自己株式の会計処理は、取得・処分・消却のいずれの局面でも損益計算書を経由せず、純資産の部(株主資本)の中で完結させる点に最大の特徴があります。取得した自己株式は取得原価をもって株主資本から控除し、処分により生じた差額はその他資本剰余金で調整し、消却時にはその他資本剰余金から帳簿価額を減額します。本記事では、企業会計基準第1号に基づき、自社株買いから金庫株の処分・消却、準備金の額の減少までの仕訳と資本の部の表示を、実務の落とし穴とあわせて整理します。企業会計基準委員会 企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
自己株式の会計処理の全体像
企業会計基準第1号は、すべての会社における自己株式の取得・保有・処分・消却、ならびに資本金及び準備金の額の減少の会計処理を対象としています。同基準は、特に明示しない限り個別財務諸表における会計処理を想定して定められており、連結財務諸表における会計処理はこれに準じて行います。企業会計基準委員会 企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
自己株式については、かつて資産として扱う考え方と資本の控除として扱う考え方がありましたが、自己株式の取得は株主との間の資本取引であり、会社所有者に対する会社財産の払戻しの性格を有することから、資本の控除として扱うこととされました。この整理により、取得・処分・消却に伴う差額は損益計算書に計上されず、純資産の部の中で調整されます。企業会計基準委員会 企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
用語の定義
自己株式処分差額とは、自己株式の処分の対価から自己株式の帳簿価額を控除した額をいいます。このうち正の値の場合を自己株式処分差益、負の値の場合を自己株式処分差損といいます。企業会計基準委員会 企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
自己株式取得の仕訳と表示
会社法では、株主総会の決議によって取得する株式数などを定め、分配可能額の範囲内で株主との合意による自己株式の取得ができることとされています。取得した自己株式は、取得原価をもって純資産の部の株主資本から控除します。企業会計基準委員会 企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
たとえば、自社株買いにより自己株式を1,000(取得原価)で取得したときの仕訳は次のとおりです。取得原価で一括して株主資本全体の控除項目とする方法によります。
(借)自己株式 1,000 / (貸)現金預金 1,000
なお、自己株式の取得に関する付随費用(買付手数料等)は、取得原価に含めず、損益計算書の営業外費用に計上します。この扱いは処分・消却に関する付随費用でも同じです。企業会計基準委員会 企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
自己株式処分の仕訳(処分差益・処分差損)
金庫株の処分(募集株式の発行等の手続による処分)は、株主との間の資本取引と考えられ、処分に伴う差額は損益計算書に計上せず、純資産の部の株主資本の項目を直接増減します。処分差益はその他資本剰余金に計上し、処分差損はその他資本剰余金から減額します。企業会計基準委員会 企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
処分差益が生じる場合
帳簿価額1,000の自己株式を1,200で処分したケースでは、差額200を自己株式処分差益としてその他資本剰余金に計上します。処分差益は、自己株式の処分が新株の発行と同様の経済的実態を有し、株主からの払込資本と同様の性格を持つと考えられるためです。企業会計基準委員会 企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
(借)現金預金 1,200 / (貸)自己株式 1,000 ・ その他資本剰余金 200
処分差損が生じる場合
帳簿価額1,200の自己株式を1,000で処分したケースでは、差額200を自己株式処分差損としてその他資本剰余金から減額します。
(借)現金預金 1,000 ・ その他資本剰余金 200 / (貸)自己株式 1,200
自己株式消却の仕訳
自己株式を消却した場合には、消却手続が完了したときに、消却の対象となった自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から減額します。取締役会等による会社の意思決定だけでは法的に発行済株式数が減少するわけではないため、会計処理は消却手続が完了したときに行います。企業会計基準委員会 企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
帳簿価額1,000の自己株式を消却したときの仕訳は次のとおりです。
(借)その他資本剰余金 1,000 / (貸)自己株式 1,000
なお、自己株式の処分及び消却時の帳簿価額は、会社の定めた計算方法に従って、株式の種類ごとに算定します。企業会計基準委員会 企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
