東京プロマーケットと監査法人【一覧表】一般市場との開示・監査義務の違い
目次
- 東京プロマーケットの法律上の位置づけ
- 一般市場との監査・開示義務の違い【一覧表】
- 上場前後に求められる情報の提供と公表
- 特定証券情報(勧誘の時点)
- 発行者情報(事業年度ごと)
- 内容と方法は取引所の規則に委ねられる
- 会社法上の会計監査人との関係
- 監査法人へ相談する前に確認したい5項目
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- 東京プロマーケットに上場すると、有価証券報告書の提出は必要ですか。
- 内部統制報告書とその監査証明も不要になりますか。
- 上場の助言者に関する要件は、金融商品取引法のどこに書かれていますか。
- 東京プロマーケットに上場していれば、会社法上の会計監査人は不要ですか。
- 特定投資家向け有価証券を一般の投資家へ売ることはできますか。
東京プロマーケットへの上場を検討するとき、最初に整理しておきたいのは「金融商品取引法が直接求める義務」と「取引所の規則が定める要件」の線引きです。東京プロマーケットに上場する株式は金融商品取引法上の特定上場有価証券に当たり、有価証券報告書や内部統制報告書の提出義務が条文の側で外れています。一方で、事業年度ごとの情報開示は法律上の義務として残り、その中身と方法は取引所の規則に委ねられています。
この記事では、東京プロマーケットと一般市場(本則市場やグロース市場など)で、監査法人の関与と情報開示の義務がどう違うかを一覧表に整理します。あわせて、会社法上の会計監査人の設置義務との関係、監査法人へ相談する前に社内で確認しておきたい項目まで取り上げます。なお、上場審査の基準や継続的な上場維持の要件は取引所の規則で定まるため、本記事では条文で確認できる範囲に絞って整理しています。
東京プロマーケットの法律上の位置づけ
金融商品取引所は、業務規程の定めるところにより、その開設する市場ごとに、特定投資家等以外の者からの委託を受けて行う有価証券の買付けを禁止することができます(金融商品取引法 第117条の2第1項)。この禁止が及んでいる市場が特定取引所金融商品市場であり、そこにのみ上場されている有価証券が特定上場有価証券です(金融商品取引法 第2条第32項、第33項)。東京プロマーケットは、この特定取引所金融商品市場として運営されている市場に当たります。
買い手となる特定投資家は、適格機関投資家、国、日本銀行のほか、政令で定める法人などが含まれます(金融商品取引法 第2条第31項)。区分の枠組みは次のとおりです。
| 一般投資家へ 移行できない者 |
適格機関投資家、国、日本銀行 |
|---|---|
| 原則として特定投資家 (申出により移行可) |
上場会社、資本金の額が5億円以上と見込まれる株式会社、金融商品取引業者などの法人 |
| 原則として一般投資家 (申出により移行可) |
上記以外の法人、および一定の要件を満たす個人 |
買い手が絞られることは、そのまま開示規制の設計にも反映されています。特定投資家のみを相手方とする取得勧誘は特定投資家向け取得勧誘と呼ばれ、これを経た有価証券は特定投資家向け有価証券に当たります(金融商品取引法 第2条第3項第2号ロ、第4条第3項第1号)。特定投資家向け有価証券を一般投資家へ広く売り付ける勧誘を行う場合には、改めて内閣総理大臣への届出が必要になります(金融商品取引法 第4条第3項)。プロの投資家に閉じている限り発行開示の負担を軽くし、一般投資家へ流れる局面で通常の規制に戻す、という構造です。
一般市場との監査・開示義務の違い【一覧表】
金融商品取引法が直接求める義務を市場別に並べると、違いは次のように整理できます。東京プロマーケットについては、いずれも特定上場有価証券に当たることを前提としています。
| 有価証券報告書 の提出 |
一般市場は事業年度ごとに提出が必要。東京プロマーケットは、提出義務の対象が「特定上場有価証券を除く」上場有価証券とされているため対象外(金融商品取引法 第24条第1項第1号) |
|---|---|
| 内部統制報告書 の提出 |
一般市場は有価証券報告書と併せて提出が必要。東京プロマーケットは、そもそも有価証券報告書の提出義務がないため対象外(金融商品取引法 第24条の4の4第1項) |
| 金融商品取引法に基づく 監査証明 |
一般市場は、法律により提出する財務計算に関する書類に公認会計士または監査法人の監査証明が必要。東京プロマーケットは同項が対象とする提出書類がないため、法律上の義務としては生じない(金融商品取引法 第193条の2第1項) |
| 事業年度ごとの 継続的な情報開示 |
いずれも必要。東京プロマーケットでは発行者情報を事業年度ごとに1回以上、提供または公表する(金融商品取引法 第27条の32第1項) |
| 開示する内容と 方法を定めるもの |
一般市場は内閣府令。東京プロマーケットは取引所の規則(金融商品取引法 第117条の2第2項第2号、特定証券情報等の提供又は公表に関する内閣府令 第7条第2項第1号) |
