セールアンドリースバックの会計処理【仕訳例】金融取引と売却の3パターン
目次
- セールアンドリースバックの会計処理の全体像
- 金融取引として処理する場合の仕訳例
- 前提条件と判定
- 譲渡時と初年度の仕訳
- 売却に該当する場合の仕訳例
- 使用権資産とリース負債の算定
- 譲渡時の仕訳
- 利得の繰延を行わない理由とIFRS第16号との差異
- 譲渡対価が時価と異なる場合の調整
- 適用初年度の経過措置と繰延処理の継続
- セールアンドリースバック取引の注記
- 適用時期と仕訳を組む前の確認手順
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- セールアンドリースバックで売却益の全額を計上してよいのですか。
- 金融取引として処理する場合、譲渡した資産は貸借対照表から消えますか。
- 旧基準で繰り延べていた売却益は基準適用時に取り崩すのですか。
- 連結でIFRSを適用していれば個別財務諸表も同じ処理になりますか。
- セールアンドリースバックの会計処理はいつから適用されますか。
セールアンドリースバックの会計処理は、資産の譲渡が売却に該当するかどうかで大きく2つに分かれます。売却に該当しない場合は譲渡とリースバックを一体の取引とみて金融取引として処理し、売却に該当する場合は譲渡損益を全額認識したうえで、リースバックについて通常の借手の会計処理を行います(リースに関する会計基準の適用指針 第55項、第56項)。本稿では、この2パターンに適用初年度の経過措置を加えた3つの場面について、金額を置いた仕訳例と計算過程を示します。
セールアンドリースバックの会計処理の全体像
セールアンドリースバック取引とは、売手である借手が資産を買手である貸手に譲渡し、その資産を買手である貸手からリースする取引をいいます(リースに関する会計基準の適用指針 第53項)。譲渡とリースバックが一体で交渉されるため、譲渡損益をどの時点でいくら認識するかが実務上の最大の論点になります。
次の(1)または(2)のいずれかを満たすときは、譲渡とリースバックを一体の取引とみて金融取引として会計処理します(リースに関する会計基準の適用指針 第55項)。(1)は他の会計基準等に従うと資産の譲渡が損益を認識する売却に該当しない場合、(2)は売却には該当するものの、リースバックにより売手である借手が資産からもたらされる経済的利益のほとんどすべてを享受し、かつ資産の使用に伴って生じるコストのほとんどすべてを負担することとなる場合です。いずれも満たさないときは、譲渡について他の会計基準等に従い損益を認識し、リースバックについては通常の借手の会計処理を行います(リースに関する会計基準の適用指針 第56項)。
ここで押さえておきたいのは、日本基準では売却に該当すると判断した以上、譲渡損益を分割して一部を繰り延べる処理を行わない点です。以下では、この結論が仕訳の形でどう現れるかを順に確認します。
金融取引として処理する場合の仕訳例
前提条件と判定
帳簿価額800,000千円(取得価額1,600,000千円、減価償却累計額800,000千円は簡略化のため直接控除後の金額で示します)の機械装置を1,000,000千円で譲渡し、同じ機械装置を解約不能で残存耐用年数のほぼ全期間にわたりリースバックする取引を想定します。リースバックにより経済的利益のほとんどすべてを享受し、コストのほとんどすべてを負担するため、金融取引として会計処理します(リースに関する会計基準の適用指針 第55項(2))。リースバックの期間は機械装置の残存耐用年数と同じ8年(定額法・残存価額ゼロ)、取引に適用される利率は年3.0%とし、借手のリース料は期末払の年額で、8年間の支払額の現在価値が譲渡代金1,000,000千円と一致する水準に設定されているものとします。
金融取引として処理する場合、資産の認識は中止せず、受け取った譲渡代金は金融負債として計上します。したがって譲渡益は認識されず、機械装置の減価償却も従来どおり継続します。各期の支払額は、金融負債の期首残高に利率を乗じた利息部分と、残りの元本返済部分に区分します。
譲渡時と初年度の仕訳
譲渡時に受け取った1,000,000千円を長期借入金として計上し、初年度末にリース料142,456千円を支払い、あわせて機械装置の減価償却を行った場合の仕訳は次のとおりです(単位:千円)。資産の譲渡について損益を認識しない点が、この処理の要です(リースに関する会計基準の適用指針 第55項)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 1,000,000 | 長期借入金 | 1,000,000 |
