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財務会計

新リース会計基準と財務制限条項【判定表】借入契約の指標への影響

目次
  1. 【判定表】財務制限条項の型別に見た新リース会計基準の影響
  2. 新リース会計基準で財務諸表の何が変わるか
  3. 使用権資産とリース負債の計上
  4. 短期リース・少額リースは計上しないことができる
  5. 費用は減価償却費と支払利息に分かれる
  6. 貸借対照表と損益計算書の表示
  7. 適用時期
  8. 自社作例で試算:指標はどれくらい動くか
  9. 試算の前提
  10. 1年目の決算の仕訳
  11. 指標の変化
  12. 借入契約で確認する定義条項と協議の進め方
  13. 契約書で確認するポイント
  14. 経過措置の選び方で純資産は変わる
  15. 金融機関との協議までの手順
  16. まとめ
  17. 参考文献
  18. よくある質問
  19. 新リース会計基準に財務制限条項の取扱いは定められていますか。
  20. リース負債は財務制限条項の有利子負債に含まれますか。
  21. 短期リースや少額リースも財務制限条項の指標に影響しますか。
  22. 財務制限条項への影響はいつの決算から生じますか。
  23. 経過措置の選び方で純資産の額は変わりますか。

新リース会計基準を適用すると、これまで賃借料として処理してきた店舗・事務所・設備のリースの多くが、使用権資産とリース負債として貸借対照表に載ります。その結果、借入契約の財務制限条項で使う指標も動きます。自己資本比率や有利子負債の額は不利な方向に、EBITDAは有利な方向に動きやすく、インタレスト・カバレッジ・レシオは低下しやすいというのが大まかな傾向です。

ただし、財務制限条項は金融機関と借手が契約で決める取決めであり、会計基準には定めがありません。リース負債を「有利子負債」に含めるのか、算定に使う会計基準をいつの時点のものとするのかは、契約書の定義によって結論が変わります。本記事では、会計基準で確定している事実と、条項の型ごとの影響の方向(当事務所の整理)とを分けて、判定表と自社作例の試算で確認します。

【判定表】財務制限条項の型別に見た新リース会計基準の影響

借入契約によく置かれる条項の型ごとに、新リース会計基準の適用で指標がどちらに動きやすいかを整理しました。いずれも「契約上の定義が会計上の数値をそのまま使う」前提での一般的な方向であり、個々の契約の結論は定義条項の読み方で変わります。

純資産の維持
(金額の下限)
経過措置で使用権資産をリース負債と同額で計上すれば、適用初年度の期首の純資産はほとんど動かない。最初から適用していたかのように使用権資産を計算する方法では、差額の分だけ期首の利益剰余金が減るのが通常
自己資本比率 使用権資産の分だけ総資産が増える一方で純資産はほぼ変わらないため、比率は低下しやすい
有利子負債の額
(上限・増加制限)
リース負債を有利子負債に含める定義であれば、その全額が上乗せされる。含めるかどうかは契約の定義次第
有利子負債÷EBITDA 分子にリース負債が、分母に従来の賃借料相当額が加わる。もともとの倍率が低い会社ほど悪化しやすく、倍率が高い会社では改善することもある
インタレスト・
カバレッジ・レシオ
リース負債の利息が支払利息に加わるため、低下しやすい。使用権資産総額に重要性が乏しく利息を計上しない方法を採る場合は、利息は増えない
営業利益・経常利益の
黒字維持
支払利息を営業外費用に表示する会社では営業利益は増える方向。経常利益はリースの前半に費用が多くなるため、初期には減る方向
流動比率 1年以内に支払期限が到来するリース負債が流動負債に加わるため、低下しやすい

判定表の各行がなぜそうなるのかは、次の章で会計基準の条項に沿って説明します。自社の契約にどの型の条項があるかを先に洗い出しておくと、以降の説明を自社に当てはめやすくなります。

新リース会計基準で財務諸表の何が変わるか

使用権資産とリース負債の計上

借手は、リース開始日にリース負債を計上し、これにリース開始日までに支払った借手のリース料や付随費用などを加減した額で使用権資産を計上します(リースに関する会計基準 第33項)。リース負債は、未払の借手のリース料から利息相当額の合理的な見積額を控除し、現在価値で算定するのが原則です(リースに関する会計基準 第34項)。従来はオペレーティング・リース取引として賃貸借処理していた契約も、この計上の対象に入ります。

