労働組合の役員手当【計算例】源泉徴収と年末調整の扱い
目次
- 役員手当の所得区分【判定表】
- 専従役員の給料・手当
- 非専従役員の定額手当と休日の日当
- 一般組合員の日当と旅費
- 渡し切りの活動費
- 源泉徴収税額の計算例(2026年分の税額表)
- 甲欄・乙欄と月額表・日額表の選び方
- 計算例1:専従役員の月額給与(甲欄)
- 計算例2:非専従執行委員の定額手当(乙欄)
- 計算例3:休日の日当を同じ月にまとめて支払う場合
- 預り金の仕訳と納付期限
- 年末調整の分担
- 組合が年末調整をする専従役員
- 従たる給与と本人の確定申告
- 届出・源泉徴収票と会計監査での確認点
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- 非専従の執行委員に払う役員手当にも源泉徴収は必要ですか。
- 月1万円や2万円の少額の手当でも税額は生じますか。
- 組合大会に出席した一般組合員への日当も源泉徴収が必要ですか。
- 非専従役員の手当は組合で年末調整しますか。
労働組合が役員に支払う手当は、支給の形によって税務上の扱いが分かれます。専従役員の給料と、非専従でも毎月決まった額を受け取る執行委員の手当は給与所得にあたり、組合は支払のたびに所得税を源泉徴収する義務を負います(所得税法 第6条、第28条第1項、第183条第1項)。一方、専従者ではない組合員が大会出席などのために受け取る日当は、原則として雑所得とされ、源泉徴収は要りません(所得税基本通達 23〜35共-2)。
組合の会計担当者が迷いやすいのは、「非専従の役員にも源泉徴収が要るのか」「税額表のどの欄を使うのか」「年末調整は組合と会社のどちらがするのか」の3点ではないでしょうか。本記事では、役員手当の所得区分を判定表に整理したうえで、2026年分の源泉徴収税額表を使った計算例と、年末調整の分担を順に確認します。なお、手当の金額は各組合が規約や役員手当規程、予算で決めるものです。源泉徴収の要否は金額の多寡ではなく、誰にどのような形で支払うかで決まります。
役員手当の所得区分【判定表】
労働組合は、法人格の有無にかかわらず源泉徴収義務者になります。所得税法は人格のない社団等を法人とみなして適用するため、登記をしていない組合も給与を支払えば源泉徴収と納付の義務を負います(所得税法 第4条、第6条)。そのうえで、支払う相手と支給の形ごとの扱いは次のとおりです。
| 専従役員の給料・手当 | 給与所得。組合に扶養控除等申告書を出していれば甲欄で源泉徴収し、年末調整も組合が行う |
|---|---|
| 非専従役員の 毎月定額の役員手当 |
給与所得。本人は勤務先の会社に扶養控除等申告書を出しているのが通常のため、組合は乙欄で源泉徴収する |
| 定額手当を受ける役員に 支払う休日の日当 |
休日の出勤手当として給与所得。雑所得の扱いは受けられない |
| 専従者以外の組合員に 支払う大会出席等の日当 |
原則として雑所得で源泉徴収は不要。ただし従事の状態や金額が専従者と大差なければ給与等として扱う |
| 旅行に通常必要な 範囲の旅費 |
非課税(給与所得を有する者の職務上の旅行に限る) |
| 使途の記録がない 渡し切りの活動費 |
交際費等の名目でも、業務に使った事績が明らかでなければ給与等として課税対象になる |
専従役員の給料・手当
会社を休職して組合業務に専念する専従役員や書記局の職員は、組合との間に雇用またはそれに準ずる関係があり、組合から受ける給料や手当は給与所得です(所得税法 第28条第1項)。役職手当や家族手当など名目を分けて支払っていても、まとめて給与等として源泉徴収の対象になります。
税額表の欄は、本人が扶養控除等申告書をどこに出しているかで決まります。専従期間中は組合が唯一の給与支払者になることが多く、組合に申告書を出していれば甲欄を使います(所得税法 第185条第1項第1号)。
非専従役員の定額手当と休日の日当
判断が分かれやすいのが、会社に在籍したまま執行委員などを務める非専従役員です。国税庁の質疑応答事例では、毎月定額の手当を受けている執行委員について、組合との間に雇用契約またはそれに準ずる契約関係があるとし、休日に組合行事へ従事したときの日当も休日の出勤手当として給与所得にあたると整理しています(所得税基本通達 23〜35共-2 ただし書)。同じ事例では、執行委員の定額手当そのものを乙欄の給与として課税している前提が示されています。
実務では、「非専従だから雑所得」と一律に処理している組合が少なくありません。毎月決まった額を役員手当として支給しているなら、まず給与所得として源泉徴収する前提で整理し、例外にあたるかどうかを個別に確認する順序が安全です。
一般組合員の日当と旅費
専従者ではない組合員が、就業時間中の組合活動や遠隔地の組合大会への出席のために手当や日当を受け取った場合は、原則として雑所得になります(所得税基本通達 23〜35共-2)。雑所得として扱われる日当は給与等にあたらないため、組合が所得税を差し引く必要はありません。ただし、その組合員の活動の状態や受け取る額が専従者の従事状態や給与と比べて大差がないなど、雑所得とするのが適当でない場合は、専従者の給与や旅費に準じて扱います(所得税基本通達 23〜35共-2 ただし書)。