| 支払利息 | 30,000 | 現金預金 | 142,456 |
| 長期借入金 | 112,456 | ||
| 減価償却費 | 100,000 | 機械装置 | 100,000 |
金融負債の科目は資金調達の実態に応じて長期未払金等を用いることもあります。いずれの科目を用いる場合でも、譲渡代金の受領が損益に影響せず、貸借対照表に機械装置と金融負債の双方が残る点は変わりません。
売却に該当する場合の仕訳例
使用権資産とリース負債の算定
帳簿価額800,000千円の建物を時価と同額の1,000,000千円で譲渡し、同じ建物を5年間リースバックする取引を想定します。リースバックの期間は建物の経済的耐用年数に比べて短く、経済的利益のほとんどすべてを享受する関係にはないため、金融取引の要件を満たしません。この場合、譲渡について他の会計基準等に従い損益を認識し、リースバックについては借手の会計処理を行います(リースに関する会計基準の適用指針 第56項)。
借手のリース料は年額60,000千円(期末払)、借手の追加借入利子率は年3.0%とします。リース負債は、リース開始日において未払である借手のリース料から利息相当額を控除した現在価値により算定します(リースに関する会計基準 第34項)。使用権資産は、このリース負債にリース開始日までに支払った借手のリース料や付随費用を加算した額で計上します(リースに関する会計基準 第33項)。本例では加算する項目がないため、両者は同額になります。
譲渡時の仕訳
譲渡時の仕訳は次のとおりです(単位:千円)。売却益200,000千円は、リースバックによって建物を引き続き使用するかどうかにかかわらず、譲渡時に全額を損益に計上します(リースに関する会計基準の適用指針 第56項)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 1,000,000 | 建物 | 800,000 |
| 固定資産売却益 | 200,000 | ||
| 使用権資産 | 274,782 | リース負債 | 274,782 |
翌期以降は、リース負債について利息相当額を原則として利息法により各期に配分し(リースに関する会計基準 第36項)、使用権資産について原則として借手のリース期間を耐用年数、残存価額をゼロとして減価償却を行います(リースに関する会計基準 第38項)。使用権資産の計上額や減価償却の考え方は、通常のリースと同じです。
関連コラムリース負債とは|当初測定・利息配分・再測定の実務(日本基準)▸
利得の繰延を行わない理由とIFRS第16号との差異
IFRS第16号では、資産の譲渡が売却に該当する場合でも、買手である貸手に移転した権利部分に係る利得のみを譲渡時に認識し、リースバックにより売手である借手が継続して保持する権利部分に係る利得は繰り延べることとされています(リースに関する会計基準の適用指針 BC91項)。日本基準はこの方法を採用せず、米国会計基準の定めを参考に、売却に該当すると判断した場合は譲渡損益を全額認識する取扱いとしました(リースに関する会計基準の適用指針 BC93項)。
その理由は2点です。第1に、他の会計基準等に従い損益を認識すると判断した以上、その損益を調整することは収益認識に関する会計基準などの考え方と整合しないためです。第2に、保持する権利部分の利得を繰り延べる方法は処理が複雑になるため、損益の調整に代えてセールアンドリースバック取引に関する注記を求めるほうが有用な情報の提供につながると考えられたためです(リースに関する会計基準の適用指針 BC93項)。
| 区分 | 売却に該当する場合の譲渡損益 |
|---|---|
| 日本基準(適用指針第33号) | 他の会計基準等に従い譲渡時に全額を認識し、繰延べは行わない |
| IFRS第16号 | 移転した権利部分に係る利得のみ認識し、保持する権利部分に係る利得は繰り延べる |
なお、この差異はIFRSを任意適用している企業にも影響します。連結財務諸表にIFRS第16号を適用していても、個別財務諸表には適用指針第33号の定めを適用するため、セールアンドリースバック取引については連結と個別で譲渡損益の金額が異なる可能性があります(リースに関する会計基準の適用指針 BC95項)。
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譲渡対価が時価と異なる場合の調整
売却に該当する場合において、資産の譲渡対価が明らかに時価ではないとき、または借手のリース料が明らかに市場のレートでのリース料ではないときは、譲渡損益が過大または過小に計上されることを避けるため、次の調整を行います(リースに関する会計基準の適用指針 第57項)。
