予定取引のヘッジ仕訳【設例】要件判定表と取得価額への振替
目次
- 予定取引をヘッジ対象にできる範囲
- 実行可能性の要件判定表
- 判定で迷いやすい3つの場面
- 設例の前提(自社作例)
- 契約時と期末の仕訳
- 予定取引実行時の仕訳
- 売上や利息として実行される予定取引の場合
- 借入金など利付負債の発生である場合
- 予定取引が実行されないことが明らかになった場合
- 決算で確認する実務ポイント
- 基準の改正状況と予定取引への影響
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- 予定取引の実行までの期間が1年を超えると、ヘッジ対象にできませんか。
- 原材料の購入をヘッジした場合、繰延ヘッジ損益はいつ損益になりますか。
- 予定取引が中止になった場合、繰延ヘッジ損益はどう処理しますか。
- 契約済みの取引は、すべて予定取引としてヘッジ対象にできますか。
予定取引をヘッジ対象として繰延ヘッジを適用すると、ヘッジ手段の時価評価差額は、予定取引が実行されるまで純資産の部に繰り延べられます。予定取引が棚卸資産や固定資産の購入であれば、実行時に繰延ヘッジ損益を取得価額に加減し、その資産が費用になる期の損益に反映させるのが基本の流れです。本記事では、まず「その取引が予定取引に当たるか」を判断要素ごとに確認できる判定表を示し、続けて原材料の購入を題材にした自社設例で、契約時・期末・実行時・不実行時の仕訳を順にたどります。
予定取引をヘッジ対象にできる範囲
ヘッジ会計の対象は、相場変動等による損失の可能性がある資産または負債ですが、予定取引により発生が見込まれる資産または負債もヘッジ対象に含まれます(金融商品に関する会計基準 第30項)。ここでいう予定取引とは、未履行の確定契約に係る取引と、契約は成立していないものの、取引予定時期・取引予定物件・取引予定量・取引予定価格等の主要な取引条件が合理的に予測可能であり、かつ、実行される可能性が極めて高い取引をいいます(金融商品に関する会計基準 注12)。
つまり、予定取引はヘッジ対象に含まれるものの、その範囲は「主要な取引条件が合理的に予測可能であり、かつ実行される可能性が極めて高い取引」に限定されています(金融商品に関する会計基準 第101項)。将来の見込みであれば何でも対象になるわけではない、という点が出発点です。
また、予定取引であってもヘッジ会計の一般的な要件は同じです。ヘッジ取引時にリスク管理方針に従った取引であることが文書等で客観的に認められ、かつヘッジ取引時以降もヘッジ手段の効果が定期的に確認されていなければなりません(金融商品に関する会計基準 第31項)。ヘッジ取引の開始時には、ヘッジ手段とヘッジ対象、ヘッジ有効性の評価方法を正式な文書で明確にする必要があります(金融商品会計に関する実務指針 第143項)。予定取引の場合は、この文書の中で「どの予定取引を、どの数量・時期で指定したか」を特定しておくことが、後の判定の土台になります。
関連コラム予定取引のヘッジ会計特例を徹底解説!実務上の要件と処理方法▸
実行可能性の要件判定表
「実行される可能性が極めて高い」かどうかは、一つの基準で機械的に決まるものではありません。実務指針は、判断の際に総合的に吟味すべき項目を例示しています(金融商品会計に関する実務指針 第162項)。下の表は、その項目ごとに「満たさない場合の扱い」と、監査対応で手元に揃えておきたい確認資料の例を並べたものです。確認資料の欄は当事務所の実務上の目安であり、基準が求める書類の一覧ではありません。
| 主要な取引条件の 予測可能性 |
取引予定時期・物件・数量・価格を合理的に予測できることが前提です。確認資料の例は、購買計画、生産計画、取引先からの見積書です。 |
|---|---|
| 過去に同様の取引が 行われた頻度 |
同様の取引を過去に一度も行っていない場合は、他の要素を十分に吟味します。確認資料の例は、過去数期分の発注・仕入実績です。 |
| 予定取引を行う能力 | 法的・制度的・資金的に実行する能力がない場合は、ヘッジ対象になり得ません。確認資料の例は、資金計画、必要な許認可、取締役会等の決議です。 |
| 行わない場合の 不利益の有無 |
取引を行わなくても不利益がない場合は、他の要素を十分に吟味します。確認資料の例は、生産停止や供給契約違反となる影響の検討資料です。 |
| 同等の効果をもたらす 他の取引の有無 |