なお、専従役員など給与所得を有する人が職務のために旅行するときに支給する旅費のうち、その旅行に通常必要と認められるものは非課税です(所得税法 第9条第1項第4号)。交通費や宿泊費を実費で精算している部分は、日当とは分けて記録しておくと、後から区分を説明しやすくなります。
渡し切りの活動費
「活動費」「調査費」などの名目で、精算をせずに定額を渡している組合もあります。交際費や接待費等として支給される金品は、原則として受け取った人の給与等とされ、業務のために使うものとして支給され、実際にそのために使った事績が明らかなものだけが課税されません(所得税基本通達 28-4)。使途の記録がないまま毎月同じ額を渡していれば、役員手当と同じく給与として源泉徴収の対象になると考えて整理するのが妥当です。
関連コラム労働組合の税金と収益事業課税|法人税・消費税の取扱い▸
源泉徴収税額の計算例(2026年分の税額表)
毎月の給与から差し引く税額は、国税庁の「給与所得の源泉徴収税額表」で求めます。2026年分の税額表は、令和7年度税制改正による基礎控除の見直し等を受けて、税額や扶養親族等の数の算定方法が変わっており、2025年分以前の給与等には使えません。以下の計算例は、2026年分の月額表で確認した税額です。
甲欄・乙欄と月額表・日額表の選び方
扶養控除等申告書を提出した人に、その申告書を受け取った支払者が支払う給与等には甲欄を、それ以外の給与等には乙欄を使います(所得税法 第185条第1項第1号・第2号)。扶養控除等申告書は、給与の支払者が2か所以上ある場合には主たる給与の支払者を経由して提出するものなので(所得税法 第194条第1項)、会社に提出している非専従役員に組合が払う手当は「従たる給与」となり、乙欄で計算します。
表は支給の方法で選びます。月ごとに払う手当は月額表、日ごとや日割で払う日当は日額表を使います。表に当てはめる金額は、その月の給与等から社会保険料等を差し引いた後の額です。
計算例1:専従役員の月額給与(甲欄)
前提は次のとおりです。専従の書記長に組合が月額300,000円の給与を支払い、社会保険料等を45,000円差し引きます。本人は扶養控除等申告書を組合に提出しており、扶養親族等の数は1人です。
この月に組合が預かって納める税額は4,710円です。同じ金額でも扶養親族等が0人なら6,320円になるため、年の途中で家族の状況が変わったときは申告書の異動を受け付けて欄を切り替えます。
計算例2:非専従執行委員の定額手当(乙欄)
前提は次のとおりです。会社に勤めながら執行委員を務める組合員に、組合が毎月20,000円の役員手当を支払います。本人は扶養控除等申告書を会社に提出しており、組合からの手当では社会保険料等を差し引いていません。
2026年分の月額表の乙欄は、社会保険料等控除後の金額が105,000円未満の場合、その金額の3.063%を税額とし、1円未満の端数は切り捨てます。甲欄では105,000円未満の税額が0円であるのに対し、乙欄では少額の手当にも税額が生じる点が重要です。
年間では20,000円×12か月で240,000円の従たる給与となり、源泉徴収した税額は612円×12か月の7,344円です。
計算例3:休日の日当を同じ月にまとめて支払う場合
計算例2の執行委員が、ある月に休日の組合行事へ2日従事し、1日4,000円の日当をその月の役員手当とあわせて月末に支払うとします。この日当は休日の出勤手当として給与所得になるため、手当と合計して月額表の乙欄に当てはめます。
日当を行事のたびにその場で支払う運用であれば、日額表の乙欄で1回ごとに計算します。支払の方法によって使う表が変わるため、規程で支給日と支給方法を決めておくと計算のぶれを防げます。
預り金の仕訳と納付期限
源泉徴収した税額は、納付するまで組合の預り金です。計算例2の月の仕訳は次のとおりです(単位:円)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 役員手当 | 20,000 | 現金預金 | 19,388 |
| 預り金 | 612 |
預かった税額は、支払った月の翌月10日までに納付します(所得税法 第183条第1項)。給与の支払を受ける人が常時10人未満の組合は、税務署長の承認を受ければ、1月から6月までの分を7月10日までに、7月から12月までの分を翌年1月20日までにまとめて納付できます(所得税法 第216条)。納付したときは、預り金を減らして現金預金を払い出す仕訳を起こします。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 預り金 | 612 | 現金預金 | 612 |
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年末調整の分担
年末調整は、扶養控除等申告書を受け取った給与の支払者が、その年最後の給与を支払う際に1年分の税額を精算する手続です(所得税法 第190条)。誰が年末調整をするかは、申告書の提出先で決まります。
| 役員の区分 | 年末調整と本人の申告 |
|---|---|
| 専従役員(組合に申告書を提出) | 組合が年末調整を行う。年の途中で専従になった人は、会社で受けた給与も含めて精算する |
