税効果会計の注記記載例|発生原因別内訳と評価性引当額のひな形
目次
- 税効果会計の注記事項一覧
- 繰延税金資産及び繰延税金負債の発生原因別の主な内訳の記載例
- 表の行構成と並び順
- 数値入りの記載例
- 繰延税金資産を計上・取り崩したときの仕訳
- 評価性引当額の内訳と2区分の記載例
- 繰越欠損金に係るものと将来減算一時差異等に係るもの
- 評価性引当額に重要な変動が生じた場合の文例
- 税務上の繰越欠損金の繰越期限別注記の記載例
- 繰越期限の区切り方と3つの数値
- 回収可能と判断した主な理由の文例
- 税率差異注記の記載例
- 連結と個別の違い・注記を省略できる範囲
- 注記作成でつまずきやすい点
- 基準の改正の経緯と今後の適用
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- 繰延税金資産の発生原因別の主な内訳は、どこまで項目を分けて記載しますか。
- 評価性引当額を2つに区分するのは、どのような場合ですか。
- 繰越欠損金の繰越期限は、何年ごとに区切ればよいですか。
- 個別財務諸表では、どの注記を省略できますか。
- 税率差異の注記を省略できるのは、どのような場合ですか。
税効果会計の注記は、決算作業の最後に回されやすい割に、記載を誤ると監査で必ず論点になる項目です。とくに繰延税金資産の発生原因別の主な内訳と評価性引当額の内訳は、行の並べ方と小計の位置が決まっていないと、毎期の比較可能性が崩れます。
この記事では、有価証券報告書や計算書類の税効果会計関係注記について、そのまま埋められる形の記載例を数値入りで示します。発生原因別の内訳表、評価性引当額の2区分、税務上の繰越欠損金の繰越期限別注記、税率差異注記の4つを順に組み立て、最後に連結と個別の違い・省略できる範囲を整理します。掲載する数値はすべて当事務所の作例で、特定の企業の開示を引用したものではありません。
税効果会計の注記事項一覧
税効果会計に関する注記として定められているのは、次の4項目です(税効果会計に係る会計基準 第四 1.から4.)。このうち実務で分量を占めるのは1つ目と2つ目で、記載例を探す場面もほぼこの2つに集中します。
| 繰延税金資産及び 繰延税金負債の発生原因別の主な内訳 |
将来減算一時差異等の項目ごとに繰延税金資産を並べ、評価性引当額を控除して純額まで示します。評価性引当額の併記が必要です |
|---|---|
| 法定実効税率と 税負担率との差異の内訳 |
両者に重要な差異があるときに、差異の原因となった主要な項目別の内訳を記載します |
| 税率の変更による 繰延税金資産等の修正額 |
税率の変更により繰延税金資産及び繰延税金負債の金額が修正されたときに、その旨と修正額を記載します |
| 決算日後の 税率の変更 |
決算日後に税率の変更があった場合に、その内容及びその影響を記載します |
2つ目の税率差異注記でいう税負担率は、税引前当期純利益または税金等調整前当期純利益に対する税金費用(法人税等及び法人税等調整額)の比率をいいます(税効果会計に係る会計基準の一部改正 第19項)。
これらの注記の骨格は、2018年に公表された企業会計基準第28号によって現在の形になりました。同基準は2018年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されています(税効果会計に係る会計基準の一部改正 第6項)。評価性引当額の内訳と税務上の繰越欠損金に関する注記は、このときに追加されたものです。
関連コラム税効果会計とは|仕訳3例と繰延税金資産・負債の実務▸
繰延税金資産及び繰延税金負債の発生原因別の主な内訳の記載例
表の行構成と並び順
発生原因別の内訳は、次の順序で組み立てると小計の位置が安定します。繰延税金資産の発生原因別の主な内訳を注記するにあたっては、繰延税金資産から控除された額(評価性引当額)を併せて記載します(税効果会計に係る会計基準の一部改正 第4項)。
- 繰延税金資産の項目(賞与引当金、貸倒引当金、減価償却超過額、棚卸資産評価損、退職給付に係る負債、税務上の繰越欠損金、その他)
- 繰延税金資産小計
- 評価性引当額(税務上の繰越欠損金に係るもの/将来減算一時差異等の合計に係るもの)
- 繰延税金資産合計
- 繰延税金負債の項目(その他有価証券評価差額金、子会社の資産の時価評価差額 など)
- 繰延税金負債合計
- 繰延税金資産の純額
