労働組合の法人格【比較表】財産名義・税務・登記の違い
目次
- 法人である労働組合と法人でない労働組合の比較表
- 法人格を得る仕組みと前提条件
- 労働委員会の証明と登記
- 資格審査で問われる会計監査人の証明
- 財産の名義と代表者の違い
- 組合名義で財産を持てるかどうか
- 代表者に関する規律
- 登記の維持にかかる事務負担
- 税務上の違い
- 法人税法上の区分と納税義務
- 法人税率の違い
- 税額の計算例
- みなし寄附金・利子の非課税・損益計算書等の提出
- 消費税は法人格の有無で大きく変わらない
- 解散・清算の違い
- 法人化すべきかの判定表
- 法人化の検討で誤りやすい点
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- 労働組合は法人ですか
- 法人でない労働組合にも法人税はかかりますか
- 法人化すると法人税は安くなりますか
- 法人化した後に必要になる手続はありますか
労働組合は、結成しただけでは法人格を持ちません。労働委員会から労働組合法に適合する旨の証明を受け、主たる事務所の所在地で登記したときに、はじめて「法人である労働組合」になります(労働組合法 第11条第1項)。登記をしない組合は「法人でない労働組合」のまま活動を続けることになり、どちらを選ぶかで財産の持ち方・税金・事務負担が変わります。
この記事では、両者の違いを比較表で一覧にしたうえで、組合役員が「法人化すべきか」を判断するための判定表と、法人税額の計算例を示します。登記の具体的な手順ではなく、法人化するかどうかを決める前の検討材料に絞って整理します。
法人である労働組合と法人でない労働組合の比較表
まず全体像です。法人格の有無によって変わる主な項目を、法人である労働組合の側から並べると次のとおりです。
| 比較項目 | 法人である労働組合の場合 |
|---|---|
| 法人格を得る方法 | 労働委員会の証明を受けて登記することで法人となる。法人でない労働組合は結成のみで、登記も届出も要らない |
| 財産の名義 | 組合自身が権利義務の主体となり、組合名義で財産を持てる。法人でない労働組合は組合自体に法人格がない |
| 代表者 | 1人または数人の代表者を置く義務がある。代表権の制限や利益相反の規律も労働組合法で定められている |
| 登記の維持 | 登記事項の変更から2週間以内に変更登記が必要。法人でない労働組合に登記義務はない |
| 法人税法上の区分 | 公益法人等。法人でない労働組合は人格のない社団等 |
| 収益事業の所得への税率 | 年800万円以下15%、超える部分19%。法人でない労働組合は超える部分が23.2% |
| みなし寄附金 | 適用あり。法人でない労働組合には適用がない |
| 預金利子等の所得税 | 非課税の対象。法人でない労働組合は源泉徴収の対象 |
| 損益計算書等の提出 | 収益事業がなく年間収入8,000万円超なら税務署へ提出が必要。法人でない労働組合には同じ提出義務がない |
| 消費税 | 取扱いはほぼ同じ。どちらも特定収入に係る仕入税額控除の調整の対象 |
| 解散・清算 | 清算人・債権申出の公告・残余財産の帰属まで労働組合法に規定がある。法人でない労働組合にはこれらの規定が及ばない |
以下、項目ごとに根拠条文を示しながら説明します。
法人格を得る仕組みと前提条件
労働委員会の証明と登記
法人化の入口は労働委員会の資格審査です。労働組合法の規定に適合する旨の証明を受けた労働組合が、主たる事務所の所在地で登記することによって法人となります(労働組合法 第11条第1項)。証明の申請先は、中央労働委員会が専属的に管轄する場合を除き、主たる事務所の所在地を管轄する都道府県労働委員会または中央労働委員会です(労働組合法施行令 第2条第1項)。
資格審査は一度受ければ終わりではありません。法人登記のために資格証明書の交付を受ける場合は、過去に適格決定を受けたことがある組合でも、その都度審査を受ける必要があるとされています。
資格審査で問われる会計監査人の証明
資格審査では、組合規約に労働組合法が定める事項が含まれているかが確認されます。そのひとつが、すべての財源と使途、主要な寄附者の氏名、現在の経理状況を示す会計報告を、組合員が委嘱した職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書とともに、少なくとも毎年1回組合員に公表することです(労働組合法 第5条第2項第7号)。
