監査差異の修正【仕訳例】修正・未修正の判断と未修正の虚偽表示の集計表
目次
- 監査差異と監査基準上の「虚偽表示」
- 監査差異の3つの区分
- 監査差異の報告から修正確定までの流れ
- 監査差異の修正仕訳【仕訳例】
- 売上の期間帰属(カットオフ)の誤り
- 費用の計上漏れ
- 流動・固定の分類誤り
- 修正・未修正の判断【判定表】
- 未修正の虚偽表示の集計表【記載例】
- 差異に同意しない場合の書き方
- 経営者確認書の日付と宛先
- 監査役等への報告と会計監査報告への影響
- 会社側の実務チェックリスト
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- 監査差異はすべて修正しなければなりませんか。
- 未修正の虚偽表示の一覧はどこに添付しますか。
- 少額の差異でも重要と判断されることはありますか。
- 前期に修正しなかった差異は当期にどう扱われますか。
期末監査の終盤、監査人から「監査差異の一覧」を渡され、どれを修正すべきか、修正しなかったものをどう扱うかで迷う経理担当者は少なくありません。結論からいえば、監査人は識別した差異を経営者にすべて報告して修正を求め、修正されずに残った差異は未修正の虚偽表示として集計され、その一覧が経営者確認書に添付されます(監査基準報告書450 第7項、第13項)。
本記事では、監査基準報告書450・580と会社法・会社計算規則の条文に沿って、監査差異を受けた会社側の対応を、修正仕訳の例・修正するかどうかの判定表・未修正の虚偽表示の集計表の記載例で整理します。
監査差異と監査基準上の「虚偽表示」
実務でいう「監査差異」は、監査基準報告書では虚偽表示と呼ばれます。虚偽表示とは、会社が報告した財務諸表項目の金額・分類・表示・注記事項と、適用される会計の枠組みに従った場合に求められるそれらとの差をいい、誤謬からも不正からも生じ得ます(監査基準報告書450 第3項(1))。このうち、監査人が集計の対象としたものの修正されなかったものが未修正の虚偽表示です(監査基準報告書450 第3項(2))。
金額の誤りだけでなく、勘定科目の区分違いや注記の不足も虚偽表示に含まれる点に注意が必要です。監査人は「明らかに僅少」なものを除き、識別した虚偽表示を集計します(監査基準報告書450 第4項)。ここでいう明らかに僅少とは「重要性がない」という意味ではなく、金額・内容・状況のいずれから見ても明らかに些細なものに限られ、判断に疑義があれば僅少とは扱われません(監査基準報告書450 A2項)。
監査差異の3つの区分
監査人が経営者や監査役等へ報告する際には、虚偽表示を次の3つに区分することがあります(監査基準報告書450 A6項)。区分によって会社側の反論の余地や修正の仕方が変わるため、一覧を受け取ったらまず区分を確認しておくと対応が早くなります。
| 確定した虚偽表示 | 事実として誤りが確かめられた差異。計上漏れ・二重計上・期間帰属の誤りなど |
|---|---|
| 判断による虚偽表示 | 見積りや会計方針の選択・適用について、監査人が合理的でない・適切でないと考える経営者の判断から生じる差異 |
| 推定による虚偽表示 | サンプルで見つかった誤りから、母集団全体の誤りを監査人が推定した金額 |
判断による虚偽表示は、見積りの前提を説明する資料を追加で示すことで差異の金額が変わることがあります。推定による虚偽表示は、監査人の要請を受けて会社が母集団を調査し、実際の誤りの金額を確定させることもあります(監査基準報告書450 A9項)。
監査差異の報告から修正確定までの流れ
監査人は、集計したすべての虚偽表示を適切な階層の経営者に適時に報告し、修正を求めなければなりません(監査基準報告書450 第7項)。経営者が一部または全部の修正に同意しない場合、監査人はその理由を把握したうえで、財務諸表全体に重要な虚偽表示がないかを評価します(監査基準報告書450 第8項)。
- 差異一覧の受領と区分の確認:確定・判断・推定のどれに当たるか、金額と影響する勘定科目を確認します。