評価性引当額は、繰延税金資産のうち将来減算一時差異が解消されるときに税金負担額を軽減できると認められる範囲を超える額として控除されるものです(税効果会計に係る会計基準注解 注5)。そのため、必ず繰延税金資産小計の下に置き、繰延税金負債と混ぜません。なお、重要性が乏しい一時差異等については繰延税金資産及び繰延税金負債を計上しないことができるため、そもそも内訳表の行にも現れません(税効果会計に係る会計基準注解 注4)。
数値入りの記載例
次は当連結会計年度の記載例です(単位:百万円)。税務上の繰越欠損金の額が重要であると判断したケースを想定し、評価性引当額を2つに区分しています。
| 賞与引当金 | 120 |
|---|---|
| 貸倒引当金 | 45 |
| 減価償却超過額 | 80 |
| 棚卸資産評価損 | 30 |
| 退職給付に係る負債 | 210 |
| 税務上の繰越欠損金 | 640 |
| その他 | 55 |
| 繰延税金資産小計 | 1,180 |
| 税務上の繰越欠損金に係る 評価性引当額 |
△430 |
| 将来減算一時差異等の合計に係る 評価性引当額 |
△160 |
| 評価性引当額小計 | △590 |
| 繰延税金資産合計 | 590 |
| その他有価証券評価差額金 (繰延税金負債) |
△95 |
| 子会社の資産の時価評価差額 (繰延税金負債) |
△60 |
| 繰延税金負債合計 | △155 |
| 繰延税金資産の純額 | 435 |
貸借対照表上は、繰延税金資産を投資その他の資産の区分に、繰延税金負債を固定負債の区分に表示します。同一納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は相殺し、異なる納税主体のものは相殺しません(税効果会計に係る会計基準の一部改正 第2項)。上の純額435は同一納税主体を前提としているため、相殺後の金額が投資その他の資産に一本で並ぶことになります。
繰延税金資産を計上・取り崩したときの仕訳
内訳表の数値がどの仕訳から生まれるかを押さえておくと、前期との増減分析が早くなります。次は、賞与引当金400百万円に係る将来減算一時差異について繰延税金資産を計上した場合の仕訳です(単位:百万円、法定実効税率は30.0%と仮定)。一時差異等に係る税金の額は、将来の会計期間において回収または支払が見込まれない税金の額を除き、繰延税金資産または繰延税金負債として計上します(税効果会計に係る会計基準 第二 二 1.)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 繰延税金資産 | 120 | 法人税等調整額 | 120 |
反対に、税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産300百万円のうち90百万円について回収可能性がないと判断し、評価性引当額を追加した場合は次のようになります(単位:百万円)。繰延税金資産は将来の回収の見込みについて毎期見直しを行う必要があり、この見直しの結果が評価性引当額の増減として内訳表に表れます(税効果会計に係る会計基準 第二 二 1.、同注解 注5)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 法人税等調整額 | 90 | 繰延税金資産 | 90 |
評価性引当額の内訳と2区分の記載例
繰越欠損金に係るものと将来減算一時差異等に係るもの
評価性引当額を2つに分けて書くかどうかは、条件が決まっています。繰延税金資産の発生原因別の主な内訳として税務上の繰越欠損金を記載している場合であって、当該税務上の繰越欠損金の額が重要であるときは、評価性引当額を税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額と将来減算一時差異等の合計に係る評価性引当額に区分して記載します(税効果会計に係る会計基準の一部改正 第4項)。この2区分が、上の内訳表で△430と△160に分かれている部分です。
実務で判断に迷いやすいのが、後者の区分に何を含めるかです。将来減算一時差異等の合計に係る評価性引当額の区分には、繰越外国税額控除や繰越可能な租税特別措置法上の法人税額の特別控除等を含めます(税効果会計に係る会計基準の一部改正 第4項)。税額控除の繰越分を注記の対象外と誤解して集計から落とすと、内訳の合計が発生原因別の内訳表と合わなくなります。
「重要であるとき」の目安は2つの観点から示されています(税効果会計に係る会計基準の一部改正 第30項)。
- 税負担率の予測の観点 ── 税務上の繰越欠損金の控除見込額(課税所得との相殺見込額)が将来の税負担率に重要な影響を及ぼす場合
- 回収可能性の不確実性の評価の観点 ── 純資産の額に対する税務上の繰越欠損金の額(納税主体ごとの法定実効税率を乗じた額)の割合が重要な場合
