会社法監査とは|金商法監査との違いと対応スケジュール
目次
- 大会社該当チェックリスト
- 会社法監査と金融商品取引法監査の違い
- 会社法監査の枠組み
- 金融商品取引法監査の枠組み
- 両方の監査を受ける会社の実務
- 会社法監査の対応スケジュール
- 会計監査人の選任と報酬の決定手続
- 実務で起こりやすい誤解
- 連結の数値で大会社を判定してしまう
- 監査役監査があれば会計監査人は不要と考えてしまう
- 株主総会の承認は常に必要だと考えてしまう
- 会計監査人は不正を発見したら株主に直接報告すると考えてしまう
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- 会社法監査と金融商品取引法監査は、同じ監査法人が担当できますか。
- 大会社に該当しなくなった場合、会計監査人は退任しますか。
- 会計監査人の報酬は取締役会だけで決められますか。
- 非上場でも会社法監査を受けることはありますか。
会社法監査とは、会社法に基づき、会計監査人(公認会計士または監査法人)が株式会社の計算書類および その附属明細書などを監査する制度をいいます(会社法 第396条第1項、第337条第1項)。上場企業が受ける金融商品取引法監査とは、根拠法も、監査の対象も、報告書の届け先も異なります。
この記事では、自社が会社法監査の対象になるかを確認する大会社該当チェックリスト、会社法監査と金融商品取引法監査の違い、決算期末から定時株主総会までの対応スケジュールの3点を、条文に沿って整理します。まず自社の該当有無を確認したい方は、次の見出しから読み進めてください。
大会社該当チェックリスト
会社法監査を受けるかどうかは、原則として「大会社に当たるか」で決まります。大会社とは、次のいずれかに該当する株式会社をいいます(会社法 第2条第6号)。金額基準はどちらか一方を満たせば足り、両方を満たす必要はありません。
| 資本金の額 | 最終事業年度に係る貸借対照表に資本金として計上した額が5億円以上であること |
|---|---|
| 負債の合計額 | 最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上であること |
| 判定の基礎となる 貸借対照表 |
最終事業年度に係る貸借対照表(成立後最初の定時株主総会までの間は、設立時の貸借対照表) |
| 判定に使う数値 | 連結ではなく単体の貸借対照表の数値。損益や売上高、従業員数は判定要素にならない |
| 該当した場合の機関設計 | 公開会社である大会社は監査役会と会計監査人を置く。公開会社でない大会社は会計監査人を置く(会社法 第328条) |
| 大会社以外でも 義務が生じる場合 |
監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社は、規模にかかわらず会計監査人を置く(会社法 第327条第5項) |
実務では、増資や社債発行、多額の借入れによって期末に基準を超えるケースが多く見られます。判定は事業年度末日の貸借対照表で行うため、期中に基準を超えた時点ではなく、その事業年度の決算が確定して初めて大会社となる点に注意してください。定款で任意に会計監査人を置くこともできます。
関連コラム会社法監査の要件と開始時期|大会社の判定時点と会計監査人の選任▸
会社法監査と金融商品取引法監査の違い
両者は「公認会計士または監査法人が財務情報を監査する」点では共通しますが、制度の目的が異なります。会社法監査は株主と債権者の保護を目的として計算書類の適正性を確かめる制度であり、金融商品取引法監査は投資者の保護を目的として有価証券報告書に含まれる財務諸表の適正性を確かめる制度です。
会社法監査の枠組み
| 根拠法 | 会社法および会社計算規則 |
|---|---|
| 対象会社 | 大会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社、定款で会計監査人を置いた会社(会社法 第327条第5項、第328条) |
| 監査の対象 | 計算書類およびその附属明細書、臨時計算書類、連結計算書類(会社法 第396条第1項) |
| 監査を行う者 | 会計監査人。公認会計士または監査法人でなければならない(会社法 第337条第1項) |
| 作成される報告書 | 会計監査報告(会社法 第396条第1項、会社計算規則 第126条) |
| 報告の相手方 | 特定監査役および特定取締役への通知を経て、株主総会に提供される(会社計算規則 第130条第1項) |
| 開示の場 | 定時株主総会と決算公告。大会社は貸借対照表と損益計算書を公告する(会社法 第440条第1項) |
| 内部統制の監査 | 制度としての内部統制監査はない |
金融商品取引法監査の枠組み
| 根拠法 | 金融商品取引法および財務諸表等規則 |
|---|---|
| 対象会社 | 金融商品取引所に上場されている有価証券の発行会社その他政令で定める者(金融商品取引法 第193条の2第1項) |
| 監査の対象 | 有価証券報告書などに含まれる貸借対照表、損益計算書その他の財務計算に関する書類(金融商品取引法 第193条の2第1項) |