- 原因の調査:同じ原因の誤りが他の取引にも及んでいないかを社内で洗い出します。監査人の要請で会社が調査して修正した場合でも、監査人は未発見の虚偽表示がないかを確かめる追加の手続を行います(監査基準報告書450 第6項)。
- 修正・未修正の決定:修正するものは修正仕訳を起票し、計算書類と附属明細書に反映します。修正しないものは理由を整理します。
- 未修正の虚偽表示の一覧の確定:監査人と金額・内容を突き合わせ、経営者確認書に添付する一覧を作ります。
- 経営者確認書の提出:会計監査報告の日付までに、監査人宛ての確認書を提出します。
会社法の手続との関係では、会計監査人設置会社の計算書類と附属明細書は監査役(監査等委員会・監査委員会)と会計監査人の監査を受け、取締役会設置会社では監査を受けたものについて取締役会の承認を受けます(会社法 第436条第2項、第3項)。会計監査人は、計算書類の全部を受領した日から4週間を経過した日、附属明細書を受領した日から1週間を経過した日、特定取締役・特定監査役・会計監査人の間の合意で定めた日のいずれか遅い日までに会計監査報告の内容を通知します(会社計算規則 第130条第1項)。修正仕訳の反映は、この日程の内側で完了させる必要があります。
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監査差異の修正仕訳【仕訳例】
ここでは、期末監査で指摘されやすい3つの差異について、修正する場合の仕訳を示します。金額はいずれも当事務所の作例で、単位は千円です。
売上の期間帰属(カットオフ)の誤り
決算日後に出荷した商品1,200(原価800)を当期の売上として計上していた場合です。売上を取り消すとともに、払い出した原価を棚卸資産に戻します。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,200 | 売掛金 | 1,200 |
| 商品 | 800 | 売上原価 | 800 |
費用の計上漏れ
当期に役務の提供を受けた外部専門家への報酬350について、請求書の到着が遅れたため未計上だった場合です。当期の費用として未払金を計上します。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 支払手数料 | 350 | 未払金 | 350 |
流動・固定の分類誤り
長期借入金のうち決算日の翌日から1年以内に返済期日が到来する2,000を、固定負債のまま表示していた場合です。修正では、借方に長期借入金2,000、貸方に1年内返済予定の長期借入金2,000を計上し、固定負債から流動負債へ振り替えます。損益には影響しませんが、分類の誤りも虚偽表示に当たります(監査基準報告書450 第3項(1))。
分類の誤りが重要かどうかは、財務制限条項や主要な比率、小計項目への影響といった質的な面も含めて判断され、金額が重要性の基準値を上回っていても、関連する表示科目の計上額に比べて少額で、損益や主要比率にも影響しなければ、財務諸表全体との関連では重要でないと判断されることがあります(監査基準報告書450 A19項)。損益に影響する修正を入れた場合は、法人税等や税効果の再計算が必要になるかどうかもあわせて確認しておくと、後工程での手戻りを防げます。
修正・未修正の判断【判定表】
監査基準上、監査人は報告した虚偽表示のすべてについて修正を求めます(監査基準報告書450 第7項)。すべての虚偽表示を修正しておけば、正確な帳簿を維持できるうえ、過年度に重要でなかった未修正の虚偽表示が累積して将来の財務諸表で重要な虚偽表示となるリスクも抑えられます(監査基準報告書450 A11項)。そのうえで、日程や金額の事情から一部を修正しない場合には、次の観点で慎重に判断します。
| 個別に重要な差異 | 他の差異と相殺して影響を小さく見せることは通常できない。売上の過大計上を同額の費用の過大計上で打ち消しても、重要な虚偽表示は残る(監査基準報告書450 A18項) |
|---|---|
| 金額は小さいが 質的に重要な差異 |