ただし一律の重要性の基準は定められておらず、連結財務諸表における注記と個別財務諸表における注記のそれぞれについて、企業の状況に応じて判断することとされています(税効果会計に係る会計基準の一部改正 第31項)。数値基準をあてはめて機械的に決める性質のものではないため、判断の経緯を決算調書に残しておくと監査対応が軽くなります。
評価性引当額に重要な変動が生じた場合の文例
評価性引当額に重要な変動が生じている場合は、当該変動の主な内容を記載します(税効果会計に係る会計基準の一部改正 第4項)。何を書くかは特段定められていないため、変動額と原因の対応が読み取れる形にします(同 第35項)。次は当事務所の作例です。
(注)評価性引当額が210百万円増加しております。この増加の主な内容は、連結子会社である〇〇株式会社において当連結会計年度に税務上の欠損金が生じ、当該欠損金に係る繰延税金資産について回収可能性がないと判断したことによるものです。
「重要な変動が生じている場合」の目安としては、税負担率の計算基礎となる税引前当期純利益の額に対する評価性引当額の変動額の割合が重要な場合が挙げられています(税効果会計に係る会計基準の一部改正 第36項)。金額の絶対値ではなく、税負担率をどれだけ動かしたかで見る点が実務上のポイントです。
関連コラム繰延税金資産の回収可能性と企業分類の実務ポイント▸
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税務上の繰越欠損金の繰越期限別注記の記載例
繰越期限の区切り方と3つの数値
発生原因別の内訳として税務上の繰越欠損金を記載している場合であって、その額が重要であるときは、繰越期限別に次の3つの金額を記載します(税効果会計に係る会計基準の一部改正 第5項)。
- 税務上の繰越欠損金の額に納税主体ごとの法定実効税率を乗じた額
- 税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産から控除された額(評価性引当額)
- 税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の額
1つ目が発生原因別の内訳表に載っている税務上の繰越欠損金の金額、3つ目が1つ目から2つ目を差し引いた残額です。つまり横方向に必ず検算が効く表で、内訳表の640・△430・210と一致しなければどこかで集計を誤っています。
繰越期限の区切り方は基準で定められていません。企業が有している税務上の繰越欠損金の状況に応じて適切に設定することとされており、5年以内に繰越期限が到来する場合には比較的短い年度に区切ることが考えられる、という考え方が示されています(税効果会計に係る会計基準の一部改正 第42項)。次は当連結会計年度の記載例です(単位:百万円)。各行は「税務上の繰越欠損金に法定実効税率を乗じた額/評価性引当額/繰延税金資産」の順に並べています。
| 1年以内 | 40/△40/- |
|---|---|
| 1年超2年以内 | 60/△60/- |
| 2年超3年以内 | 90/△70/20 |
| 3年超4年以内 | 130/△90/40 |
| 4年超5年以内 | 120/△70/50 |
| 5年超 | 200/△100/100 |
| 合計 | 640/△430/210 |
繰越期限が近い区分ほど評価性引当額の割合が高く、期限が遠い区分に繰延税金資産が残る形になるのが典型です。この形は、繰越期限が到来する時期と課税所得が見込まれる時期のずれを読者に伝える情報として想定されています(税効果会計に係る会計基準の一部改正 第40項)。
回収可能と判断した主な理由の文例
税務上の繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を計上している場合は、当該繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由を記載します(税効果会計に係る会計基準の一部改正 第5項)。ここでいう「重要な」場合には、例えば純資産の額に対する税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の額の割合が重要な場合が含まれると考えられています(同 第47項)。
記載内容は定められていないため、一般論だけで終わらせないことが差になります。次は当事務所の作例です。
(注)税務上の繰越欠損金210百万円は、連結子会社である〇〇株式会社において過年度の事業構造改革に伴い生じたものです。同社は当連結会計年度に営業損益が黒字に転じており、既存顧客との継続的な受注に基づく将来の課税所得の見積額により、繰越期限内に控除が見込まれることから、回収可能と判断しております。