リース負債の金額は契約期間の長さで大きく変わります。借手のリース期間は、解約不能期間に、行使することが合理的に確実な延長オプションの期間と、行使しないことが合理的に確実な解約オプションの期間を加えて決めます(リースに関する会計基準 第31項)。契約書上は2年更新の店舗賃貸借でも、出店計画や内装投資の状況によってはより長い期間で負債を測る場合があり、財務制限条項への影響額もそれに比例して大きくなります。

関連コラム使用権資産とは【仕訳例】計上額・減価償却・表示区分の一覧表▸

短期リース・少額リースは計上しないことができる

借手のリース期間が12か月以内で購入オプションを含まない短期リースは、使用権資産とリース負債を計上せず、借手のリース料を原則として定額法で費用処理できます(リースに関する会計基準の適用指針 第4項(2)、第20項)。また、事業内容に照らして重要性が乏しくリース契約1件当たりの金額に重要性が乏しいリースや、新品時の原資産の価値が少額であるリースも、同様に計上しない取扱いを選べます(リースに関する会計基準の適用指針 第22項)。

これらの簡便的な取扱いを適用したリースは、貸借対照表の指標には影響しません。財務制限条項への影響を試算する際は、計上対象となるリースだけを集計することになるため、どの範囲で簡便的な取扱いを使うかを先に決めておくと、試算と本番の数値がずれにくくなります。

費用は減価償却費と支払利息に分かれる

借手のリース料は、利息相当額部分とリース負債の元本返済額部分とに区分し、前者は支払利息、後者はリース負債の返済として処理するのが原則です(リースに関する会計基準の適用指針 第38項)。利息相当額は借手のリース期間にわたり原則として利息法で配分するため(リースに関する会計基準 第36項、リースに関する会計基準の適用指針 第39項)、リース負債の残高が大きい前半ほど支払利息が多くなります。

使用権資産は、所有権が移転すると認められないリースであれば、原則として、耐用年数は借手のリース期間とし、残存価額はゼロで減価償却します(リースに関する会計基準 第38項)。従来は「賃借料」1本だった費用が「減価償却費」と「支払利息」に分かれることが、EBITDAやインタレスト・カバレッジ・レシオが動く理由です。

なお、未経過の借手のリース料の期末残高が、その残高と有形固定資産・無形固定資産の期末残高の合計額に占める割合が10パーセント未満であれば、使用権資産総額に重要性が乏しいと認められます(リースに関する会計基準の適用指針 第41項)。この場合は利息相当額を控除せず、支払利息を計上しないで減価償却費のみを計上する方法を選べます(リースに関する会計基準の適用指針 第40項)。この方法を採ると、インタレスト・カバレッジ・レシオの分母は増えません。

貸借対照表と損益計算書の表示

使用権資産は、原資産を自ら所有していたと仮定した場合の科目に含めるか、原資産の表示区分の中で使用権資産として区分するかのいずれかで表示します(リースに関する会計基準 第49項)。リース負債は区分して表示するか、含まれる科目と金額を注記し、貸借対照表日後1年以内に支払の期限が到来する部分は流動負債、1年を超える部分は固定負債とします(リースに関する会計基準 第50項)。リース負債に係る利息費用も、損益計算書で区分して表示するか、含まれる科目と金額を注記します(リースに関する会計基準 第51項)。

財務制限条項の計算では、貸借対照表や損益計算書の科目名で数値を拾う定め方がよく見られます。リース負債を「長期借入金」とは別の科目で表示するのか、どの科目に含めるのかによって、契約上の「有利子負債」に入るかどうかの読み方が変わりうるため、表示方針と契約の定義を並べて確認しておくことが大切です。

関連コラムリース負債の流動・固定区分【計算例】短期リース債務の算定と振替仕訳▸

適用時期

新リース会計基準(企業会計基準第34号)は2024年9月に公表され、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されます。2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することもできます(リースに関する会計基準 第58項)。3月決算の会社であれば、強制適用の場合は2028年3月期が適用初年度です。借入契約の財務制限条項は適用初年度の決算数値から判定対象になることが多いため、契約期間が適用初年度をまたぐ借入は、いまの段階で影響を確認しておく必要があります。

自社作例で試算:指標はどれくらい動くか

試算の前提

当事務所で作成した仮の数値で、指標の動きを確かめます。3月決算のA社は、これまで店舗の賃貸借を賃借料として処理しており、年額12,000千円を毎年度末に支払っています。適用初年度の期首時点で残りの借手のリース期間は5年、期首時点の追加借入利子率は年3%とします。経過措置として、残りのリース料を期首の追加借入利子率で割り引いてリース負債とし、使用権資産をリース負債と同額で計上する方法を選びます(リースに関する会計基準の適用指針 第118項、第123項)。前払・未払のリース料はないものとします。

