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ストック・オプション等に関する会計基準の費用計上実務

2026-07-15
目次

ストック・オプションは、上場準備企業が優秀な人材を確保し、経営陣と従業員のインセンティブを高める有力な手段です。一方で、平成18年5月の会社法施行以後に付与されたストック・オプションには、企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」に基づく費用計上が求められます。IPO準備の過程で監査法人の監査を受ける段階になって初めて費用計上の論点に直面し、対応に苦慮する企業も少なくありません。この記事では、公認会計士の視点から、費用計上の考え方、権利確定日までの費用配分、失効時の処理、開示までを、原典の会計基準に沿って整理します。

ストック・オプション会計の全体像

企業会計基準第8号は、平成13年11月の商法改正で新株予約権制度が導入され、新株予約権のストック・オプションとしての利用が活発化したことを契機に整備された会計基準です。主として、ストック・オプション取引の会計処理及び開示を明らかにすることを目的としています。企業会計基準委員会 企業会計基準第8号 ストック・オプション等に関する会計基準

この基準の核心は、ストック・オプションを付与し、これに応じて企業が従業員等から取得する労働などのサービスを、その取得に応じて費用として計上する点にあります。対応する金額は、権利の行使または失効が確定するまでの間、貸借対照表の純資産の部に新株予約権として計上します。企業会計基準委員会 企業会計基準第8号 ストック・オプション等に関する会計基準

会計基準の適用範囲

本会計基準は、企業がその従業員等に対しストック・オプションを付与する取引のほか、財貨またはサービスの取得の対価として自社株式オプションや自社の株式を付与・交付する取引に適用されます。ここでいう「従業員等」には、雇用関係にある使用人だけでなく、企業の取締役、会計参与、監査役及び執行役並びにこれに準ずる者が含まれます。企業会計基準委員会 企業会計基準第8号 ストック・オプション等に関する会計基準

主要な用語の定義

ストック・オプション会計を理解するうえで、まず基準が定める用語の意味を押さえておくことが重要です。特に「付与日」「権利確定日」「対象勤務期間」は、費用配分の起点と終点を決める基礎となる概念です。企業会計基準委員会 企業会計基準第8号 ストック・オプション等に関する会計基準

用語 定義
ストック・オプション 自社株式オプションのうち、企業がその従業員等に報酬として付与するもの。
付与日 ストック・オプションが付与された日。会社法上の募集新株予約権の割当日がこれにあたります。
権利確定日 権利の確定した日。明らかでない場合は、原則として権利行使期間の開始日の前日とみなします。
対象勤務期間 ストック・オプションと報酬関係にあるサービスの提供期間であり、付与日から権利確定日までの期間。
権利確定条件 権利の確定に付される条件。一定期間の勤務を求める勤務条件と、一定の業績達成を求める業績条件があります。
公正な評価単価 単位当たりの公正な評価額。市場価格がない場合は合理的に算定された価額をいいます。

費用計上の基本的な考え方

ストック・オプション会計の出発点は、「企業は従業員等から労働などのサービスの提供を受け、その対価としてストック・オプションを付与している」という経済実態の把握です。したがって、受け取ったサービスの消費に応じて費用を計上し、その裏側で純資産の部に新株予約権を計上することになります。企業会計基準委員会 企業会計基準第8号 ストック・オプション等に関する会計基準

各会計期間における費用計上額は、ストック・オプションの公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき、当期に発生したと認められる額です。公正な評価額は、次の算式のとおり、公正な評価単価にストック・オプション数を乗じて算定します。企業会計基準委員会 企業会計基準第8号 ストック・オプション等に関する会計基準

公正な評価額 = 公正な評価単価 × ストック・オプション数

ここで重要なのは、公正な評価単価を付与日現在で算定し、条件変更の場合を除いてその後は見直さないという原則です。付与後に株価が上昇しても下落しても、原則として単価は付与日時点で固定されます。一方、ストック・オプション数は、権利不確定による失効の見込みを反映して見直していくため、単価と数量で扱いが異なる点に注意が必要です。企業会計基準委員会 企業会計基準第8号 ストック・オプション等に関する会計基準

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権利確定日までの費用配分

費用計上額を各期に配分する際の基礎となるのが、対象勤務期間です。対象勤務期間は付与日から権利確定日までの期間であり、公正な評価額をこの期間にわたって合理的に配分していきます。勤務条件が付されている場合には、その勤務条件を満たし権利が確定する日が権利確定日となります。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第11号 ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針