実務では、「将来の課税所得の見積りにより回収可能と判断しております」とだけ書いた注記も見られます。ただし欠損金が生じた原因(一時的な要因か、構造的な収益力の低下か)と、黒字化の裏付けとなる事実を1文ずつ添えるだけで、監査人からの追加質問は目に見えて減ります。注記の文言は、繰延税金資産の回収可能性の判断過程で作成した資料から抜き出す形で組み立てるのが効率的です。
税率差異注記の記載例
税引前当期純利益または税金等調整前当期純利益に対する法人税等(法人税等調整額を含む。)の比率と法定実効税率との間に重要な差異があるときは、当該差異の原因となった主要な項目別の内訳を記載します(税効果会計に係る会計基準 第四 2.)。逆にいえば、重要な差異がなければこの注記は省略できます。省略の目安としては、差異が法定実効税率の100分の5以下である場合が例として挙げられています(税効果会計に係る会計基準の一部改正 第36項)。
法定実効税率は、課税対象利益に対する法令上規定された税率に基づく税負担の比率であり、適用される税率は各社の所在地や規模によって異なります。具体的な率は各社の適用税率によって算定してください。次は当事務所の作例で、法定実効税率を30.0%と仮定しています(単位:%)。
| 法定実効税率 | 30.0 |
|---|---|
| 交際費等永久に損金に 算入されない項目 |
1.8 |
| 受取配当金等永久に益金に 算入されない項目 |
△0.9 |
| 住民税均等割 | 0.6 |
| 評価性引当額の増減 | 8.4 |
| 税額控除 | △2.3 |
| その他 | 0.4 |
| 税効果会計適用後の 法人税等の負担率 |
38.0 |
この作例のように「評価性引当額の増減」が差異の大半を占めるときは、評価性引当額の変動の主な内容の注記と数値が整合しているかを必ず確認します。両者は別の注記ですが、読者は並べて読むことが想定されています(税効果会計に係る会計基準の一部改正 第26項、第33項)。
なお、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率は、法人税などの国税については決算日において国会で成立している法人税法等に規定されている税率によります(税効果会計に係る会計基準の適用指針 第46項)。住民税や事業税などの地方税については、決算日において国会で成立している地方税法等に基づく税率によることとされ、条例の成立状況に応じた取扱いが定められています(同 第47項から第49項)。税率の変更により繰延税金資産及び繰延税金負債の金額が修正されたときはその旨と修正額を、決算日後に税率の変更があった場合はその内容及びその影響を注記します(税効果会計に係る会計基準 第四 3.、4.)。
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連結と個別の違い・注記を省略できる範囲
連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表では書かなくてよい注記があります。作成負担に直結する部分なので、最初に線を引いておくと決算スケジュールが組みやすくなります。
| 評価性引当額の内訳に関する 数値情報(2区分) |
個別財務諸表でも記載します。連結財務諸表を作成している場合に個別で追加するのは、この数値情報だけです |
|---|---|
| 評価性引当額に重要な変動が 生じた場合の変動の主な内容 |
連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表において記載することを要しません |
| 税務上の繰越欠損金の 繰越期限別の数値情報 |
連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表において記載することを要しません |
| 繰延税金資産を回収可能と 判断した主な理由 |
連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表において記載することを要しません |
これは、評価性引当額の変動内容・繰越期限別の数値情報・回収可能と判断した主な理由の3つについて、連結財務諸表を作成している場合は個別財務諸表での記載を要しないと定められているためです(税効果会計に係る会計基準の一部改正 第4項、第5項、第50項)。一方で評価性引当額の内訳に関する数値情報は、従来の注記事項から推測することが困難であるため、個別財務諸表においても記載することとされました(同 第51項)。
