追加借入利子率の決め方|基準金利とスプレッドの算定例
目次
追加借入利子率は、借手がリース負債を現在価値で測定するときに、貸手の計算利子率を知り得ない場合に用いる利率です(リースに関する会計基準の適用指針 第37項(2))。基準はこの利率の算定方法を細かく定めておらず、実務では基準金利をどこから取り、そこに何をどれだけ上乗せするかを企業自身が組み立てることになります。
本記事は、この組み立て方に絞って手順と数値例を示します。銀行から提示された金利をどう扱うか、スワップレートに信用スプレッドを加味する方法との相互検証、グループ内の社内金利をそのまま使えるか、そして監査で説明を求められたときに残しておくべき資料までを整理します。割引率の判断順序そのものは別記事で扱っており、ここでは第2順位に入った後の実務に集中します。
追加借入利子率を組み立てる3ステップ
追加借入利子率は、次の3ステップで組み立てると整理しやすくなります。出発点となる利率を決め、借手固有の信用リスクを上乗せし、最後にリース契約との条件の一致を確認する流れです。
| ステップ1 | 基準金利を決める。リース期間と同一の期間のスワップレート、または金融機関から提示された新規長期借入金等の利率を出発点にします。 |
|---|---|
| ステップ2 | 借手自身の信用スプレッドを加味する。スワップレートを出発点にした場合に必要となる調整です。借入金利の提示を出発点にした場合は、提示金利にすでに織り込まれています。 |
| ステップ3 | 期間・担保・通貨・調達額がリース契約と対応しているかを確認し、ずれがあれば方針に従って調整する。 |
基準が例示しているのは、このうち出発点となる利率までです。具体的には、借手のリース期間と同一の期間におけるスワップレートに借手の信用スプレッドを加味した利率と、新規長期借入金等の利率(契約時点の利率、契約が行われた月の月初又は月末の利率、当該月の平均利率、当該半期の平均利率)が挙げられています(リースに関する会計基準の適用指針 BC66項)。
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銀行提示金利から組み立てる算定例
まず、金融機関の提示金利を出発点にする場合の計算を追います。以下は自社作例です(単位:千円)。X1年4月1日にリースを開始する倉庫設備で、借手のリース期間は5年、借手のリース料は年額12,000千円を毎年3月末に後払いします。リース開始日までに支払ったリース料、付随費用、リース・インセンティブはないものとします。貸手の計算利子率は、原資産の現金購入価額と見積残存価額を入手できないため知り得ないと判断しました(リースに関する会計基準の適用指針 第37項(1)、第66項)。
この会社は、リース契約を締結した月に、取引銀行から期間5年・無担保の新規長期借入について年2.4パーセントの提示を受けています。リース期間と同一の期間の借入れに適用される利率であるため、そのまま基準金利として採用できます(リースに関する会計基準の適用指針 BC66項(2))。提示金利には借手の信用力がすでに反映されているため、ステップ2の上乗せは行いません。
リース負債は、リース開始日において未払である借手のリース料から利息相当額の合理的な見積額を控除し、現在価値により算定します(リースに関する会計基準 第34項)。年2.4パーセント・期間5年・期末払の年金現価係数は4.65923です。
使用権資産は、このリース負債にリース開始日までに支払った借手のリース料、付随費用および資産除去債務に対応する除去費用を加算し、受け取ったリース・インセンティブを控除した額により計上します(リースに関する会計基準 第33項)。本作例では加減する項目がないため、リース負債と同額になります。リース開始日の仕訳は次のとおりです(単位:千円)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 使用権資産 | 55,911 | リース負債 | 55,911 |
利息相当額は、借手のリース期間にわたり原則として利息法により配分し、各期の利息相当額はリース負債の未返済元本残高に一定の利率を乗じて算定します(リースに関する会計基準 第36項、同適用指針 第38項、第39項)。初年度の金額は次のように分解されます。
スワップレートに信用スプレッドを加味する算定例
金融機関からの提示がない契約、あるいは提示金利の妥当性を確かめたい場合には、市場金利を出発点にする方法を使います。この方法では、借手のリース期間と同一の期間におけるスワップレートに、借手の信用スプレッドを加味します(リースに関する会計基準の適用指針 BC66項(1))。
先ほどと同じ契約について、契約月の期間5年の円金利スワップレートが年1.1パーセント、同社と同水準の信用力を持つ発行体の社債流通利回りと国債利回りの差から把握した信用スプレッドが年1.4パーセントだったとします。
銀行提示金利から求めた2.4パーセントと、市場金利から積み上げた2.5パーセントは、0.1ポイントの範囲で整合しています。実務では、採用する1つの方法だけで完結させず、もう一方の方法で水準を確かめておくことをおすすめします。両者が大きく乖離する場合は、提示金利に担保や保証が織り込まれている、対象期間がリース期間と一致していない、調達額の規模が違うといった条件差が背景にあることが多く、その差の説明ができれば採用根拠が格段に強くなります。
