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新リース会計基準の早期適用|判断基準とメリット・デメリット

2026-08-29
目次

新リース会計基準(企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」)は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されます。あわせて、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することもできます(リースに関する会計基準 第58項)。

つまり、3月決算の会社であれば2026年3月期から2029年3月期までのあいだで、どの年度から新基準に切り替えるかを自社で選べる状態にあります。早期適用は「早く対応した会社が偉い」という話ではなく、連結グループの会計方針・上場や資金調達の予定・システム整備の進み具合を踏まえた経営判断です。

この記事では、早期適用が認められる範囲を基準の条項で確認したうえで、早期適用のメリットとデメリット、判断の軸、そして早期適用を選んだ場合の適用初年度の仕訳までを、実務の手順に沿って整理します。

早期適用が認められる範囲

まず、どの年度から適用できるのかという枠組みを条項で押さえます。新リース会計基準の適用時期は次のとおりです(リースに関する会計基準 第58項、リースに関する会計基準の適用指針 第112項)。

強制適用の時期 2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から
早期適用が可能な時期 2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から
適用指針の適用時期 会計基準と同様(基準だけを先に適用することはできません)

実務上、押さえておきたい点が3つあります。

1つ目は、適用の起点が「期首」に限られることです。期の途中から新基準に切り替えることはできず、切り替えるのであれば適用初年度の期首時点の残高から作り込む必要があります(リースに関する会計基準 第58項)。

2つ目は、連結財務諸表と個別財務諸表の双方に同じ枠組みで適用されることです。新リース会計基準は、連結会計年度及び事業年度の期首という同一の起点から適用することとされており(リースに関する会計基準 第58項)、連結だけを先行させるという設計にはなっていません。

3つ目は、会計基準と適用指針はセットで適用することです。適用指針の適用時期は会計基準と同様とされているため(リースに関する会計基準の適用指針 第112項)、経過措置や簡便的な取扱いも含めて一体で検討することになります。

関連コラム新リース会計基準はいつから?適用時期と対象会社の範囲を解説

基準の公表と修正の経緯

新リース会計基準は、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」および企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」として2024年9月13日に公表されました。従来の企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」および企業会計基準適用指針第16号は、新基準の適用により適用を終了します(リースに関する会計基準 第59項)。

その後、2025年4月23日に企業会計基準第34号等の修正が公表されています。この修正は会計処理及び開示に関する定めを実質的に変更するものではありませんが、早期適用を検討する会社は修正後の版で条項を確認しておくと安全です。

早期適用のメリット

早期適用に踏み切る会社には、いくつか共通する動機があります。いずれも「早いほうがよい」という一般論ではなく、自社の事情に照らして具体的な便益があるかどうかが判断の分かれ目です。

連結グループ内の会計方針を早く揃えられる

新リース会計基準は、借手のすべてのリースについて使用権資産とリース負債を計上する単一の会計処理モデルを採用しており、国際財務報告基準第16号との整合性が図られています。そのため、IFRSを任意適用している親会社を持つ会社や、海外子会社がすでにIFRS第16号で処理している企業グループでは、日本基準側を早期適用することで連結決算における修正仕訳や換算作業の負担を減らせる場面があります。

実務では、連結パッケージの様式変更やグループ会計方針書の改訂を一度で済ませたい、という理由から早期適用を選ぶケースが多く見られます。

対応作業を分散し、強制適用時の集中を避けられる

新基準への移行で最も時間がかかるのは、会計処理そのものよりも契約の棚卸しとリースの識別です。契約書を集め、契約にリースが含まれるかを判断し(リースに関する会計基準 第25項、第26項)、リース期間や割引率を決めていく作業は、部門横断の照会が必要になるため想定より長期化しがちです。

早期適用を選ぶと、この作業を強制適用年度より前に前倒しできます。監査人との論点整理も、決算対応が集中する時期を避けて進められます。

開示・説明の準備を先に固められる

オンバランス化により、総資産・有利子負債・自己資本比率といった財務指標は変動します。早期適用は、この影響額を実データで把握し、金融機関や投資家への説明を強制適用より前に一度リハーサルできるという側面も持ちます。財務制限条項(コベナンツ)を含む借入契約がある会社では、この点が実質的な意味を持ちます。

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早期適用のデメリットと留意点

一方で、早期適用には固有の負担があります。判断の前に、次の3点を必ず見積もっておきます。

比較情報と注記の追加対応

新リース会計基準の適用初年度は、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用します。ただし、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することもできます(リースに関する会計基準の適用指針 第118項)。

後者(期首残高から適用する方法)を選んだ場合、適用初年度の比較情報については新たな表示方法に従った組替えを行いません(リースに関する会計基準の適用指針 第136項)。また、比較情報には新基準の注記に代えて、企業会計基準第13号および企業会計基準適用指針第16号に定める事項を注記します(リースに関する会計基準の適用指針 第137項)。