ストック・オプション数は、付与された総数(付与数)から権利不確定による失効の見積数を控除して算定します。付与日から権利確定日の直前までの間に、この失効見積数に重要な変動が生じた場合には、ストック・オプション数を見直し、見直し後の数に基づく公正な評価額により、その期までに費用計上すべき額と既計上額との差額を、見直した期の損益として計上します。企業会計基準委員会 企業会計基準第8号 ストック・オプション等に関する会計基準

ストック・オプション数 = 付与数 – 権利不確定による失効の見積数

そして権利確定日には、ストック・オプション数を実際に権利の確定した数(権利確定数)に一致させます。見積りに基づいて費用計上してきた累計額を、確定した事実に基づく金額へと最終的に調整するイメージです。企業会計基準委員会 企業会計基準第8号 ストック・オプション等に関する会計基準

なお、権利確定条件が付されていない場合、すなわち付与日にすでに権利が確定している場合には、対象勤務期間がないため、付与日に一時に費用を計上します。条件の内容によって費用の配分パターンが変わる点は、実務上の重要な判断ポイントです。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第11号 ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針

公正な評価単価と算定技法

ストック・オプションは、通常、市場価格を観察することができません。そのため、株式オプションの合理的な価額の見積りに広く受け入れられているオプション価格算定技法(ブラック・ショールズ式や二項モデルなど)を利用して、公正な評価単価を算定します。この算定技法の利用にあたっては、次の基礎数値が少なくとも考慮されている必要があります。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第11号 ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針

  • オプションの行使価格
  • オプションの満期までの期間(予想残存期間)
  • 算定時点における株価
  • 株価変動性(ボラティリティ)
  • 予想残存期間における配当額
  • 無リスクの利子率(割引率)

株価変動性は、過去の株価実績に基づく予測(ヒストリカル・ボラティリティ)を基礎として見積ります。予想残存期間を合理的に見積ることができない場合には、算定時点から権利行使期間の中間点までの期間と推定します。無リスクの利子率には、予想残存期間に対応する期間の国債などの利回りを用います。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第11号 ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針

上場して間もない企業では、株価変動性を見積るための株価情報が十分に蓄積されていない点に留意が必要です。適用指針では、少なくとも2年分の株価情報収集期間を確保でき、その期間内に十分な量の株価情報を収集できれば、それらの実績情報に基づき適切に株価変動性を見積ることができると推定するとされています。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第11号 ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針

まだ株式を公開していない未公開企業については、ストック・オプションの公正な評価単価に代えて、単位当たりの本源的価値の見積りに基づいて会計処理を行うことができます。ここでいう本源的価値とは、算定時点においてストック・オプションが権利行使されると仮定した場合の単位当たりの価値であり、原資産である自社株式の評価額と行使価格との差額をいいます。企業会計基準委員会 企業会計基準第8号 ストック・オプション等に関する会計基準

単位当たりの本源的価値 = 自社株式の評価額 – 行使価格

失効時の会計処理

ストック・オプションが付与されたものの権利行使されないことが確定することを「失効」といいます。失効には、権利確定条件が達成されなかったことによる権利不確定による失効と、権利行使期間中に行使されなかったことによる権利不行使による失効の2種類があり、会計処理が異なります。企業会計基準委員会 企業会計基準第8号 ストック・オプション等に関する会計基準

権利不確定による失効は、前述のとおりストック・オプション数の見積りと権利確定日の一致を通じて費用計上額に反映されます。結果として、権利が確定しなかった部分については、そもそも費用として確定しないことになります。これに対し、権利不行使による失効が生じた場合には、新株予約権として計上した額のうち当該失効に対応する部分を、失効が確定した期に利益として計上します。企業会計基準委員会 企業会計基準第8号 ストック・オプション等に関する会計基準

ここで注意したいのは、いったん計上した費用は、権利不行使によって失効した場合であっても取り消されないという点です。失効時に計上されるのは費用のマイナスではなく利益であり、過年度に計上した株式報酬費用が遡って修正されるわけではありません。企業会計基準委員会 企業会計基準第8号 ストック・オプション等に関する会計基準

権利確定日後・権利行使時の処理

権利確定日後にストック・オプションが権利行使され、これに対して新株を発行した場合には、新株予約権として計上した額のうち、当該権利行使に対応する部分を払込資本に振り替えます。従業員が払い込む行使価格に加えて、それまで積み立ててきた新株予約権が資本へと振り替わる流れです。企業会計基準委員会 企業会計基準第8号 ストック・オプション等に関する会計基準

