大会社の判定|負債200億円に含める科目一覧と計算例
目次
会計監査人を置かなければならない「大会社」に当たるかどうかは、資本金5億円以上か、負債の部に計上した額の合計額が200億円以上かで決まります(会社法 第2条第6号)。資本金は登記事項なので迷いませんが、負債総額のほうは「どの科目まで数えるのか」「保証債務は入るのか」「連結と単体のどちらか」で判断が分かれやすく、ここを取り違えると監査の要否そのものを誤ります。
この記事では、負債の部に区分される科目を会社計算規則の条文どおりに一覧化し、判定で迷いやすい項目の扱い、負債合計が212億円になる計算例、判定前の確認チェックリストまでを1本にまとめました。自社の貸借対照表を横に置きながら確認できる構成にしています。
負債総額200億円の判定ルール
大会社とは、最終事業年度に係る貸借対照表に資本金として計上した額が5億円以上である株式会社、または最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上である株式会社をいいます(会社法 第2条第6号イ、同号ロ)。2つの要件はいずれか一方に該当すれば大会社となる選択的な関係で、両方を満たす必要はありません。
大会社に該当すると、公開会社でない会社を含めて会計監査人を置かなければならず、公開会社であれば監査役会もあわせて必要になります(会社法 第328条第1項、第2項)。つまり負債総額の集計は、そのまま会計監査人設置会社に当たるかどうかの判定になります。
判定に使うのは個別(単体)の貸借対照表
判定に使う「最終事業年度」とは、各事業年度に係る計算書類について定時株主総会の承認(会計監査人設置会社の特則が適用される場合は取締役会の承認)を受けた事業年度のうち最も遅いものをいいます(会社法 第2条第24号、第438条第2項、第439条)。ここでいう計算書類は株式会社が各事業年度について作成する貸借対照表その他の書類であり(会社法 第435条第2項)、企業集団を対象とする連結貸借対照表ではありません。
実務では、連結ベースの負債が200億円を超えているものの単体では下回る、という企業が少なくありません。この場合、会社法上の大会社には該当しません。判定はあくまで単体の貸借対照表の負債合計で行います。
なお、設立後まだ最初の定時株主総会を迎えていない会社は、成立の日における貸借対照表で判定します(会社法 第2条第6号イ、第435条第1項)。
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資本金5億円の要件との関係
資本金の要件は、貸借対照表の純資産の部の株主資本に区分される「資本金」の額で判定します(会社計算規則 第76条第2項第1号)。資本準備金やその他資本剰余金は資本金ではないため、増資の際に2分の1を資本準備金に計上していれば、払込金額の全額が資本金になるわけではありません。5億円「以上」なので、ちょうど5億円でも大会社です。
資本金が5億円未満でも負債総額が200億円以上であれば大会社になります。資本金だけを見て「うちは対象外」と判断してしまう誤りが、実務では最も多いパターンです。
負債の部に区分される科目一覧
負債の部は流動負債と固定負債に区分され、それぞれに属する負債が会社計算規則で具体的に列挙されています(会社計算規則 第73条第1項第2号、第75条)。判定に使う「負債の部に計上した額の合計額」は、この2区分の合計です。
| 流動負債 | 支払手形、買掛金、前受金、引当金(資産に係る引当金および1年内に使用されないと認められるものを除く)、通常の取引に関連して発生する未払金または預り金、未払費用、前受収益、1年内に期限が到来するリース負債、1年内に履行されると認められる資産除去債務、その他1年内に支払われまたは返済されると認められる負債 |
|---|---|
| 固定負債 | 社債、長期借入金、引当金(資産に係る引当金、流動負債に属する引当金および退職給付引当金を除く)、退職給付引当金、繰延税金負債、のれん、流動負債に属さないリース負債、流動負債に属さない資産除去債務、その他流動負債に属さない負債 |
ここで重要なのは、列挙されているのは「負債の部に計上するもの」だけという点です。貸借対照表に計上されず注記にとどまる債務や、純資産の部に区分される項目は、負債合計に入りません。
判定で迷いやすい項目の扱い
負債総額が200億円の近辺にある会社ほど、個別項目の扱いで結論が変わります。実務で質問が多い項目を整理しました。
| 繰延税金負債 | 固定負債に属する負債として明記されているため、負債合計に含めます(会社計算規則 第75条第2項第2号ホ)。繰延税金資産と相殺した後の純額が計上されている場合は、その計上額で数えます。 |
|---|---|
| リース負債 | 1年内に期限が到来する部分は流動負債、それ以外は固定負債として、いずれも負債合計に含めます(会社計算規則 第75条第2項第1号チ、第2号ト)。リース取引のオンバランス範囲が広がると負債総額が押し上げられる点に注意が必要です。 |