さらに、期首残高から適用する方法を選ぶ借手は、企業会計基準第24号第10項(5)の注記に代えて、適用初年度の期首の貸借対照表に計上されているリース負債に適用している借手の追加借入利子率の加重平均と、前年度末に開示したオペレーティング・リースの未経過リース料を当該利子率で割り引いた額と適用初年度期首のリース負債との差額の説明を注記します(リースに関する会計基準の適用指針 第125項)。早期適用の年度は、通常年度にはない説明資料の作成が必要になると考えておくべきです。

システム・内部統制の整備が前倒しになる

使用権資産とリース負債は、リース期間の変更や借手のリース料の変更があれば再測定が必要になります(リースに関する会計基準 第40項、第41項)。契約ごとの償却スケジュールと利息配分を継続的に管理する仕組みが要るため、表計算での運用には限界があります。早期適用は、このシステム選定・導入と業務フローの整備を、通常より短い準備期間で終わらせることを意味します。

同業他社との期間比較がしにくくなる

早期適用すると、強制適用を待つ同業他社とは一時的に会計方針が異なります。総資産や負債比率の水平比較が難しくなるため、アナリストや取引金融機関への説明コストが増える可能性があります。これは会計上の問題ではありませんが、開示実務としては無視できない論点です。

早期適用の判断軸

ここまでの内容を、実際の意思決定に使える形に整理します。以下は当事務所が上場準備企業・上場企業の支援で用いている整理の例であり、基準上の要件ではありません。

早期適用を検討しやすい状況 慎重な判断が必要な状況
IFRS任意適用の親会社があり、グループ会計方針を統一したい リース契約が多数・多拠点にわたり、契約の棚卸しが未着手である
リース契約の件数が限定的で、契約情報の集約が完了している リース管理システムの選定が済んでおらず、当面は手作業になる
上場申請や資金調達の時期が強制適用と重なり、事前に影響を織り込みたい 財務制限条項への影響が未検証で、金融機関との協議がこれからである
監査人と移行方針・経過措置の選択について合意が取れている 経理体制が小規模で、通常決算に加えた移行作業の余力がない

判断のうえで実務的に重い比重を占めるのは、契約情報がどこまで集まっているかです。契約の棚卸しが終わっていない段階で早期適用を決めると、期首残高の確定が決算直前までずれ込み、監査対応が過密になります。逆に、契約数が限られていて情報が揃っているなら、早期適用は十分に現実的な選択肢になります。

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早期適用を選んだ場合の実務手順

契約の棚卸しとリースの識別

最初の作業は、契約にリースが含まれるかどうかの判断です。契約の締結時に、契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、当該契約はリースを含みます(リースに関する会計基準 第25項、第26項)。

ここで、期首残高から適用する方法を選ぶ場合には、実務負担を抑える取扱いが用意されています。適用初年度の前連結会計年度及び前事業年度の期末日において企業会計基準第13号を適用しているリース取引について、リースが含まれているか否かの判断をあらためて行わずに新基準を適用することができます(リースに関する会計基準の適用指針 第119項)。

経過措置と簡便的な取扱いの選択

従来オペレーティング・リース取引に分類していたリース等については、適用初年度の期首時点における残りの借手のリース料を、期首時点の借手の追加借入利子率で割り引いた現在価値によりリース負債を計上します。使用権資産は、新基準がリース開始日から適用されていたような帳簿価額とする方法か、リース負債と同額(前払又は未払リース料の分だけ修正)とする方法のいずれかを、リース1件ごとに選択して算定します(リースに関する会計基準の適用指針 第123項)。

あわせて、特性が合理的に類似した複数のリースに単一の割引率を適用する、期首から12か月以内にリース期間が終了するリースは短期リースの方法で処理する、付随費用を使用権資産の計上額から除外する、リース期間やリース料の決定にリース開始日より後に入手した情報を使用する、といった実務上の便法をリース1件ごとに適用できます(リースに関する会計基準の適用指針 第124項)。早期適用の可否を検討する段階で、この便法をどこまで使うかを決めておくと、作業量の見積り精度が上がります。

関連コラム新リース会計基準の経過措置|適用初年度の選択肢と遡及適用の実務

適用初年度の期首の仕訳

ここからは自社作例の数値で、早期適用を選んだ借手の適用初年度の処理を確認します。前提は次のとおりです(単位:千円)。3月決算の会社が、2026年4月1日に開始する事業年度から早期適用することとし、適用初年度の期首より前の累積的影響額を期首の利益剰余金に加減する方法(リースに関する会計基準の適用指針 第118項ただし書き)を選択します。従来オペレーティング・リース取引として処理していたオフィスの賃借契約について、期首時点の残りのリース期間は5年、年間の借手のリース料は12,000(各年度末払い)、期首時点の借手の追加借入利子率は年3.0%、前払リース料および未払リース料はありません。使用権資産はリース負債と同額とする方法を選択します(リースに関する会計基準の適用指針 第123項)。