なお、新株予約権の行使に伴い自己株式を処分した場合には、自己株式の取得原価と、新株予約権の帳簿価額及び権利行使に伴う払込金額の合計額との差額が自己株式処分差額となり、企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」に従って会計処理を行います。企業会計基準委員会 企業会計基準第8号 ストック・オプション等に関する会計基準

開示(注記)の要求事項

ストック・オプションを付与する取引については、財務諸表に一定の事項を注記することが求められます。開示は投資家がストック・オプションの規模や希薄化の可能性を理解するための重要な情報源であり、IPO準備企業にとっては開示体制の整備が上場審査上のポイントにもなります。主な注記事項は次のとおりです。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第11号 ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針

  • 付与対象者の区分(役員、従業員などの別)及び人数
  • ストック・オプションの数(権利行使された場合に交付することとなる株式の数)
  • 付与日、権利確定条件、対象勤務期間及び権利行使期間
  • 当該会計期間に計上した費用の額とその科目名称
  • 権利不行使による失効が生じた場合に利益として計上した額
  • 公正な評価単価の見積方法及び権利確定数の見積方法

また、会計基準の適用による財務諸表への影響額や、ストック・オプションの条件変更の状況についても注記が求められます。新たに付与したストック・オプションに係る当期の費用計上額と、過年度に付与したものに係る当期の費用計上額の双方を含めて開示する点にも留意が必要です。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第11号 ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針

IPO準備企業における実務上の留意点

上場準備の局面では、ストック・オプションの設計段階から会計処理を見据えておくことが欠かせません。特に、権利確定条件をどのように設定するかによって費用の配分パターンが変わるため、報酬設計と会計処理を切り離さずに検討することが重要です。付与日時点で公正な評価単価を算定・固定する必要があることから、付与のタイミングと評価の準備を計画的に進める必要があります。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第11号 ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針

未公開企業のうちは本源的価値による会計処理を選択できますが、上場が近づき公正な評価単価を用いる段階になると、オプション価格算定技法に必要なボラティリティなどの見積りが論点になります。経理・財務部門としては、算定技法の選定根拠や基礎数値の見積根拠を文書化し、監査対応に耐えられる体制を整えておくことが求められます。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第11号 ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針

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ストック・オプションの会計処理は、条件設計、評価、費用配分、開示が相互に絡み合う複合的な論点です。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。

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まとめ

企業会計基準第8号は、ストック・オプションの付与により取得したサービスを費用として計上し、対応額を純資産の部の新株予約権として計上することを求めています。費用計上額は、付与日で固定した公正な評価単価に、失効見込みを反映したストック・オプション数を乗じた公正な評価額を、対象勤務期間にわたって配分して算定します。権利不行使による失効時には利益を計上し、権利行使時には新株予約権を払込資本へ振り替えます。IPO準備企業にとっては、報酬設計の段階から会計処理と開示を見据え、算定と監査対応の体制を整えておくことが成功の鍵となります。

参考文献

よくある質問

ストック・オプションはなぜ費用計上が必要なのですか。

企業はストック・オプションの付与と引換えに、従業員等から労働などのサービスの提供を受けています。企業会計基準第8号では、この受け取ったサービスの消費を費用として認識し、対応する金額を純資産の部に新株予約権として計上することとされているためです。

公正な評価単価は付与後に見直す必要がありますか。

いいえ。公正な評価単価は付与日現在で算定し、条件変更の場合を除いてその後は見直しません。付与後の株価変動は単価に反映しません。一方、ストック・オプション数は権利不確定による失効の見積りを反映して見直していく点で扱いが異なります。

未公開企業でも公正な評価単価の算定が必要ですか。

未公開企業については、公正な評価単価に代えて、単位当たりの本源的価値(自社株式の評価額と行使価格との差額)の見積りに基づいて会計処理を行うことが認められています。ただし上場が近づくにつれ、算定技法による評価への移行が論点となります。

権利が行使されずに失効した場合、過去の費用は取り消されますか。

取り消されません。権利不行使による失効が生じた場合には、新株予約権として計上した額のうち失効に対応する部分を、失効が確定した期に利益として計上します。過年度に計上した費用が遡って修正されるわけではありません。

事務所概要
社名
公認会計士事務所プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
03-6773-5062
対応責任者
公認会計士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。

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