セールアンドリースバックは、保有資産を売却して資金を調達しながら、その資産を引き続き使い続ける取引です。新リース会計基準では、この取引を会計上どう処理するかが整理された一方で、法人税法上の取扱いは会計基準とは別の基準で判定されます。会計上は売却として損益を認識したのに、税務上は売買がなかったものとされる、という食い違いが起こり得ます。
この記事では、会計上の売却判定と税務上の「金銭の貸借」判定がどこで分かれるのか、その組合せごとに何が論点になるのかを、原典の条項・条文に沿って整理します。会計処理そのものの詳細ではなく、会計と税務の差異をどう見つけ、どう備えるかに焦点を当てます。
会計と税務で判定が分かれる理由
セールアンドリースバック取引とは、売手である借手が資産を買手である貸手に譲渡し、売手である借手が買手である貸手から当該資産をリースする取引をいいます(リースに関する会計基準の適用指針 第4項(11))。譲渡とリースバックは形式上は別個の契約ですが、実態としては一体で交渉されることが多く、その経済実態をどう評価するかが会計・税務いずれの論点にもなります。
ここで重要なのは、会計と税務がまったく異なる判定軸を採っている点です。会計は「資産に対する支配が買手に移転したか」「リースバックにより売手が経済的利益とコストのほとんどすべてを負い続けるか」を見ます。これに対して税務は「一連の取引が実質的に金銭の貸借であると認められるか」、より具体的には「その資産を担保とする金融取引を行うことを目的とするものであるかどうか」を見ます。
出発点が違う以上、結論が一致する保証はありません。実務では、契約を締結してから決算で初めて差異に気づき、申告調整の要否と税効果の処理を慌てて検討する、という事態が起こりがちです。取引の設計段階で両方の判定を並行して行うことが、実務上の最初のポイントになります。
新リース会計基準における売却の判定
まず会計側を確認します。リースバックが行われる場合であっても、売手である借手による資産の譲渡が、収益認識に関する会計基準に従い一定の期間にわたり充足される履行義務の充足によって行われるとき、または収益認識に関する会計基準の適用指針 第95項を適用して工事契約における収益を完全に履行義務を充足した時点で認識することを選択するときは、そもそもセールアンドリースバック取引に該当しません(リースに関する会計基準の適用指針 第53項)。また、売手である借手が原資産を移転する前に原資産に対する支配を獲得しない場合は、当該資産の移転と関連するリースバックについてはリースとして会計処理を行います(リースに関する会計基準の適用指針 第54項)。
セールアンドリースバック取引に該当する場合、次のいずれかを満たすときは、資産の譲渡とリースバックを一体の取引とみて金融取引として会計処理を行います(リースに関する会計基準の適用指針 第55項)。
- 収益認識に関する会計基準などの他の会計基準等に従うと、売手である借手による資産の譲渡が損益を認識する売却に該当しない場合
- 資産の譲渡が損益を認識する売却に該当するものの、リースバックにより、売手である借手が資産からもたらされる経済的利益のほとんどすべてを享受することができ、かつ、資産の使用に伴って生じるコストのほとんどすべてを負担することとなる場合
この2つのいずれも満たさないときは、資産の譲渡について収益認識に関する会計基準などの他の会計基準等に従い損益を認識し、リースバックについては借手の会計処理を行います(リースに関する会計基準の適用指針 第56項)。
金融取引として処理する場合の譲渡時の仕訳は、次のようになります。帳簿価額800,000千円の建物を1,000,000千円で譲渡し、同時にリースバックした自社作例です(単位:千円。リースに関する会計基準の適用指針 第55項)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 1,000,000 | 長期借入金 | 1,000,000 |
建物は引き続き自社の資産として貸借対照表に残り、売却損益は認識しません。受け取った譲渡代金は金融負債として計上され、その後のリース料の支払は元本の返済と支払利息に区分して処理します。
これに対して、売却として損益を認識する場合の譲渡時の仕訳は次のとおりです(同じ前提。単位:千円。リースに関する会計基準の適用指針 第56項)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 1,000,000 | 建物 | 800,000 |
| 固定資産売却益 | 200,000 |
