1株当たり当期純利益(EPS)の計算【算式・計算例・注記の記載例】
目次
- 1株当たり当期純利益(EPS)の位置づけ
- EPSの算式(基本EPS・潜在株式調整後EPS)
- 基本EPSの算式
- 潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算式
- 期中平均株式数の算定表
- EPSの計算例(基本EPSから希薄化EPSまで)
- 計算例1:基本EPS
- 計算例2:潜在株式調整後1株当たり当期純利益
- 潜在株式調整後EPSを開示しない場合
- EPSの注記の記載例
- 株式分割・株式併合があった場合の計算
- 適用時期と改正の経緯
- 上場準備で押さえたい実務ポイント
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問(FAQ)
- 1株当たり当期純利益はどのように計算しますか。
- 期中平均株式数は月数で按分してもよいですか。
- 基本EPSと潜在株式調整後EPSはどう違いますか。
- 潜在株式調整後EPSを開示しなくてよいのはどのような場合ですか。
- 期末後に株式分割をした場合、当期のEPSはどうなりますか。
1株当たり当期純利益(EPS:Earnings Per Share)は、普通株式に係る当期純利益を普通株式の期中平均株式数で除して計算します(1株当たり当期純利益に関する会計基準 第12項)。ただし実務で手が止まりやすいのは、式そのものよりも「分子から何を差し引くか」「期中に株式数が動いたときの平均の取り方」「潜在株式をどの順で織り込むか」の3点です。本記事では、基本EPSと潜在株式調整後1株当たり当期純利益(希薄化EPS)の算式を示したうえで、期中平均株式数の算定表・一連の数値計算例・注記の記載例までを、企業会計基準第2号と適用指針第4号に沿って一つの設例で通して解説します。
1株当たり当期純利益(EPS)の位置づけ
EPSは、普通株主に関する一会計期間の企業の成果を1株単位で示し、投資家の的確な投資判断に資する情報を提供することを目的とした指標です(1株当たり当期純利益に関する会計基準 第3項)。1株という共通の単位に揃えることで、同じ企業の期間比較(時系列比較)や他社との比較がしやすくなります(同 第37項)。
基準は、財務諸表でEPSまたは希薄化EPSを開示するすべての場合に適用されます(同 第4項)。連結財務諸表では、分子の当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益を用い、当期純損失の場合も同じ方法で1株当たり当期純損失を算定します(同 第12項)。なお、この基準は開示項目の算定方法を定めたもので、損益計算書上の当期純利益の会計処理には影響しません(同 第2項)。
EPSの算式(基本EPS・潜在株式調整後EPS)
基本EPSの算式
基本EPSは、分子に「普通株式に係る当期純利益」、分母に「普通株式の期中平均株式数」を置いて計算します(1株当たり当期純利益に関する会計基準 第12項)。
普通株主に帰属しない金額の代表は優先配当額です(同 第14項・第15項)。このほか、配当優先株式に係る消却(償還)差額や、参加型株式の参加可能額も含まれます(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第11項)。分母は期中平均発行済株式数から期中平均自己株式数を控除して求めます(1株当たり当期純利益に関する会計基準 第17項)。
関連コラムEPS算定における当期純利益と優先配当額の控除ルール▸
潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算式
潜在株式調整後1株当たり当期純利益は、希薄化効果を有する潜在株式について権利行使を仮定し、分子に当期純利益調整額、分母に普通株式増加数を加えて計算します(1株当たり当期純利益に関する会計基準 第21項)。行使を仮定したEPSが基本EPSを下回る場合に、その潜在株式は希薄化効果を有するものとされます(同 第20項)。
分子の「普通株式に係る当期純利益」と分母の「期中平均株式数」は、基本EPSで用いたものと同じ数値を使います(同 第53項)。潜在株式ごとの調整の考え方は次のとおりです。
| 潜在株式の種類 | 当期純利益調整額と 普通株式増加数の考え方 |
|---|---|
| ワラント(新株予約権など) | 当期純利益調整額はなし。期首または発行時にすべて行使されたと仮定した株式数から、行使による入金額で期中平均株価により買い受けたと仮定した株式数を差し引いた数を普通株式増加数とする(自己株式方式) |