資本の部(純資産)の表示
期末に保有する自己株式は、純資産の部の株主資本の末尾に自己株式として一括して控除する形式で表示します。個々の株主資本の構成要素に配分するのではなく、株主資本全体からの控除項目として表示する点がポイントです。企業会計基準委員会 企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
自己株式に関する各取引が剰余金に与える影響を整理すると、次のとおりです。
| 取引・状況 | 剰余金への影響 |
|---|---|
| 処分差益の発生 | その他資本剰余金に計上 |
| 処分差損の発生 | その他資本剰余金から減額 |
| 自己株式の消却 | その他資本剰余金から減額 |
| その他資本剰余金が負の残高 | 期末に繰越利益剰余金から減額 |
自社株買いや金庫株の処分は、会社の資本政策と密接に関わります。あわせて次の記事もご参照ください。
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準備金の額の減少の会計処理
企業会計基準第1号は、資本金及び準備金(資本準備金及び利益準備金)の額の減少の会計処理も定めています。ここで重要なのは、資本剰余金の各項目は利益剰余金の各項目と混同してはならず、資本剰余金の利益剰余金への振替は原則として認められないという点です。企業会計基準委員会 企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
資本金及び資本準備金の額の減少によって生ずる剰余金は、減少の法的効力が発生したときに、その他資本剰余金に計上します。一方、利益準備金の額の減少によって生ずる剰余金は、減少の法的効力が発生したときに、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)に計上します。減少元の性格に応じて計上先が資本剰余金と利益剰余金に分かれる点に注意が必要です。企業会計基準委員会 企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
資本金の減少(減資)や準備金の額の減少の会社法上の手続については、次の記事で詳しく解説しています。
関連コラム会社の資本金変更手続き完全ガイド|増資・減資の流れと必要書類▸
実務上の落とし穴
自己株式の会計処理では、資本取引という性質を踏まえた次の点でつまずきやすいため、注意が必要です。
その他資本剰余金が負の残高になった場合
処分差損や消却の結果、その他資本剰余金の残高が負の値となった場合には、会計期間末においてその他資本剰余金を零とし、当該負の値をその他利益剰余金(繰越利益剰余金)から減額します。負の残高を期末までそのまま残しておくことはできません。企業会計基準委員会 企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
付随費用を取得原価に含めない
取得・処分・消却に関する付随費用は営業外費用に計上します。取得原価に含めたり、処分差額に混ぜたりしないよう区分する必要があります。企業会計基準委員会 企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
処分・消却で損益を計上しない
自己株式の処分差益・処分差損はいずれも資本取引として純資産の部で調整するため、損益計算書には計上されません。売却益・売却損として損益に計上しないよう留意します。企業会計基準委員会 企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
まとめ
自己株式は取得原価をもって株主資本から控除し、期末には株主資本の末尾に一括控除表示します。処分差益はその他資本剰余金に計上、処分差損とその消却はその他資本剰余金から減額し、その他資本剰余金が負となれば期末に繰越利益剰余金から減額します。付随費用は営業外費用とし、処分・消却で損益を計上しないことが要点です。準備金の額の減少では、資本剰余金と利益剰余金の混同を避け、減少元の性格に応じた計上先を選ぶことが求められます。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
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よくある質問
自己株式の取得原価に手数料は含めますか。
含めません。自己株式の取得・処分・消却に関する付随費用は、取得原価や処分差額に含めず、損益計算書の営業外費用に計上します。
自己株式の処分差益はどこに計上しますか。
その他資本剰余金に計上します。自己株式の処分は株主との資本取引であり、処分差益は払込資本と同様の性格を持つと考えられるためです。損益計算書には計上しません。
自己株式を消却するといつ会計処理しますか。
消却手続が完了したときに会計処理します。取締役会等の意思決定だけでは発行済株式数は減少しないためで、消却時に帳簿価額をその他資本剰余金から減額します。
処分差損でその他資本剰余金がマイナスになったらどうしますか。
会計期間末にその他資本剰余金を零とし、負の値をその他利益剰余金(繰越利益剰余金)から減額します。負の残高を期末に残すことはできません。