| 非専従役員(会社に申告書を提出) | 会社が会社の給与について年末調整を行い、組合の手当は対象外。組合の手当は本人が確定申告で精算する |
| 日当が雑所得となる一般組合員 | 年末調整の対象外。雑所得などの合計が20万円以下なら確定申告は不要 |
組合が年末調整をする専従役員
専従役員が年の途中で会社から組合に移った場合でも、組合に扶養控除等申告書を提出していれば、組合がその年最後の給与を支払う際に年末調整を行います。その際は、本人が同じ年に会社から受けた給与と源泉徴収税額も含めて計算します(所得税法 第190条第1号)。会社が発行した源泉徴収票を本人から受け取り、合算して精算する流れになります。
従たる給与と本人の確定申告
非専従役員の手当は従たる給与のため、原則として年末調整では精算できず、本人が確定申告で精算します。ただし、2か所以上から給与を受ける人でも、従たる給与の金額と給与・退職所得以外の所得金額の合計が20万円以下などの場合は、確定申告を要しません(所得税法 第121条第1項第2号)。計算例2の年240,000円の手当は20万円を超えるため、ほかの要件に当てはまらない限り本人の確定申告が必要です。役員に手当を渡す際には、源泉徴収票を交付するとともに、この点を一言添えておくと親切です。
届出・源泉徴収票と会計監査での確認点
新たに給与の支払を始めた組合は、給与支払事務所等の開設の届出書を、開設の日から1か月以内に税務署長へ提出します(所得税法 第230条)。また、給与を支払った人ごとに源泉徴収票を作成し、翌年1月31日までに税務署へ提出するものは提出し、本人に交付します(所得税法 第226条第1項)。
労働組合の会計報告は、組合員が委嘱した職業的に資格がある会計監査人による証明書とともに、毎年1回以上組合員に公表することが求められます(労働組合法 第5条第2項第7号)。外部の会計監査では、役員手当の支出額と源泉徴収の状況、期末の預り金残高と翌月の納付額の対応が、確認の対象になりやすい項目です。手当規程、支給台帳、扶養控除等申告書の提出先の記録をそろえておくと、監査の手戻りを減らせます。
関連コラム労働組合の会計監査チェックリスト|組合役員が確認する準備項目▸
まとめ
労働組合の役員手当は、専従役員の給与と、非専従でも毎月定額で支払う手当は給与所得として源泉徴収が必要です。非専従役員の手当は会社が主たる給与の支払者となるため乙欄を使い、105,000円未満でも3.063%の税額が生じます。専従者以外の組合員の大会出席日当は原則として雑所得ですが、定額手当を受ける役員の休日日当は給与になるなど、同じ「日当」でも相手によって扱いが変わります。
年末調整は扶養控除等申告書の提出先が行い、非専従役員の手当は本人の確定申告で精算します。支給の形と申告書の提出先を役員ごとに記録しておくことが、源泉徴収の漏れと監査での指摘を防ぐ近道です。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
労働組合監査の無料見積り・ご相談はこちら参考文献
- e-Gov法令検索 所得税法
- e-Gov法令検索 労働組合法
- 国税庁 法第23条から第35条まで(各種所得)共通関係
- 国税庁 法第28条《給与所得》関係
- 国税庁 労働組合の執行委員が休日に組合行事等に従事した場合の日当
- 国税庁 令和8年分 源泉徴収税額表
- 国税庁 No.2502 源泉徴収義務者とは
- 国税庁 No.2511 税額表の種類と使い方
- 国税庁 No.2520 2か所以上から給与をもらっている人の源泉徴収
- 国税庁 No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例
よくある質問
非専従の執行委員に払う役員手当にも源泉徴収は必要ですか。
毎月定額で支払う役員手当は、組合との間に雇用契約に準ずる関係があるとして給与所得にあたり、源泉徴収が必要です(所得税法 第183条第1項、所得税基本通達 23〜35共-2 ただし書)。本人が会社に扶養控除等申告書を出している場合は、税額表の乙欄で計算します。
月1万円や2万円の少額の手当でも税額は生じますか。
乙欄で計算する場合は生じます。2026年分の月額表の乙欄では、社会保険料等控除後の金額が105,000円未満のとき、その3.063%(1円未満切捨て)が税額です。月20,000円の手当なら612円になります。
組合大会に出席した一般組合員への日当も源泉徴収が必要ですか。
専従者ではない組合員が大会出席などのために受け取る日当は、原則として雑所得とされ、源泉徴収は不要です(所得税基本通達 23〜35共-2)。ただし、活動の状態や金額が専従者と大差ない場合や、定額の役員手当を受けている役員への休日の日当は給与として扱われます。
非専従役員の手当は組合で年末調整しますか。
しません。年末調整は扶養控除等申告書を受け取った支払者が行うもので(所得税法 第190条)、会社に申告書を出している非専従役員の手当は従たる給与になります。本人が確定申告で精算し、従たる給与と給与・退職所得以外の所得金額の合計が20万円以下などの場合は申告を要しません(所得税法 第121条第1項第2号)。
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