実務上、法人化を検討する組合がつまずきやすいのはこの点です。規約に条文があっても、実際に外部の会計監査人による証明を受けた会計報告を公表していなければ、立証資料が整いません。法人化の検討は、会計監査の体制づくりとセットで進める必要があります。
関連コラム労働組合の法人登記の手順|資格審査と登記事項・必要書類▸
財産の名義と代表者の違い
組合名義で財産を持てるかどうか
法人は、法令の規定に従い、基本約款で定めた目的の範囲内で権利を有し、義務を負います(民法 第34条)。法人である労働組合は、この法人格に基づいて組合自身が契約や財産の帰属主体となり、会館の土地・建物や預金を組合の名義で保有できます。
法人でない労働組合には、組合自体に法人格がありません。そのため、財産の名義を代表者など個人に頼らざるを得ない場面が生じ、代表者の交代や死亡のたびに名義の整理が問題になります。会館の取得や多額の積立金の管理を予定している組合ほど、この違いは大きくなります。
代表者に関する規律
法人である労働組合は、1人または数人の代表者を置かなければなりません(労働組合法 第12条第1項)。代表者は組合のすべての事務について組合を代表しますが、規約の規定に反することはできず、総会の決議にも従う必要があります(労働組合法 第12条の2)。代表権に加えた制限は善意の第三者に対抗できず(労働組合法 第12条の3)、組合と代表者の利益が相反する事項では代表者は代表権を持ちません(労働組合法 第12条の5)。
また、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律 第78条が準用されるため、代表者が職務を行うについて第三者に加えた損害は、法人である労働組合が賠償責任を負います(労働組合法 第12条の6)。法人化すると、組合としての責任の所在が法律上はっきりする一方、代表者の権限管理も規約で丁寧に定める必要が出てきます。
登記の維持にかかる事務負担
法人である労働組合の登記事項は、名称、主たる事務所の所在場所、目的及び事業、代表者の氏名及び住所、解散事由を定めたときはその事由です(労働組合法施行令 第3条)。登記すべき事項は、登記した後でなければ第三者に対抗できません(労働組合法 第11条第3項)。
登記した事項に変更が生じたときは、2週間以内に変更の登記が必要です(労働組合法施行令 第5条)。主たる事務所を移転したときも、2週間以内に移転の登記をしなければなりません(労働組合法施行令 第4条第1項)。役員改選で代表者が替わる組合では、改選のたびに登記の手続が発生します。
| 登記が必要になる主な場面 | 代表者の交代・住所変更、名称や目的の変更、主たる事務所の移転、解散、清算結了 |
|---|---|
| 期限 | 変更・移転・清算結了はいずれも2週間以内 |
| 設立登記の添付書類 | 規約、労働委員会の証明書、代表者の資格を証する書面 |
| 管轄登記所 | 主たる事務所の所在地を管轄する法務局・地方法務局またはその支局・出張所 |
添付書類と管轄登記所は、労働組合法施行令の規定に基づきます(労働組合法施行令 第7条第1項、第8条)。法人でない労働組合にはこうした登記義務がないため、役員改選の多い組合ほど事務負担の差を意識しておく必要があります。
労働組合の会計監査は公認会計士へ
全国対応・オンライン完結|公認会計士事務所プライムパートナーズ
無料見積り・ご相談はこちら
税務上の違い
法人税法上の区分と納税義務
法人である労働組合は、法人税法の別表第二に「労働組合(法人であるものに限る。)」として掲げられており、公益法人等に当たります(法人税法 第2条第6号、別表第二)。法人でない労働組合は、代表者の定めがあれば人格のない社団等に当たり、法人とみなして法人税法が適用されます(法人税法 第2条第8号、第3条)。
どちらの区分でも、法人税の納税義務が生じるのは収益事業を行う場合などに限られます(法人税法 第4条第1項)。組合費収入だけで運営し、収益事業を行っていない組合であれば、法人格の有無で法人税の負担が変わることはありません。違いが表に出るのは、物品販売などの収益事業を営む組合です。
関連コラム労働組合の税金と収益事業課税|法人税・消費税の取扱い▸
法人税率の違い