法令遵守、借入の財務制限条項、経営者の報酬、公表済みの業績見込み、経営者に関連する関連当事者との取引などに影響する差異は、重要性の基準値を下回っても重要と評価されることがある(監査基準報告書450 A20項) |
| 過年度から 繰り越している差異 |
前期以前の未修正の虚偽表示の累積的な影響も評価の対象になる(監査基準報告書450 第10項(2)、A22項) |
| 同じ科目で多数見つかった差異 | 個々は重要でなくても、その科目の重要な虚偽表示リスクが見直されることがある(監査基準報告書450 A18項) |
| 上記に当たらない少額の差異 | 未修正として一覧に残す選択肢がある。修正しない理由を説明できるよう整理しておく |
監査人は、未修正の虚偽表示が個別にまたは集計して重要かどうかを判断し(監査基準報告書450 第10項)、その前に重要性の基準値が実績値に照らして適切かを見直します(監査基準報告書450 第9項)。期中に見込みの利益で設定した基準値が実績に合わせて下がると、当初は問題にならなかった差異の合計が重要と判断されることもあるため、業績が見込みを下回った期は特に注意が必要です。
未修正の虚偽表示の集計表【記載例】
監査人は、未修正の虚偽表示の影響が個別にも集計しても財務諸表全体に対して重要でないと判断しているかどうかを経営者確認書に記載するよう求め、あわせて未修正の虚偽表示の要約の記載または添付を求めます(監査基準報告書450 第13項)。会社法監査の経営者確認書の記載例でも、この旨と「一覧を添付している」旨の確認事項が置かれています(監査基準報告書580 付録2)。
次の例は、修正しないこととした3件の差異を、仕訳の形で一覧にしたものです(当事務所の作例・単位千円)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 賞与引当金繰入額 | 180 | 賞与引当金 | 180 |
| 前払費用 | 60 | 支払家賃 | 60 |
| 売上原価 | 90 | 商品 | 90 |
1行目は賞与引当金の見積りの差(判断による虚偽表示)、2行目は翌期分の家賃の前払費用への振替漏れ(確定した虚偽表示)、3行目は棚卸資産のサンプル検証で見つかった差異から推定した金額(推定による虚偽表示)という想定です。一覧の下には、利益と純資産への影響の合計を付けておくと、経営者と監査役等が影響を把握しやすくなります。
| 税引前当期純利益への影響 | 修正すれば210減少(現状は210過大) |
|---|---|
| 資産への影響 | 修正すれば30減少(前払費用60増、商品90減) |
| 負債への影響 | 修正すれば180増加(賞与引当金) |
| 各差異の区分 | 判断による虚偽表示1件、確定した虚偽表示1件、推定による虚偽表示1件 |
会社法の計算書類には比較情報が求められないため、会社法監査の確認書では、当年度の数値に含まれる未修正の虚偽表示と、当年度に修正したことで比較可能性が損なわれている影響を確認する形になります(監査基準報告書580 付録2 注5)。前期の未修正分を当期に修正した場合は、その影響も一覧の検討対象になる点に注意します。
差異に同意しない場合の書き方
特定の項目について、会社として虚偽表示であること自体に同意しない場合には、経営者確認書に、同意しない項目とその理由を記載することがあります(監査基準報告書450 A26項)。ただし、そうした記載があっても、監査人は未修正の虚偽表示の影響について自ら結論を出します(監査基準報告書450 A26項)。反論は確認書の文面だけに頼らず、根拠資料を添えて監査の過程で協議しておくことが実務上は大切です。
経営者確認書の日付と宛先
経営者確認書の日付は監査報告書日より後にできず(監査基準報告書580 第13項)、通常は監査報告書の日付とされます(監査基準報告書580 A14項)。確認書は監査人を宛先とする書面または電磁的記録で提出します(監査基準報告書580 第14項)。会社法監査の記載例では、代表取締役と財務・経理担当取締役が署名する形が示されています(監査基準報告書580 付録2)。
監査役等への報告と会計監査報告への影響
