その他資本剰余金のマイナス|自己株式処分差損の期末振替と仕訳
目次
- 結論と期末振替の計算例
- その他資本剰余金がマイナスになる原因
- 自己株式を消却した場合の仕訳
- 取得・処分・消却の付随費用は含めない
- 振替のタイミングは「その都度」ではなく会計期間末
- 中間決算・臨時決算では補てんし、年度決算で洗い替える
- 翌期に処分差益が出ても戻し入れない
- 資本剰余金と利益剰余金の混同禁止との関係
- 株主資本等変動計算書と純資産の部での表示
- 事業承継・少数株主整理で押さえる実務上の留意点
- 財源規制と分配可能額
- みなし配当と相続税の特例(税務)
- 見落とされやすい3つの誤り
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- その他資本剰余金は期中にマイナスのままでも問題ありませんか。
- 中間決算で補てんした金額は、年度末にどのように扱いますか。
- 翌期に自己株式処分差益が出た場合、前期に減額した繰越利益剰余金を戻しますか。
- この振替は資本剰余金と利益剰余金の混同にあたりませんか。
事業承継や少数株主の整理で自己株式を取得した非上場企業では、その後の処分や消却の結果、その他資本剰余金の残高がマイナス(負の値)になることがあります。決算実務でまず押さえるべき結論は一つで、負の値は貸借対照表にそのまま残さず、会計期間末にその他資本剰余金をゼロとし、負の値を繰越利益剰余金から減額するという処理です(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第12項)。
本コラムでは、この期末振替の計算例と仕訳を最初に示したうえで、マイナスが生じる原因、振替のタイミング、中間決算での取扱い、株主資本等変動計算書での表示、そして事業承継の場面で見落とされやすい財源規制と税務の論点まで整理します。
結論と期末振替の計算例
自己株式処分差損はその他資本剰余金から減額し(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第10項)、自己株式の消却は消却手続が完了したときに帳簿価額をその他資本剰余金から減額します(同 第11項)。その結果として残高が負の値になった場合、会計期間末においてその他資本剰余金をゼロとし、当該負の値をその他利益剰余金(繰越利益剰余金)から減額します(同 第12項)。
数値で確認します。以下は当事務所が作成した設例です(単位:千円)。期首のその他資本剰余金が5,000千円ある非上場会社が、帳簿価額30,000千円の自己株式を22,000千円で処分し、8,000千円の自己株式処分差損が生じたケースを想定します。
まず処分時の仕訳です。自己株式処分差額は、処分の対価から自己株式の帳簿価額を控除した額として算定し(同 第4項)、負の値であれば自己株式処分差損となります(同 第6項)。処分は募集株式の発行等の手続による場合、払込期日に認識します(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針 第5項)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 22,000 | 自己株式 | 30,000 |
| その他資本剰余金 | 8,000 |
この時点でその他資本剰余金の残高は△3,000千円です。ここで期中にただちに補てんするのではなく、会計期間末に次の振替仕訳を1回だけ計上します(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第12項)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 繰越利益剰余金 | 3,000 | その他資本剰余金 | 3,000 |
この振替により、期末貸借対照表のその他資本剰余金はゼロとなり、負の値は繰越利益剰余金に吸収されます。取得した自己株式そのものは、取得原価をもって純資産の部の株主資本から控除し(同 第7項)、期末に保有する自己株式は株主資本の末尾に一括して控除する形式で表示します(同 第8項)。
関連コラム自己株式の会計処理を徹底解説|取得・処分・消却の仕訳と資本の部の表示▸
その他資本剰余金がマイナスになる原因
その他資本剰余金は、払込資本のうち資本金および資本準備金に含まれない部分を表す区分です。増減する主な取引は次のとおりです。
| 自己株式の処分(差益) | 自己株式処分差益をその他資本剰余金に計上する(増加要因。第9項) |
|---|---|
| 自己株式の処分(差損) | 自己株式処分差損をその他資本剰余金から減額する(減少要因。第10項) |
| 自己株式の消却 | 消却手続が完了したときに、消却の対象となった自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から減額する(減少要因。第11項) |
| 資本金・資本準備金 の額の減少 |
減少の法的効力が発生したときに、生じた剰余金をその他資本剰余金に計上する(増加要因。第20項) |
このうち期末の振替が求められるのは、処分差損(第10項)と消却(第11項)の結果として残高が負の値になった場合です(同 第12項)。実務では、少数株主から買い取った自己株式を後継者へ低い価額で譲り渡した場合や、買い取った自己株式をそのまま消却した場合に、その他資本剰余金の残高を超える減額が生じてマイナスに転じます。
自己株式を消却した場合の仕訳
自己株式の消却は、取締役会等が意思決定した時点ではなく、消却手続が完了したときに会計処理します(同 第11項)。上の設例の続きとして、翌期に帳簿価額12,000千円の自己株式を消却し、その時点のその他資本剰余金の残高がゼロであったケースの仕訳が次のとおりです(単位:千円)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| その他資本剰余金 | 12,000 | 自己株式 | 12,000 |