- 譲渡対価が明らかに時価を下回る場合は、時価を用いて譲渡損益を認識し、譲渡対価と時価との差額を使用権資産の取得価額に含めます。
- 借手のリース料が明らかに市場のレートを下回る場合は、その差額について譲渡対価を増額したうえで譲渡損益を認識し、当該差額を使用権資産の取得価額に含めます。
- 譲渡対価が明らかに時価を上回る場合は、時価を用いて譲渡損益を認識し、譲渡対価と時価との差額を金融取引として会計処理します。
- 借手のリース料が明らかに市場のレートを上回る場合は、その差額について譲渡対価を減額したうえで譲渡損益を認識し、当該差額を金融取引として会計処理します。
明らかに時価ではないかどうかの判定は、資産の時価と市場のレートでのリース料のうち、容易に算定できる方を基礎として行います(リースに関する会計基準の適用指針 第57項)。先の設例で譲渡対価が1,000,000千円、時価が1,100,000千円であった場合は、売却益は300,000千円となり、差額100,000千円を使用権資産の取得価額に加算するため、使用権資産は374,782千円になります。
実務では譲渡対価が時価、借手のリース料が市場のレートであることが多く、この調整が必要になる場面は限定的と考えられています(リースに関する会計基準の適用指針 BC96項)。もっとも、グループ内での資産移転など価格設定に裁量が働く取引では、時価と市場のレートの双方を資料で裏づけておく必要があります。
適用初年度の経過措置と繰延処理の継続
適用初年度の期首より前に締結されたセールアンドリースバック取引については、譲渡が売却に該当するかどうかの判断を見直すことは行わず、譲渡対価が明らかに時価ではない場合等の調整も適用しません。リースバックは、適用初年度の期首時点に存在する他のリースと同様に会計処理します(リースに関する会計基準の適用指針 第126項(1)から(3))。
特に重要なのが、旧基準で繰り延べていた売却損益の扱いです。企業会計基準第13号の定めにより売却損益を長期前払費用または長期前受収益等として繰延処理していた場合、新基準の適用後も当該取扱いを継続し、使用権資産の減価償却費の割合に応じて減価償却費に加減して損益に計上します(リースに関する会計基準の適用指針 第126項(4))。つまり、新規取引では繰延べを行わない一方、過去の取引については繰延べが残り続けることになります。
適用初年度の期首における長期前受収益の残高が60,000千円、同時点の使用権資産の帳簿価額が240,000千円、残存する借手のリース期間が4年(定額法)である場合を想定します(単位:千円)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 減価償却費 | 60,000 | 使用権資産 | 60,000 |
| 長期前受収益 | 15,000 | 減価償却費 | 15,000 |
取崩額を減価償却費に加減する形で処理するため、損益計算書上は減価償却費が45,000千円に圧縮されます。繰延処理を継続する取引と新基準で新たに生じる取引とで損益の見え方が異なるため、台帳上で両者を区分して管理しておくことが実務上の負担を減らします。
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セールアンドリースバック取引の注記
日本基準では譲渡損益の調整を行わない代わりに、取引の内容を注記で開示することが求められます(リースに関する会計基準の適用指針 第101項(1))。注記すべき事項は処理の区分ごとに次のとおりです。
| 売却損益を損益計算書で 区分表示していない場合 |
当該売却損益が含まれる科目及び金額 |
|---|---|
| 金融取引として 処理した場合 |
当該会計処理を行った資産がある旨並びに当該資産の科目及び金額 |
| 売却として 処理した場合 |
当該セールアンドリースバック取引の主要な条件 |
金融取引として処理した場合は、貸借対照表上は通常の固定資産と借入金に見えるため、注記がなければ読者は取引の存在を把握できません。売却として処理した場合の「主要な条件」には、譲渡した資産の内容、譲渡時期、リースバックの期間や借手のリース料の水準など、譲渡損益の金額を理解するために必要な情報を記載することになります。
関連コラムセールアンドリースバックの税務|金銭の貸借とされる要件と会計の差異▸
適用時期と仕訳を組む前の確認手順