| 資産除去債務 | 1年内に履行されると認められるものは流動負債、それ以外は固定負債に属し、負債合計に含めます(会社計算規則 第75条第2項第1号リ、第2号チ)。 |
| 退職給付引当金 | 固定負債に属する負債として独立に掲げられており、負債合計に含めます(会社計算規則 第75条第2項第2号ニ)。 |
| 保証債務・ 手形遡求債務 |
負債の部に計上したものを除き、内容と金額を貸借対照表等に関する注記として記載する項目です(会社計算規則 第103条第5号)。注記にとどまるものは負債合計に含めません。 |
| 重要な係争事件に 係る損害賠償義務 |
引当金として負債の部に計上していれば含め、注記のみであれば含めません(会社計算規則 第75条第2項、第103条第5号)。引当金計上の要否が判定結果を左右します。 |
| 新株予約権・ 非支配株主持分 |
いずれも純資産の部に区分される項目であり、負債の部ではありません(会社計算規則 第76条第1項第1号ニ、第2号ホ)。負債合計には含めません。 |
| 連結貸借対照表 の負債合計 |
判定に使うのは各事業年度に係る計算書類の貸借対照表であり、連結貸借対照表ではありません(会社法 第2条第6号、第435条第2項)。 |
判定の分かれ目は「貸借対照表の負債の部に計上されているか」の一点です。金額の大きい偶発債務を抱えていても、注記にとどまる限り200億円の判定には影響しません。
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負債総額の計算例
3月決算の非公開会社A社を例に、最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部を集計します(単位:百万円、資本金は3億円で資本金要件には該当しないものとします)。負債の部に計上した額の合計額が200億円以上であるかどうかを確認します(会社法 第2条第6号ロ)。
| 科目 | 金額(百万円) |
|---|---|
| 支払手形及び買掛金 | 4,800 |
| 短期借入金 | 6,200 |
| 1年内返済予定の長期借入金 | 1,500 |
| リース負債(流動) | 300 |
| 未払法人税等 | 400 |
| 賞与引当金 | 700 |
| その他の流動負債 | 900 |
| 流動負債合計 | 14,800 |
| 社債 | 2,000 |
| 長期借入金 | 2,500 |
| リース負債(固定) | 600 |
| 退職給付引当金 | 900 |
| 繰延税金負債 | 150 |
| 資産除去債務 | 120 |
| その他の固定負債 | 130 |
| 固定負債合計 | 6,400 |
| 負債合計 | 21,200 |
A社は資本金3億円で資本金の要件には該当しませんが、負債総額が212億円で200億円以上となるため大会社に該当します。公開会社でない大会社であるため、会計監査人を置かなければなりません(会社法 第328条第2項)。
注記にとどまる債務を足さない
仮にA社が取引先の借入金について30億円の債務保証を行っていても、貸借対照表の負債の部に計上せず注記で開示している限り、判定に用いる負債合計は21,200百万円のままです(会社計算規則 第103条第5号)。逆に、債務保証の履行可能性が高く債務保証損失引当金として負債の部に計上していれば、その計上額は負債合計に含まれます。
200億円をまたぐときの検算
負債合計が195億円から205億円程度の帯にある会社は、決算数値が確定するまで結論を出せません。実務では、決算整理で金額が動きやすい未払費用、賞与引当金、退職給付引当金、繰延税金負債の4項目を先に見積もり、暫定の負債合計を出しておくと判断が早くなります。監査人の選任は定時株主総会の決議事項であり、招集通知の発送までに候補者を決めておく必要があるためです。
判定前に確認するチェックリスト
負債総額の集計に入る前に、次の5点を確認してください。いずれか1つでも取り違えると判定結果が変わります。
| 確認項目 | 確認のポイント |
|---|---|
| 対象とする貸借対照表 | 最終事業年度に係る計算書類の貸借対照表か。連結貸借対照表や月次試算表を使っていないか(会社法 第2条第6号、第2条第24号)。 |
| 集計する範囲 | 流動負債合計と固定負債合計の2区分のみを合算しているか。純資産の部の項目を含めていないか(会社計算規則 第73条第1項、第76条第1項)。 |
| 注記項目の扱い | 保証債務、手形遡求債務、重要な係争事件に係る損害賠償義務のうち注記にとどまるものを加算していないか(会社計算規則 第103条第5号)。 |
| 資本金要件の確認 | 負債が200億円未満でも、資本金が5億円以上でないか。資本準備金と混同していないか(会社法 第2条第6号イ、会社計算規則 第76条第2項)。 |