この結果、その他資本剰余金は△12,000千円となりますが、期中はこのまま残し、会計期間末に前掲の振替仕訳と同じ要領で繰越利益剰余金から12,000千円を減額します(同 第12項)。なお、取締役会等の意思決定によって消却する場合で、貸借対照表日において消却手続が完了していない自己株式があり、その帳簿価額または株式数に重要性があるときは、株主資本等変動計算書の注記事項に併せて注記します(同 第22項)。
取得・処分・消却の付随費用は含めない
自己株式の取得、処分および消却に関する付随費用は、取得原価や処分差額に含めず、損益計算書の営業外費用に計上します(同 第14項)。買取価額に手数料を上乗せしてその他資本剰余金の減額を過大に計上する誤りが起きやすいため、負の残高の金額を確定する前に付随費用の処理を確認しておく必要があります。また、処分および消却時の自己株式の帳簿価額は、会社の定めた計算方法に従い、株式の種類ごとに算定します(同 第13項)。
振替のタイミングは「その都度」ではなく会計期間末
実務でもっとも誤解が多いのがタイミングです。基準の開発過程では、負の値となったその他資本剰余金をその都度補てんする方法と、会計期間末に補てんする方法の両方が検討されましたが、その他資本剰余金の増減が同一会計期間内に反復的に起こり得ること、また都度補てんすると増加と減少の発生順序によって結果が変わってしまうことを理由に、会計期間末に補てんする方法が適切と結論づけられています(同 第42項)。
したがって、期中に処分差損で一時的にマイナスとなっても、その後の処分差益で期末までにプラスへ戻れば振替は不要です。逆に、期中は補てん仕訳を入れずに残高をそのまま管理し、決算整理で1回だけ振り替えるのが正しい流れになります。
中間決算・臨時決算では補てんし、年度決算で洗い替える
中間決算日または会社法上の臨時決算日(会社法 第441条第1項)において、その他資本剰余金の残高が負の値となった場合には、中間決算等においてその他利益剰余金(繰越利益剰余金)で補てんします。そのうえで、年度決算においては中間決算等における処理を洗替処理します(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第42項)。中間で振り替えた金額をそのまま積み上げるのではなく、年度末時点の残高で計算し直す点に注意が必要です。
翌期に処分差益が出ても戻し入れない
前期に繰越利益剰余金から補てんした後、翌期以降に自己株式処分差益が生じた場合、補てんした利益剰余金を元に戻すべきではないかという論点があります。この点について基準は、払込資本に生じた毀損を留保利益で埋め合わせるのはその期に完結する処理であり、充当した留保利益を翌期以後の資本取引に基づく剰余金と入れ替えて元に戻すのは適切ではないと整理しています(同 第43項)。戻し入れは行わず、翌期の処分差益はその他資本剰余金の増加として処理します。
資本剰余金と利益剰余金の混同禁止との関係
資本剰余金の各項目は利益剰余金の各項目と混同してはならず、資本剰余金の利益剰余金への振替は原則として認められません(同 第19項)。それでもこの期末振替が認められるのは、その他資本剰余金が払込資本から資本金および資本準備金を控除した残額であり、払込資本の残高が負の値となることはあり得ない以上、払込資本の一項目として負の残高を表示することが適当でないためです。負の残高になる場合は利益剰余金で補てんするほかなく、これは資本剰余金と利益剰余金の混同にはあたらないと判断されています(同 第40項、第41項)。
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株主資本等変動計算書と純資産の部での表示
期末振替を行った年度は、株主資本等変動計算書において、その他資本剰余金の当期変動額に振替による増加を、繰越利益剰余金の当期変動額に同額の減少をそれぞれ表示します。株主資本の合計額は変わらず、株主資本の内訳が付け替わるだけである点を、決算説明資料でも明示しておくと誤解を防げます。
貸借対照表上は、期末に保有する自己株式が株主資本の末尾に一括して控除表示され(同 第8項)、その他資本剰余金はゼロで表示されます。振替を失念すると、純資産の部にマイナスのその他資本剰余金が残ったままとなり、監査上も指摘の対象になります。
関連コラム株主資本等変動計算書とは|区分・様式と作成実務を解説▸
なお、その他資本剰余金を増やす方向の取引としては、資本金および資本準備金の額の減少によって生じる剰余金があり、減少の法的効力が発生したときにその他資本剰余金に計上します(同 第20項)。自己株式の消却を予定している会社では、消却前に減資を行ってその他資本剰余金を積み増しておく設計も検討されます。
関連コラム減資の会計処理|資本金の額の減少と欠損填補の仕訳▸
事業承継・少数株主整理で押さえる実務上の留意点
財源規制と分配可能額
自己株式の取得は、株主総会の決議によって取得する株式の数、交付する金銭等の内容および総額、取得することができる期間(1年を超えることができません)を定め、分配可能額の範囲内で株主との合意により行います(会社法 第156条、第461条第2項)。会計上の期末振替は、あくまで取得・処分・消却が済んだ後の残高の付け替えであり、取得時点の財源規制を満たしているかは別途の検討が必要です。
また、その他資本剰余金の負の残高を繰越利益剰余金から減額すると、翌期以降の分配可能額の計算基礎も変わります。買取資金の手当てと配当計画を同時に検討している場合は、振替後の残高で分配可能額を再計算してください。
