第108条第1項に掲げる事項について異なる定めをした、内容の異なる2以上の種類の株式です。これを発行する株式会社を種類株式発行会社といいます(会社法 第2条第13号)。
会社法第108条第1項の9項目
異なる定めを置ける事項は、次の9つに限定されています。実務ではこれらを組み合わせて設計します。
| 号 | 異なる定めを置ける事項 |
|---|---|
| 第1号 | 剰余金の配当 |
| 第2号 | 残余財産の分配 |
| 第3号 | 株主総会において議決権を行使することができる事項 |
| 第4号 | 譲渡による当該種類の株式の取得について会社の承認を要すること |
| 第5号 | 株主が会社に対して取得を請求することができること |
| 第6号 | 一定の事由が生じたことを条件として会社が取得することができること |
| 第7号 | 株主総会の決議によって会社がその全部を取得すること |
| 第8号 | 株主総会等の決議に加えて種類株主総会の決議を必要とすること |
| 第9号 | 種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること |
第1号と第2号を組み合わせたものが優先株式・劣後株式、第3号を用いたものが議決権制限株式、第8号を特定の重要決議に付したものがいわゆる拒否権付株式(黄金株)です。第9号の役員選任権付種類株式は、公開会社と指名委員会等設置会社では発行できません(会社法 第108条第1項ただし書)。
定款に定める事項
種類株式を発行するには、各号に定める事項と発行可能種類株式総数を定款で定める必要があります(会社法 第108条第2項)。ただし、剰余金の配当に関する事項など一定のものは、内容の要綱だけを定款で定め、詳細は当該種類の株式を初めて発行する時までに株主総会等の決議で定める旨を定款に置くこともできます(会社法 第108条第3項)。
なお、剰余金の配当を受ける権利と残余財産の分配を受ける権利の全部を株主に与えない定款の定めは、効力を有しません(会社法 第105条第2項)。完全な無配・無分配の株式は設計できないという限界です。
属人株(属人的定め)の内容
属人株とは、公開会社でない株式会社が、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めたものを指す通称です(会社法 第109条第2項)。会社法は株主平等の原則を定めていますが(会社法 第109条第1項)、その明文の例外として置かれています。
対象となる3つの権利
異なる取扱いができるのは、剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利、株主総会における議決権の3つに限られます(会社法 第105条第1項各号、第109条第2項)。取得請求権、取得条項、拒否権、役員選任権といった種類株式固有の設計は、属人株では実現できません。
この3権利のうち、実務で最も多く使われるのが議決権です。持株比率を変えずに議決権比率だけを動かせるため、贈与税・相続税の負担を抑えながら経営権を移す設計に用いられます。ただし配当の設計を伴う場合は、会社法上の分配可能額の枠内でしか実行できない点に注意が必要です。
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種類株式とみなす規定
属人的定めがある場合、その株主が有する株式は、当該権利に関する事項について内容の異なる種類の株式とみなして、会社法第2編および第5編の規定が適用されます(会社法 第109条第3項)。組織再編や株式併合など多くの手続が第2編・第5編に置かれているため、属人株を設けた会社は、実質的に種類株式発行会社に準じた取扱いを受ける場面が出てきます。
「登記も不要で手軽な制度」という理解だけで導入すると、後の増資や組織再編の場面で想定外の手続が必要になります。導入時点で、みなし規定が及ぶ範囲を顧問弁護士・司法書士と確認しておくことをおすすめします。
導入手続と決議要件
どちらの制度も定款変更によって導入します(会社法 第466条)。分岐点は決議要件と、その後に必要となる登記の有無です。
種類株式の導入手続
| 定款変更の決議 | 株主総会の特別決議によります。議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です(会社法 第309条第2項第11号)。 |
|---|---|
| 種類株主総会の要否 | 既発行の種類株式に譲渡制限または全部取得条項を付す定款変更は、当該種類株主を構成員とする種類株主総会の決議がなければ効力を生じません(会社法 第111条第2項)。 |
| 全員同意が要る場合 | 既発行の種類株式に取得条項を付す定款変更は、当該種類の株式を有する株主全員の同意が必要です(会社法 第111条第1項)。 |
| 登記 | 発行可能種類株式総数と各種類の株式の内容、発行済株式の種類と種類ごとの数を登記します(会社法 第911条第3項第7号、第9号)。 |
属人株の導入手続と特殊決議
属人的定めを設ける定款変更、およびその定めを変更する定款変更(廃止する場合を除く)は、通常の特別決議より重い特殊決議によります(会社法 第309条第4項)。要件は次のとおりです。
特別決議が「出席した株主の議決権」を基準とするのに対し、この特殊決議は総株主の頭数と総株主の議決権の双方を基準とします。欠席株主も分母に入るため、株主が分散している会社では想像以上に可決のハードルが高くなります。株主名簿を精査し、事前の同意取得まで含めて日程を組む必要があります。
一方、属人的定めは登記事項に列挙されておらず、定款と株主総会議事録に残るのみです。登記費用が生じない反面、定款の管理が甘い会社では定めの存在自体が失念されるリスクがあります。
実務上の落とし穴
制度の選択を誤ると、導入後に修正が効きにくくなります。監査・株式評価の現場で実際に問題になりやすい論点を挙げます。
株式移転による属人株の失効