同等の効果・成果をもたらす他の取引がある場合は、他の要素を十分に吟味します。確認資料の例は、代替調達先や代替手段の検討記録です。 |
| 予定取引発生までの 期間の妥当性 |
期間が長いほど実行可能性は低くなると考えられ、おおむね1年以上の場合は他の要素を十分に吟味します。確認資料の例は、予定時期を裏付ける工程表や契約交渉の記録です。 |
| 予定取引数量の妥当性 | 過去に行った同様の取引の数量を超える部分は、他の要素を十分に吟味します。確認資料の例は、過去実績数量と予定数量の比較表です。 |
| 未履行の確定契約で 解除対価が不要・軽微 |
解除の対価が全く不要か軽微な契約は、契約済みでも上記と同様の検討を行います。確認資料の例は、契約書の解除条項です。 |
表の各行の扱いは、金融商品会計に関する実務指針 第162項に基づいています。
判定で迷いやすい3つの場面
一つ目は「能力」の行です。他の項目が「十分に吟味する」にとどまるのに対し、法的・制度的・資金的に実行する能力がない場合は、それだけでヘッジ対象になり得ないとされています(金融商品会計に関する実務指針 第162項)。資金調達が未確定の大型設備投資などは、ここで止まる可能性があります。
二つ目は「期間」の行です。おおむね1年以上先の取引も直ちに対象外になるわけではなく、他の要素による裏付けがより強く求められるという位置づけです(金融商品会計に関する実務指針 第162項)。実行までの期間が長いほど実行可能性は一般的に低くなると考えられているため(金融商品会計に関する実務指針 第331項)、長期の予定取引ほど、取引先との交渉記録など客観的な資料の厚みが問われます。
三つ目は「数量」の行です。予定数量が少ないほど実行可能性は一般的に高くなると考えられています(金融商品会計に関する実務指針 第332項)。実務では、過去実績の範囲内の数量に絞ってヘッジ指定し、実績を超える部分は指定しないといった設計にすると、判定の説明がしやすくなります。
公認会計士へまずはご相談
公認会計士事務所プライムパートナーズ
お問い合わせはこちら
設例の前提(自社作例)
以下は当事務所で設定した作例です。3月決算の当社は、2026年6月30日に製品の原材料となる金属地金を購入する予定です。購入数量は過去の年間実績の範囲内で、購買計画と生産計画に織り込まれており、判定表の各項目を検討した結果、予定取引に該当すると判断しました。
価格上昇のリスクに備えるため、当社は2026年2月1日に、予定購入数量を対象とする商品スワップ(固定価格支払・市場価格受取、決済日2026年6月30日、差金決済)を締結し、この予定取引のヘッジとして文書で指定しました。ヘッジ会計の要件は満たしており、繰延ヘッジを適用します。単位はすべて千円とし、仕訳の流れを見やすくするため税効果は省略します。
契約時と期末の仕訳
2026年2月1日の契約時点では、商品スワップの時価はゼロです。デリバティブの正味の債権債務は時価で計上しますが、この時点では計上すべき金額が生じないため、仕訳は発生しません。ヘッジ指定の文書を作成し、ヘッジ対象の予定取引と数量を記録しておくことがこの日の実務上の作業になります。
2026年3月31日の期末に、金属地金の市場価格が上昇し、商品スワップの時価が3,000千円の正味の債権になったとします。デリバティブ取引により生じる正味の債権は時価をもって貸借対照表価額とし(金融商品に関する会計基準 第25項)、ヘッジ会計を適用しているため、評価差額は当期の損益とせず、ヘッジ対象に係る損益が認識されるまで純資産の部に繰り延べます(金融商品に関する会計基準 第32項)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| デリバティブ資産 | 3,000 | 繰延ヘッジ損益 | 3,000 |
実際の決算では、純資産の部に計上される繰延ヘッジ損益に税効果会計を適用しなければならず(金融商品に関する会計基準 第32項)、繰延ヘッジ損益は税効果を控除した後の金額で純資産の部に計上します(金融商品会計に関する実務指針 第174項)。税効果の仕訳と組替えの計算例は、次のコラムで扱っています。
関連コラム繰延ヘッジ損益の仕訳と税効果【計算例】純資産直入と組替調整▸
期末には、ヘッジ手段の効果を定期的に確認していることも繰延処理の前提です(金融商品に関する会計基準 第31項)。有効性の評価方法そのものは、別のコラムで詳しく解説しています。
関連コラムヘッジ有効性の評価基準と判定方法:80〜125%ルールを解説▸