年3%・5年の年金現価係数は4.5797なので、リース負債は次のように算定されます。

リース負債 = 12,000千円 × 4.5797 ≒ 54,956千円

適用初年度の期首の仕訳は次のとおりです(単位:千円)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
使用権資産 54,956 リース負債 54,956

使用権資産とリース負債が同額で両建てされるため、この時点では純資産は動きません。一方で総資産と負債はどちらも54,956千円増えます。

1年目の決算の仕訳

1年目の期末には、支払った12,000千円を利息法で支払利息と元本返済に分け、使用権資産を残り5年で定額法により償却します(リースに関する会計基準 第36項、第38項、リースに関する会計基準の適用指針 第38項)。

支払利息 = 54,956千円 × 3% ≒ 1,649千円
リース負債の返済額 = 12,000千円 − 1,649千円 = 10,351千円
減価償却費 = 54,956千円 ÷ 5年 ≒ 10,991千円
借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
リース負債 10,351 現金預金 12,000
支払利息 1,649
減価償却費 10,991 減価償却累計額 10,991

1年目の費用は合計12,640千円となり、従来の賃借料12,000千円より640千円多くなります。利息法では前半の利息が多いため、リース期間の前半は費用が膨らみ、後半は小さくなるという形になります。

指標の変化

A社の適用前の数値を、総資産500,000千円、純資産150,000千円、有利子負債100,000千円、営業利益25,000千円、減価償却費15,000千円、支払利息2,000千円とします。EBITDAは「営業利益+減価償却費」、支払利息は営業外費用に表示し、契約上の有利子負債にはリース負債を含める定義と仮定します。他の条件は変わらないものとして、1年目の数値を比べると次のようになります。

自己資本比率
(期首)
30.0%から27.0%へ低下(純資産150,000千円÷総資産554,956千円)
有利子負債(期首) 100,000千円から154,956千円へ増加
EBITDA 40,000千円から52,000千円へ増加(賃借料12,000千円がなくなり、減価償却費に置き換わるため)
有利子負債÷EBITDA 2.50倍から2.98倍へ悪化
営業利益 25,000千円から26,009千円へ増加
インタレスト・
カバレッジ・レシオ
12.5倍から7.1倍へ低下(営業利益26,009千円÷支払利息3,649千円)
経常利益 23,000千円から22,360千円へ減少

この試算から分かるのは、EBITDAが増えても安心はできないということです。レバレッジ系の条項では、分子に加わるリース負債(5年分の支払の現在価値)が、分母に加わる賃借料(1年分)よりはるかに大きいため、もともとの倍率が低い会社ほど倍率が上がります。インタレスト・カバレッジ・レシオは、利益の増加より支払利息の増加の影響が大きく、大きく低下します。店舗や物流拠点を多く賃借している会社では、この差がそのまま条項の余裕度の差になります。

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借入契約で確認する定義条項と協議の進め方

契約書で確認するポイント

財務制限条項の影響は、会計処理よりも契約書の定義で決まる部分が大きいのが実情です。当事務所では、借入契約ごとに次の点を確認することをおすすめしています。

  • 有利子負債の定義:借入金・社債などを列挙する形か、「リース債務」「リース負債」を含める形か。列挙に無い場合でも包括的な文言で含まれる余地がないか
  • 算定に用いる会計基準の時点:その時々の会計基準に従った数値を使うのか、契約締結時点の会計基準で算定した数値を使うのか
  • EBITDA・利益の定義:営業利益に減価償却費を足し戻す形か、支払利息の範囲にリース負債の利息を含めるか
  • 判定の対象となる財務諸表:連結か個別か、本決算だけか中間期も含むか
  • 会計基準の変更時の取決め:基準の変更があった場合に指標の定義を見直す協議条項があるか

これらの解釈は最終的に契約当事者の合意によるものであり、会計基準から一義的な答えが出るものではありません。定義が曖昧な場合は、自社の解釈で判定せず、金融機関と協議して扱いを書面で確認しておくのが安全です。