表の最後の行が、東京プロマーケットを理解するうえでの要点です。開示の枠組み自体は法律で義務づけられている一方で、「何を、どこまで、どのような形で開示するか」は取引所の規則に委ねられているため、監査法人にどこまで関与してもらうかも、法律の条文だけを読んでも確定しません。制度の骨格は条文で押さえ、具体的な水準は取引所の規則で確認する、という二段構えが必要になります。
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上場前後に求められる情報の提供と公表
金融商品取引法は、特定上場有価証券について2種類の情報を定めています。上場や勧誘の局面で出す特定証券情報と、上場後に毎期出す発行者情報です。
特定証券情報(勧誘の時点)
特定投資家向け取得勧誘などを行う場合、発行者は、その有価証券および発行者に関して投資者に明らかにされるべき基本的な情報を、勧誘が行われる時までに相手方へ提供するか、公表していなければなりません(金融商品取引法 第27条の31第1項)。提供または公表は、内閣府令で定めるところにより、自ら行うか他の者に委託して行うか、インターネットの利用その他の方法によります(金融商品取引法 第27条の31第2項)。
この特定証券情報には、有価証券に関する事項に加えて、発行者の事業および経理に関する事項が含まれるものとされています(特定証券情報等の提供又は公表に関する内閣府令 第2条第2項第1号)。経理に関する事項が明文で求められている以上、財務諸表の作成体制は上場前の段階から論点になります。
発行者情報(事業年度ごと)
特定投資家向け有価証券の発行者は、発行者に関する情報を事業年度ごとに1回以上、その有価証券を所有する者に提供するか、公表しなければなりません(金融商品取引法 第27条の32第1項)。公表した場合には、翌事業年度に係る発行者情報を提供または公表する日までの間、継続して公表し続ける義務も負います(金融商品取引法 第27条の32第4項)。訂正すべき事項があるときは、訂正発行者情報を提供または公表します(金融商品取引法 第27条の32第3項)。
発行者情報にも、発行者の事業および経理に関する事項が含まれます(特定証券情報等の提供又は公表に関する内閣府令 第7条第3項第1号ハ)。有価証券報告書の提出義務がないことをもって「決算開示が不要になる」と読むのは誤りで、提出先と様式が変わるだけで、毎期の決算開示そのものは法律上の義務として残っているという理解が正確です。
内容と方法は取引所の規則に委ねられる
特定証券情報・発行者情報のいずれについても、特定上場有価証券に関して定める内閣府令は、その内容と公表の方法を、市場を開設する金融商品取引所の定める規則によるものとしています(特定証券情報等の提供又は公表に関する内閣府令 第2条第1項第1号、第3条第1号、第7条第1項第1号、第2項第1号)。金融商品取引法の側でも、一般投資家等買付けを禁止する市場については、特定上場有価証券の発行者が提供・公表すべき特定証券情報および発行者情報の内容・方法・時期を業務規程に定めなければならないとされています(金融商品取引法 第117条の2第2項第2号)。
したがって、財務諸表に監査を受ける範囲、対象となる事業年度、提出の期限といった実務上の水準は、法律ではなく取引所の規則の側で確定します。上場を担う助言者の要件についても金融商品取引法および同内閣府令には規定がないため、規則の本文で確認する必要があります。監査法人へ見積りを依頼する前に、この点を社内で共有しておくと話が早く進みます。
会社法上の会計監査人との関係
ここまでは金融商品取引法の話でしたが、会社法上の会計監査人の設置義務は、上場する市場とは別の基準で決まります。大会社は会計監査人を置かなければならず、大会社とは、最終事業年度に係る貸借対照表に資本金として計上した額が5億円以上であるか、負債の部に計上した額の合計額が200億円以上である株式会社をいいます(会社法 第2条第6号、第328条第1項、第2項)。
会計監査人は、計算書類およびその附属明細書、臨時計算書類ならびに連結計算書類を監査し、会計監査報告を作成します(会社法 第396条第1項)。つまり、東京プロマーケットに上場していても大会社に当たらなければ会社法上の設置義務は生じず、逆に一般市場に上場していなくても大会社に当たれば設置義務が生じます。市場の区分と会社法上の義務は連動しないという点は、社内で混同されやすいところです。
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また、日本公認会計士協会による上場会社等監査人名簿への登録を受けなければ行えないのは、金融商品取引法第193条の2第1項および第2項に規定する監査証明に係る業務です(公認会計士法 第34条の34の2)。東京プロマーケットでは同項が対象とする提出書類が生じないため、登録の要否は依頼する業務の中身によって変わります。監査法人を選ぶ段階で、依頼する業務が法令上のどの監査証明に当たるのかを確認しておくと、後から範囲の認識がずれる事態を避けられます。