予定取引実行時の仕訳
予定取引が棚卸資産や有形固定資産などの資産の購入である場合、繰り延べてきたヘッジ手段の損益は、予定取引の実行時にその資産の取得価額に加減し、取得価額が費用計上される期の純損益に反映させます(金融商品会計に関する実務指針 第170項(2))。
設例では、2026年6月30日に金属地金を市場価格52,000千円で掛けにより購入し、同日に商品スワップを差金決済して5,000千円を受け取ったとします。期末の時価3,000千円からさらに2,000千円増えた部分も、ヘッジの効果として繰延ヘッジ損益に加えたうえで、繰延ヘッジ損益の残高5,000千円を原材料の取得価額から減額します。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 原材料 | 52,000 | 買掛金 | 52,000 |
| 現金預金 | 5,000 | デリバティブ資産 | 3,000 |
| 繰延ヘッジ損益 | 2,000 | ||
| 繰延ヘッジ損益 | 5,000 | 原材料 | 5,000 |
この結果、原材料の帳簿価額は次のとおりとなり、商品スワップで固定した価格水準での調達が会計上も表現されます。
この後、原材料が製品となって販売された期には、減額後の取得価額が売上原価に含まれることで、ヘッジの効果が損益に反映されます。固定資産を購入した場合は、減価償却費を通じて反映されます(金融商品会計に関する実務指針 第170項(2))。繰延ヘッジ損益を純資産の部に残し続けるのではなく取得価額に加減するのは、資産の費用化との期間対応を容易に達成でき、会計処理も簡便であるためと説明されています(金融商品会計に関する実務指針 第338項)。
売上や利息として実行される予定取引の場合
ヘッジ対象の予定取引が売上や金利など純損益が直ちに発生するものであれば、実行時に繰延ヘッジ損益を当期の純損益として処理します。科目は原則としてヘッジ対象取引に係る損益科目(売上高、支払利息など)とし、為替リスクのヘッジによる損益は為替差損益とすることができます(金融商品会計に関する実務指針 第170項(1))。たとえば予定売上のヘッジで繰延ヘッジ利益が残っていれば、販売時に売上高へ振り替えることになります。
借入金など利付負債の発生である場合
予定取引が社債や借入金等の利付負債の発生である場合は、実行時に取得価額へ加減する相手がないため、繰延ヘッジ損益を引き続き純資産の部に計上し、償却原価法により負債に係る利息費用の発生に対応するよう各期の純損益に配分します(金融商品会計に関する実務指針 第170項(3))。なお、将来の外貨建貸付け・借入れのための為替変動によるキャッシュ・フローを固定する手段に係る損益は、当期の純損益に計上し、ヘッジ会計の処理はできない点に注意が必要です(金融商品会計に関する実務指針 第169項)。
予定取引が実行されないことが明らかになった場合
ヘッジ対象である予定取引が実行されないことが明らかになったときは、繰り延べていたヘッジ手段に係る損益または評価差額を当期の純損益として処理しなければなりません(金融商品に関する会計基準 第34項、金融商品会計に関する実務指針 第181項)。
設例を変えて、2026年5月20日に製品の生産計画が中止され、金属地金の購入を行わないことが明らかになったとします。期末に計上した繰延ヘッジ損益3,000千円は、その時点で当期の損益に振り替えます(同日までの時価の変動は考慮しないものとします)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 繰延ヘッジ損益 | 3,000 | デリバティブ損益 | 3,000 |
これと区別が必要なのが、ヘッジ会計の要件が満たされなくなった場合です。この場合は、要件を満たしていた間のヘッジ手段に係る損益または評価差額を、ヘッジ対象に係る損益が認識されるまで引き続き繰り延べます(金融商品に関する会計基準 第33項)。「予定取引そのものがなくなった」のか「ヘッジ関係の要件が崩れた」のかで、繰延ヘッジ損益の扱いが正反対になるため、決算時には事実関係を分けて整理します。
関連コラムヘッジ会計の中止と終了の違い・損益見積りの実務解説▸
決算で確認する実務ポイント
予定取引のヘッジでは、仕訳そのものよりも、その前提となる事実の記録が監査で確認されます。期末ごとに、次の点を点検しておくと判断の説明がしやすくなります。