法人税法の本則では、公益法人等(一般社団法人等を除く)の税率は19%、人格のない社団等は23.2%で、人格のない社団等の所得のうち年800万円以下の部分は19%とされています(法人税法 第66条第1項〜第3項)。さらに、2027年3月31日までの間に開始する事業年度は、年800万円以下の部分が15%に軽減されます(租税特別措置法 第42条の3の2第1項)。
| 区分 | 収益事業の所得に対する税率 |
|---|---|
| 法人である労働組合 | 年800万円以下の部分15%、超える部分19% |
| 法人でない労働組合 | 年800万円以下の部分15%、超える部分23.2% |
上の軽減税率は所得金額が年10億円以下の事業年度を前提としています(租税特別措置法 第42条の3の2第1項)。差が出るのは年800万円を超える部分だけなので、収益事業の所得が小さい組合では税率差は生じません。
税額の計算例
収益事業の所得が年1,200万円の労働組合を例に、法人格の有無で法人税額(地方法人税・住民税等を除く)がいくら変わるかを試算します(自社作例)。
法人である労働組合の場合:
法人でない労働組合の場合:
差額は16.8万円です。収益事業の規模が大きいほど差は広がりますが、所得が年800万円以下であれば差はゼロです。税率差だけを理由に法人化を決めるのではなく、次に述べるほかの項目と合わせて判断するのが現実的です。
みなし寄附金・利子の非課税・損益計算書等の提出
収益事業で得た資産を組合本来の活動など非収益部門へ回した場合、公益法人等ではその支出額を収益事業の寄附金として扱い、損金算入の計算に含めることができます(法人税法 第37条第6項)。この「みなし寄附金」は公益法人等の規定なので、法人である労働組合だけが対象です。
所得税法の別表第一にも「労働組合(法人であるものに限る。)」が掲げられており、法人である労働組合が支払を受ける利子等・配当等には所得税が課されません(所得税法 第11条第1項、別表第一)。公社債等の利子については、所定の申告書の提出などの手続が条件になります(所得税法 第11条第3項)。法人でない労働組合はこの非課税の対象外です。
一方で、法人化によって増える義務もあります。公益法人等は、法人税の確定申告書を提出すべき場合を除き、事業年度終了の日の翌日から4月以内に損益計算書または収支計算書を所轄税務署長に提出しなければなりません(租税特別措置法 第68条の6)。ただし、その事業年度の収入金額の合計額が8,000万円以下の法人は対象外です(租税特別措置法施行令 第39条の37第2項)。
消費税は法人格の有無で大きく変わらない
消費税法でも人格のない社団等は法人とみなされます(消費税法 第3条)。法人である労働組合は消費税法の別表第三に掲げられており、特定収入がある場合の仕入税額控除の調整は、別表第三の法人と人格のない社団等の両方に適用されます(消費税法 第60条第4項)。消費税については、法人化の有無で取扱いが大きく変わることはありません。
解散・清算の違い
法人である労働組合が解散した場合、清算の結了までは清算の目的の範囲内でなお存続するものとみなされます(労働組合法 第13条)。原則として代表者が清算人となり(労働組合法 第13条の2)、解散後2週間以内に清算人と解散の登記をしたうえで(労働組合法 第13条の5第1項)、官報で少なくとも3回、債権の申出を催告する公告を行います(労働組合法 第13条の7第1項、第4項)。
残余財産は規約で指定した者に帰属し、指定がなければ代表者が総会の決議を経て組合の目的に類似する目的のために処分でき、それでも処分されない財産は国庫に帰属します(労働組合法 第13条の10)。こうした清算の規定は法人である労働組合を対象としたもので、法人でない労働組合には及びません。法人化を検討する際は、規約に残余財産の帰属先を定めておくかどうかも合わせて検討しておくと安心です。
関連コラム労働組合の解散手続きと清算の流れ|残余財産の帰属と会計報告▸
法人化すべきかの判定表
ここまでの比較を、組合役員が検討の場で使える形にまとめます。次の観点のうち、当てはまるものが多いほど法人化のメリットが大きいと考えられます。
| 判断の観点 | 法人化を前向きに検討する目安 |
|---|---|
| 会館・事務所などの不動産 | 組合として取得・保有している、または取得の予定がある |