| 監査を行う者 | 提出会社と特別の利害関係のない公認会計士または監査法人(金融商品取引法 第193条の2第1項) |
| 作成される報告書 | 監査報告書(監査証明) |
| 報告の相手方 | 内閣総理大臣への提出書類に添付され、投資者へ開示される |
| 開示の場 | 有価証券報告書は事業年度経過後3か月以内、半期報告書は上場会社等で6か月経過後45日以内(金融商品取引法 第24条第1項、第24条の5第1項) |
| 内部統制の監査 | 内部統制報告書に監査証明が必要(金融商品取引法 第24条の4の4第1項、第193条の2第2項) |
実務でとくに差が出るのは内部統制監査の有無です。会社法監査には内部統制報告制度がないため、上場準備企業が金融商品取引法監査へ移行する段階で、内部統制の文書化と評価という新しい負担が加わります。なお、新規に上場会社等となった会社のうち規模が一定基準に達しないものは、上場後3年を経過する日までに提出する内部統制報告書について監査証明が免除されます(金融商品取引法 第193条の2第2項第4号)。
関連コラムJ-SOXとは?上場企業に必須の内部統制報告制度を徹底解説▸
両方の監査を受ける会社の実務
上場会社の多くは大会社にも当たるため、会社法監査と金融商品取引法監査の両方を受けます。この場合、同じ決算数値について会計監査報告と監査報告書という2種類の報告書が作成され、監査の実施時期も前後します。会社法監査は定時株主総会に間に合わせる必要があり、金融商品取引法監査は有価証券報告書の提出期限に合わせるため、実務上は会社法監査を先行させ、その結果を踏まえて有価証券報告書を仕上げる流れが一般的です。
また、事業年度末日において大会社であり、かつ有価証券報告書の提出義務がある会社は、連結計算書類の作成が義務づけられます(会社法 第444条第3項)。一方で、有価証券報告書を提出する会社は決算公告が不要です(会社法 第440条第4項)。開示の重複を避ける設計になっています。
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会社法監査の対応スケジュール
会社法監査は、決算期末から定時株主総会までの限られた期間で進みます。会計監査報告と監査役等の監査報告には、それぞれ法定の通知期限が定められているため、逆算した日程管理が欠かせません。3月決算・6月下旬に定時株主総会を開催する取締役会設置会社を前提に、標準的な流れを整理します。
| 決算期末 | 大会社に該当するかを事業年度末日の貸借対照表で判定する(会社法 第2条第6号) |
|---|---|
| 期末後おおむね 1か月半 |
計算書類、事業報告およびこれらの附属明細書を作成し、会計監査人へ提出する(会社法 第435条第2項) |
| 計算書類の受領から 4週間 |
会計監査人が特定監査役と特定取締役へ会計監査報告の内容を通知する期限。附属明細書の受領から1週間を経過した日、三者の合意日のうち最も遅い日による(会社計算規則 第130条第1項第1号) |
| 会計監査報告の 受領から1週間 |
特定監査役が特定取締役と会計監査人へ監査報告の内容を通知する期限(会社計算規則 第132条第1項第1号) |
| 取締役会 | 監査を受けた計算書類、事業報告および附属明細書を取締役会が承認する(会社法 第436条第3項) |
| 総会の2週間前 | 計算書類等を本店に備え置き、招集通知に際して株主へ提供する(会社法 第442条第1項第1号) |
| 定時株主総会 | 計算書類の承認を受ける。法務省令の要件を満たす場合は承認に代えて内容を報告する(会社法 第438条第2項、第439条) |
| 総会終結後 遅滞なく |
大会社は貸借対照表および損益計算書を公告する(会社法 第440条第1項) |
ここで見落とされやすいのが、計算書類の全部を受領した日から4週間という起算点です。会社側の資料提出が遅れると、会計監査報告の通知期限がそのまま後ろにずれ、株主総会の日程に影響します。三者の合意により期限を定めることもできるため、初年度は監査計画の段階で日程を文書化しておくと安全です。
なお、会計監査人が期限までに通知しない場合は、その通知すべき日に計算関係書類について監査を受けたものとみなされます(会社計算規則 第130条第3項)。これは手続の停滞を防ぐための規定であり、監査意見が得られたことを意味するものではありません。
会計監査人の選任と報酬の決定手続
会計監査人の選任は株主総会の決議によりますが、その議案の内容を決める段階から監査役が関与する点が、取締役の選任と大きく異なります。
| 議案内容の決定 | 会計監査人の選任、解任および不再任に関する議案の内容は監査役が決定する。監査役会設置会社では監査役会が決定する(会社法 第344条) |
|---|---|
| 資格 | 公認会計士または監査法人。監査法人の場合は職務を行うべき社員を選定して会社へ通知する(会社法 第337条第1項、第2項) |
| 任期 | 選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで。別段の決議がなければ再任とみなされる(会社法 第338条第1項、第2項) |