- ヘッジ指定の文書に、予定取引の時期・物件・数量が特定して書かれているか
- 判定表の各項目について、期末時点の購買計画や生産計画と照らして見直したか
- 予定時期が延びた場合に、期間の長さを踏まえて実行可能性を改めて検討したか
- 実際の購入数量がヘッジ指定した数量を下回る見込みになっていないか
- 計画中止など、予定取引が実行されないことが明らかになった事実がないか
- 繰延ヘッジ損益を振り替える先(取得価額・売上高・利息費用)を取引の種類で決めているか
基準の改正状況と予定取引への影響
金融商品に関する会計基準は1999年に公表され、原則として2000年4月1日以後開始する事業年度から適用されています(金融商品に関する会計基準 第41項)。その後、時価の定義を見直した2019年の改正を経て、2026年には、特別目的会社を譲受人とする金融資産の譲渡について、特別目的会社に対する融資者を投資者と同様に取り扱うことを明確にする改正が行われました。2026年の改正は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首以後に実施される金融資産の譲渡から適用され、2026年4月1日以後開始する年度の期首以後の譲渡からの早期適用も認められています(金融商品に関する会計基準 第41項(7)(8)、第50-5項)。
金融商品会計に関する実務指針も、2025年に組合等への出資に含まれる市場価格のない株式を時価で評価できる定めが追加され、2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されています(金融商品会計に関する実務指針 第132-2項、第195-20項)。2026年には上記の会計基準の改正にあわせた改正も行われています(金融商品会計に関する実務指針 第195-21項)。いずれの改正も、本記事で扱った予定取引のヘッジに関する定めを変更するものではありません。
まとめ
予定取引のヘッジは、まず「主要な取引条件が合理的に予測可能で、実行される可能性が極めて高い取引か」を判定表の各項目で確かめ、文書で指定するところから始まります。仕訳は、期末にヘッジ手段を時価評価して繰延ヘッジ損益を計上し、実行時に資産の購入なら取得価額へ、売上や利息なら対応する損益科目へ振り替えるのが基本です。予定取引が実行されないことが明らかになれば、繰延ヘッジ損益は直ちに当期の損益になります。判定の根拠資料が揃っていないと繰延処理そのものが認められないため、指定時と期末の記録を重視してください。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
お問い合わせはこちら参考文献
よくある質問
予定取引の実行までの期間が1年を超えると、ヘッジ対象にできませんか。
直ちに対象外になるわけではありません。予定取引発生までの期間がおおむね1年以上である場合は、他の要素を十分に吟味することとされており、過去の取引頻度や実行能力などの裏付けがより強く求められます(金融商品会計に関する実務指針 第162項)。
原材料の購入をヘッジした場合、繰延ヘッジ損益はいつ損益になりますか。
購入時に繰延ヘッジ損益を原材料の取得価額に加減し、その原材料が費用として計上される期に損益へ反映されます。棚卸資産であれば販売時の売上原価、固定資産であれば減価償却費に含まれることになります(金融商品会計に関する実務指針 第170項(2))。
予定取引が中止になった場合、繰延ヘッジ損益はどう処理しますか。
予定取引が実行されないことが明らかになった時点で、繰り延べていたヘッジ手段に係る損益または評価差額を当期の純損益として処理します(金融商品に関する会計基準 第34項、金融商品会計に関する実務指針 第181項)。ヘッジ会計の要件が満たされなくなっただけの場合は、要件を満たしていた間の損益を引き続き繰り延べる点が異なります(金融商品に関する会計基準 第33項)。
契約済みの取引は、すべて予定取引としてヘッジ対象にできますか。
未履行の確定契約に係る取引は予定取引に含まれます(金融商品に関する会計基準 注12)。ただし、契約を解除する場合の対価が全く不要か軽微である契約は、契約前の予定取引と同様に実行可能性の各項目を検討して、ヘッジ対象になり得るかを判断します(金融商品会計に関する実務指針 第162項)。
本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。