この場合、建物は貸借対照表から除かれ、代わりにリースバックについて使用権資産とリース負債を計上します。なお、資産の譲渡対価が明らかに時価ではない場合や借手のリース料が明らかに市場のレートでのリース料ではない場合には、時価または市場のレートを用いて譲渡損益を認識し、差額を使用権資産の取得価額に含めるか金融取引として処理する調整が必要になります(リースに関する会計基準の適用指針 第57項)。
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法人税法上のセールアンドリースバックの取扱い
リース取引は売買があったものとされるのが原則
法人税法上、内国法人がリース取引を行った場合には、そのリース取引の目的となる資産の賃貸人から賃借人への引渡しの時に当該資産の売買があったものとして所得の金額を計算します(法人税法 第64条の2第1項)。ここでいうリース取引とは、資産の賃貸借のうち、契約が賃貸借期間の中途において解除をすることができないものであること、または賃借人が資産からもたらされる経済的な利益を実質的に享受することができ、かつ、資産の使用に伴って生ずる費用を実質的に負担すべきこととされているものであること、という要件に該当するものをいいます(法人税法 第64条の2第3項)。
なお、この「資産の賃貸借」には、民法第601条の規定により効力を生ずることとなる契約に基づく行為のほか、資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する行為も含まれます(法人税基本通達 12の5-1-1)。使用権という考え方が税務側の通達にも取り込まれており、新リース会計基準の考え方と接続する部分です。
金銭の貸借とされる場合
セールアンドリースバックについては、これとは別の定めが置かれています。内国法人が譲受人から譲渡人に対する賃貸(リース取引に該当するものに限る)を条件に資産の売買を行った場合において、当該資産の種類、当該売買及び賃貸に至るまでの事情その他の状況に照らし、これら一連の取引が実質的に金銭の貸借であると認められるときは、当該資産の売買はなかったものとし、かつ、当該譲受人から当該譲渡人に対する金銭の貸付けがあったものとして所得の金額を計算します(法人税法 第64条の2第2項)。
つまり税務上は、売買そのものが存在しなかったものとして扱われます。譲渡した資産は引き続き譲渡人の税務上の資産であり、売却損益も生じません。
判定の考え方と該当しない例
この「実質的に金銭の貸借であると認められるとき」に該当するかどうかは、取引当事者の意図、その資産の内容等から、その資産を担保とする金融取引を行うことを目的とするものであるかどうかにより判定します(法人税基本通達 12の5-2-1)。同通達では、次のようなものは該当しないものとされています。
| 譲渡人が譲受人に 代わり資産を購入する場合 |
譲渡人が資産を購入し、リース契約により賃借するために譲受人に譲渡する場合で、譲渡人が譲受人に代わり購入することに相当な理由があり、かつ、立替金・仮払金等の仮勘定で経理し、譲渡人の購入価額により譲受人に譲渡するもの |
|---|---|
| 管理事務の省力化等の ために行われる場合 |
法人が事業の用に供している資産について、当該資産の管理事務の省力化等のために行われるもの |
前者の「相当な理由」としては、多種類の資産を導入する必要があるため譲渡人において購入した方が事務の効率化が図られること、輸入機器のように通関事務等に専門的知識が必要とされること、既往の取引状況に照らし譲渡人が購入した方が安く購入できること、が例示されています(法人税基本通達 12の5-2-1)。いずれも資金調達を目的としていない取引であり、担保金融としての実質がない点が共通しています。
会計と税務の判定軸の対比
ここまでの内容を判定軸として並べると、両者の違いがはっきりします。
| 会計上の判定 | 税務上の判定 |
|---|---|
| 資産の譲渡が損益を認識する売却に該当するかを、収益認識に関する会計基準などの他の会計基準等に従って判断する | 一連の取引が実質的に金銭の貸借であると認められるかを、資産の種類や売買及び賃貸に至るまでの事情その他の状況に照らして判断する |
| 売却に該当する場合でも、リースバックにより経済的利益とコストのほとんどすべてを売手が負うときは金融取引として処理する | 取引当事者の意図や資産の内容等から、その資産を担保とする金融取引を行うことを目的とするものであるかどうかにより判定する |