さらに、そもそも「繰延税金資産の発生原因別の主な内訳として税務上の繰越欠損金を記載している場合であって、当該税務上の繰越欠損金の額が重要であるとき」に該当しなければ、個別財務諸表における評価性引当額の内訳に関する数値情報の記載も要しません(税効果会計に係る会計基準の一部改正 第52項)。繰越欠損金を抱えていない会社では、評価性引当額は合計額の1行で足りるということです。
注記作成でつまずきやすい点
実務で手戻りが起きやすいのは、基準の読み取りよりも集計と表現の詰めです。上場準備企業の初回開示で特に多いものを挙げます。
- 評価性引当額の2区分と繰越期限別表の合計が合わない ── 繰越欠損金に係る評価性引当額は、繰越期限別表の2列目の合計と必ず一致します。納税主体が複数ある場合は、納税主体ごとに法定実効税率を乗じてから合算します(税効果会計に係る会計基準の一部改正 第5項)。
- 繰越外国税額控除の繰越分を集計から落とす ── 将来減算一時差異等の合計に係る評価性引当額の区分に含めます(同 第4項、第32項)。
- 繰延税金資産を計上していない一時差異と評価性引当額を混同する ── 子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異について、適用指針の要件を満たさないことにより繰延税金資産を計上していない場合は、そもそも繰延税金資産が存在しないため評価性引当額も存在しません(同 第32項)。この分を評価性引当額に含めてしまう誤りが起きがちです。
- 変動内容の注記が定型文で終わっている ── 税率差異注記の「評価性引当額の増減」が大きいのに、変動内容の説明が一般論だけだと、記載の趣旨(税負担率に影響が生じている原因を読者が分析できるようにすること)を満たしません(同 第33項)。
- 前期との比較で行構成が変わっている ── 内訳表の項目名と並び順は継続して使います。期中に科目名を変えた場合は、前期の比較情報側も同じ名称に揃えます。
税効果会計の注記は、繰延税金資産の回収可能性の判断結果をそのまま外に見せる箇所です。判断の根拠資料と注記の文言が一対一で対応しているかを、決算の早い段階で点検しておくことをおすすめします。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
基準の改正の経緯と今後の適用
税効果会計に係る会計基準は1998年に企業会計審議会が公表したもので、その後ASBJによって段階的に改正されています。注記の記載例を作るときは、どの改正までを反映すべきかを確認しておく必要があります。
| 企業会計基準第28号 (2018年公表) |
表示区分を非流動に統一し、評価性引当額の内訳と税務上の繰越欠損金に関する注記を追加しました。2018年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されています |
|---|---|
| 企業会計基準第40号 (その2・2025年公表) |
中間連結財務諸表及び中間財務諸表が第二種中間のものであることを明確化した改正です。適用時期は期中財務諸表に関する会計基準と同様で、2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の最初の期中会計期間から適用されています |
| 企業会計基準第43号 (その3・2026年公表) |
税効果会計の目的における法人税等の定め方を見直し、法人税等の範囲を列挙していた注解を削除するとともに、税率差異注記の対象を「税金費用(法人税等及び法人税等調整額)」と改めるものです。2028年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されます |
このうち第43号は、2026年に改正された法人税等に関する会計基準と適用時期を合わせており、2028年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されます(税効果会計に係る会計基準の一部改正(その3) 第5項、法人税等に関する会計基準 第20-7項)。公表した日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することもできます(法人税等に関する会計基準 第20-7項)。適用しても税効果会計の対象となる税金に変更を意図するものではないとされているため(税効果会計に係る会計基準の一部改正(その3) 第BC3項)、注記の表そのものの作り方は変わりません。用語を「税金費用」に改める時期だけを押さえておけば足ります。