関連コラム分配可能額の計算方法|のれん等調整額と自己株式の控除▸
みなし配当と相続税の特例(税務)
会計上の処理とは別に、株式を手放す側の課税関係も確認が必要です。個人が所有する非上場株式をその発行会社に譲渡して金銭等の交付を受けた場合、その合計額が発行会社の資本金等の額のうち交付の基因となった株式に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額は配当所得とみなされて所得税が課税されます。
ただし、相続または遺贈により財産を取得し、納付すべき相続税額がある個人が、相続開始があった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に、相続税の課税対象となった非上場株式を発行会社に譲渡した場合には、みなし配当課税を行わず、譲渡対価の額の全額を非上場株式の譲渡所得の収入金額とする特例があります。この特例を適用するには、譲渡する日までに所定の届出書を発行会社に提出する必要があり、発行会社も譲り受けた日の属する年の翌年1月31日までに所轄税務署長へ提出しなければなりません。買取日程を決める前に届出の要否を確認しておくことが実務上の要点です。
見落とされやすい3つの誤り
- 期中にその都度補てんしてしまう ── 振替は会計期間末に1回です(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第42項)。
- 消却を取締役会決議日で処理してしまう ── 会計処理は消却手続が完了したときです(同 第11項)。
- 買取手数料をその他資本剰余金から減額してしまう ── 付随費用は営業外費用に計上します(同 第14項)。
自己株式の取得価額の妥当性や、処分先・処分価額の決め方は個別性が高く、会計処理だけでなく税務・会社法上の手続と一体で検討する必要があります。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
まとめ
自己株式の処分差損および消却の結果、その他資本剰余金の残高が負の値となった場合は、会計期間末においてその他資本剰余金をゼロとし、負の値を繰越利益剰余金から減額します(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第12項)。振替はその都度ではなく期末に1回、中間決算等で補てんした場合は年度決算で洗替処理し、翌期に処分差益が生じても戻し入れません(同 第42項、第43項)。
本会計基準は2002年2月21日に公表され、その後2005年、2006年、2015年に改正されており、2015年改正の本会計基準は公表日以後最初に終了する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用されています(同 第23-2項)。実務上の指針を定める適用指針も2002年の公表後、2005年、2006年、2015年および2024年に改正され、2024年改正の適用指針は公表日以後適用されています(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針 第23-3項)。いずれもすでに適用されている基準であり、事業承継や少数株主整理で自己株式を動かす際は、この枠組みに沿って残高と表示を確認してください。
お問い合わせはこちら参考文献
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
- 企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第2号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針
- e-Gov法令検索 会社法
- 国税庁 No.1477 相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例
よくある質問
その他資本剰余金は期中にマイナスのままでも問題ありませんか。
期中は負の残高のままで差し支えありません。補てんは会計期間末に行う方法が適切とされているためです(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第42項)。期中に処分差益が生じて期末までにプラスへ戻れば、振替そのものが不要になります。
中間決算で補てんした金額は、年度末にどのように扱いますか。
中間決算日または臨時決算日(会社法 第441条第1項)に負の値となった場合は中間決算等で繰越利益剰余金から補てんし、年度決算ではその処理を洗替処理します(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第42項)。中間で振り替えた金額を積み上げるのではなく、年度末の残高で計算し直します。
翌期に自己株式処分差益が出た場合、前期に減額した繰越利益剰余金を戻しますか。
戻し入れは行いません。払込資本に生じた毀損を留保利益で埋め合わせる処理はその期に完結するものであり、充当した留保利益を翌期以後の資本取引に基づく剰余金と入れ替えて元に戻すのは適切ではないとされています(同 第43項)。翌期の処分差益はその他資本剰余金の増加として処理します。
この振替は資本剰余金と利益剰余金の混同にあたりませんか。
あたりません。資本剰余金の利益剰余金への振替は原則として認められませんが(同 第19項)、払込資本の一項目であるその他資本剰余金に負の残高を表示することは適当ではなく、負の残高は利益剰余金で補てんするほかないため、混同にはあたらないと判断されています(同 第40項、第41項)。
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