包括利益とは、ある企業の特定期間の財務諸表において認識された純資産の変動額のうち、当該企業の純資産に対する持分所有者との直接的な取引によらない部分をいいます。企業会計基準委員会 企業会計基準第25号 包括利益の表示に関する会計基準連結財務諸表を作成する上場準備・上場企業にとって、当期純利益とその他の包括利益(OCI)をどう表示し、組替調整額をどう注記するかは避けて通れない論点です。本稿では、包括利益の表示に関する会計基準(企業会計基準第25号)を根拠に、定義・計算・その他の包括利益の内訳・組替調整(リサイクリング)・2つの計算書方式・税効果の取扱いまでを、公認会計士の実務目線で整理します。
包括利益とその他の包括利益の定義
包括利益は、資本取引以外の要因によって生じた純資産の変動額として定義されます。当該企業の純資産に対する持分所有者には、当該企業の株主のほか、当該企業が発行する新株予約権の所有者が含まれ、連結財務諸表においては子会社の非支配株主も含まれます。企業会計基準委員会 企業会計基準第25号 包括利益の表示に関する会計基準
その他の包括利益(OCI)とは、包括利益のうち当期純利益に含まれない部分をいいます。連結財務諸表におけるその他の包括利益には、親会社株主に係る部分と非支配株主に係る部分が含まれます。企業会計基準委員会 企業会計基準第25号 包括利益の表示に関する会計基準
この会計基準は、包括利益及びその他の包括利益の表示について定めるものです。当期純利益を構成する項目やその他の包括利益を構成する項目の認識及び測定は、他の会計基準の定めに従います。したがって、包括利益の表示を導入しても、当期純利益の計算方法そのものが変更されるわけではありません。
包括利益の計算と表示の考え方
包括利益は、当期純利益にその他の包括利益の内訳項目を加減して表示します。定義に沿った純資産の変動額から直接求めるのではなく、当期純利益からの調整計算の形で示すこととされており、この表示方法は国際的な会計基準においても同様に採られています。企業会計基準委員会 企業会計基準第25号 包括利益の表示に関する会計基準
包括利益の表示は、当期純利益に関する情報の有用性を前提としたうえで、貸借対照表の純資産と包括利益とのつながり、いわゆるクリーン・サープラス関係を明示することを目的としています。包括利益を企業活動の最も重要な指標として位置づけるものではなく、当期純利益に関する情報と併せて利用することで、企業活動の成果に関する情報の全体的な有用性を高める点に意義があります。
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その他の包括利益の内訳項目
その他の包括利益の内訳項目は、その内容に基づいて、その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益、為替換算調整勘定、退職給付に係る調整額等に区分して表示します。持分法を適用する被投資会社のその他の包括利益に対する投資会社の持分相当額は、一括して区分表示します。企業会計基準委員会 企業会計基準第25号 包括利益の表示に関する会計基準
| その他有価証券評価差額金 | その他有価証券の時価評価による評価差額のうち、当期純利益に含まれない部分 |
|---|---|
| 繰延ヘッジ損益 | ヘッジ会計の要件を満たすヘッジ手段に係る損益のうち、繰り延べられている部分 |
| 為替換算調整勘定 | 在外子会社等の財務諸表の換算により生じる差額 |
| 退職給付に係る調整額 | 未認識の数理計算上の差異や過去勤務費用等に係る調整額 |
これらの内訳項目は、その他の包括利益に関する法人税等及び税効果を控除した後の金額で表示します。あるいは、各内訳項目を法人税等及び税効果を控除する前の金額で表示し、これらに関連する法人税等及び税効果の金額を一括して加減する方法によることもできます。いずれの場合も、その他の包括利益の各内訳項目別の法人税等及び税効果の金額を注記します。
組替調整額(リサイクリング)の考え方
当期純利益を構成する項目のうち、当期又は過去の期間にその他の包括利益に含まれていた部分は、組替調整額として、その他の包括利益の内訳項目ごとに注記します。この注記は、法人税等及び税効果に関する前述の注記と併せて記載することができます。
組替調整額は、同じ利益が二重に計上されることを避けるための仕組みです。たとえば、その他有価証券の評価差額はいったんその他の包括利益として計上されますが、当該有価証券を売却して売却損益が当期純利益に計上された局面では、過去にその他の包括利益として認識した金額を当期純利益へ振り替える調整が必要になります。この振替の考え方は、実務ではリサイクリングとも呼ばれます。