| 根拠はリースに関する会計基準の適用指針 第53項から第57項 | 根拠は法人税法 第64条の2第2項および法人税基本通達 12の5-2-1 |
会計は「支配の移転」と「経済的利益・コストの帰属」という、当事者の主観に依存しない要素を軸にしています。一方で税務は「取引当事者の意図」を明示的に判定要素に含めており、何のためにこの取引を行うのかという目的が結論を左右します。ここが最大の相違点です。
この結果、判定の組合せは次の4通りが生じ得ます。
| 会計=売却/ 税務=売買 |
会計上の売却損益と税務上の譲渡損益がおおむね対応し、申告調整は限定的になります。もっとも、使用権資産の償却費とリース資産の償却限度額の差異は別途生じます |
|---|---|
| 会計=売却/ 税務=金銭の貸借 |
最も差異が大きい組合せです。会計上は売却損益を認識する一方、税務上は売買がなかったものとされるため、売却損益は所得計算に反映されません |
| 会計=金融取引/ 税務=売買 |
会計上は資産が残り金融負債が計上される一方、税務上はリース譲渡として売買があったものとされます。資産の帳簿価額と償却の取扱いに差異が生じます |
| 会計=金融取引/ 税務=金銭の貸借 |
両者の結論が最も近い組合せです。会計・税務いずれも資産が譲渡人に残り、受入額が負債として扱われます |
資金調達を主目的とする典型的なセールアンドリースバックでは、会計上も金融取引、税務上も金銭の貸借となり、差異は小さく収まることが多いといえます。実務で注意が必要なのは、資金調達目的ではない取引や、リースバック後のリスク負担が限定的な取引で、会計と税務の結論が分かれるケースです。
税務上金銭の貸借とされる場合の譲渡人の処理
法人税法 第64条の2第2項の規定の適用がある場合、その資産の売買により譲渡人が譲受人から受け入れた金額は借入金の額として取り扱われ、譲渡人のリース期間中のリース料の額の合計額のうちその借入金の額に相当する金額については、当該借入金の返済をすべき金額として取り扱われます(法人税基本通達 12の5-2-2)。
各事業年度のリース料の額に係る元本返済額とそれ以外の金額との区分は、通常の金融取引における元本と利息の区分計算の方法に準じて合理的に行います。ただし、譲渡人がリース料の額のうちに元本返済額が均等に含まれているものとして処理しているときは、これが認められます(法人税基本通達 12の5-2-2)。
したがって、会計上は売却として処理し、税務上は金銭の貸借とされる場合には、会計上計上した固定資産売却益は税務上の所得を構成しません。また、税務上は譲渡した資産が引き続き自社の減価償却資産として残るため、償却費の計算も会計とは別に行うことになります。会計上のリース料の処理と税務上の元本返済額・利息の区分も一致しないため、差異は譲渡年度だけでなくリース期間全体にわたって継続します。この将来にわたる差異は、税効果会計の対象として一時差異の把握が必要になる点にも留意が必要です。
実務上の留意点
会計と税務の差異を後追いで発見しないために、実務では次の3点を意識しておくと安全です。
第一に、契約の設計段階で両方の判定を並行して行うことです。税務の判定は「取引当事者の意図」を要素に含むため、稟議書・取締役会資料・契約交渉の経緯といった社内文書に、その取引を行う目的がどう記録されているかが実質的な証跡になります。資金調達が目的なのか、管理事務の省力化が目的なのかを、後から説明できる形で残しておくことが重要です。
第二に、差異が生じる場合はリース期間全体の影響を試算しておくことです。売却損益の取扱いが分かれる場合、影響は譲渡年度で完結せず、その後の償却費・リース料の処理を通じて毎期継続します。譲渡年度の一時的な調整として捉えると、翌期以降の申告で漏れが生じます。
第三に、新リース会計基準の適用スケジュールを踏まえて前倒しで検討することです。リースに関する会計基準は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されますが、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することもできます(リースに関する会計基準 第58項)。なお、同基準および適用指針については2025年4月23日に修正が公表されていますが、この修正は会計処理及び開示に関する定めを実質的に変更するものではありません。既存のセールアンドリースバック契約について、適用初年度にどの取扱いを選択するかは経過措置の定めによるため、契約一覧の棚卸しを早めに行っておくことが実務上有効です。