| 機関設計による義務 | 監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社は、大会社でなくても会計監査人が必要ではないか(会社法 第327条第5項)。 |
関連コラム会計監査人の設置義務がある会社は?大会社・委員会設置会社の判定フロー▸
大会社に該当したときに発生する義務
負債総額が200億円以上と確定したら、会計監査人の設置が義務になります。公開会社でない大会社は会計監査人を、公開会社である大会社(監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社を除く)は監査役会と会計監査人をあわせて置かなければなりません(会社法 第328条第1項、第2項)。会計監査人設置会社は監査役も必要です(会社法 第327条第3項)。
会計監査人は、計算書類およびその附属明細書、臨時計算書類ならびに連結計算書類を監査し、会計監査報告を作成します(会社法 第396条第1項)。計算書類およびその附属明細書は監査役と会計監査人の双方の監査を受けることになります(会社法 第436条第2項第1号)。
また、事業年度の末日において大会社であって有価証券報告書の提出義務がある会社は、連結計算書類の作成が義務づけられます(会社法 第444条第3項)。負債総額の判定は、監査だけでなく連結計算書類の作成義務にも連動します。
会計監査人の選任手続を怠ったまま放置すると、選任の手続をすることを怠った場合として過料の対象になります(会社法 第976条第22号)。判定の結果が「該当」となった段階で、直ちに候補者の選定と選任議案の準備に着手する必要があります。
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まとめ
大会社の判定に使う負債総額は、最終事業年度に係る個別の貸借対照表における負債の部の合計額です。流動負債と固定負債に区分された計上額だけを合算し、注記にとどまる保証債務や純資産の部の項目は加えません。繰延税金負債、リース負債、資産除去債務、退職給付引当金はいずれも負債の部に計上されるため、判定上も含めて数えます。
資本金5億円以上と負債総額200億円以上はいずれか一方に該当すれば大会社となるため、資本金が小さい会社ほど負債側の集計が結論を左右します。200億円の近辺にある会社は、決算数値が固まる前から暫定値で見通しを立て、該当する見込みであれば早い段階で会計監査人の候補者選定に動くことが実務上の安全策です。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
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よくある質問
負債総額の判定は単体と連結のどちらで行いますか。
単体(個別)の貸借対照表で行います。判定の対象は最終事業年度に係る計算書類の貸借対照表であり、連結貸借対照表は含まれません(会社法 第2条第6号、第435条第2項)。連結では200億円を超えていても単体で下回る場合、会社法上の大会社には該当しません。
債務保証は負債総額に含めますか。
負債の部に計上していない保証債務は含めません。保証債務、手形遡求債務、重要な係争事件に係る損害賠償義務その他これらに準ずる債務は、負債の部に計上したものを除き、貸借対照表等に関する注記として内容と金額を記載する項目とされています(会社計算規則 第103条第5号)。債務保証損失引当金として負債の部に計上している場合は、その計上額を含めます。
繰延税金負債やリース負債も200億円の判定に含まれますか。
いずれも含まれます。繰延税金負債は固定負債、リース負債は1年内に期限が到来する部分が流動負債、それ以外が固定負債に属する負債として掲げられています(会社計算規則 第75条第2項第1号チ、第2号ホ、第2号ト)。負債の部に計上されている以上、判定上も合計に算入します。
負債総額が200億円を超えたのはいつの時点で判定しますか。
最終事業年度に係る貸借対照表で判定します(会社法 第2条第6号、第2条第24号)。最終事業年度とは、計算書類について定時株主総会の承認等を受けた事業年度のうち最も遅いものをいいます。期中に多額の借入を行っても、その事業年度の計算書類が承認されるまでは判定に反映されません。
資本金が5億円未満なら会計監査人は不要ですか。
不要とは限りません。資本金5億円以上と負債総額200億円以上はいずれか一方に該当すれば大会社となるため、資本金が5億円未満でも負債総額が200億円以上であれば会計監査人の設置義務が生じます(会社法 第2条第6号、第328条)。加えて、監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社は、大会社でなくても会計監査人を置かなければなりません(会社法 第327条第5項)。
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