なお、税効果会計に係る会計基準の適用指針も2022年・2024年・2025年・2026年に改正されており、2026年改正分の適用時期は法人税等に関する会計基準と同様です(税効果会計に係る会計基準の適用指針 第65-6項)。
まとめ
税効果会計の注記は、4つの項目のうち発生原因別の内訳と評価性引当額の書き方が決まれば、残りは機械的に埋まります。要点を整理します。
- 発生原因別の内訳は「項目 → 小計 → 評価性引当額 → 合計 → 繰延税金負債 → 純額」の順で組み立て、評価性引当額を必ず併記します
- 繰越欠損金を内訳に記載し、その額が重要であるときは、評価性引当額を繰越欠損金に係るものと将来減算一時差異等に係るものに2区分します
- 同じ条件のとき、繰越期限別に「繰越欠損金×法定実効税率/評価性引当額/繰延税金資産」の3数値と、回収可能と判断した主な理由を記載します
- 連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表で追加するのは評価性引当額の内訳に関する数値情報だけです
- 税率差異注記は、差異が法定実効税率の100分の5以下であるような場合には省略が考えられます
数値の整合と重要性の判断根拠さえ決算調書に残しておけば、注記そのものは短時間で仕上がります。開示前のチェックや、繰延税金資産の回収可能性の判断で迷われた場合は、お気軽にご相談ください。
参考文献
- 企業会計基準委員会 企業会計審議会 税効果会計に係る会計基準
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第28号 税効果会計に係る会計基準の一部改正
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第40号 税効果会計に係る会計基準の一部改正(その2)
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第43号 税効果会計に係る会計基準の一部改正(その3)
- 企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第28号 税効果会計に係る会計基準の適用指針
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第27号 法人税等に関する会計基準
よくある質問
繰延税金資産の発生原因別の主な内訳は、どこまで項目を分けて記載しますか。
基準上は「主な内訳」とされており、項目の細かさまでは定められていません。実務では、金額的に重要な将来減算一時差異を個別の科目名で並べ、残りを「その他」にまとめる形が一般的です。重要性が乏しい一時差異等については、そもそも繰延税金資産及び繰延税金負債を計上しないことができます(税効果会計に係る会計基準注解 注4)。
評価性引当額を2つに区分するのは、どのような場合ですか。
繰延税金資産の発生原因別の主な内訳として税務上の繰越欠損金を記載している場合であって、当該税務上の繰越欠損金の額が重要であるときです(税効果会計に係る会計基準の一部改正 第4項)。この条件に当てはまらなければ、評価性引当額は合計額のみの記載で足ります。
繰越欠損金の繰越期限は、何年ごとに区切ればよいですか。
区切り方は定められておらず、企業が有している税務上の繰越欠損金の状況に応じて適切に設定します。5年以内に繰越期限が到来する場合には比較的短い年度に区切ることが考えられるとされています(税効果会計に係る会計基準の一部改正 第42項)。
個別財務諸表では、どの注記を省略できますか。
連結財務諸表を作成している場合、評価性引当額の変動の主な内容、税務上の繰越欠損金の繰越期限別の数値情報、繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由は、個別財務諸表において記載することを要しません(税効果会計に係る会計基準の一部改正 第4項、第5項)。評価性引当額の内訳に関する数値情報は個別財務諸表でも記載します(同 第51項)。
税率差異の注記を省略できるのは、どのような場合ですか。
税負担率と法定実効税率との間に重要な差異がない場合です。その目安として、差異が法定実効税率の100分の5以下である場合が例として挙げられています(税効果会計に係る会計基準の一部改正 第36項)。
個別の判断が必要な論点も多い分野です。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
お問い合わせはこちら本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。