リース負債は、残りの借手のリース料を追加借入利子率で割り引いた現在価値により算定します。

リース負債 = 12,000 × 年金現価係数(年3.0%・5年)4.5797 = 54,957

適用初年度の期首に計上する仕訳は次のとおりです。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
使用権資産 54,957 リース負債 54,957

使用権資産の表示は、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目に含める方法と、対応する原資産の表示区分において使用権資産として区分する方法のいずれかによります(リースに関する会計基準 第49項)。リース負債は、区分して表示するか、リース負債が含まれる科目及び金額を注記します(リースに関する会計基準 第50項)。

適用初年度の期中の仕訳

原資産の所有権が借手に移転すると認められるリース以外のリースに係る使用権資産の減価償却費は、原則として、借手のリース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロとして算定します(リースに関する会計基準 第38項)。本例では定額法により、54,957を5年で償却します。

減価償却費 = 54,957 ÷ 5年 = 10,991
借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
減価償却費 10,991 使用権資産 10,991

利息相当額は、借手のリース期間にわたり、原則として利息法により配分します(リースに関する会計基準 第36項)。適用初年度の利息費用と、リース料支払によるリース負債の返済は次のとおりです。

利息費用 = 54,957 × 3.0% = 1,649
リース負債の返済額 = 12,000 − 1,649 = 10,351
借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
支払利息 1,649 現金預金 12,000
リース負債 10,351

従来のオペレーティング・リース取引では年間12,000が支払リース料として費用計上されていたのに対し、新基準では減価償却費10,991と支払利息1,649の合計12,640が費用となります。移行直後は費用が前倒しで発生し、リース期間の後半にかけて逓減していく点は、予算編成や業績見通しの説明で必ず問われます。リース負債に係る利息費用は、損益計算書において区分して表示するか、含まれる科目及び金額を注記します(リースに関する会計基準 第51項)。

注記と社内説明の準備

リースに関する注記は、借手について会計方針に関する情報、リース特有の取引に関する情報、当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報を注記します(リースに関する会計基準 第55項)。早期適用の年度は、これに加えて前掲の会計方針の変更に関する注記(リースに関する会計基準の適用指針 第125項)が必要になります。

早期適用を決めた時点で、監査人に対して移行方針・経過措置の選択・便法の適用範囲を文書で共有しておくと、期末の論点整理が短くなります。会計処理の判定は契約内容によって結論が変わるため、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。

まとめ

新リース会計基準は2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用され、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することができます(リースに関する会計基準 第58項)。適用の起点は期首に限られ、適用指針も会計基準と同時に適用します(リースに関する会計基準の適用指針 第112項)。

早期適用の便益は、連結グループの会計方針統一、移行作業の分散、財務指標への影響を事前に説明できることにあります。一方で、比較情報の取扱いと追加の注記、システム・内部統制の前倒し整備、同業他社との比較可能性の低下という負担も生じます。

判断を分けるのは、結局のところ契約情報がどこまで揃っているかです。契約の棚卸しとリースの識別に目処が立ち、経過措置と便法の選択について監査人と合意できているなら、早期適用は現実的な選択肢になります。まだ着手していないのであれば、早期適用の可否を決める前に契約の棚卸しから始めるのが順序として確実です。

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参考文献

よくある質問

新リース会計基準はいつから早期適用できますか

2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することができます(リースに関する会計基準 第58項)。期の途中から適用を開始することはできません。

早期適用する場合、比較情報も新基準で組み替える必要がありますか

適用初年度の期首の利益剰余金に累積的影響額を加減し、期首残高から新たな会計方針を適用する方法(リースに関する会計基準の適用指針 第118項ただし書き)を選択した場合、適用初年度の比較情報について新たな表示方法に従った組替えは行いません(リースに関する会計基準の適用指針 第136項)。この場合、比較情報には企業会計基準第13号および企業会計基準適用指針第16号に定める事項を注記します(リースに関する会計基準の適用指針 第137項)。

連結財務諸表だけ先に早期適用することはできますか

新リース会計基準は、連結会計年度及び事業年度の期首という同一の起点から適用することとされています(リースに関する会計基準 第58項)。連結財務諸表のみを先行して適用する取扱いは定められていません。

会計基準だけを先に適用し、適用指針は後から適用できますか

適用指針の適用時期は会計基準と同様とされています(リースに関する会計基準の適用指針 第112項)。会計基準と適用指針は同時に適用します。

早期適用しない場合、いま準備しておくべきことは何ですか

契約の棚卸しと、契約にリースが含まれるかどうかの判断です(リースに関する会計基準 第25項、第26項)。この作業は部門横断の照会が必要で時間がかかるため、早期適用の可否にかかわらず先行して着手する価値があります。

事務所概要
社名
公認会計士事務所プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
03-6773-5062
対応責任者
公認会計士 島本 雅史

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