| 報酬等の決定 | 取締役が報酬等を定めるには監査役(監査役会設置会社では監査役会)の同意を得る必要がある(会社法 第399条) |
| 欠員が生じた場合 | 遅滞なく選任されないときは、監査役が一時会計監査人の職務を行うべき者を選任する(会社法 第346条第4項) |
実務では、大会社に該当することが決算で判明してから監査法人を探し始めると、初年度の監査が間に合わないことがあります。会計監査人は期首残高の検証を含めて監査を行うため、対象事業年度が始まる前から候補先と協議を進めておくのが望ましい進め方です。
関連コラム会計監査人の設置義務がある会社は?大会社・委員会設置会社の判定フロー▸
実務で起こりやすい誤解
会社法監査をめぐっては、条文の読み方を誤ったまま社内で共有されている論点がいくつかあります。代表的なものを整理します。
連結の数値で大会社を判定してしまう
大会社の判定に使うのは、最終事業年度に係る貸借対照表の資本金と負債であり、いずれも単体の数値です(会社法 第2条第6号)。連結ベースで負債が200億円を超えていても、単体で基準を下回るのであれば、それだけでは大会社に当たりません。
監査役監査があれば会計監査人は不要と考えてしまう
会計監査人設置会社では、計算書類およびその附属明細書について、監査役と会計監査人の双方の監査が必要とされています(会社法 第436条第2項第1号)。監査役等は会計監査人の監査の方法と結果の相当性を判断する立場にあり、両者の監査は代替関係にありません。
株主総会の承認は常に必要だと考えてしまう
会計監査人設置会社では、取締役会の承認を受けた計算書類が法令および定款に従い財産および損益の状況を正しく表示しているものとして法務省令で定める要件に該当する場合、定時株主総会の承認は不要となり、取締役が内容を報告すれば足ります(会社法 第439条)。無限定適正意見が前提となるため、意見が限定される場合は承認決議が必要です。
会計監査人は不正を発見したら株主に直接報告すると考えてしまう
会計監査人が取締役の職務の執行に関して不正の行為または法令もしくは定款に違反する重大な事実を発見したときの報告先は、監査役(監査役会設置会社では監査役会)です(会社法 第397条第1項、第3項)。株主総会で意見を述べるのは、計算書類等の法令定款適合性について監査役と意見を異にする場合などに限られます(会社法 第398条第1項)。
まとめ
会社法監査は、大会社に該当するかどうかで義務の有無が決まり、資本金5億円以上または負債200億円以上という単体の貸借対照表の数値で判定します(会社法 第2条第6号)。金融商品取引法監査とは目的も対象書類も開示の場も異なり、両方を受ける会社では会計監査報告と監査報告書の2本立てになります。
スケジュール面では、計算書類の全部を受領した日から4週間という会計監査報告の通知期限(会社計算規則 第130条第1項第1号)と、その受領から1週間という監査役等の監査報告の通知期限(会社計算規則 第132条第1項第1号)が実質的な締切です。定時株主総会から逆算し、資料提出の遅延が生じないよう社内の決算体制を整えることが、初年度の監査を乗り切る鍵になります。
大会社への該当判定や機関設計の変更、会計監査人の選任時期は個別性が高い論点です。判断に迷う場合は、具体的なケースを公認会計士へご相談いただくことをおすすめします。
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よくある質問
会社法監査と金融商品取引法監査は、同じ監査法人が担当できますか。
担当できます。上場会社では、同一の監査法人が会社法監査と金融商品取引法監査を一体として実施するのが一般的です。会計監査人は提出会社と特別の利害関係がないことが求められ(金融商品取引法 第193条の2第1項)、会社法上も一定の者は会計監査人となれないと定められています(会社法 第337条第3項)。
大会社に該当しなくなった場合、会計監査人は退任しますか。
自動的には退任しません。会計監査人の任期は選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までで、別段の決議がなければ再任とみなされます(会社法 第338条第1項、第2項)。設置義務がなくなった後も置き続けることは可能で、会計監査人を置く旨の定款の定めを廃止した場合には、その効力発生時に任期が満了します(会社法 第338条第3項)。
会計監査人の報酬は取締役会だけで決められますか。
決められません。取締役が会計監査人の報酬等を定める場合には、監査役(監査役会設置会社では監査役会)の同意を得る必要があります(会社法 第399条)。監査人の独立性を確保するための手続であり、同意の記録を残しておくことが実務上重要です。
非上場でも会社法監査を受けることはありますか。
あります。公開会社でない大会社は会計監査人を置かなければならず(会社法 第328条第2項)、監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社も規模を問わず会計監査人が必要です(会社法 第327条第5項)。また、定款で任意に会計監査人を置くこともできます。
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