| 積立金などの金融資産 | 闘争積立金などの残高が大きく、利子・配当等の所得税の取扱いも無視できない |
| 収益事業の規模 | 物品販売などの収益事業があり、所得が年800万円を超える見込みがある |
| 財産名義の管理リスク | 代表者個人の名義に頼っており、役員交代のたびに名義の整理が負担になっている |
| 会計監査の体制 | 職業的に資格がある会計監査人による証明をすでに受けている、または受ける準備ができる |
| 登記事務の負担 | 役員改選に合わせて2週間以内の変更登記を継続して処理できる |
逆に、組合費収入だけで運営し、不動産も多額の積立金もない組合では、法人化しても税務上の差はほとんど生じず、登記と資格審査の事務だけが増えることになります。会館の取得や積立金の増加をきっかけに法人化を検討する場合は、その準備として外部の会計監査を先に整えておくと、資格審査の立証まで無理なく進められます。
法人化の検討で誤りやすい点
- 法人化しなくても労働組合として活動できる: 労働組合の設立に届出は不要で、法人格の有無は団体交渉などの活動の可否とは別の問題です。
- 法人でなくても税金はかかりうる: 人格のない社団等も法人とみなされ、収益事業を行えば法人税の申告が必要です(法人税法 第3条、第4条第1項)。
- 資格証明書の交付には毎回審査が必要: 以前に適格決定を受けていても、法人登記のための資格証明書は改めて審査を受けて交付されます。
- 会計監査人の証明は規約の文言だけでは足りない: 立証では、実際に証明を受けた会計報告を公表していることが問われます(労働組合法 第5条第2項第7号)。
まとめ
法人である労働組合と法人でない労働組合の違いは、財産を組合名義で持てるか、収益事業の所得への税率やみなし寄附金・利子の非課税といった税務上の扱い、そして登記と資格審査の事務負担に集約されます。収益事業の所得が小さく不動産も持たない組合では差は限られますが、会館の保有や大きな積立金がある組合では、法人化によって財産の帰属と責任の所在を明確にできる点が大きな意味を持ちます。
法人化には労働委員会の資格審査が前提となり、その要件として職業的に資格がある会計監査人による会計報告の証明が欠かせません。判定表で当てはまる項目が多い組合は、まず会計監査の体制から確認しておくと検討が進めやすくなります。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
労働組合監査の無料見積り・ご相談はこちら参考文献
- e-Gov法令検索 労働組合法
- e-Gov法令検索 労働組合法施行令
- e-Gov法令検索 民法
- e-Gov法令検索 法人税法
- e-Gov法令検索 租税特別措置法
- e-Gov法令検索 租税特別措置法施行令
- e-Gov法令検索 所得税法
- e-Gov法令検索 消費税法
- 厚生労働省 労働組合の資格審査について
よくある質問
労働組合は法人ですか
結成しただけの労働組合は法人ではありません。労働委員会から労働組合法に適合する旨の証明を受け、主たる事務所の所在地で登記したときに法人となります(労働組合法 第11条第1項)。
法人でない労働組合にも法人税はかかりますか
収益事業を行う場合はかかります。法人でない労働組合は人格のない社団等として法人とみなされ、収益事業から生じた所得に法人税が課されます(法人税法 第3条、第4条第1項)。収益事業を行っていなければ法人税の納税義務はありません。
法人化すると法人税は安くなりますか
収益事業の所得のうち年800万円を超える部分の税率が、法人でない場合の23.2%から19%になります(法人税法 第66条第1項、第3項)。年800万円以下の部分はどちらも15%のため(租税特別措置法 第42条の3の2第1項)、所得が小さい組合では差は生じません。
法人化した後に必要になる手続はありますか
代表者の交代など登記事項に変更が生じたときは、2週間以内に変更の登記が必要です(労働組合法施行令 第5条)。また、収益事業がなく年間の収入金額が8,000万円を超える場合は、損益計算書または収支計算書を税務署に提出する必要があります(租税特別措置法 第68条の6、租税特別措置法施行令 第39条の37第2項)。
本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。