監査人は、未修正の虚偽表示の内容と、それが監査意見に与える影響を監査役等に報告します。重要な未修正の虚偽表示がある場合は、監査役等が経営者に修正を求められるよう、その旨を明示して報告します(監査基準報告書450 第11項)。過年度の未修正の虚偽表示の影響も報告の対象です(監査基準報告書450 第12項)。個々に重要でない差異が多数ある場合は、件数と金額の合計で報告されることもあります(監査基準報告書450 A24項)。
重要な虚偽表示を修正しないまま監査が終わると、会計監査報告の意見が無限定適正意見ではなく、除外事項を付した限定付適正意見や不適正意見となる可能性があります(会社計算規則 第126条第1項第2号)。会計監査人設置会社では、無限定適正意見であることなどの要件を満たせば、取締役会で承認された計算書類を定時株主総会に報告するだけで足ります(会社法 第439条、会社計算規則 第135条)。無限定適正意見が得られなければこの特則は使えず、計算書類の承認を株主総会に諮る必要が生じるため、総会の準備にも影響します。
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会社側の実務チェックリスト
監査差異への対応を毎期スムーズに進めるため、会社側で準備しておきたい項目をまとめます。
- 差異管理表の作成:監査人ごと・期ごとに、指摘日、区分、金額、修正の有無、修正しない理由、承認者を1つの表で管理する。
- 修正の締切日の設定:会計監査報告の通知期限と取締役会の日程から逆算し、修正仕訳を反映できる最終日を監査人と共有する。
- 過年度分の繰越管理:前期に修正しなかった差異が当期にどう解消されるか、または残るかを追跡する。
- 原因の再発防止:同じ種類の差異が毎期出る場合は、決算手続や内部統制の見直しにつなげる。
- 監査役等との事前共有:監査人から監査役等へ報告される前に、社内で修正方針を説明できるようにしておく。
まとめ
監査差異は、監査基準上の「虚偽表示」です。監査人は集計した差異をすべて経営者に報告して修正を求め、修正されなかったものは未修正の虚偽表示として集計され、その一覧が経営者確認書に添付されます(監査基準報告書450 第7項、第13項)。修正しない差異が残る場合は、個別・集計の両面と質的な影響、過年度からの累積まで含めて重要性を検討し、監査役等への報告や会計監査報告の意見、さらに会社法第439条の承認特則への影響まで見通しておくことが重要です。
監査差異の扱いや重要性の判断は会社ごとの事情で大きく変わります。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
会社法監査の無料見積り・ご相談はこちら参考文献
よくある質問
監査差異はすべて修正しなければなりませんか。
監査人は報告したすべての虚偽表示の修正を求めますが(監査基準報告書450 第7項)、修正しなかったものは未修正の虚偽表示として集計され、個別にも集計しても重要でないと判断されれば監査意見に影響しないこともあります(監査基準報告書450 第10項)。重要な虚偽表示が残れば、会計監査報告の意見に影響する可能性があります。
未修正の虚偽表示の一覧はどこに添付しますか。
経営者確認書に記載するか、添付します(監査基準報告書450 第13項)。会社法監査の記載例でも、一覧を確認書に添付している旨の確認事項が示されています(監査基準報告書580 付録2)。
少額の差異でも重要と判断されることはありますか。
あります。法令遵守や借入の財務制限条項、経営者の報酬、公表済みの業績見込みなどに影響する差異は、重要性の基準値を下回っていても重要と評価されることがあります(監査基準報告書450 A20項)。
前期に修正しなかった差異は当期にどう扱われますか。
過年度の未修正の虚偽表示が当期の財務諸表に与える影響も評価の対象となり(監査基準報告書450 第10項(2))、監査役等にも報告されます(監査基準報告書450 第12項)。少額でも累積すると当期に重要な影響を与えることがあります(監査基準報告書450 A22項)。
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