| 転換証券(一括法の新株予約権付社債・一定の取得請求権付株式など) | 転換負債は支払利息等から税額相当額を控除した額、転換株式は控除した優先配当額などを当期純利益調整額とする。期首または発行時にすべて転換されたと仮定した株式数を普通株式増加数とする(転換仮定方式) |
ワラントの取扱いは同基準 第24項から第26項、転換証券は同 第27項から第30項に定められています。転換負債の税額相当額は法定実効税率で計算します(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第25項)。
期中平均株式数の算定表
期中平均株式数は、期首の発行済株式数に、期中の発行分を発行時から期末までの期間に応じて加え、期中平均自己株式数を控除して求めます(1株当たり当期純利益に関する会計基準 第50項)。期間按分は日数によるのが基本ですが、月数に応じた按分など合理的な基礎による方法も認められています(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第13項)。以下、3月決算(4月1日〜3月31日)の会社を例に、月数按分で計算します。
| 4月1日(期首) | 発行済株式数9,600,000株、自己株式200,000株 |
|---|---|
| 7月1日 | 第三者割当増資により1,200,000株を発行(期末まで9か月) |
| 10月1日 | 自己株式600,000株を取得(期末まで6か月) |
| 3月31日(期末) | 発行済株式数10,800,000株、自己株式800,000株 |
| 期中平均発行済株式数 | 10,500,000株 |
|---|---|
| 期中平均自己株式数 | 500,000株 |
| 普通株式の 期中平均株式数 |
10,000,000株 |
期末の株式数(10,800,000株−800,000株=10,000,000株)でたまたま同じになることもありますが、考え方はあくまで期中の加重平均です。期中の増資や自己株式取得が多い会社ほど、期末株式数で割る誤りが数値に表れます。連結財務諸表では、子会社・関連会社が保有する親会社株式のうち親会社等の持分相当数も自己株式数に含める点にも注意が必要です(1株当たり当期純利益に関する会計基準 第17項)。
関連コラムEPS算定の要!期中平均株式数の計算方法と実務上の留意点▸
EPSの計算例(基本EPSから希薄化EPSまで)
計算例1:基本EPS
上の株式数に加え、次の前提を置きます(金額単位:千円)。優先配当は非累積型のため、当期に基準日が属する剰余金の配当を基礎とした額を控除します(1株当たり当期純利益に関する会計基準 第16項)。
| 当期純利益 | 530,000千円 |
|---|---|
| 非累積型・非転換型の 配当優先株式の優先配当額 |
30,000千円(基準日は当期中) |
| 普通株式の 期中平均株式数 |
10,000,000株 |
優先配当を控除せずに530,000千円で割ると53.00円となり、基本EPSを過大に表示してしまいます。種類株式を発行しているIPO準備企業では、まずこの控除の有無から確認するのが実務の定石です。
計算例2:潜在株式調整後1株当たり当期純利益
当期首から次の潜在株式が存在し、当期の普通株式の期中平均株価は1,000円だったとします。
| 第1回新株予約権 | 目的となる株式数1,000,000株、行使価格600円(権利確定済み) |
|---|---|
| 転換社債型 新株予約権付社債(一括法) |
額面1,000,000千円、転換価額1,250円、利率年1% |
| 第3回新株予約権 | 目的となる株式数200,000株、行使価格1,200円 |
| 法定実効税率 | 30% |
ステップ1:潜在株式ごとの普通株式増加数と当期純利益調整額
第1回新株予約権は、期中平均株価が行使価格を上回るため希薄化効果を有します(1株当たり当期純利益に関する会計基準 第24項)。自己株式方式で普通株式増加数を求めます(同 第26項)。
転換社債型新株予約権付社債は、期首にすべて転換されたと仮定して株式数を求め、支払利息から税額相当額を控除した額を当期純利益調整額とします(同 第29項・第30項)。
基本EPS50.00円が8.75円を上回るため、この社債も希薄化効果を有します(同 第27項)。一方、第3回新株予約権は行使価格1,200円が期中平均株価1,000円を上回るため希薄化効果を有さず、計算に含めません。
ステップ2:希薄化効果の大きいものから順に織り込む