リースに関する会計基準は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されます。ただし、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することができます(リースに関する会計基準 第58項)。2026年9月時点では強制適用の前であり、早期適用を選択した企業を除いて、これから適用を迎える基準です。
仕訳を組む前には、次の順序で事実を確定させると判断がぶれません。第1に、リースバックの対象資産が譲渡した資産と同一かを確認します。建設工事請負契約に伴う譲渡など、一定の期間にわたり充足される履行義務の充足によって行われる譲渡は、そもそもセールアンドリースバック取引に該当しません(リースに関する会計基準の適用指針 第53項)。第2に、資産を移転する前に売手である借手が支配を獲得していたかを確認します。支配を獲得していない場合は、リースとしてのみ会計処理します(リースに関する会計基準の適用指針 第54項)。
第3に、他の会計基準等に従って譲渡が売却に該当するかを判断し、第4に、売却に該当する場合でもリースバックが経済的利益とコストのほとんどすべてを負担する内容になっていないかを確認します。第4段階の判定に明示的な数値基準は置かれていませんが、貸手のリースの分類で用いる現在価値基準や経済的耐用年数基準を援用する場合は、借手のリース期間と借手のリース料をもとに判定することが考えられます(リースに関する会計基準の適用指針 BC94項)。
関連コラム新リース会計基準の仕訳|借手・貸手の数値例と再測定▸
まとめ
セールアンドリースバックの会計処理は、金融取引として処理する場合には譲渡代金を金融負債として計上し資産の認識を中止せず、売却に該当する場合には譲渡損益を全額認識したうえで使用権資産とリース負債を計上します。IFRS第16号のような利得の繰延べは行わず、代わりに注記で取引の内容を開示する構成が日本基準の特徴です。一方、適用初年度の期首より前に締結した取引で旧基準の繰延処理を行っていた場合は、その処理を継続し、使用権資産の減価償却費の割合に応じて取り崩します。判定結果によって損益計算書の姿が大きく変わるため、取引の実行前に会計処理の帰結まで見通しておくことが重要です。個別のケースでの判定や注記の文言については、公認会計士へのご相談をおすすめします。
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よくある質問
セールアンドリースバックで売却益の全額を計上してよいのですか。
資産の譲渡が他の会計基準等に従い損益を認識する売却に該当し、かつリースバックにより経済的利益とコストのほとんどすべてを負担する関係にない場合は、譲渡損益を譲渡時に全額認識します(リースに関する会計基準の適用指針 第56項)。日本基準ではIFRS第16号のような利得の繰延べを行いません(リースに関する会計基準の適用指針 BC93項)。
金融取引として処理する場合、譲渡した資産は貸借対照表から消えますか。
消えません。譲渡とリースバックを一体の取引とみるため、資産の認識を中止せず、受け取った譲渡代金を金融負債として計上します。減価償却も従来どおり継続し、支払額は利息部分と元本返済部分に区分します(リースに関する会計基準の適用指針 第55項)。
旧基準で繰り延べていた売却益は基準適用時に取り崩すのですか。
一括して取り崩すのではなく、従来の取扱いを継続します。企業会計基準第13号の定めにより長期前払費用または長期前受収益等として繰延処理していた場合は、使用権資産の減価償却費の割合に応じて減価償却費に加減して損益に計上します(リースに関する会計基準の適用指針 第126項(4))。
連結でIFRSを適用していれば個別財務諸表も同じ処理になりますか。
なりません。IFRSを任意適用している企業であっても、個別財務諸表にはリースに関する会計基準及び適用指針の定めを適用します。そのため、セールアンドリースバック取引の譲渡損益は連結と個別で異なる金額になることがあります(リースに関する会計基準の適用指針 BC95項)。
セールアンドリースバックの会計処理はいつから適用されますか。
リースに関する会計基準は2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用され、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からの早期適用が認められています(リースに関する会計基準 第58項)。
本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。