組替調整額の具体的な計算は、内訳項目ごとに異なります。その他有価証券評価差額金に関する組替調整額は当期に計上された売却損益及び減損損失等の金額により、為替換算調整勘定に関する組替調整額は子会社に対する持分の減少(全部売却及び清算を含む)に伴って取り崩されて当期純利益に含められた金額によります。退職給付に係る調整額に関する組替調整額は、企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」によります。企業会計基準委員会 企業会計基準第25号 包括利益の表示に関する会計基準
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1計算書方式と2計算書方式
包括利益を表示する計算書は、次のいずれかの形式によります。連結財務諸表においては、包括利益のうち親会社株主に係る金額及び非支配株主に係る金額を付記します。企業会計基準委員会 企業会計基準第25号 包括利益の表示に関する会計基準
| 1計算書方式 | 当期純利益の表示と包括利益の表示を「損益及び包括利益計算書」という1つの計算書で行う形式 |
|---|---|
| 2計算書方式 | 当期純利益を表示する損益計算書と、包括利益を表示する包括利益計算書からなる形式 |
いずれの方式でも、当期純利益からその他の包括利益の内訳項目を加減して包括利益に至る構造は共通です。1計算書方式は当期純利益と包括利益を一覧できる点に特徴があり、2計算書方式は当期純利益と包括利益を明確に区別して示す点に特徴があります。実務では、既存の損益計算書との連続性や利用者の理解のしやすさを踏まえて、いずれの形式を採用するかを検討することになります。
適用範囲と個別財務諸表の取扱い
この会計基準は、財務諸表(四半期財務諸表を含む)における包括利益及びその他の包括利益の表示に適用します。一方で、本会計基準は、当面の間、個別財務諸表には適用しないこととされています。したがって、包括利益の表示が実際に求められるのは連結財務諸表が中心となります。企業会計基準委員会 企業会計基準第25号 包括利益の表示に関する会計基準
上場準備の局面では、連結決算体制の整備の一環として、その他の包括利益の内訳項目を集計する仕組みと、組替調整額や項目別の税効果の金額を注記できる資料の整備が求められます。その他有価証券評価差額金や繰延ヘッジ損益、為替換算調整勘定、退職給付に係る調整額は、それぞれ別個の会計基準に基づいて認識・測定されるため、各領域の担当と連携して数値を積み上げる段取りが実務では有効です。
その他の包括利益の内訳項目や組替調整額の集計は、個別の取引実態や他の会計基準の定めに左右されるため、判断に迷う場面が少なくありません。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
お問い合わせはこちら ▸まとめ
包括利益は、資本取引以外の要因によって生じた純資産の変動額であり、当期純利益にその他の包括利益の内訳項目を加減して表示します。その他の包括利益には、その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益、為替換算調整勘定、退職給付に係る調整額等が含まれ、当期又は過去にその他の包括利益に含まれていた部分が当期純利益に計上された局面では、組替調整額として内訳項目ごとに注記します。表示形式には1計算書方式と2計算書方式があり、いずれも連結では親会社株主分と非支配株主分を付記します。本会計基準は当面の間は個別財務諸表には適用されないため、連結財務諸表を中心に、内訳項目の集計と注記の体制を早期に整えることが、上場準備を円滑に進める鍵となります。
参考文献
よくある質問
包括利益と当期純利益はどう違いますか。
包括利益は、資本取引以外の要因によって生じた純資産の変動額であり、当期純利益にその他の包括利益を加減した金額です。当期純利益はその一部を構成し、その他の包括利益は包括利益のうち当期純利益に含まれない部分を指します。包括利益の表示を導入しても、当期純利益の計算方法そのものは変更されません。
組替調整額(リサイクリング)とは何ですか。
当期純利益を構成する項目のうち、当期又は過去の期間にその他の包括利益に含まれていた部分を、その他の包括利益の内訳項目ごとに注記するものが組替調整額です。たとえばその他有価証券を売却して売却損益が当期純利益に計上された局面で、過去にその他の包括利益として認識した金額を振り替える調整であり、同じ利益の二重計上を避けるための仕組みです。
1計算書方式と2計算書方式のどちらを採用すべきですか。
本会計基準は両方式を認めており、いずれを採用するかは各社の判断に委ねられています。1計算書方式は当期純利益と包括利益を1つの計算書で一覧でき、2計算書方式は両者を別々の計算書で明確に区別できます。いずれの場合も、連結財務諸表では包括利益のうち親会社株主に係る金額と非支配株主に係る金額を付記します。