潜在株式が複数あるときは、発行単位ごとに希薄化効果の大きいものから順に勘案し、最大希薄化効果を反映した値を求めます(1株当たり当期純利益に関する会計基準 第22項、1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第18項)。増加1株当たりの調整額が0円の新株予約権を先に、8.75円の社債を後に織り込みます。
各段階でEPSが下がっているため、いずれも希薄化効果を有することが確認でき、潜在株式調整後1株当たり当期純利益は45.27円となります。
| 1株当たり当期純利益 | 50.00円 |
|---|---|
| 新株予約権のみ反映 | 48.08円 |
| 潜在株式調整後 1株当たり当期純利益 |
45.27円(新株予約権と社債を反映) |
なお、ストック・オプションのように一定期間の勤務後に権利が確定するワラントは、行使期間が未開始でも付与時点から行使期間が開始したものとして扱い、入金額に将来のサービスに係る公正な評価額を含めます(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第22項)。権利未確定のストック・オプションがある場合、行使価格だけで入金額を計算しないよう注意が必要です。
関連コラム潜在株式調整後EPSの算定:ワラントと自己株式方式の完全実務ガイド▸
潜在株式調整後EPSを開示しない場合
次のいずれかに当たる場合は、その旨を開示し、潜在株式調整後1株当たり当期純利益は開示しません(1株当たり当期純利益に関する会計基準 第23項)。
- 潜在株式が存在しない場合
- 潜在株式が存在しても希薄化効果を有しない場合
- 1株当たり当期純損失の場合
当期純損失の期は、権利行使を仮定すると1株当たりの損失が小さくなる場合でも希薄化効果を有しないものとして扱います(同 第52項)。赤字期を含む複数期を並べる上場申請書類では、期ごとに開示の有無が変わる点を関係者と早めに共有しておくと混乱を防げます。希薄化効果がないため開示しない場合でも、算定上の基礎のうち当期純利益の内訳・期中平均株式数の内訳・算定に含めなかった潜在株式の概要は注記する点に留意が必要です(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第64項)。
EPSの注記の記載例
EPSまたは希薄化EPSを開示する場合には、金額の算定上の基礎も注記します(1株当たり当期純利益に関する会計基準 第33項)。算定上の基礎には、当期純利益と普通株式に係る当期純利益の差額の主要な内訳、期中平均株式数の種類別の内訳、当期純利益調整額と普通株式増加数の主要な内訳、希薄化効果がないため算定に含めなかった潜在株式の概要が含まれます(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第38項)。算定に含めなかった潜在株式の概要には、その旨・潜在株式の種類・数を記載します(同 第39項)。上の計算例をもとにした記載例は次のとおりです(自社作例)。
| 1株当たり当期純利益 | 50円00銭 |
|---|---|
| 潜在株式調整後 1株当たり当期純利益 |
45円27銭 |
(注)1株当たり当期純利益及び潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算定上の基礎は、以下のとおりです。
| 当期純利益 | 530,000千円 |
|---|---|
| 普通株主に帰属しない金額 | 30,000千円(うち優先配当額30,000千円) |
| 普通株式に係る 当期純利益 |
500,000千円 |
| 普通株式の 期中平均株式数 |
10,000,000株 |
| 当期純利益調整額 | 7,000千円(うち支払利息(税額相当額控除後)7,000千円) |
| 普通株式増加数 | 1,200,000株(うち新株予約権400,000株、転換社債型新株予約権付社債800,000株) |
| 希薄化効果を有しないため 算定に含めなかった 潜在株式の概要 |
第3回新株予約権(新株予約権の目的となる株式の数200,000株) |
注記では、本文の計算過程と注記の数値(とくに優先配当額と期中平均株式数)が一致しているかを最後に突き合わせると、監査での指摘を減らせます。当期に株式併合・株式分割を行った場合は、その旨と遡及して算定している旨も注記します(1株当たり当期純利益に関する会計基準 第31項)。
関連コラム1株当たり当期純利益(EPS)と純資産額の開示・注記事項を徹底解説▸
株式分割・株式併合があった場合の計算