経過措置の選び方で純資産は変わる

適用初年度は、原則として新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用しますが、適用初年度の累積的影響額を期首の利益剰余金に加減し、その期首残高から新たな会計方針を適用することもできます(リースに関する会計基準の適用指針 第118項)。後者を選ぶ場合、従来オペレーティング・リース取引に分類していたリースは、使用権資産を「最初から基準を適用していたかのような帳簿価額」で計上するか、「リース負債と同額(前払・未払リース料の分だけ修正)」で計上するかを、リース1件ごとに選べます(リースに関する会計基準の適用指針 第123項)。

前者の帳簿価額で計上すると、利息法で前半に費用が多く出ていた分だけ使用権資産がリース負債より小さくなり、その差額が期首の利益剰余金を減らす方向に働くのが通常です。純資産の維持条項に余裕がない会社では、どの方法を選ぶかが条項の判定に直結するため、試算の段階で複数の方法を比べておくことが有効です。

関連コラム新リース会計基準の経過措置|適用初年度の選択肢と遡及適用の実務▸

金融機関との協議までの手順

  1. 借入契約を一覧にし、財務制限条項の型・判定時期・定義条項を抜き出す
  2. リース契約を棚卸しし、短期リース・少額リースの簡便的な取扱いを適用する範囲を決める
  3. 借手のリース期間と割引率を仮置きし、リース負債・使用権資産・費用の影響額を試算する
  4. 経過措置の選択肢ごとに、判定表の各指標が条項の基準値に対してどれだけ余裕があるかを確認する
  5. 余裕が小さい条項について、定義の読み方や基準値の見直しを金融機関と協議し、合意内容を書面に残す

早期適用を検討している会社では、適用初年度の時期がそのまま条項の判定に影響する時期になります。早期適用の判断と借入契約の確認は、同じ表の上で並べて進めると漏れが生じにくくなります。

関連コラム新リース会計基準の早期適用|判断基準とメリット・デメリット▸

まとめ

  • 新リース会計基準では、借手は使用権資産とリース負債を計上し、費用は減価償却費と支払利息に分かれる。短期リース・少額リースは計上しないことができる
  • 財務制限条項は契約上の取決めで、会計基準に定めはない。影響の有無は有利子負債・EBITDA・利益の定義と、算定に用いる会計基準の時点で決まる
  • 一般的には、自己資本比率・有利子負債・インタレスト・カバレッジ・レシオ・流動比率は不利な方向に、EBITDAと営業利益は有利な方向に動きやすい
  • 有利子負債÷EBITDAは、もともとの倍率が低い会社ほど悪化しやすい
  • 経過措置の選び方によって、適用初年度の期首の純資産の額が変わる
  • 2027年4月1日以後開始する事業年度の期首から強制適用されるため、適用初年度をまたぐ借入契約は早めに影響を試算し、金融機関と協議する

財務制限条項の定義や基準値は契約ごとに異なり、同じリース契約でも条項への影響の大きさは会社によって変わります。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。

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参考文献

よくある質問

新リース会計基準に財務制限条項の取扱いは定められていますか。

定められていません。会計基準が定めるのは使用権資産・リース負債の計上や表示であり(リースに関する会計基準 第33項、第50項、第51項)、財務制限条項の指標にリース負債をどう反映させるかは、借入契約の定義と金融機関との合意によって決まります。

リース負債は財務制限条項の有利子負債に含まれますか。

契約の定義によります。会計上のリース負債は、未払の借手のリース料から利息相当額を控除した現在価値で算定され、利息相当額は利息法で各期に配分されます(リースに関する会計基準 第34項、第36項)。契約書で「リース債務」等を有利子負債に含めている場合や包括的な文言がある場合は、含まれると読まれる可能性があるため、金融機関と扱いを確認してください。

短期リースや少額リースも財務制限条項の指標に影響しますか。

簡便的な取扱いを適用した短期リース・少額リースは、使用権資産とリース負債を計上せず、借手のリース料を原則として定額法で費用処理するため、貸借対照表の指標には影響しません(リースに関する会計基準の適用指針 第20項、第22項)。

財務制限条項への影響はいつの決算から生じますか。

新リース会計基準は2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用され、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用もできます(リースに関する会計基準 第58項)。3月決算で強制適用の場合は2028年3月期が適用初年度となり、早期適用すればその分だけ早く指標に反映されます。

経過措置の選び方で純資産の額は変わりますか。

変わります。累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減する方法を選んだうえで、使用権資産をリース負債と同額で計上すれば純資産への影響はほとんど生じませんが、最初から基準を適用していたかのような帳簿価額で計上すると、通常は期首の利益剰余金が減ります(リースに関する会計基準の適用指針 第118項、第123項)。

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。

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