本作例では、実際の調達条件に基づく銀行提示金利の2.4パーセントを採用し、スワップレートからの積上げは妥当性の検証に用いる整理としています。どちらを本則とするかは企業が方針として決める領域です。
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社内金利をそのまま使えるかの判断
グループ会社間で資金を融通している企業では、社内金利(グループ内の貸付レート)を追加借入利子率に流用したくなります。しかし基準が求めているのは、あくまで借手の追加借入に適用されると合理的に見積られる利率です(リースに関する会計基準の適用指針 第37項(2))。例示されているのも、借手自身のリース期間に対応するスワップレートと信用スプレッド、借手の新規長期借入金等の利率です(同適用指針 BC66項)。
社内金利は、親会社の調達コストを基礎に一律で設定されていたり、税務上の観点や政策的な判断で決められていたりすることが少なくありません。この場合、借手である子会社が単独で第三者から同一期間の借入れを行ったときの利率とは水準がずれます。実務では、社内金利をそのまま用いるのであれば、それが借手自身の追加借入条件を反映しているといえる根拠を用意しておく必要があります。
外部借入の実績がない子会社では、親会社の同期間の調達金利を出発点に、子会社固有の信用力の差を反映したスプレッドを加味する組み立てが考えられます。この点について基準に明示的な定めはないため、どこまで子会社固有の要素を反映するかは会計方針として整理し、算定根拠資料に残しておくことになります。
期間・担保・通貨のミスマッチをどう扱うか
基準が明確に要求しているのは期間の一致だけです。新規長期借入金等の利率を用いる場合は、借手のリース期間と同一の期間の借入れを行う場合に適用される利率を用いる必要があります(リースに関する会計基準の適用指針 BC66項)。5年のリースに期間1年の短期調達金利を当てるような対応は認められません。
一方で、担保の有無や通貨の違いについては定めが置かれていません。基準に定めがない領域は、企業が方針として決め、その方針を継続的に適用することになります。
| 調整が必要な要素 | 基準の定めと実務上の整理 |
|---|---|
| 期間 | 借手のリース期間と同一の期間の借入れに適用される利率を用いることが求められています(同適用指針 BC66項)。リース期間が確定しなければ利率も確定しないため、延長オプション・解約オプションの評価が先行します。 |
| 担保 | 定めはありません。リースは原資産そのものが実質的な担保として機能する一方、無担保借入の提示金利にはその効果が反映されていません。無担保金利をそのまま用いるのか、有担保相当の調整を行うのかを方針として決めます。 |
| 通貨 | 定めはありません。外貨建てリースについて、リース料の通貨建ての金利を用いるのか、機能通貨の金利を用いるのかを方針として決め、選択した理由を残します。 |
| 調達額の規模 | 定めはありません。少額のリースに大口調達の優遇金利を当てると水準がずれます。金額帯ごとに観測する利率を分けるかどうかを決めておきます。 |
加えて、金利をいつ観測するかも決めておく必要があります。契約時点の利率のほか、契約が行われた月の月初又は月末の利率、当該月の平均利率、当該半期の平均利率を用いることが認められているため(同適用指針 BC66項(2))、どれを標準とするかを方針化しておくと、契約ごとの恣意的な選択を避けられます。
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契約単位で算定するか、まとめて算定するか
契約が数百件に及ぶ企業では、1件ごとに利率を観測する負担が問題になります。この点、適用初年度の期首に累積的影響額を利益剰余金に加減する方法を選択する借手は、旧基準でオペレーティング・リース取引に分類していたリース等について、特性が合理的に類似した複数のリースに単一の割引率を適用することができます(リースに関する会計基準の適用指針 第118項ただし書き、第124項(1))。移行時の初期負担を抑える有効な選択肢です。
ただしこれは経過措置に位置づけられた取扱いであり、適用初年度の期首以後に開始する新規契約に自動的に及ぶものではありません。移行を単一の利率で乗り切ったとしても、その後の契約について観測・算定を回す体制はあらためて必要になります。移行時のグルーピングの単位(原資産の種類、リース期間の帯、契約通貨など)を、そのまま平常時の運用に引き継げるかどうかまで見据えて設計しておくと、二度手間を避けられます。
なお、未経過の借手のリース料の期末残高が、当該期末残高、有形固定資産および無形固定資産の期末残高の合計額に占める割合が10パーセント未満である場合には、借手のリース料から利息相当額の合理的な見積額を控除しない方法を適用することができます(同適用指針 第40項(1)、第41項)。この方法を選択するリースについては、そもそも割引計算が不要になります。自社が該当するかどうかは、利率の設計に着手する前に確認しておくと無駄がありません。
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監査対応のための文書化
追加借入利子率は見積りの要素を含むため、監査では算定根拠の説明を求められます。とくに、適用初年度の期首の貸借対照表に計上されているリース負債に適用している借手の追加借入利子率の加重平均は注記事項とされており(リースに関する会計基準の適用指針 第125項(1))、算定した利率は開示を通じて外部の目に触れます。社内の計算メモにとどめず、方針と証跡をセットで残しておく必要があります。