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セールアンドリースバックは、対象資産の性質・取引の目的・契約条件によって会計と税務の結論が入れ替わる取引です。判定は個別性が高いため、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
まとめ
セールアンドリースバックの会計と税務は、それぞれ別の判定軸で結論が決まります。会計は資産の支配の移転と経済的利益・コストの帰属で売却か金融取引かを判定し(リースに関する会計基準の適用指針 第53項から第56項)、税務は一連の取引が実質的に金銭の貸借であるかどうか、すなわち資産を担保とする金融取引を目的とするかどうかで判定します(法人税法 第64条の2第2項、法人税基本通達 12の5-2-1)。
両者が一致しない場合、会計上の売却損益が税務上の所得に反映されない、資産が税務上だけ残る、といった差異が生じ、その影響はリース期間全体に及びます。取引の設計段階で両方の判定を行い、目的を説明できる資料を残しておくことが、新リース会計基準の適用に向けた最も実効性の高い準備といえます。
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- 企業会計基準委員会 企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
- 企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第33号 リースに関する会計基準の適用指針
- e-Gov法令検索 法人税法
- 国税庁 第1款 金銭の貸借とされるリース取引の判定
- 国税庁 第2款 譲渡人の処理
- 国税庁 No.5702 リース取引についての取扱いの概要(平成20年4月1日以後契約分)
よくある質問
セールアンドリースバックの会計と税務の処理は必ず一致しますか。
一致するとは限りません。会計は資産の譲渡が損益を認識する売却に該当するか、リースバックにより経済的利益とコストのほとんどすべてを売手が負うかで判定します(リースに関する会計基準の適用指針 第55項、第56項)。税務は一連の取引が実質的に金銭の貸借であると認められるかで判定します(法人税法 第64条の2第2項)。判定軸が異なるため、結論が分かれる場合があります。
税務上「金銭の貸借」とされるのはどのような場合ですか。
取引当事者の意図、その資産の内容等から、その資産を担保とする金融取引を行うことを目的とするものであるかどうかにより判定します(法人税基本通達 12の5-2-1)。資金調達を目的として保有資産を譲渡し、そのまま使い続けるような取引が典型例です。該当する場合、資産の売買はなかったものとされ、譲受人から譲渡人への金銭の貸付けがあったものとして所得を計算します(法人税法 第64条の2第2項)。
会計上は売却、税務上は金銭の貸借となった場合、どのような調整が必要ですか。
税務上は売買がなかったものとされるため、会計上計上した売却損益は所得計算に反映されません。譲渡人が受け入れた金額は借入金の額として取り扱われ、リース料のうち借入金の額に相当する金額は返済すべき金額として扱われます(法人税基本通達 12の5-2-2)。資産が税務上は残ることから、償却費の計算も会計と分けて行う必要があり、差異はリース期間全体にわたって継続します。
事務効率化のために資産を購入して譲渡した場合も金銭の貸借になりますか。
該当しないものとされています。法人が事業の用に供している資産について管理事務の省力化等のために行われるものや、譲渡人が譲受人に代わり資産を購入することに相当な理由があり、立替金・仮払金等の仮勘定で経理して購入価額により譲受人に譲渡するものは、金銭の貸借とされるリース取引に該当しないものとされています(法人税基本通達 12の5-2-1)。
新リース会計基準はいつからセールアンドリースバックに適用されますか。
リースに関する会計基準は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されます。ただし、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することもできます(リースに関する会計基準 第58項)。適用初年度の期首より前に締結されたセールアンドリースバック取引については、経過措置の定めが置かれています(リースに関する会計基準の適用指針 第126項)。