当期に株式併合または株式分割が行われた場合、期中平均株式数は、表示する財務諸表のうち最も古い期間の期首に行われたと仮定して算定します。貸借対照表日後に行われた場合も同様です(1株当たり当期純利益に関する会計基準 第30-2項)。潜在株式調整後EPSの普通株式増加数も同じ仮定を置きます(同 第30-3項)。株式無償割当てなど株式分割と同様の効果を持つ事象も含まれます(同 第30-2項)。
たとえば上の計算例の会社が、期末後に1株を2株とする株式分割を行った場合、当期・前期とも株式数を2倍にして計算し直すため、当期の基本EPSは25.00円となります。貸借対照表日後の分割をどの時点まで反映するかは、企業会計基準第41号「後発事象に関する会計基準」に従って判断します(1株当たり当期純利益に関する会計基準 第59-3項)。上場直前は株式分割で株数を整えるケースが多く、比較期間の遡及修正漏れが起きやすい論点です。
関連コラム株式併合・分割時の1株当たり当期純利益と遡及計算の実務解説▸
適用時期と改正の経緯
企業会計基準第2号は2002年9月に公表され、会社法の施行等に伴う2006年改正、株式分割等の遡及的な取扱いなどを定めた2010年改正(2011年4月1日以後開始する事業年度から適用)、親会社株主に帰属する当期純利益への表示変更等に対応した2013年改正を経ています(1株当たり当期純利益に関する会計基準 第2項、第34-2項、第38-2項)。これらはいずれもすでに適用されています。算定の具体的な指針は企業会計基準適用指針第4号に定められており、あわせて参照する必要があります(同 第2項)。適用指針も2006年・2010年・2011年・2013年の改正を経ています(1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 第43項から第43-5項)。
上場準備で押さえたい実務ポイント
上場準備企業でEPSの計算がずれる原因は、ほとんどが「株式数の管理」にあります。増資・自己株式の取得処分・株式分割・新株予約権の付与と行使を、日付・株数・行使価格とともに1本の台帳に時系列で記録しておくと、期中平均株式数と普通株式増加数を毎期同じ手順で再計算できます。
また、種類株式による資金調達を重ねた会社では、優先配当が累積型か非累積型か、転換型か非転換型かで分子・分母の扱いが変わります。発行要項を読み込み、どの株式が普通株式と同等の株式か、どれが転換証券に当たるかを区分表にしておくことが、目論見書や有価証券報告書のEPSを正しく計算する近道です。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
関連コラムストック・オプション等に関する会計基準の費用計上実務▸
まとめ
EPSは「普通株式に係る当期純利益÷普通株式の期中平均株式数」で計算し、分子からは優先配当額など普通株主に帰属しない金額を控除します。潜在株式調整後EPSは、希薄化効果のある潜在株式を効果の大きい順に織り込み、最大希薄化効果を反映した値を求めます。期中平均株式数は期間按分で算定し、株式分割・併合は最も古い期間の期首に遡って反映します。注記では算定上の基礎と、算定に含めなかった潜在株式の概要を記載します。
参考文献
よくある質問(FAQ)
1株当たり当期純利益はどのように計算しますか。
普通株式に係る当期純利益を普通株式の期中平均株式数で除して計算します。普通株式に係る当期純利益は、当期純利益から優先配当額など普通株主に帰属しない金額を控除した額で、期中平均株式数は期中平均発行済株式数から期中平均自己株式数を控除した株式数です。
期中平均株式数は月数で按分してもよいですか。
日数による按分のほか、月数に応じた按分など合理的な基礎による方法も認められています。期中に増資や自己株式の取得があった場合は、それぞれの株式数に期末までの期間の割合を掛けて加減します。
基本EPSと潜在株式調整後EPSはどう違いますか。
基本EPSは実際の期中平均株式数で計算します。潜在株式調整後EPSは、転換社債型新株予約権付社債や新株予約権といった潜在株式が行使・転換されたと仮定し、希薄化効果のあるものを効果の大きい順に分子・分母へ織り込んで計算します。
潜在株式調整後EPSを開示しなくてよいのはどのような場合ですか。
潜在株式が存在しない場合、潜在株式があっても希薄化効果を有しない場合、1株当たり当期純損失の場合です。いずれもその旨を開示します。
期末後に株式分割をした場合、当期のEPSはどうなりますか。
貸借対照表日後の株式分割も、表示する財務諸表のうち最も古い期間の期首に行われたと仮定して、当期と比較期間の株式数を計算し直します。その旨を注記する必要もあります。
お問い合わせはこちら本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。