実務では、次の項目を1枚の算定根拠資料にまとめておくと、監査人からの質問に一度で答えられます。
- 貸手の計算利子率を知り得ないと判断した理由(原資産の現金購入価額・見積残存価額を入手できない旨と、貸手への照会の記録)
- 基準金利の出典(金融機関の提示書、スワップレートの取得画面など)と観測日
- 信用スプレッドの算定根拠と、参照した発行体・格付の選定理由
- 採用した利率の期間が、借手のリース期間と一致していることの確認
- 担保・通貨・調達額の条件差について行った調整と、その考え方
- もう一方の方法で算定した水準との比較結果と、乖離がある場合の説明
もう一点、見落とされやすいのが再測定時に用いる利率です。リースの契約条件の変更や、契約条件の変更を伴わないリース負債の見直しに際して、変更前の割引率と変更後の割引率のどちらを用いるかについて、適用指針は定めを置いていません(リースに関する会計基準の適用指針 BC76項、BC79項)。借手は、リースの契約条件の変更が生じていない場合でも、借手のリース期間に変更があるときや借手のリース料に変更があるときにはリース負債の計上額の見直しを行うため(リースに関する会計基準 第40項)、見直しの場面は決算のたびに生じ得ます。どの場面でどちらの利率を用いるかを、当初測定の方針と同時に決めておくことが、期をまたいだ処理の一貫性を保つうえで有効です。
本会計基準は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されます。2025年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から早期適用することもできます(リースに関する会計基準 第58項)。利率の方針づくりは、契約の洗い出しが終わってから着手すると間に合わないことが多いため、洗い出しと並行して進めることをおすすめします。
まとめ
追加借入利子率は、基準金利に信用スプレッドを加味して組み立て、期間・担保・通貨・調達額の条件をリース契約に合わせて確認する、という手順に落とし込めます。基準が明示しているのは出発点となる利率の例示と期間の一致までであり、それ以外は企業が会計方針として決める領域です。
したがって、実務の勝負どころは利率そのものの精度よりも、決めた方針を一貫して適用し、その根拠を残せているかにあります。銀行提示金利と市場金利からの積上げの2つで水準を相互に確かめ、算定根拠を1枚にまとめ、再測定時の取扱いまで先に決めておく。この3つを押さえておけば、監査でも移行後の運用でも困る場面は大きく減ります。
なお、どの利率を採用すべきか、社内金利をどこまで使えるかといった判断は、契約の内容や資金調達の実態によって結論が変わります。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
参考文献
よくある質問
銀行から提示された借入金利をそのまま追加借入利子率に使えますか
新規長期借入金等の利率は例示として挙げられており、契約時点の利率、契約が行われた月の月初又は月末の利率、当該月の平均利率、当該半期の平均利率を用いることができます(リースに関する会計基準の適用指針 BC66項(2))。ただし、借手のリース期間と同一の期間の借入れに適用される利率であることが前提です。期間3年の提示金利を期間5年のリースに用いることはできません。
信用スプレッドはどのように把握しますか
基準はスワップレートに借手の信用スプレッドを加味した利率を例示していますが、スプレッドの算定方法までは定めていません(リースに関する会計基準の適用指針 BC66項(1))。実務では、自社または同水準の信用力を持つ発行体の社債流通利回りと国債利回りの差を用いる、直近の借入金利とスワップレートの差から逆算するといった方法が採られます。参照した発行体と選定理由を残しておくことが重要です。
グループ会社間の社内金利を追加借入利子率として使えますか
用いることが直ちに否定されるわけではありませんが、基準が求めているのは借手の追加借入に適用されると合理的に見積られる利率です(リースに関する会計基準の適用指針 第37項(2))。社内金利が政策的に設定されている場合は、借手自身の信用力や調達期間を反映していないことがあります。使用するのであれば、借手の追加借入条件を反映しているといえる根拠を用意しておく必要があります。
外貨建てリースはどの通貨の金利で割り引きますか
この点について適用指針に明示的な定めはありません。リース料の通貨建ての金利を用いるのか、機能通貨の金利を用いるのかを企業が会計方針として決め、選択した理由と継続適用の状況を文書化します。実務では、リース料の支払通貨に対応した金利を用いる整理が採られることが多いといえます。
追加借入利子率は決算日ごとに見直す必要がありますか
当初測定に用いた利率を毎期洗い替える定めはありません。もっとも、借手のリース期間に変更があるときや借手のリース料に変更があるときにはリース負債の計上額の見直しを行います(リースに関する会計基準 第40項)。その際に変更前と変更後のどちらの割引率を用いるかについて適用指針は定めを置いていないため(同適用指針 BC76項、BC79項)、企業が会計方針として決めておく必要があります。
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