監査法人へ相談する前に確認したい5項目
実務では、監査法人への打診が空振りする原因の多くが、依頼側の前提が固まっていないことにあります。次の5項目を社内で先に整理しておくと、初回の面談から具体的な話に進めます。
- 依頼する業務の性格。取引所の規則に基づく監査なのか、会社法上の会計監査人としての監査なのか、上場準備の助言なのかを分けて書き出します。
- 対象とする事業年度。どの期の財務諸表から監査を受けるのかを、上場を目指す時期から逆算して仮置きします。
- 会社法上の区分。直近の貸借対照表で資本金の額と負債の合計額を確認し、大会社に当たるかを判定します(会社法 第2条第6号)。
- 連結の範囲。子会社・関連会社の有無と、決算日のずれの有無を一覧にします。監査工数の見積りに最も影響します。
- 決算体制の現状。月次決算の締め日数、経理担当者の人数、会計システム、過年度の決算修正の有無を記録します。
特に、対象事業年度の仮置きは早い段階で行う価値があります。過去の事業年度に遡って監査を受けようとすると、証憑の保存状況や在庫の実地棚卸の記録が制約になり、あとから手当てできない場面が出てくるためです。
なお、市場の選択や監査の範囲は個別の事情で判断が分かれるため、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
まとめ
東京プロマーケットに上場する株式は特定上場有価証券に当たり、有価証券報告書と内部統制報告書の提出義務は条文上の対象から外れています(金融商品取引法 第2条第33項、第24条第1項第1号、第24条の4の4第1項)。一方で、特定証券情報と発行者情報による開示は法律上の義務として残り、発行者情報は事業年度ごとに1回以上の提供または公表が求められます(金融商品取引法 第27条の31第1項、第27条の32第1項)。
そのうえで、開示の中身と方法は取引所の規則に委ねられており(特定証券情報等の提供又は公表に関する内閣府令 第2条第1項第1号、第7条第2項第1号)、会社法上の会計監査人の設置義務は資本金と負債の規模で別に判定されます(会社法 第2条第6号、第328条)。法律・内閣府令・取引所規則・会社法の4つの層を分けて押さえることが、監査法人との実務的な会話の出発点になります。
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よくある質問
東京プロマーケットに上場すると、有価証券報告書の提出は必要ですか。
特定上場有価証券に当たる限り、必要ありません。有価証券報告書の提出義務の対象は「金融商品取引所に上場されている有価証券(特定上場有価証券を除く。)」と定められており、特定取引所金融商品市場にのみ上場されている有価証券は条文上の対象から除かれています(金融商品取引法 第2条第33項、第24条第1項第1号)。ただし、事業年度ごとに発行者情報を提供または公表する義務は別に課されています(金融商品取引法 第27条の32第1項)。
内部統制報告書とその監査証明も不要になりますか。
金融商品取引法上は不要です。内部統制報告書の提出義務は、有価証券報告書を提出しなければならない会社のうち一定のものに課される仕組みであり、有価証券報告書の提出義務がなければ発生しません(金融商品取引法 第24条の4の4第1項)。内部統制報告書に対する監査証明も、同報告書の提出を前提とする規定です(金融商品取引法 第193条の2第2項)。
上場の助言者に関する要件は、金融商品取引法のどこに書かれていますか。
金融商品取引法および特定証券情報等の提供又は公表に関する内閣府令には規定がありません。特定上場有価証券について提供・公表すべき情報の内容、方法および時期は、市場を開設する金融商品取引所が業務規程に定めることとされており(金融商品取引法 第117条の2第2項第2号、特定証券情報等の提供又は公表に関する内閣府令 第7条第2項第1号)、関連する要件は取引所の規則の本文で確認する必要があります。
東京プロマーケットに上場していれば、会社法上の会計監査人は不要ですか。
市場の区分では決まりません。会社法上の設置義務は、最終事業年度に係る貸借対照表の資本金の額が5億円以上であるか、負債の部の合計額が200億円以上であるかという大会社の基準で判定されます(会社法 第2条第6号、第328条第1項、第2項)。上場している市場にかかわらず、大会社に当たれば会計監査人を置かなければなりません。
特定投資家向け有価証券を一般の投資家へ売ることはできますか。
原則として、発行者が内閣総理大臣に届出をしていなければ行えません。特定投資家向け有価証券について、金融商品取引業者等に委託して特定投資家等に対して行うもの以外の交付の勧誘は、届出を要する特定投資家等取得有価証券一般勧誘に当たります(金融商品取引法 第4条第3項)。プロの投資家の間で流通させることを前提に開示規制が軽くなっている以上、一般投資家へ広げる局面では通常の規制に戻る、という設計です。
本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。