属人的定めは株主という人に紐づく取扱いです。対象株主が死亡して相続が発生した場合や、株式を第三者に譲渡した場合、その取扱いは取得者には及ばないと解されています(会社法 第109条第2項)。議決権10個の定めを持つ先代経営者が亡くなれば、相続人が取得する株式は通常の1株1議決権に戻ります。
これは「経営者の在任中だけ議決権を集中させたい」という目的には合致しますが、「後継者の代まで支配を固定したい」という目的には合致しません。世代を超えて設計を維持したい場合は種類株式を選ぶべきです。
種類株主総会の追加負担
種類株式発行会社では、株式の併合・分割、募集株式の発行、合併、会社分割、株式交換など幅広い行為について、ある種類の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは種類株主総会の決議が必要です(会社法 第322条第1項)。この決議を要しない旨を定款で定めることは可能ですが(会社法 第322条第2項)、株式の発行後にその定めを設けるには当該種類の種類株主全員の同意が必要です(会社法 第322条第4項)。
資金調達や組織再編のたびに種類株主総会を開く負担は小さくありません。種類株式を設計する段階で、第322条第2項の定めを併せて置くかどうかを検討しておくべきです。
議決権制限株式の数の制限
種類株式発行会社が公開会社である場合、議決権制限株式の数が発行済株式の総数の2分の1を超えたときは、直ちにその数を2分の1以下にするための必要な措置をとらなければなりません(会社法 第115条)。上場を見据えて資本政策を組む場合、この上限を織り込んだ発行計画が必要になります。
会計・開示への影響
発行会社側の会計処理では、種類株式による払込みも普通株式と同じく株主資本に含まれ、株主資本は資本金、資本剰余金および利益剰余金に区分して表示されます(企業会計基準第5号 第5項)。種類ごとに純資産の部を分けて表示するわけではありません。
他方、1株当たり当期純利益の算定では、配当優先株式や取得請求権付株式の存在が普通株式に係る当期純利益や潜在株式調整後の金額に影響します。種類株式を発行した後の決算では、株式の内容を会計・開示の担当者に正確に共有しておくことが欠かせません。
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導入前チェックリスト
どちらの制度を採るかを決める前に、次の6項目を順に確認してください。1つでも「はい」があれば種類株式を検討し、すべて「いいえ」であれば属人株で足りる可能性が高い、という切り分けに使えます。
- 実現したい権利に、取得請求権・取得条項・拒否権・役員選任権のいずれかが含まれるか
- 対象株主が交代した後も、その権利を維持する必要があるか
- 自社は公開会社に該当するか(該当すれば属人株は選べません)
- 将来の上場や第三者からの出資受入れを予定しているか
- 株主が分散しており、総株主の頭数の半数以上の賛成を得るのが難しいか
- 登記により制度の存在を対外的に明示しておきたいか
あわせて、導入後に必要となる手続も確認しておきます。種類株式であれば種類株主総会の運用と登記の維持、属人株であれば定款の管理と、定めが失効する事由の把握です。
まとめ
種類株式は株式の内容として権利を設計する制度で、9項目について異なる定めを置くことができ、権利は株式とともに移転します(会社法 第108条第1項)。属人株は公開会社でない株式会社が株主ごとの取扱いを定めるもので、対象は剰余金の配当・残余財産の分配・議決権の3つに限られ、株主が交代すれば効力は及びません(会社法 第109条第2項)。
導入のハードルも異なります。種類株式は特別決議と登記が必要である一方、属人株は登記こそ不要ですが、総株主の半数以上かつ総株主の議決権の4分の3以上という特殊決議が求められます(会社法 第309条第2項第11号、第309条第4項)。さらに属人的定めがある場合は、当該株式を内容の異なる種類の株式とみなして会社法第2編・第5編が適用されます(会社法 第109条第3項)。
事業承継では属人株、資本政策や第三者からの出資受入れでは種類株式が中心になりますが、実際の判断は株主構成・上場方針・承継の時間軸によって変わります。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
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よくある質問
属人株は登記されますか
登記されません。会社法第911条第3項が定める登記事項には、種類株式については発行可能種類株式総数と各種類の株式の内容が挙げられていますが(同項第7号)、属人的定めは挙げられていないためです。定款と株主総会議事録にのみ残ります。
属人株は相続で引き継がれますか
引き継がれないと解されています。属人的定めは「株主ごとに異なる取扱いを行う旨」の定款の定めであり、株主という人に着目した制度だからです(会社法 第109条第2項)。相続人が取得する株式は、定款に別段の設計がない限り通常の取扱いに戻ります。
公開会社でも属人的定めを置けますか
置けません。属人的定めを設けられるのは公開会社でない株式会社に限られます(会社法 第109条第2項)。全部の株式に譲渡制限が付いているかどうかが分岐点になります。
種類株式と属人株は併用できますか
併用できます。会社法第109条第2項は公開会社でないことのみを要件としており、種類株式発行会社であることを妨げていません。ただし属人的定めがある場合、その株式は内容の異なる種類の株式とみなされて会社法第2編・第5編が適用されるため(会社法 第109条第3項)、種類株主総会の要否が複雑になります。
属人的定めの廃止にも特殊決議が必要ですか
不要です。会社法第309条第4項が特殊決議を求めるのは、属人的定めを設ける定款変更およびその変更であり、当該定めを廃止するものは除かれています。廃止は通常の定款変更として特別決議によります(会社法 第309条第2項第11号)。
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